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第51話 出発と立ち込める暗雲

「――――そう、それじゃああんたは来ないということね」


「お嬢様、落ち込み過ぎです。まるで離れたくないと言っているようなものですよ」


「お、落ち込んでないわよ! ただもう少しお礼的なものが出来て話せること思っただけで......」


「ツンデレ乙」


 唐突にエンリとルイスの調子の良いやり取りが始まってしまったが、その数分前にカイとツバサは今後の方針について話し合っていたのだ。


 それはエンリからもたらされた新たな情報であるツバサの友人であり、カイの幼馴染の守代空の存在が帝国で発見されたというのだ。


 もちろん、ルイスの密偵による情報でハッキリした人相はカイとツバサしかわからないものの、それでもそれらしき人物を見つけただけでもこの世界では十分に大きなことである。


 よって協議した結果、カイはその情報をもとに帝国へと向かい、ツバサもそのまま帝国に向かうことにした。


 その二人の意見を聞いての反応が先ほどのエンリのセリフであったのだ。

 そしてエンリは一つ咳払いをして気を取り直すとカイを指さして告げる。


「いい? 必ず聖王国に来なさいよ? あんたは知らんぷりだろうけど、聖女としては恩を貰いっぱなしってのは性に合わないから」


「つまりはお礼したいので必ず来てくださいということです。もっと言えば親密に――――」


「ルーイースー! あんたはいい加減そのおしゃべりな口をどうにかしなさいよ!」


 エンリは眉をピクピクしながら怒りの表情でルイスの口元を鷲掴む。

 しかし、ルイスは口を3にしながらもまるで反省する気がないのか、その口のまま口笛まで吹く始末であった。


 そんな二人のやり取りにカイは「まぁまぁ」となだめながら、エンリの言葉に対して返答していく。


「それで君の気が済むなら、俺は快く行かせてもらうよ。

 ただ優先事項があるからどのくらい先になるかはわからないけど」


「わかってるわよ。私にとって民が大切なように、あんたにもその身で救いに行きたい大切な人がいる。

 そんなあんたの切なる願いにノーなんて言えないじゃない。気にせず行ってきなさい」


「ありがとう。必ず会いに来る。その約束だけは絶対に守るよ」


「......! そ、そう......好きにしなさい」


「あららら~、顔が赤いんじゃないですかおじょ――――うg」


「だまらっしゃい」


 こうしてカイとエンリの話が済んだところで、カイはツバサの方へと向いていく。それはまた一時的であるが別れることになるからだ。


「寂しくなるな......なんておっさんが言っても気持ち悪いだけだな」


「別にそうでもないさ。確かに過ごした時間は違えども、俺達の絆の時間は今も昔も変わっちゃいない」


「翼......随分と恥ずかしいセリフ言えるようになったな」


「このタイミングで茶化してくるなよ。とはいえ、こうして生きてることだけでも分かったんだ。今のお前からすれば満足だろ?」


「そうだな。誠人によろしくな」


「あぁ、お前も気をつけろよ」


 カイとツバサは拳を軽く小突き合わせるとカイが先にその場から離れていく。

 その哀愁ただよう背中をツバサ、エンリ、ルイスの三人はぼんやりと眺め続けた。


 そしてカイは道の角を曲がってすぐさま立ち止まる。

 そこにはカイ達のやり取りを出歯亀していたシルビア、エンディ、キリアの三人がいた。


 そのうちエンディは目に少しだけ涙を浮かべ、キリアはうるうるとした目をカイへと向けていて今にも泣きそうな雰囲気である。

 そして泣きそうなキリアは同じく泣きそうな震えた声でカイに話しかけた。


「うっ......良かったですね、ぐすん」


「うん、カイの心が救われたような気がして私も嬉しい」


「パパ、良かったですね」


「そうだな」


 カイは笑顔でそう返答していくとすぐにエンディにツバサに関してのことで話しかけた。


「そういえば、エンディは翼と何も話さなくて良かったのか? 確か志渡院の記憶を引き継いでるはずだろ?」


「実は言うと私は先にツバサ君と会ってるの」


「え、マジで?」


 そうして話したのは丁度、カイがエンリ達と情報交換してる最中の出来事であった。

 カイがカイで情報を探っている一方で、エンディも志渡院佳の記憶から引き継いだ情報をもとにカイの探し人がいないか探していたのだ。


 その時、カイよりも一足先にツバサを見つけていたエンディはその時にツバサへと接触していたのであった。

 それを聞いたカイはすぐさま疑問を浮かべる。


「そうなのか。それじゃあ、どうして俺と初めて会った時には初見のフリをしていたんだ?」


「それは私が頼んだの。志渡院佳(彼女)の記憶から読み取れるのは彼女の印象に残った強い記憶だから、彼が本物であったとしても彼がどれだけ誠実かを自分の眼で確かめたかった」


「どうしてそんな回りくどいことをしたんです?」


 その言葉を聞いたキリアは当然のような質問をする。

 すると、エンディはおもむろに自分の手を眺めるとふと神の使いカンザフとの戦いを思い出した。


「今回は随分なゴリ押しって感じで襲ってきたけど、もしかしたらこっちの戦意を削ぐような搦め手でくる場合がある。

 その一つの手段として、カイが探している人達がその連中に洗脳されていた場合を確かめるために試すようなことをした。勝手にやって悪かったと思ってる」


「いや、気にしてないよ。それで逆に翼は本物の相川翼であるということが証明されたんだからな。

 それにエンディの危惧することもよくわかるから。

 俺のためにやってくれたんだろ? ありがとな」


 カイが笑みを浮かべてお礼をするとエンディはクールの表情のまま背景にパァと花を咲かせて、悶えるかのように尻尾をバシバシと地面に打ち付けていく。


 そんな光景をキリアは「尊い」と呟きながら鼻血を流しており、そのキリアを見てシルビアは「こいつ、ヤベーです」と思っていた。


 それからカイ達は数日かけて旅の準備を済ませると出発当日にはカイサルの東門へと向かっていた。

 そこにあったのは二台の馬車とそれぞれの馬車の前に立つエンリとルイス、ツバサパーティであった。


 するとエンリがカイ達に馬車がないことに気付き、そのことに対して質問していく。


「あんた達、馬車はどうしたのよ?」


「ああ、それな。それよりもコスパ良いもの見つけちゃって......シルビア、やって見せてくれ」


「最近、パパの娘使いが荒いことに抗議したいです」


 カイのそばに立っていたシルビアは大きく息を吐くと自身の体を構造変形(メタモルフォーゼ)させていく。


 その形は魔剣であるということを一切思わせないサイドカー付きバイクであった。

 黒紫のフォルムが太陽光に照らされて黒曜石のように輝くそのバイクからは呆れた声が漏れてくる。


「パパが私が魔剣であるということを忘れてる件について」


「いやまぁなんというかさ、出来たら便利だなーと思ってシルビアにイメージ変形してもらったら案外できちゃったもんだからつい。

 今度はちゃんと車作るから。帝国に行くまではお願い、な?」


「帝国についたら高級レストランのフルコース全品大盛りを奢ってください。

 それで帝国までのチャラにしてあげましょう。そもそも娘の上に父親が乗るという倫理観を疑って欲しいものですが」


「ここで倫理観を持ち出さないで。すっごい運転しづらくなるから」


 シルビアの発言にカイは思わず苦笑い。

 そんなカイに対してシルビアの援護射撃をするようにエンリ、ルイス、ツバサから声をかけられる。


「聖女として娘に乗るってのを見過ごすわけにいかないんだけど」


「というか、これはある種の家庭内暴力では?」


「想像しただけで絵面がヤバい」


「だ・か・ら! ここで倫理観求めたら変になるでしょうが! ファンタジーらしく行こうよ!」


 カイの突っ込みに対して三人はからかいがいのあるカイの様子にクスクスと笑っていく。

 妙に楽しそうな笑みを浮かべる姿に毒気を抜かれたのか、「全くもぅ」と言いながらもカイも思わず微笑んだ。


「それじゃあ、俺達は行くとするよ。エンリ、ルイス、二人とも協力ありがとう」


「いえいえ、こうしてお嬢様とまた一緒に居られるのはカイ様のおかげですから。

 それにまた何かありましたら私の使いを走らせて情報を伝えに行かせますので」


「何かあったら遠慮なく頼りなさい。その頃には更に立派な聖女になってるだろうから」


「楽しみにしてるよ」


 そう答えるとカイはツバサへと視線を動かしていく。

 その視線から意図をが伝わったのかツバサはコクリと頷くと馬車に乗り始めた。


 それに合わせてカイ達もジャンケンで負けたキリアがサイドカーに乗り、運転するカイの後ろにはエンディが乗っていく。


「それじゃまた会う日まで」


 そう言ってカイはシルビア式バイクに魔力を流していくとそのまま走り出した。

 その後ろをツバサが運転する馬車が追っていく。

 そんなカイ達の旅立ちをエンリとルイスはただ黙って見つめながら、大きく腕を振っていた。


******


 帝国の象徴的な城の一室にいるラザールは魔物と一緒に紛れさせていた白いカラスを通じてカイサルの状況を見て思わず呟く。


「確認出来ただけでも神の使いのカンザフと眷属であるシムが死亡。

 そして確認できないのはルーデルだけだが......正直彼が一番貧乏くじ引いたはずだから死亡したと思っていいでしょう」


 ラザールは足を組み、机の上に置いた人差し指を一定のテンポで叩きながら思考を巡らせていく。

 その思考の中で確定で決まっていることはただ一つ。


「あの人族は確実に抹殺しなければ我が主の受肉の儀式に大きく影響を与える可能性がありますね。

 加えて、その儀式に必要なあの竜人族の少女を確保することもまたしなければいけないでしょう」


 そう言いながらラザールはふと両手で顔を覆った。そして、その手で顔を拭うように動かしながら呟く。


「これはこれは......久々に滾りそうですね」


 その表情はまるで恍惚であるかのように頬を赤らめていた。イケメンのその甘いマスクが見事に汚く映るほどに。


「さて、そのためには準備をしませんと。必要なのは“私の”城に招待するための口実、ですね」


 ラザールは椅子から立ち上がると自前の杖を持ち、ステップするような軽やかな足取りで歩き出した。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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