第92話 攻略開始
カイ達の作戦会議が終わり、そこから数日の月日が経った。
作戦が立ってからは着々と準備が進んでいき、残すは海に向かう部隊の最終確認だけとなった。
そんな中、カイは城の入り口である先のない道端に座りながらタバコを吸っているとその横にルフトが現れた。
「横に座っても?」
「どうぞ」
ルフトの要求にカイは横目で見ながらサラッと返答していく。そして、ルフトが隣に座ると口火を切った。
「それは葉巻というものか? だとすれば、随分小さく感じるのだが......」
「そうだな。この世界の一般的の葉巻のサイズを知らんが、もし俺の想像と合致するものであればその小さいのがこのタバコってやつだ。こっちでも吸ったりするのか?」
「いや、いない。身体的特徴は人族と同じな部分が多いが、心肺機能は人間ほど陸上に強くない。
それに葉巻には多かれ少なかれ有害物質も含まれてると聞く。
そんなものを好き好んで嗜好品として楽しんでいるのは人族ぐらいだ」
「ま、確かに。体に毒ってわかってながら止まれねぇもんな。吸ったら吸ったで今更って感じるし」
カイとルフトは同じように遠くに見える水の層を見つめる。
そして、その先に見えるのはいくつもの白い螺旋を作る渦潮。
ふと、少しの沈黙の後にルフトが呟く。
「いよいよ、明日......か」
「そうだな。俺と一緒に来ることになったとはいえ、無茶はするなよ?」
「俺は大丈夫。それに本当に大変なのは地上組の方でしょうからな」
「あいつらなら大丈夫さ」
また少しだけ会話に間が空く。すると、再びルフトが尋ねた――――少しだけ深刻な顔で。
「カイ殿はトトについて今の今まで尋ねることをしなかったが......気にはならないのか?」
ルフトがカイに顔を向ける。それを横目で見ながらカイは返答した。
「そりゃ気にならないわけないさ。でも、明らかに訳ありな感じで用もなければズケズケと尋ねることはしない。相手のプライバシーは尊重しないといけないしな」
「では、トトから許可を貰ってでも伝えたいとすれば?」
「それがこれからに何か関係するのか?」
カイの質問にルフトはコクリと頷くとカイは「わかった」と返事をして耳を傾けた。
「それじゃ、聞かせてくれ」
「トトは特別な子だった。生まれながらにして海との親和性が高く、また魔力が見えるという特別な目を持っていることで多くの民から海の巫女としての評価を受けたんだ」
「なるほど、それで俺とシルビアの魔力パスが見えたってことか」
「とはいえ、本人はそれがどれだけの強さを持っているかの自覚が薄かった。
それは仕方ないことで、加えて子供ながらの親を喜ばせたいという気持ちから魔力でもって海の生き物と繋がるという技も披露するぐらいだったんだ」
「見せてもらった記憶にもあったな。ミスズに見せたアレか」
「だが、それが引き金となった。トトの海の親和性の高さはそれこそ海の魔物のほぼ全てに魔力で干渉でき、味方にすることが出来た。その力に魅入られた悪意の持つ同胞がトトを狙ったんだ」
「......そうか」
「トトはああ見えても元は活発的な子だったんだ。しかし、その賊がトトを攫いに来た時に王妃――――俺達の母がトトを守ると同時に攻撃を受けた。
幸い、トトに怪我はなかった。しかし、母は致命傷を負って賊の襲撃を防いだころには母は息を引き取ってしまったのだ」
ルフトはその頃の記憶を思い出したのか今でも悔しそうに拳を握っている。
その当時自分が弱かったことに憤りを感じるような姿勢はカイに昔の自分を重ね合わさせた。
「それ以来、トトは自分を責めるように大人しくなってしまった。
加えて、話したことで何か起きてしまうのではないかという考えまで至ってしまったせいか、今ではあのように無口な感じになってしまったのだ」
「ルフト君はトトちゃんにそのトラウマを克服して欲しいと思ってるのか?」
「そういうことになるかもな。ただきっとこちらがいくら“トトは悪くない”と言えども、トト自身がそれは違ったと思わなければ解決にはならないだろうが」
それを聞いたカイは「まさかとは思うけど」と言いながら、タバコの火を消してそれを煙草入れに入れていく。
「トトちゃんを巻き込もうとしてる?」
「......っ!」
その言葉にルフトはビクッと反応させた。その小刻みに震えた拳は恐怖に耐えてるようにさえ見える。
ルフトはカイのこれからの発言に怯えているのだ。ミスズの件があったからなおさら。
それに対し、カイは軽く息を吐くとルフトに告げた。
「教えてくれ。何がそう判断させたのかを」
「......怒らないのか?」
「事情も聞かずに無責任に否定できるほど情熱を持った姿勢になれなくなっただけだよ。
それに母や妹を守れなくて悔しがった君がわざわざ妹を巻き込むような真似をするとは思えない。何か事情があったんだろ?」
「ハハッ、見透かされてるな」
「これでも人並みより濃い人生経験送ってるから。で、どういうわけ?」
カイの質問にルフトは一回大きく深呼吸すると全ての理由を答え始めた。
「海竜――――いえ、海神ネプテューヌ対策としてトトの力を借りないといけないんだ」
「ネプティーヌの?」
「俺と兄上はカイ殿と父から海神ネプティーヌの存在を聞かされてから、書庫で過去に似た様な文献がないか探したのだ。すると、古い伝承だがその存在らしきことに関する情報を発見したのだ」
「それはどんな?」
「確か『海の大いなる存在。かの者は何人とは隔絶した次元に位置し、その巨躯なる肉体は海の王の証。科の者、この海に悪事を働く存在を見つければ、無数の眷属を率いてその存在を食らうだろう』と。
このことからネプティーヌが俺達を襲うとすれば眷属を率いてくるはず。しかし、海の魔物全てが敵となれば当然勝ち目はない」
「だが、そこに海の魔物と繋がれるトトちゃんがいればネプテューヌの意思に反させることが出来るかもしれない、ということか」
「あぁ、加えて別の文献にはこうあった『大海を統べるもの。幽遠なる海底の神殿を住処とす』って。
それに母が亡くなる寸前に言っていた『海の祠に辿り着いた時、真実の鍵が手に入る』とも」
「真実の鍵ねぇ~」
「母は占い師でもあったのだ。そして、それが母の最期の予言だったとも言われている。
当時の俺にはこの言葉の意味がサッパリ分からなかったが、今ならその答えがわかるかもしれない」
「明日がその答えを確かめる日かもしれないって?」
「そういうことだ。それにエルフの国のあの世界樹が魔物とされたとすれば、今回も同じ可能性は十分にある。
そして、もしそうならネプテューヌを救う答えはその祠にあると思われるし、ネプテューヌと繋がる何かがあるとすれば、トトがいないとネプテューヌを救うこともできない」
「それらがトトちゃんを連れて行くに必要な理由ってことか?」
「あぁ。俺達を殺そうとしている存在を助けたいなんて随分と甘い考えかと思われるかもしれないが、それでも俺達は俺達が自由に泳げるこの海を守護してくれていたかもしれない神を簡単に切り捨てることは出来ない」
ルフトは覚悟を決めたような表情でカイを見る。その真剣な眼差しにカイはサラっと告げた。
「いいんじゃない? 助けたいんなら」
「え......あ、すまない。てっきり強めな否定が来るかと」
「別に否定することじゃない。助けたいなら助ければいい。
自分で甘さを自覚してもそう決めたならなおさらな。
それに俺もお前ももう弱い頃の自分じゃないんだ。
誰かを助けられるほどの力は十分にある。
それでももし力不足だと思うんなら――――」
カイはその場に立ち上がるとそっとルフトに手を差し出した。
「俺を頼れ。俺は一見幸薄そうなおっさんだが、これでも君よりは多くの人を救えるだけの力があると自負しているしな」
「......ハハッ、それはもうここに来る前に十二分に理解している。もとよりこの島の命運もカイ殿達頼みだ」
そう言ってルフトはカイの手を取った。その手をカイは引いていく。
「そんな重い責任背負ってんだったらルフト君の頼みがあっても大した変化もなさそうだ」
「そうサラッと言えることがカイ殿の凄みだろうな」
――――翌日
「これが俺専用の海中服か」
海中組であるカイは自身が身に着けた魚の鱗で出来たウェットスーツにも似た服を見て感想を漏らす。
その姿を見たシルビアが返答した。
「どうやらその服を着てるだけで水中で口を開けて呼吸が出来るみたいですよ。加えて、地上と変わらずにしゃべれるとか」
「スゲーゲームみたいなこと平気でするじゃん」
「それがこの世界なので。というか、その反応もすごく今更と思いますが」
シルビアは素で驚いているカイに呆れたため息を吐きながらカイの腰についているホルスターに自身の体を一度魔力に分解して銃型となって収納していく。
その時、地上組であるソラ、エンディ、キリアが前に出てこれから海中に赴くカイに安全を願った。
「カイちゃん、気をつけてね」
「カイなら大丈夫って信じてる」
「地上の方は任せてください! カイさんもお気をつけて」
「あぁ、ありがと。地上は地上できっと大変なことになるかもだけど、君達だったら大丈夫って信じてる」
「「「任せて!」」」
そして、カイが次に視線を移したのはなんだかんだで一緒についてきた例の海賊達。その連中に向かってカイは告げる。
「これが君達の罪滅ぼしと思って死ぬ気で戦うことだね」
「はぁ、ほんとあんたに出会ったことが運の尽きだと思うが、こうしてひっ捕らえられずにさらには自由にさせてもらっている上に、ここの連中の陽気さに当てられてもう悪さはしねぇとここに誓おう。
そして、この島の危機ってんなら俺達は全力で手伝わせてもらうぜ」
海賊の船長は意気揚々とそう告げた。その発言に僅かに驚くカイだったが、すぐにその息子へと視線を向けると告げた。
「やるじゃんか」
「いいえ、これもカイさんに勇気をもらったおかげです。それにこの国の人達にも。こちらのことは任せてください」
簡単な挨拶が終わると最後にグラウスとカインが前に出て門出の安全を願った。
「では、カイ殿。この国の命運を任せた」
「それはお互い様ですよ、王様」
「ルフト、トトを死ぬ気で守れ。トトも安全第一にな」
「あぁ、わかっている。絶対に約束する」
「......(コクリ)」
そして、カイ、ルフト、トト、そして数十名の兵士達は海に体を向けると歩き始めた。
「それじゃあ、捜査を開始する」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




