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第57話 釣れた

「お待たせしました。こちらが限られた勝者だけが入れるVIPエリアとなっております」


 支配人に案内されてやって来た場所は酒とたばこ、香水のニオイが混じったような異臭がそこら中から漂う魔の空間であった。


 そんなニオイに顔を歪めるエンディとキリアの様子を見ながらカイは二人に告げていく。


「さて、ここが俺が求めていた裏カジノ会場だ。正直ここは無法地帯と言っても過言ではない。だが、それでも暗黙のルールが存在している」


「ルール?」


 鼻を摘まみながらそう聞いてくるエンディにカイはコクリと頷くと言葉を続けていく。


「俺も昔、こういう違法賭博を検挙したことがあるが、その実態は正に人間の闇ともいえるものだった。

 それこそ金持ちが国の持つお金並みの量で取引するなんてのは当然で、それだけじゃなくここの場所は情報、違法品、ましてや人間の売買なんてされる」


「醜悪な環境ですね......」


「だが、ここではそれが普通だ。染まれとは言わないが、ある程度は郷に従った方が良い。

 ここでは基本殺し以外なら何でも許される。正しく弱肉強食の場所なんだからな」


 そう言ってカイは一先ず周囲の様子を見ていく。

 そこらにいる貴族のような装いをした男達に言えることは総じて醜い豚であった。

 そのほとんどが肥えた姿をしていて、その両側を美女が囲っている。

 しかし、その美女もどこか様子がおかしい。


 まるで風俗とカジノが合体したようなその空間はある意味勝者としてやって来た人にとっては楽園に見えるかもしれない。

 が、カイ達からすれば社会のゴミ溜めのように思えていた。


『パパ。最初のカジノのお金がここでの軍資金になることはわかりましたし、ここに来るための手段出ることもわかりました。とはいえ、これからどうするんですか?』


『やることはかわらないさ。同じように勝ち続けるだけ。

 ここの連中は表のカジノにいた客とは違い勝ち続ける者には酷く厳しいからな』


『勝つ......ですか。ですが、ここのカジノ台の最低レートがほとんど私達の軍資金とかわらないですよ?』


 この空間でのカジノ台にはそれぞれの台で最小と最大のレートが書かれている。いわば、その金額内のお金を賭けろということだ。

 そして、ここでの最低レートが少なからず大豪邸を作れるほどの金額で正しくゲームに勝てば億万長者。


 しかし、負ければ全てを失うという生死の境にカイ達は立っていた。

 そのことにエンディとキリアも同じく気づいたのか聞いてくる。


「カイさん、ここのカジノはレベルがおかしい。まるで小国が集まってるみたいになってる」


「しかも、台を見れば負けた人もいるのに平然とゲームを楽しんでます。なんか感覚が麻痺しそうです」


「実際麻痺してんだよ、あいつらは。ま、それほどに有り余る財力を持っているということだけどな。

 それに対し、いわば成り上がり的な感じでここにやって来た俺達は運で勝利側にやって来たと思いがちがだが実際はただのカモだ。ここはそういう風に出来ている」


「それってここの人達は私達をどうしようとしてるってこと?」


「簡単だ。都合のいい道具にするためだ」


「「......!?」」


 驚嘆の顔をするエンディとキリアの様子を見ながら「不自然にならない程度に歩こう」とカイは告げた。


 そして通路を歩きだすカイ達を気にしてないような素振りをしながら、僅かに値踏みするような視線を送っている。

 それに対し、敏感に視線を感じ取ったのはキリアであった。


「なんかねっとりと気持ち悪い視線で見られてる気がします」


「気がするんじゃなくて見られてるんだよ」


「昔、じい様からエルフの女性は他種族からすれば素晴らしき性道具として見られていたと言っていましたがその意味がここでようやくわかった気がします」


「エルフは美男美女が多いからな。それにキリアは美人な上に可愛い要素も含んでいるから余計にそういう視線が送られるんだろう。だから俺のそばを離れるなよ」


「......はい!」


 カイの言葉にキリアは嬉しそうに返事をするとそのままの勢いでカイの左腕にしがみついた。

 そのことにカイは思わず驚き、キリアを介抱しようとしたエンディはその突然の行動に呆然とした表情を浮かべた。まるでその手があったか、と言わんばかりに。


「き、キリアさん!? 急に何を?」


「『そばを離れるな』って言ったのはカイさんじゃないですか。

 だからもう絶対そばから離れないようにしただけです。

 それにこうしてると気持ち悪い視線を感じなくなるんです」


「そうか......なら、仕方ないのか――――うぉっ!」


 キリアの理由に一応納得したカイであったが次には右腕がしがみつかれていた。

 その方向を見てみればややふくれっ面のエンディの姿があった。


「エンディもなのか?」


「そう」


「さっきまで随分と平気そうに――――」


「何か?」


「いえ、なんでもありません」


 エンディに気圧される形でカイは右腕までもしがみつかれる状態になってしまった。

 しかし、その二人の行動は結果的にいい方向へと進んだと気づいたのはカイが周囲を見渡している時のことである。


 周囲の肥えた豚どもの視線が強くなっていたのだ。

 それもカイに対しての。要は“ヘイトを買った”のだ。

 ここの客層は身なりからして帝国の貴族と言える。

 それが示すことは生まれながらの貴族であるということ。


 そしてこんな場所にいる貴族ということは豪遊できることこそ貴族の特権という風なプライドを持っていて、自身より金を持っていない――――つまりは一般人を見下す傾向があるのだ。


 そんな一般人が貴族で固められたVIPエリアに侵入してきた挙句に、エンディとキリアという今この空間にいるどこか血色の悪い美女よりも数十倍ともいえる美しさと若さを持つ存在がそばにいることに、そして何よりおっさんのくせに侍らしていることに激しいイラ立ちを感じているのだ。


 その感情がカイに向けられる視線となって表れている。

 この視線は正しくターゲットとなったという証であり、本来ならすぐにでもここから逃げ出すべきなのだが、カイはその視線をむしろ好ましく思った。


 それは場合によってはこの裏カジノ会場(VIPエリア)の支配人を引きずり出すことが出来るキッカケを手に入れたからだ。


 それを確認するとカイは手に入れた軍資金でも賭けれるカジノ台の一つに座った。

 そのカジノ台のゲームは先ほどの表カジノでもやったブラックジャックであった。


 背後からエンディとキリアが眺める中、カイは先に座っていた男一人と後から座ってきた男二人を合わせての四人でゲームを始めた。


 しかし当然、カイはここでのゲームを正攻法で攻略するはずがない。負ければ一発破産なのだから。

 それに後から来た男二人は明らかにカイに敵愾心を向けている。

 つまりは破産させる気満々と言えるだろう。

 その目的は時折ねっとりと気持ち悪い視線を送る先にいる美少女二人。


『シルビア、よろしく頼むよ』


『了解しました』


 カイはシルビアにミニビアを派遣させるとこのカジノ台及び周囲を調べさせていく。


『魔力感知水晶の存在を確認。さらにはいかさま出来そうな仕組まれたデッキがディーラーのすぐそばにあります』


『わかった。なら、その水晶を壊してくれ。そしてデッキの方は回収な』


「お客様、金額をおかけください」


「あ、すみません。こういう雰囲気に緊張しているのかもしれませんね」


 カイは悟られないように緊張した一般人を装いながら現金から代えたチップを出していく。


「とりあえず全賭けで」


「おいおい、いきなりそんな冒険してもいいのか?」

「お前さんが明らかにお金ないのは火を見るよりも明らかだぜ?」

「ここでいきなり破産なんてつまんねーことすんなよ。いっちょお金貸してやろうか? 条件付きだが」


 カイの思い切りの行動に他の席に座る豚どもは揃ってブヒブヒ言っている。

 しかし、カイはその言葉に「大丈夫です。今日はツキが来てるんで」と言って笑顔で断った。


 その返答を聞いて同じように笑顔を浮かべていた豚どもであったが、顔をディーラーにそむけるとすぐさま視線で「破産させろ(殺せ)」と伝えるような目つきに変えた。


 そんなわかりやすい行動をカイは横目に見つつ、ほぼ正面に立つディーラーの顔を見てみる。

 するとその顔には「画策」やら「嘲笑」「欺き」など不穏なワードが飛び交っているではないか。


 故に、カイはシルビアから水晶破壊の報告を受けるとすぐさま<眷属の魔眼>を使って、ディーラーを操作できるような状態にした。いわば催眠状態だ。


 その状態のディーラーに命令することは一つ「プレイヤーカイが必勝するいかさまをしろ」であった。

 そのディーラーはやや薄暗い重たい目をしながら、慣れた手つきでトランプカードをシャッフルしていく。


 そして配られた数字は「10」と「A」でつまりは合計「21」のブラックジャック。勝利確定手札である。

 それが配られたカイは「幸先良いですね」と喜ぶ演技をし、配られたカードのおかしさに騒ぐ豚どもにディーラーは淡々と言い訳を連ねていく。


 結果、カイ達は勝利して賭けの二倍の金額を手に入れた。

 そんなことを繰り返し、適当に場所を映ってそこで微妙に負けも刻んでおきながら着々と金を溜めているとついに目的の人物が現れた。


「ほぅ、随分と稼いでんな~」


 丁度、カイがポーカーの台に座っている時、カイの試合を覗くように一人の黒い服を着た男が現れた。

 その男の両隣にはボディーガードといえる顔に布を被った屈強な男が二人もいる。


 周囲を見てみれば周りの豚どもの反応も恐れのようなものを抱いているようで、顔がどこか引きつっていた。

 その様々な状況を考慮してその男が裏支配人と察するとカイは「釣れた」と思わず呟いた。


「あなたは?」


「俺はここの施設を管理しているガブトというものだ。

 どうやら君は賭けの女神に愛されているらしい。

 そんな君に朗報だ。さらに賭けが出来る場所があるぞ?

 ただし、お前達の目的を聞いてからになるがな」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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