第61話 不気味な存在
「よい戦いでした。また会った時は魔法ありきで全力で戦いましょう」
「あ、あぁ.......機会があればな」
「すぐに訪れると思いますよ。では私はこれで」
そう言ってRは軽く会釈すると颯爽と帰っていった。その後ろ姿を苦笑いしながらカイは見送っていく。
「おいおい、クリーンヒットしてしばらくは目を覚まさないだろうと思ってたのにもうピンピンしてるよ」
「恐るべき回復力というか防御力というか......」
「なんとも不気味さを持つ人でしたね」
カイ、エンディ、キリアはカイと激闘したRについてのそれぞれの感想を述べていく。
その三人の中で一貫して持っていた感情はなんともいえない気味の悪さで、笑うにも笑えないRという存在になんとも微妙な顔になってしまっていた。
しかし、Rとの戦いで地下闘技場の試合は終わり、ようやくガブトに約束を果たしてもらう時が来た。
カイはガブトの所へ歩いていくと当の本人は無人の闘技場をボディーガードに挟まれながら見ているではないか。
「ガブトさん、約束を果たしてもらいに来た。あれだけやれば十分に稼げただろ?」
「えぇ、稼げましたとも。お前が入ってから試合の終わりまでな。
最初は実力の見えなさ故に低いオッズであったために倍率はかなり高くなってた。
俺の紹介というのもあったがそれでも人は未知なるものに賭けるほど臆病になりやすい。
故に、それでお前に入れたものは随分な大勝であっただろうな」
「とはいえ、勝ってもディーラー側であるお前らの方が取り分多いだろ?」
「当然、勝つ者もいるが負ける者の方が圧倒的に多いからな。
この世は理不尽で出来ている。自分の見たもの、経験したものでしか信用できん。
とはいえ、途中からお前が軽く連勝するから稼ぎが悪くなったがな」
ガブトはそう言いながらも軽く笑っている。
その上機嫌さは最高賭博が出来る地下闘技場において十分な得を得たからと言えるだろう。
そんな「喜」に溢れた表情を見ながら、カイは本来の目的へと話題を変えていく。
「で、早速目的を果たしてもらいたいんだが......まさかすっとぼけるつもりじゃないだろうな?」
「闇の住人であろうと多少なりとも信用は必要だ。お前のような力でねじ伏せられるタイプは特にな。
ただし、俺に出来るのはあくまでお前が目的としているテロリストどものアジトだけだ。それ以上はこっちが危ない」
「いいだろう。ただし、その情報がガセだった時にトンズラかこうとしても必ず捕まえて正しい情報を吐き出させるからな」
「......Rに勝ったお前の言葉は絶大な影響力を思っている。
それこそ俺の首など簡単に狩れるほどに。わかっている。その時は地獄の底まで付き合ってやる」
「さすがの肝の据わり方だな。んじゃ、早速情報をいただこうか」
そう言ってガブトから渡されたのは一枚の地図であった。
そこにはアジトの場所が描かれており、そこに向かってカイ達はカジノを後にしていく。
カジノ場所から歩いて南の方面。
そこはスラム街と言った感じで、豪華絢爛な衣装を身に纏ったカジノの客とは違いボロボロな布切れを着た痩せ細った人が路上で壁に寄り掛かりながら座ったりしている。
そしてそういう人達から向けられる目線は好奇の眼差しと言った感じであった。
恐らくカイ達がカジノの恰好のまま歩いているのが原因だろう。
「気をつけとけ。俺達の恰好からして金目を持っていることは明らかだ
だから通り過ぎただけでもお金をすられてる場合があるから気をつけとけ。
それから二人のような可愛らしい少女には粗暴な男が近づく場合があるからそれもな」
「か、可愛らしい......ゴホン、つまりはカイから離れなければ良いということね?」
「か、可愛らしい......そ、そういうことになりますね!」
「なんか都合よく解釈されたんだけど。まぁいいんだけどさ」
「パパは娘に対しても何も言ってくれないのですね」
「言った所でこの場から離れることないだろ」
現在シルビアは人型に戻ってカイの肩車してもらってる最中である。
闘技場の場合は終始魔力を分散させていたり、武器になっていたりとで何かと窮屈な思いをしていたらしい。
その反動のせいか自由を得たシルビアはとても清々しい顔をしている。
「でも、だいたいそうしてくる人ってわかりそうな気がするけど」
「いや、案外そうでもないんだ。人は見た目というものによく惑わされるからな。たとえば――――っと」
その時、一人の少年がカイにぶつかった。その少年はとてもボロボロな服を着ていて泣きそうな顔で「ごめんなさい」と謝るので、カイはその少年の目線に合わせてしゃがむとそっと頭を撫でていく。
「気にするな。よそ見してぶつかることはある。謝れて偉いな。
ただ――――弱みに付け込んで人の物を盗もうとするのはよくない」
「っ!?」
カイがそう言うと少年はそっと外側から伸ばしていた手をピタッと止めた。
そして「この男は危険だ」と判断したのかカイの手を払うと颯爽と逃げ出していく。
そんな一部始終を見ていたキリアは思わず呟いた。
「あんな子供でも盗みをしないと生きていけないんですね......」
「ま、こればっかりはどうしようもない。人がいる以上必ず貧富の差は出るものだからな。
とはいえこれで――――ここにアジトがあるおおよその理由がわかったな」
カイは地図の場所までどんどんと足を進めていく。
そして途中路地に入ってガラの悪い連中に絡まれながらも、それを難なく突破しながら辿り着いた場所はスラム街にある一つの酒場であった。
その酒場に入っていくとそこで飲んでいた男達や数人の女がガヤガヤと騒がせた声をピタッと止めて。
カイ達を好奇の眼差しで見ていく。一部場違いな恰好をした連中に対する嫌悪感をも抱いている人達もいるようだ。
カイ達は店に入る前に下ろしたシルビアの手を握りながら僅かにその客達の動きを観察するように見回していくとコップを拭いているマスターの前のカウンターに座った。
「ここはテメェのような成金野郎が来る場所じゃないと思うが?」
「酒を飲むのは俺の勝手だろう。それともここじゃ成金には出せない不味い酒しか置いてないのか?」
「ケッ、よく回る口だ。どうやらお前は似た様な連中を見たことがあるみたいだな。で、酒はなんだ?」
「当然、一番高くて上手いやつだ。カジノ帰りでね。金ならたくさんある」
そう言うとマスターは後ろにある棚から適当に酒を見繕い始めた。
そんな姿を見てカイの心境が理解できるシルビアはテレパスにて念話をしていく。
『過去の警察での経験が生きましたね。ま、ヤ〇ザなんかよりも先ほどの実際に血生臭さを漂わせているカジノ経営者の方がよっぽど怖かったですが』
『とはいえ、こういう経験は本来する必要はないんだよ。
やる場合は少なからず汚れ役になれてる奴じゃないとダメだ』
『つまりはパパはゴミダメクズ人間ということですね』
『......俺ってそこまで汚れてる?』
相変わらずのシルビア節に動揺が隠せない様子のカイに対し、シルビアは一人クスクスと笑っている。
そんなシルビアをエンディは不思議そうに見ていて、キリアただ一人は周りからの圧といやらしい視線に硬直していた。
そんな会話をしているとマスターから酒が注がれたコップが出されたので、カイはその酒を一気に飲み干していく。
「ふぅー、結構強いんだな」
「今から五十年前に造られた年代物だからな。安心しろ。保存はしっかりしてある」
「へぇ~、つまりはそういった酒がしっかりと管理できる環境が整っているってことだな?」
「......そこに気付くとはやはり目的を持ってここに来てるみたいだな」
「マスターが窓口なんだろ?」
「ケッ、話が早過ぎるのも気持ち悪いもんだな。で、何の用だ?」
「『再会の空』って連中の代表者に会いたい」
カイがそう告げた瞬間、この酒場一体の空気が変わった。
まるで触れてはいけない琴線に触れたような感じで、かなり威圧的でピリついた空気になっている。
されど涼しそうな顔をするカイに注意するようにマスターは言葉をかけた。
「発言には気をつけな。ここではその連中の支持は圧倒的に高い。
俺はあくまでこのスラム街での中継役を担ってるだけで、もしそいつらが暴れたら手に負えない。
テメェだって知ってるだろ? 中央広場での爆破事件を?」
「知ってるよ。その爆発犯が誰なのかも―――――ここにいる客勢員がその組織の構成員だってこともな」
――――ガタッ
その瞬間、カイの周囲から一斉に椅子から立ち上がるような音が鳴った。
しかし、その誰もが立たずに座っている、否、座らされている。
「悪いな。お前達が全員武器を隠し持ってることはわかっていた。
それに言葉に出した瞬間の反応で構成員であることも確定した。
だが、俺も血を見るのも流すのも嫌いでね。先手を打たせてもらったよ」
「何が目的だ?」
一人の男がカイに向かって問い質す。
その最中も必死に動こうと試みているが足元から絡みついた影の手がガッチリ掴んでいて逃れられない様子であった。
「別に君達を壊滅しようとかじゃないって。まぁ、もう少し無関係な一般人に被害出さないやり方でとは思うけど。
そうじゃなくて、俺はただ人探しをしている。その人の情報がここにあるかもしれないから確かめただけだ」
そう答えるとカイはマスターへと聞き返した。
「で、俺を取り持ってくれる気は?」
「ケッ、コイツはとんだ見た目詐欺だぜ。単なる成金野郎かと思えば金メッキをつけたバケモンだ。
テメェの願いを叶えてやれないこともない。こう見えても俺は顔が広いからな。ただそれを受けてくれるのも相手次第だがな」
「わかってる」
「で、お前の探し人ってのは誰だ?」
「守代空......俺の大切な人の一人だ」
カイがそう告げた瞬間、マスターの顔が驚きと衝撃に満ち溢れたような顔に変わった。
まるでどうしてその人の名を知っているか、と言わんばかりに。
そしてマスターは聞き返すようにカイに質問した。
「おい、テメェ......もしかしてニイガミ=カイじゃないだろうな?」
「......どうして俺の名を知っている?」
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―――――帝国・城内
城の執務室の一室では一人の爽やかな男が座っていた。その男の前に三人の男女が立ち尽くし、その内の一人の男が話しかける。
「ラザール様、いかがいたしましょう?」
「そうだね......そろそろ準備を始めようか。楽しい楽しいゲームのさ」
そう告げたラザールはふと何かを思い出したのかニタリと笑った。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




