第39話 情報交換
カイ達が冒険者としてお金を稼ぎ、ランクが一つ上がった所でカイは一人別の場所にやって来ていた。
そこは数日前にエンリと対話したオープンカフェである。
カイが遠くから目的の人物がいるかどうか眺めていれば、侍女のルイスをそばに立たせながら優雅に紅茶を嗜んでいるエンリの姿があった。
そんなエンリを周りの人々は相変わらずあまり良くない感情を抱きながら眺め通り過ぎ去っている。
しかし、その一方でエンリは全く気にしてない様子であった。
カイはエンリに近づいていくと声をかける。
「お久しぶり、と言った方が良いかな?」
「別にそれほど日は立ってないじゃない。ともかく、早く座って。話を始めましょう」
エンリは口早にそう言ってカイを自身の正面の席に座らせていく。
そして手に持っていたカップをテーブルに置くと早速口火を切った。
「それじゃ、情報交換と行きましょうか」
その情報交換とは先日エンリとカイが協力関係となったことで出来たお互いの情報を共有するというもので、お互い目的が同じであるが故に効率よく人探しを進めるための協定である。
「まず私からいくわね。私の方ではこの街の駐屯騎士団の方に掛け合ってみたわ。
だけど、あいにく結果はスカ。特に門番の方からもそれらしき情報は得てないわね」
「それじゃあ、街の方にはまだ来てないということか?」
「そう考えるのが妥当じゃないかしら。
さすがに何かをどこかでやらかしてお尋ね者でもなってなければね」
エンリは自分の持っている情報を話すと今度はカイの番だ、と促していく。
「次はカイさんね。冒険者方面から何か得た情報はないの?」
「冒険者ギルドに掛け合ってみたところ、俺達が探し人であったとしても相川の個人情報を明かしてくれなかった」
「まあ、当然でしょうね。だけど、逆にそれでハッキリしたこともあるんじゃない?」
エンリの言葉に「まあね」とカイは軽く返すと言葉を続けた。
「冒険者としての個人情報を明かされないということは、ギルド側からお尋ね者判定されてないということだからな。
それに個人情報が明かされないということは、相川は冒険者として活動しているということだし」
「けれど、この街にいないんじゃ私が冒険者ギルドに掛け合ったところであまりに意味ないということね。
だとすれば、未だにエルフの国アルフォルトにいるということかしら......」
エンリはあごに手を付けると俯きがちにそう呟いていく。
その言葉をたまたま聞いてしまったカイは改めてエンリ達の質問をした。
「そういえば、君達が相川を探しているのは勇者の仲間だからなんだよね?」
「ええ、そうね」
「だとすれば、どうしてアルフォルトの話が出てくるんだい?」
「......」
エンリはカイの質問にすぐに答えなかった。
その一方で、カイはエンリの表情に警戒が現れていることをわかるとすぐに言葉を付け足していく。
「あー、言葉足らずで申し訳ない。ここはアルフォルトから近い街であるだろう?
それに俺の仲間にはエルフの子もいるから、風の噂と言うべきものが届いてきたんだよ」
「.......そういうことね。確かに、協力してくれるあなたには全て話していなかったわ。
とはいえ、それは話したところでどうでもいいもの」
「というと?」
「私達がアイカワ=ツバサを探しているのは勇者の仲間であるのと同時に、先日アルフォルトであった世界樹暴走事件を解決した人物だと思っただけよ。
正直、あの魔物化した世界樹をアルフォルトにいる人達で止められるとすれば、勇者と同等かそれ以上の力を持つ人しかいないし」
「なるほど、そういうわけか」
カイは一つ息を吐きながらそう返答するとふと別方向からの視線を感じた。
その視線を送っていたのはルイスで、糸のような目でありながら確かにカイを見ている。
その視線にはエンリも気づいたのかふとルイスに訪ねた。
「どうしたのよ? そんな疑うような目で見て」
「そうですね......お嬢様と会うのが二回目なので馴れ馴れしく接してくる性欲まみれの野獣でないか警戒しておりました」
「えぇー」
ルイスの言葉にカイは思わず声を漏らす。
なんとも反応に困ったカイはとりあえず苦笑いだけを浮かべておいた。
「大丈夫よ、私こう見えても人を見る目はあるから。この人は大丈夫よ」
「甘く見てはいけません、お嬢様。
特にお嬢様のような胸がフラットな幼児体型の女性を好む男性もいると聞きますし、警戒するに越したことはありませんよ。
もしかしたら、そのフラットな胸を好む御仁かもしれませんし」
「あんた、ちょくちょく私の身体的特徴をディスってるだけでしょ」
「そんなことはありません。ありのままを言ったまでです。
だって、お嬢様の胸はフラットでありますし」
「またフラットって言ったー!」
そこからカイを蚊帳の外にして二人のいざこざが始まってしまった。
一方的に言っているのはエンリの方だがルイスにはほぼノーダメージと言った感じで、時折ルイスに言われる言葉に逆にエンリがダメージを追っている。
これでカイが見るのは二回目だが、二回目だからこそ思うなんとも不思議な主従関係であった。
主従というよりは気の置けない友達と言うべきか。
そんな二人を見ているとふと過去のことをカイは思い出した。
それはまだカイの友人達がどこかへ行ってしまう前の何気ない日常の一幕で、どこか当たり前のように続くと思っていた日々。
わずかどこかに空虚な心を持ちながらも、されど友達とバカみたいにバカなことをしてバカ笑いしていたのはカイにとってかけがえのない思い出の一つだ。
当たり前の日常が、当たり前と感じるよりも早くに流れていく。
もはや毎日同じ時間を過ごしているようにも感じ、だけどその日の内容はその日にしか起きなかったことで、それがカイにとってかけがえのない幸せであった。
そんな日常がある日突然崩されたのだ。
それはカイにとって到底許せることはない。
しかも、それは一度だけではないのだ。
だからこそ、カイは心に決めたのだ。
自分の失った日常にいた全員を取り戻し、この事件を起こした人物にはその罪をその身で償ってもらおう、と。
カイは思わず良くない感情が浮かんでいたところでふと我に返った。
気が付けばエンリとルイスの声が止まっているので、顔を上げて見てみれば二人がカイを見ている。
「......どうした?」
「いいえ、なんでもないわ......」
エンリは上手く言葉が思い浮かばないのかそう言いながらルイスに視線で助けを求めた。
その視線にルイスは一つ咳払いするとカイに告げていく。
「どうやらふざけていい場面ではないようでした。申し訳ございません」
「いやいや、気にしないでいい。単に昔のことを思い出していただけだから。
それに二人の仲良さそうな雰囲気は見ていてとても気分が良かったから」
カイがそう言うとルイスとエンリは一度互いの顔を見た。
するとルイスは両腕を抱えて軽く身をよじらせると恥じらって告げる。
「まさかお嬢様だけではなく私も......!」
「いや、違うから!」
「ふふっ、わかっております。ですが、こういうやり取りが出来る雰囲気の方が心持ちがよろしいのでしょう?」
ルイスの言葉はまるで今のカイの心を見透かしたような発言で、その言葉にカイは苦笑いを浮かべていく。
そんな場の空気が少し明るくなった所で、エンリが一つ手を叩いて気持ちを切り替えるようにカイに質問した。
「はい、休憩はここまで。
ともかく、さっき話した感じからアイカワ=ツバサに関してはまるでわからないので、引き続き互いに調査続行ということで。異存ないかしら?」
「あぁ、構わないよ」
「それじゃあ、他に何か変なことがあったり、聞いたり、見たりしたということなかったかしら? 良かったら教えて頂戴」
「お嬢様、それでは唐突過ぎでカイ様もどう話したらいいかわかりませんよ」
ルイスの言葉にエンリは「わかった」と答えるとその質問の事情を話し始めた。
それは丁度エンリがカイサル駐屯騎士団に「相川翼」に関して聞き込みをする時に、逆に騎士団の方からされた質問だ。
ここ最近で、唐突に人がいなくなるということが頻発しているらしい。
その失踪事件の最初は子供から始まり、次に子供から少年少女へと標的が変わり、その次には大人の男女へと変わっていったという。
そして、その失踪で消えた人達は漏れなく全員がどこからも戻って来ずに、ここ最近では騎士団の数名も急に失踪しているらしいのだ。
騎士団はその原因を追究中だが、その失踪を行った犯人は未だ見つけられていないとのこと。
加えて、その失踪の仕方というのが、目撃した一部の人からの証言であれば、強い風が吹いた時には人が一人消えていて、時には壁に飲み込まれたり、地面に沈んでいったりとともかくいろんな方法で人が消えてるとのことだった。
その犯人が一人なのかそれとも組織的な犯行なのかしらわかっていないので、その情報を集めてきて欲しいとエンリは騎士団から「相川翼」の情報の代わりに頼まれたのだ。
「――――ま、呈のいい排除目的よ。
恐らく、いやきっと、第一聖女や第三聖女であれば頼まないはずのことを、厄神に染められし者である私だったら別に消えた所で大きな問題にはならないってね」
「お嬢様......」
「けれど、私は別にこんな所で死ぬような人物じゃないわ。それに見返してやりたいし。
だから、むしろあえて引き受けてやったというわけ。
それで、そっちにも似たような情報はないかしら?」
エンリの質問にカイはあごに手を付けて思い出すような仕草をした。
「今の時点では特にそう言った話を聞いてないかな。
あ、あくまで冒険者が襲われたって意味ではね。
けど、俺が依頼で森の中にいた時、どこかから視線があった」
「そこに人はいた?」
「いや、いない。その視線はトカゲから感じたから恐らく遠隔で観察してたのかもな。
もしかしたら、隙を見て攫っては森の魔物にやられたように装ってね」
「ない話ではなさそうね」
エンリは「ありがとう。少し用が出来たわ」と言って立ち上がるとルイスに声をかけて先行して歩いていった。
その後ろをルイスが追いかける姿をカイはタバコに火をつけて一服しながら後ろ目で眺めていた。
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