第55話 まずは情報集め
「そういえば、俺が取り調べ受けてる時にそっちは何かあったか?」
カイはふとそんなことをエンディ達に聞いた。というのも、事件が起こったのは昼前で一時的に連行されたカイはその間のことが全く分からないのだ。
事件が起きてからまだ数時間で再び次なる事件が起こるとは思えないが、カイがミュゼから手に入れた情報からすれば起こらないとも限らない。
故に、カイはその間の時間の情報を知っておきたいのだ。
これは一種の職業病とも言えるだろう。それに対し、エンディが答えていく。
「カイが連れていかれてからしばらく広場で様子を見てたけど特に怪しい動きをする人とかはいなかった。
恐らく犯人側でもあの規模の爆発が失敗に終わることは予想外だったのかもしれない」
「ま、それはあるだろうな。普通は失敗しない。するとも考えないかも」
「ですが、パパという常軌を逸した存在によって失敗しないと思っていた作戦が失敗したわけですが......なんともザマぁとしか言えないですね」
随分と刺々しい言葉を使うシルビアに「いつの間にそんな言葉覚えたの?」と呟いたいると逆にキリアがカイに尋ねてくる。
「カイさんは中隊長さんから何か聞いていたりしないんですか?」
「聞いたよ。どうやらこの国にはテロリスト集団がいるみたいでその一員じゃないかって疑われた。
ま、繋がりがまず見えないからすぐに疑いは晴れたけど」
「テロリスト集団......その名前って聞いてるの?」
エンディがないように興味を示したのか詳しく聞いてくる。
それに対し、カイは思い出すような仕草をすると答えた。
「それが『再会の空』っていう随分と犯罪集団らしくない明るい名前でな。
聞いてからずっと妙だと思ってるし、何か引っかかってる気がするんだよな」
「『再会の空』......私も何か引っかかる気がする」
カイの言葉を受けてエンディも何か違和感を感じるそのテロリスト集団の名前に頭を悩ませる。
その二人が引っかかってる起因となっているのは名前に入る「空」の部分であった。
「もしかしてこれって誰かに向けてのメッセージ的な名前じゃないよな?
どうしても『空』という言葉から引っ張られてしまうけど、例えば俺の幼馴染である守代空からのって奴で」
「考えすぎ――――と言いたいところですけど、実際それを拒否するほどの有力な意見というのはないので、可能性だけは残ってしまいますね」
「まぁ、手っ取り早く確かめたかったらその組織に接触するしかないがな」
シルビアの言葉にカイは楽観的に答えた。
いや、楽観的に答える程度にしか未だ情報が足りないと言うべきか。
一先ず街の探索を終えてツバサ達と合流しようと考えるとカイ達は自分達の宿屋に戻っていった。
――――数分後
カイ達が戻ってくるとそこには一時的にお世話になった見覚えのある少年の顔があった。
「お久しぶりです。トールです。そして連れのレノンとララです」
「久しぶりだな、エンディ、キリア」
「久しぶりね、シルビアちゃん」
トールに続いて女騎士のレノンと犬耳少女のララが同じように挨拶していく。
カイとトール達の関係性は以前にトールにカイサルまで乗せていってもらったことがキッカケである。
カイはトールの存在に少し驚きながらそのそばにいるツバサに声をかけていく。
「知り合いだったのか?」
「いや、初対面だった。だが、境遇が同じだから打ち解けるのも早かったというだけだ。それと話したいことがある」
ツバサにそう言われたカイは視線トールに確かめていくとトールも同じであるように頷くので、再会に花を咲かせているエンディ達を残し三人は別の場所に移って話を始めた。
一つのテーブルを囲うように三人が椅子に座り、最初に口火を切ったのはツバサであった。
「さて、話しをする前に確認しておきたいことがある。カイはトールのことを知ってるんだな?」
「あぁ、知ってるな」
「それは僕が以前にニイガミさんと話した以外のこともということですか?」
トールは少しだけカイを疑うように聞いた。
それはカイが全くのよく似た別人である可能性を考慮したからだ。
それに対し、カイは脳内での捜査記録を思い出しながら、一応防音結界を張って答えていく。
「君の名前は蔵元徹。2001年11月3日生まれのA型。2018年に突然の失踪をしてから未だ見つからずに現在に至る」
「......どうやら本物みたいですね。
しかし、それまでの情報を知っているということは日本だと警察官とかやられてました?」
「正しく、ね。俺の探し人である翼達が集団失踪してから数か月後に君が失踪したというのは正直警察官になって事件簿を見て初めて知ったけど、まさか俺が探している人達と同じ世界にいるなんて」
「僕的にはそこまでの知識を持ったカイさんがこの世界に飛ばされることに驚きですけど」
「いや、それは違うぞ」
トールの言葉にカイはゆっくり首を振った。
その否定を疑問に感じたトールに対してカイは答えていく。
「俺はこの世界に呼ばれていない。俺はこの世界へと飛んできたんだ」
「......っ!? そんなことが可能なんですか!?」
「理論的には不可能じゃないと言うべきじゃないか?
もちろん、俺は科学者じゃないから詳しいことは言えなけど、少なからず魔法というものにもある程度の法則があるんじゃないかってね」
「法則......ですか?」
「例えば俺と君が少し感覚を開けて横並びに並んでいたとする。
そして君を魔法陣で召喚するためには君の足元に魔法陣を出現させる必要がある。つまりは――――座標だ」
その言葉にトールは少しだけ納得したように頷いた。
そしてカイの言葉に続くようにトールは答えていく。
「カイさんは今の世界から日本へと送られた座標が正しいのなら、逆に日本から今へと渡る可能性も可能と考えたんですね?」
「そういうこと。だからその理屈通りならいけることは確定してた。
問題は魔力の無い日本でどうやって魔力で動く魔法陣を動かしていくってところだったんだけど......それはまぁメチャクチャ調べて頑張ったわ」
「一応聞いておきますけど大量の人間を殺してそれを魔力にしたとかじゃないですよね?」
「俺、別に悪魔を呼び出そうとしてるわけじゃないから。それに正義職だからね?」
トールの妙な勘繰りにツッコみながらも、ごほんと一つ咳払いしてカイは話を変えた。
「さて、少し話が脱線してしまったが、早速今日起こったことを話してもいいかな? 記憶に新しい爆発事件のことだ」
それからカイは自分が体験したことを話していった。
それに対し、二人は興味深そうに耳を傾ける。
「......なるほど、つまりその『再会の空』っていうテロリスト集団が何らかの目的をもってテロ事件を起こしたと」
「で、俺はそのテロリスト名である『再会の空』という意味ありげなこのネーミングに疑問しか感じないというわけだ。
この辺りはツバサも俺と似た様な違和感を感じてるはず」
「あぁ、守代空のことだろ? カイサルにいた聖女様からもここに俺達の探す仲間がいる可能性があるとされているから、その自分の存在をアピールするためにこの名前にしたとすれば頷けはするんだが......」
「もしそうと考えたなら次なる疑問はどうしてその人がテロ行為を行っているかということですね」
現状カイとツバサがもっとも疑問に思ってる所をトールがズバッと刺した。
そう、それが今一番に膨れ上がっている疑問なのだ。
事前にこの帝国に守代空がいるという情報を得ているため、「再会の空」という名前の「空」という部分でどうしても食いついてしまう。
仮にその「空」の部分が守代空の名前の部分であるとして、ならばそのテロリスト集団の名前になるほどの中心人物になっていると考えられる空達はどうしてテロ行為なんてものを行っているのか。
何らかの理由があるとしても、カイとツバサが知っている守代空の性格からすればそんな過激なことは絶対にしない。
むしろ、出来る度胸があるかどうか怪しいぐらいだ。
なので、もし関連があるとすれば半ば必然的にそういう疑問を抱いてしまうが、もし関係ないとすればそれはそれで全く手掛かりが無くなってしまうことにもなってしまう。
それについてカイとツバサが悩んでいると現状一番関係が薄いトールが二人の気持ちを切り替えさせようと動いた。
「一先ずそれ以上考えたって答えは出てこないですよ。
ですからやるべきことは一つ――――その集団と接触してみましょう」
「......だな。やはり直接確かめないことには話は広がらないか。
とはいえ、この帝国で紛れているだろうテロ構成員を探し出すのは至難だな」
「一番いいのはこの国に詳しい情報屋辺りを探すのがセオリーだけど」
「そういう意味だったら良い手がありますよ。なんたって僕は商人ですからね」
そう言ってトールはその情報をカイ達に伝えていく。
――――翌日
カイは久々によれたスーツをピシッと着て、ダルダルのネクタイをキッチリ締め直すと身なりを整えたような恰好でとある施設の前に立っていた。
「ふぅー、こういうの行くのっていつぶりだろ? 前に日本で気まぐれで行ったぐらいかな?」
「カイ、この恰好どうかな? 似合ってる?」
「か、カイさん! 私のもどうですか?」
「お~~似合ってる似合ってる。こういう所に入る――――特に中心部に潜るに小汚い格好だと足元見られるからな」
カイの横には赤色のドレスを身に纏ったエンディと黄色いミニスカートドレスを着たキリアの姿があった。
そうまでして身なりを整えてカイ達が進もうとしている場所は一つ。
品、お金、情報、人間などあらゆるものが賭け事によって流れていくある種闇の入り口ともいえる勝てば天国、負ければ地獄の両極端しか存在しない遊戯場。
「さて、行こうか――――カジノへ」
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