第67話 開幕するそれぞれの戦い
姉弟の神の眷属に再び真っ暗な結界を離れそうになったエンディ達の窮地を救ったツバサとトール。
その二人にエンディは思わず二人に声をかける。
「ツバサ君にトールさん......どうしてここに?」
「ここに来れたのはぶっちゃけたまたまかな。外で起きた暴動に対して対処していたら遠くによくわからない暗闇の空間が見えたから原因がそこにあるのかなと思って」
「そうなんですか」
「周りに暴れてる連中を見た感じからすれば洗脳されて周囲が敵に見えて斬りかかってるって感じだった。
洗脳自体は大したことなく気絶させれば大人しくなるけど、何分数が多い感じだからね。
一気に解こうと考えたんだけど......」
「なんだコイツらの異様な存在感と魔力は?」
トールの気持ちを代弁するようにツバサが目の前にいるザクロとルザーナに目を向けた。
恐らくカエサルの時にはそういう存在に合ってないのだろ。
そのことがなんとなく分かったエンディは未だ警戒心をMAXにしながら伝えた。
「私達の敵対する存在のことを伝えたでしょ?
これが私達の行く手を阻む敵でこの世界を崩壊させようとしている神の手下」
「崩壊だなんて随分な事言ってくれるじゃない?」
エンディの言葉が癪に障ったのかルザーナが思わず言い返した。
そして、眉をピクピクと動かしながら言葉を続けていく。
「私達は崩壊なんてしようとしてないわ。むしろ、再生。
この世界の本来の主たるフォルティナ様の求めゆく世界に直そうとしているだけよ」
その言葉に嫌悪感を現したのはトールとツバサの二人。
この二人は別の世界からここに来てこの世界の常識にもある程度詳しくなっているため、この世界の在り方は当然知っている。
それ故に、ルザーナが厄神の名を挙げたことに関して気にならないはずがなかった。
「それじゃあつまり、君はこれからその厄神がこの世界を統治することを望んでいるということか?」
「フォルティナ様を厄神呼ばわりするな! あの方こそ至高なる存在にしてこの世界を作り出した神だ!」
トールの言葉にザクロが噛みつく。
その行動によってトールは初めからわかりきっていた言葉による説得を諦めた。
きっとこのまま続けても平行線が続くだけだろうから。
そして、そのことをツバサも理解しているようにトールの言葉に続けていく。
「もはやお前達を倒す他道はないみたいだな」
「ハッ、殺れんのか俺達を? さっきは不意を突けたみたいだが、お前らがやっとのことで加えた攻撃にほとんどダメージはねぇ」
「それにあなた達ごときにもう結界を張る必要はないしね。そんなに死に体なら望み通り殺してやるわ!」
「誰が二人一緒で戦わせると?」
エンディがキリッとした目つきでそう告げた瞬間、ザクロとルザーナの間に突如として風の壁が地面を割る勢いで発生した。
そのタイミングでエンディは思いっきり走り出す。まるで一瞬の僅かな気の緩みを突くように。
その突然の攻撃ではない謎の風の出現に咄嗟にその場から大きく左右に距離を取って離れるザクロとルザーナ。
その風の原因を咄嗟に目で捉えられたのはルザーナだけであった。
彼女の視線のエンディを越した先にいる金髪のエルフ―――キリアが起こしたものだと。
「あの女っ!」
「神の眷属以下まではもと人間って聞いてたけどどうやら本当にそうみたいね。慢心が過ぎる」
エンディは素早くルザーナの懐に潜り込むと力強く踏み込んだ足に体重を流すようにしながら、最強種族竜人族の膂力による強力な右ストレートを放った。
ルザーナは咄嗟に両腕でガードするが斜め上に放たれた拳による衝撃は地面によって衝撃を受け流すことも出来ずに、ルザーナの体を持ち上げて大きく中央から西側に吹き飛ばした。
「姉者!」
「よそ見すんなよ。俺のフルスイングを!」
その光景を目撃したザクロが咄嗟に叫んでいるとその隙に詰め寄ったツバサが両手に持つ剣を正しくバッドを思いっきり振るように振り抜いていく。
その剣はザクロの体を上半身と下半身に二分しようかという勢いで迫ってくるが、その剣が迫る方の膝と肘を立ててガードした。
しかし、片足だけでは勢いを殺しきれなかったのかルザーナとは反対側の東側へと吹き飛ばされていく。
それぞれ吹き飛ばされた相手へと向かうエンディとツバサ。
その一方で、すぐに動かなかったトールとキリアはその場に同じくして残るハイギルとルナリスに声をかけた。
「あなた達はこの暴動を起こしている人をなんとかして鎮めてください」
「きっと今はカイさんがその元凶と戦っているはずです!
ルナリア様、ハイギルさん、それまでどうにか死傷者の数を減らしてください!」
「任せろ! この国を守ることが俺の仕事だ!」
「この世界の子達はみな等しく私の大切な子供達です。決して見捨てたりしません。ですから、あなた方もどうかご武運を」
その言葉にトールとキリアは頷くとトールはツバサを、キリアはエンディを追う形で散り散りに行動を始めた。
その二人を見送ったルナリスは両手を重ね合わせ祈りながら、同時に城の方にも届くように視線を向けた。
****
時は数分前に遡り、場所は帝国城の国王の間。
その人気のない空間に突如として一つの魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣から浮かび上がったのは中央広場から移動させられたカイであった。
しゃがんでいたカイはざっと辺りを見渡した。そこは中央にレッドカーペットが引かれ、両脇には神殿のようにいくつもの柱が並んでいる。
そして、まるで空気に溶け込むように王座に足を組んで座る一人の人物。
顔は暗くて見えないが、明らかに敵だということはわかる。
『異常な魔力。もはや人のものではないですね。
混じりっ気のない純粋なこの世ならざる存在のようです』
『つまりは天使ってことだろ? いや、本物の女神に仇なそうってんだから堕天使か」
銃の状態のままホルスターに収まっているシルビアはテレパスでカイに言葉を伝えていく。
その内容に返答しながら、カイは正面に座る男に声をかけた。
「王様.....ってことはないみたいだな。自分の国が内乱でメチャクチャって状況に何もしない無能じゃないだろうし」
「......ずっと会いたかったよ。ニイガミ=カイ」
カイの言葉にその若い男のような声をした男は好意的な声で返答した。
その言葉にカイは僅かな聞き覚えを感じる。
「まさか忘れちゃったのかい? 少し前まであんなに楽しい時を過ごしたじゃないか」
「その気持ちわりぃねっとりした声は......まさか闘技場の覇者のRさんかい?」
「違うよ、Rじゃない」
その男は王座から立ち上がるとゆっくりと歩きだした。
そして、やがて窓から月明かりが照らす場所までやってくると男はハッキリと露わになる。
「私の名はラザール。君と最高の戦いを演じたいただの神の使いさ」
黄緑色の髪、糸のように細長く伸びた目に少し肉がある程度の普通の少年のような体型が月明かりでよく見え、その人物が闘技場で戦った相手であることは一目瞭然であった。
そして、カイにハッキリとその青年の印象として定着している戦闘狂という印象はラザールの言葉からよくわかった。
「さぁ、今一度あの時の戦いの続きをしようじゃないですか!
私あの日の戦いが忘れられずにずっとウズウズしていたんですよ!
互いに本気が出せずに不完全燃焼だったじゃないですか!
さぁ、始めましょう! 今すぐに!」
「そんな鬱陶しく絡んでくんな。俺はもうおっさんなんだからそういうしつこい絡みはウザったらしいんだよ。
それに君に言われずとも戦ってやるさ。その前にいくつか聞きたいことがある」
そのカイの言葉にラザールは「仕方ないな」と反応を示すとさっさと戦いを始めたいがために了承することにした。
「聞きたい事って?」
「まず君は今まで戦ってきた連中とは違う。
俺は今まで神の使い、神の眷属と戦ってきたが、それよりも明らかに力量が跳ね上がっている。
まぁ、今更確認することでもないだろうが、君が厄神のそばにいる神影隊って連中の一人か?」
カイは胸ポケットから煙草を取り出すとジッポライターで火をつけて吸い始めた。
「その通り。それで他には?」
「そう焦んな。ってことは、お前が大臣か?」
「......ルナリス様からでも聞いたのですか?」
白い煙を吐きながらカイが質問した言葉にラザールは眉をピクッと反応させると逆に聞き返してきた。
カイはラザールの顔を見るがそこに「動揺」の感情は見られない。単なる質問のようだ。
「あぁ、その通りだ。とはいえ、どうして急にこんなことを?
それに随分と敵であるルナリス様をフラフラとさせてたみたいじゃないか」
「別に大した理由はないです。ただ僕は戦うことも好きだけど、戦う光景を見るのも嫌いじゃなくてですね。そういう状況を作り出そうと思っただけです」
ラザールは窓際に近づいていくとそこから戦火の広がる城下町を眺めた。
炎による光のが地上から遥か高い位置にいるラザールの瞳にも映るほどに城下町はもう半分は焼けている。
その光景をぼんやりと見つめながらラザールは言葉を続けていく。
「あの力のない女神を殺すことはいつでもできました。
でも、私達の敵であろうと私の崇める神の半身でもあります。
だから、せめて無意味な希望を頑張って作ってもらってその後にでも殺そうかと思っていただけですよ」
「まさかそれが慈悲とでも言いたいのか?」
「違うのですか?」
そう聞き返すラザールの表情からはまるでその言葉に対する邪気がなかった。
つまりはそれが正解だと本気で思っているということ。
「そうか」と呟きながらカイはタバコの火を消して、それを吸い殻ケースに入れていく。それから、ポケットから皮手袋を取り出した。
「これで最後だ。実は仲間のエルフのお嬢さんから聞き及んでいたことがあってね。
エルフの国を襲った神の使いが君の名を口にしていたそうだ。
つまりだ、あの国を襲わせたのは君の指示か?」
「そうですけどそれが何か?」
あっけらかんとした反応にカイはため息を吐きながら、皮手袋を両手に装着して軽く握って感触を確かめるとホルスターからシルビアを取り出し、その銃口を向ける。
「その事情を聞かせてもらうとしよう。ただし、相当手荒になるがな。それじゃあ――――事情聴取を始める」
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