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第72話 未だ荒れる城下町

――――広場から北西部


 そこでは暴徒と化した民衆への対処にに苦戦しながらもその先にある教会に向かうルナリスとハイギルの姿があった。


「ルナリス様、これ以上は押し切られます。一旦退避を!」


「なりません。この場に残っているのは大臣のみ。そして、その一人をカイさんが抑えてくれている今こそ好機。

 それに嫌な予感がするんです。ここを逃してはなりません」


 そう言いながらルナリスは拳は手にした武器を振り回す一般人の動きを冷静に躱して、軽く触れながら魔法で洗脳を解いていく。


 すると、それによって解放された人々は地面に寝そべっていくが、その人達の安全を確保する前に次々と暴徒が襲ってくる。


「まるでこの先に行かせないとでも言っているような数ですね。

 これだけの大規模魔法にどれくらいの魔力を使うかわからなから下手に大きく魔力を使うこともできませんし」


 ルナリスは思わず唇を噛んだ。こうなる前に動くことは出来た。

 しかし、それはカイという最強戦力なしで動くという意味であり、恐らく勝率は1割にも満たなかっただろう。


 故に、もっと早めに動けていればこの状況が変わったかもしれない。そう思うほどにはルナリスは自分自身の行動の遅さを呪っていた。


 だが、こうなってしまってはもはや目の前に起きていることにいち早く対処し、鎮静化を図るしか道はない。


「ふふっ、もう少し女神の魔力があれば時間魔法で時を戻せたでしょうし、それ以前に私一人の力でもって内々で処理できたでしょうね」


 ルナリスは思考を切り替えるように愚痴をあえて吐くと最小限の魔力で暴徒の人々の洗脳を解いていく。


 そんなルナリスを盾となりながら周囲を警戒していたハイギルは両脇に揺らめく炎の中で、目の端に僅かに輝く何かを捉えた。


 目の前の敵を剣の柄で殴って気絶させすぐにその方向を見てみれば、そこには屋根の上から弓を構えてルナリスを狙う暴徒の冒険者の姿があった。


――――シュッ


「まずい! ルナリス様! 伏せてください!」


 弓が対象物に向かって周囲の騒音にかき消されながら、まるで暗殺者の如く無音で速やかにルナリスの頭に接近した。


「え?」


 ルナリスは突然のハイギルの言葉に驚きながら同時に目の端で炎の光に反射する矢を捉えた。

 しかし、気づいた時にはその距離はすでに1メートルほどしかなく、また避けた先にはルナリスが守りたい一般人(こども)がいる。


 その思考を僅かにした時にはもう距離の半分を切っていて、それでもなおルナリスは避けること躊躇った、否、避けるという意志を止めた。


 その数瞬に再び目の端で捉えたのだ――――頼もしき仲間(こども)の影を。


「あぶない。なんとか間に合った」


 ルナリスの目の前で弓は止まった。またルナリスが地面に背中から落ちるほどの斜めった体も。

 その弓とルナリスの体を止めたのはボロボロの姿のエンディであった。

 右手でルナリスの体を支え、左手で矢を止めている状態でミュエルは声をかける。


「大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫です。おかげさまで助かりました」


 エンディに起こしてもらいながらルナリスは立ち上がるとふと屋根の上に弓を持っていた暴徒の冒険者の姿がいなくなっていた。

 そのことに気付いてからすぐにルナリス達のもとへ声がかけられる。


「屋根の上の冒険者は倒しておきました」


 そう言いながらキリアが左手を大きく振りながら近づいてきた。

 キリアも案の定ボロボロであり、右腕の異常な腫れ具合にルナリスは思わず目を開いた。


「キリアちゃん、大丈夫なのですかその右腕は!? というか、右腕なしでどうやって狙撃を.......」


「左腕と口でやりました。たまたま見つけた狙撃方法なんですけど、案外と撃てるおかげでびっくりしてます」


 なんとも能天気な明るさで告げるキリアに毒気を抜かれたルナリスはすぐにエンディとキリアの治療を始めていく。


 すると、二人のボロボロの傷が元のキレイな状態にすっかり戻っていった。そのことに驚きが隠せない二人。


「すごい......全然痛くないです!」


「これがルナリス様の力?」


「確かに私の力によるものもありますが、その多くはこの器の持ち主であるソラちゃんの回復魔法の適正の高さにあります。若干再生魔法の素質もあるのでその影響も出たのでしょう」


「ソラちゃんすごい」


 人知れずエンディに感心されるソラ。そんな中、キリアはルナリスがどうしてこんな所にいるか尋ねた。


「そういえば、どうしてルナリス様をここにおられるんですか?」


「それは......っと、動きながら話しましょう。さすがに歓談するにはハイギルが辛いでしょうし」


「「あ」」


 ここでようやくエンディとキリアはハイギルの存在に気付く。

 ルナリスに指示された方向を見てみれば頑張って暴徒達の圧を一人で押さえているハイギルの姿があった。


 それからルナリス一行は途中参加したエンディ、キリアの協力により先ほどよりもスムーズに教会に向かっていた。

 そして、その間にルナリスは改めて目的地に向かう理由を話していた。


「――――ってことは、その教会にあるであろう魔法陣を破壊すれば暴れまわっている人達は大人しくなるってこと?」


「可能性の話です。確証はありません。しかし、この先に何かがあるのは確か。それを突き止めに行くのです」


「確かに、これだけの数の暴徒を一々洗脳していたらきりがないでしょうし。

 ルナリス様の推察の方がよっぽど信用できます」


 ハイギルがルナリスの言葉に納得するように頷いているとキリアが教会の入り口の正面で武装した人々が集まっていることに気が付いた。


「エンディさん、あの人達見覚えありません?」


「あの甲冑は......帝国騎士団の」


「なっ!? どうしてここにアイツらが!?」


 ハイギルも同じように姿を捉えると驚いたような声を上げた。その反応にエンディは尋ねる。


「知ってるの?」


「知ってるも何も俺の部下達だからな」


「部下達?」


「あぁ、言ってなかったな。俺は帝国騎士団団長のハイギル=ウェスタークだ」


「ハイギルさん、団長でありながら半革命軍的ポジションのここにいたんですか?」


「まあな。最初はテロリスト集団のスパイとして乗り込んだはずだったんだが、色々とあってこっち側に着くことにしたんだ。

 にしても、騎士団の連中が町の暴走を止めずにここにたむろしているのは解せないな」


 難しい顔をしたハイギルは「とりあえず話をさせてくれませんか」とルナリスに許可を取って、一人その集団に近づいていく。


「おい、お前ら!」


「団長!? どうしてここに!?」


 ハイギルの声に反応したのはかつてカイを任意同行した中隊長のミュゼ=プレイスであった。

 ミュゼはハイギルに近づいていくと慌てた様子で話していく。


「団長、こんな所でどうされたんですか!?」


「どうされたじゃねぇだろ。お前らこそこんな所で何やってんだ!

 今この国はそこら中の一般人が暴れまわって大パニックになってんだぞ!

 それをいち早く収めるのがお前らの仕事じゃねぇのか!?」


「お言葉ですが団長、その目的なら今も遂行中です」


「何言ってやがる? こんな所、お前ら以外に誰もいないじゃねぇか!?」


「ですから、いるじゃないですか――――私達の任務を邪魔しようとする存在が」


「.....っ!」


 そのミュゼの瞳に生気はなく闇を落としたように暗く、さらに敵意を持った言葉であった。

 そのことに「まさか」と思いながらも驚きで動揺しているとミュゼが素早く腰から短剣を引き抜いて、ハイギルの腹部に向けて刃を向けたまま突進しようとした。


――――キンッ


 その刹那、二人の間にエンディが近づき素早く手刀を振り下ろして短剣を弾き落した。

 その僅かな隙にハイギルはエンディと共に退避していく。


「すまない、助かった。刃に触れたはずだが手は大丈夫か?」


「大丈夫。竜人族の皮膚は鱗が無くても人族より遥かに強固だから。それよりも、攻撃したってことはもしかして――――」


「あぁ、恐らく洗脳されてる。だが、少し様子が違うな」


 そう言うハイギルの言葉には一理あった。というのも、これまでルナリス達を襲ってきたどれもこれもまるで獣のような会話の成り立たない暴れ回る一般人のみ。


 時折会った冒険者であっても大半はこの洗脳に耐えた連中で、いても意識がなく暴れまわっているかの二種類であった。


 しかし、今いるミュゼ率いる騎士団はハイギルの姿にしっかりと反応を示し、さらにミュゼに至ってはしっかりと会話が成り立ったうえで不意打ちしようとする高度なやり取りまで見せた。


 故に、これまでの洗脳とは明らかに違うのは確か。

 そのハイギルの疑問におおよその答えを提示したのはルナリスであった。

 ルナリスはハイギルの横に立つと回答していく。


「恐らく大臣に直接洗脳を施された者達でしょうね。洗脳レベルは恐らく出会ってきた一般人よりもはるかに深い」


「いつの間に......と言いたいところですが、考えてみれば相手は大臣。

 会おうと思えばいつでも騎士団本部に足を運べますからね。

 しかし、ならばどうして団長の俺を洗脳しなかったのか?」


「それは恐らく洗脳する時にはあなたに私の魔力の一部が付着していたのかもしれませんね。普通の人にはわからなくても天使にはわかる。

 それは逆も言えて、故に私と繋がりのあるあなたはあえて泳がされていたのでしょう」


「その通りです、創造神ルナリス様」


 ルナリスの言葉が聞こえていたのかミュゼは不気味に笑って言葉を続けた。


「こうなることは全て予想済み。故に、最初から私達はここを守るよう指示を受けていました。崇拝なるフォルティナ様の天使ラザール様にね!」


 その瞬間、ミュゼ並びにその他の騎士たちの顔の一部に聖痕が現れていく。

 それを見た瞬間、ルナリスは驚きが隠せなかった。


「そ、それは神剣の聖痕(スティグマ)!?」


「ルナリス様、それは一体......」


「言葉通り神の剣となって戦うことを誓約した証です。

 その効果は死してその身が動かなくなるまで。加えて、人を超えし力を出す代わりにその聖痕が現れている間は一秒で一日の時が消滅していっています。

 つまりは――――命を代償として力を引き出す悪魔の契約です」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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