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第37話 協力者

「――――では、改めて助けてくれてありがとう」


「いえいぇ、助けるのはこっちでも仕事みたいなものですから」


 カイサル南西部にあるオープンテラスの一角で、すぐそばにある通りを歩く一般人に多くの視線を集めながら、カイとエンリは向かい合って座っていた。


 エンリは優雅な佇まいで目の前に置かれた紅茶のカップを片手に飲んでいく。

 その自然体の表情にカイはあえて踏み込んだ質問をした。


「随分と視線にさらされる場所を選んだようですが、お気にはなさらないのですか?」


「敬語はやめて。私も苦手で面倒だし、年上からそういう言葉遣いされるのはあまりいい気分ではないから」


「聖女様であるみたいだからね、地位的な問題で敬った方が良いかと思ったけど......そう言うことならわかった」


 カイの言葉遣いが通常通りに戻るとエンリは少しだけ笑みを浮かべて答えた。


「そうね、カイさんの質問に答えるのだとすれば、単に気にしてないからよ。

 どうにもあなたはあまり私のことを知らないようだけど、もしかして遠くから来た旅人かしら?」


「あぁ、今は一人だが娘が一人と道中で出会った二人の少女と旅をしてここにやってきたんだ」


「女性ばっかなのね」


 エンリはカイを訝しむような目で見た。

 まるですけこましにでも思っていそうな顔であった。

 それに対し、カイは若干困った顔で否定する。


「意図したわけではないよ。結果的にそうなってしまっただけであって。それに俺は既婚者であるから」


「別に正妻がいようと側室を持つのは割に一般的よ?

 ま、そういう人達は大抵大きな位を持ってる連中とかだけど。たとえば、私のお父様のようにね」


 そう言うエンリは頬杖をついて通りの方をぼんやりと眺める目をしていた。

 通りに歩く誰かを見かけたという感じではなく、何かを頭の中で思い出してる感じ。


 そして、そのわかりずらい表情からカイが見た感情は戸惑い、劣等感、苦悩といった感じで、何やら小難しい問題を抱えてそうであった。


 カイはそれ以上はデリケートな話題になると感じ、今回こうして連れてこられたことについて話題を移した。


「さて、そういえば、エンリさんは俺にお礼がしたくてここに呼んだわけだけど」


「えぇ、そうね。別になんでもいいわよ。デザートを奢ってくれでも、情報を教えてくれでも。

 あんたなら常識的範囲に抑えてくれそうだし」


「なら、俺は情報を求めようか。できれば細かくね」


「善処するわ」


 エンリの同意を得れるとカイは質問をし始めた。


「実は今、人探しをしているんだ。それが俺の旅の目的の全てでね。

 何分土地勘がないから、もしいる場所に心当たりがあれば全て教えて欲しい」


「当然、名前はわかるのでしょうね? さすがに人物の特徴だけあげられても無理よ。

 認識の齟齬が生じる可能性もあるし、絵でもあれば違うけれど」


「残念ながら絵は下手でね。だけど、名前ならあるよ」


 カイはコートのうちポケットから行方不明者リストを取り出すとそれをエンリに向かって差し出していく。


 その紙を手に取って内容を見た瞬間、エンリは思わず目を見開き、小刻みに紙をもった両手を震わせた

 そして、怪しむような目でカイを見て尋ねる。


「どうしてあなたがこの名前を知ってるの?」


「もしかして、知ってるのかい!? どこまでだ? 誰を知ってるんだ?」


「まず聞いてるのはこっちよ。安心しなさい、ちゃんと答えてあげるから」


 そう言うエンリの表情から読み取れる真偽は本当の言葉だったので、カイは自分の旅の目的をエンリに伝えた。


 自身が異世界から渡ってきたということを避け、あくまでお世話になった人達にお礼がしたいということで旅をしているという設定でいった。


 もちろん、その設定は所々で大きな矛盾を生じるが、それをどうにか理屈をつけてこねくり回しながら説明していった。


「――――なるほどね。勇者を知ってる人に出会ったから、その人から『勇者に聞けばわかる』と言われて勇者を探しながら旅をしてるわけね」


「ま、そういうことになるかな」


「それじゃあ、逆にあなたは勇者のことを知っている人に会ったってことよね?」


「(痛いところを突いてきたな)」


 カイはエンリの質問に思わずそう思った。

 なぜなら、カイはその人と出会って話を聞いたわけなのに、その人とどこで出会ったかわからないということになるからだ。


 もちろん、すっとぼけることもできるが、旅人ならば当てもなく思い付きで陸路を歩くわけがない。

 当然、歩んできた道のりでどういうことがあったか覚えてるはずになる。


 そこのどうにも詰め切れない設定の部分をエンリを突いてきたのだ。

 今の状況はカイにとって分が悪い。


「出会ったよ。けど、その人から()()()には言わないようにしてくれと頼まれた。さすがの俺もどうしてかはわからない」


「......そう。なら仕方ないわ」


 なので、カイはその責任をどっかの誰かに投げることにした。

 幸い、深く突っ込まれることなく済んだみたいだ。


「にしても、探してる人物が妹や妻、娘ってどういうことよ?」


「今いる娘があまだ小さい頃にね、急に『冒険がしたい』と妻が飛び出していっちゃってね。

 その血を同じように流していたのか妹も乗り気で行っちゃって」


「なんていうか......それって単に逃げられてるだけじゃない?」


 エンリは思わず気の毒そうな顔をしながら告げた。

 なんとなく同情されてるような瞳だ。

 さすがに無理のある設定であったが、思ったより信じてくれたみたいであることにカイはホッと一安心。


「いやいや、そう思えるけどそうじゃないんだよ。ま、こっちは俺の問題だから気にしなくていい。

 それで君は僕が聞きたい情報にどこまで答えてくれるのかな?」


「いいわ、知ってること全て話して――――」


「お嬢様~~~~~!」


 エンリが話している途中で通りの方から一人の侍女が走ってきた。

 目が細いゆるふわっとしたその女性は大きな胸を揺らしながら、エンリに向かって大きく手を振っている。


 その侍女を見た瞬間、エンリは「相変わらず無駄に揺れる胸ね」と憎しみのこもった言葉を漏らしている。

 失礼な話だが、確かに侍女に比べるとエンリはかなり控えめと言えよう。


「あんた、まさかあの揺れる胸を見て『デカいなー』とか思ってんじゃないでしょうね!」


「え、えっ!?」


 カイ、エンリから変な言いがかりをつけられる。

 単にエンリの知合いそうだから見ていただけなのに。


「これだから、妻や娘ましてや妹から逃げられるのよ」


「いや、逃げられてないから。やめて、そう言う何気ないボソッと言う言葉って結構傷つくんだから」


 若干不貞腐れたようにそっぽを向けるエンリにカイは必死の弁解。

 別に設定上の話であるので、「逃げられた」でも構わないのだが、それだと釈然としない気持ちがあるのでカイも弁解するのだろう。


 侍女の女性はエンリの近くにやってくると糸のような細めでチラッとカイを見てから、エンリへと話しかけた。


「お嬢様、勝手に居なくなられては困ります。探す私の身にもなってください」


「いいじゃない。その無駄にデカい胸を揺らしながら走ってたわけでしょ?

 道行く男性に癒しを与えるって仕事を任せた甲斐があったわ」


「お嬢様......」


 侍女はエンリの言葉に思わず困ったような顔をした。

 恐らく変に機嫌を損ねていることに侍女は悩んで――――


「お嬢様、たとえお嬢様の胸がスーパーフラットでも癒し効果はあるはずですよ」


「誰がスーパーフラットですって!?」


 侍女はエンリの肩に手を置くと慰めるようにそう告げた。

 特に悩んでいるわけではないらしい。

 むしろ、先ほどの困惑顔は哀れみにに近かったのかもしれない。


 先ほどの少し引き締まった空気から一転して随分と緩い空気になってしまったが、カイは一先ず礼儀として自己紹介していく。


「初めまして、ニイガミ=カイと言います。カイで構いません。

 エンリさんには少し尋ねたい事がありまして、話を伺ってた次第です」


「ニイガミ=カイ......随分と古風な名前ですね」


 そう言いながら侍女はエンリへと視線を向ける。

 それに対し、エンリは首を横に振るとその行動の意味を理解したように侍女も挨拶をした。


「私はエンリお嬢様の侍女をさせていただいてます、ルイス=フローディテと申します。以後、お見知りおきを。

 なにぶん至らぬ点が多いお嬢様ですが、どうぞ仲良くしてやってください」


「ちょっと! どういう意味!」


 侍女――――ルイスの言葉に思わず噛みつくエンリ。

 そのエンリをふわっとした雰囲気を纏いながら、さもあらんと笑ってルイスは流していく。


 その態度にエンリは増々腹を立てているが、ルイスにとってはそれが可愛らしく思っている様子であった。

 まるで小学生の男子が好きな女子に興味を引くためにちょっかいを出すような感じ。


 傍から見れば自分に遣える主をイジるなどとんでもない行為かと思われるかもしれないが、二人にとってはそれがいつもの仲の良いあるべき姿とも言えよう。


 そんな二人の様子をカイは黙って紅茶を飲みながら聞いていた。

 先ほどからずっと胸の発育の話やら成長期の話しかしてないので、居たたまれない空気にさらされているがカイは大人としてグッと堪えている。


 するとさすがにカイの存在に気付いたのか、エンリは思わず顔を赤らめて下を向いた。

 その様子をルイスは口元を手で押さえながらも笑っている。

 どうやらルイスがこの状況に仕立て上げたかったらしい。


 ルイスの主に恥をかかせて笑うという中々のS気の行動にカイは思わず慄く。

 絶対警戒すべきはそっちだろ、と。


 エンリはルイスを睨みながらも、気を取り直すように咳払いを一つすると話の途中に戻った。


「そういえば、このウザったらしい侍女が来たことで話が途切れたけど、ハッキリ言ってあなたが欲しそうな情報はないわ」


「というと、このリストの中で名前は知ってるけど、どこにいるかもわからないと?」


「えぇ、だからあなたの求める情報を与えてられなくて申し訳なく思っているわ。

 だけど、あなたが探している友人達は実は私達が探している人物達でもあるの」


「探してる?」


「そう、だから私達と協力を結ばない?」


 エンリは自身に満ち溢れた顔でそっと握手を求めるように手を差し出した。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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