第35話 四人目の情報
「――――ということが、主な冒険者においての説明になります」
「なるほどね......」
カイ達は受付嬢から冒険者ギルドの説明を受けると納得したように頷いた。
それらの主な説明は―――――
・冒険者ギルドはランクせいであり、高い方から{黒、金、銀、銅、赤、青、黄、緑}となっていて、それは冒険者の身分を証明するカードの色から識別できる。
・ランクにおいて受けれる依頼に制限がかかる。現状のランクから一つ上のランクを受けることが出来るが、それはギルド側から許可をもらった冒険者のみとなる。
・依頼においての報酬は依頼書に記載されている通りであるが、別として討伐依頼の際に剥ぎ取った素材をお金へと変換できる。
・依頼に失態した場合はペナルティがつき、主なペナルティは罰金であるが、内容次第では冒険者カードの剥奪もあり得る。
・基本的に冒険者同士での戦闘行為の禁止。戦闘行為がギルドに報告された場合は数か月の冒険者活動の停止及び剥奪。(ただし、やむを得ない理由がある場合無効とする)
と、このような感じだった。
他にも含めればこまごまとした説明があったが、それ以上は長くなるので割愛することとする。
カイ達は緑色のカードに魔力液体化装置なるものを用いて、自身の個人情報が含まれる魔力(DNAのようなもの)を水滴に変えてカードの上に落とした。
するとそのカードに事前に書類に記載していた内容が浮かび上がるのと他にカード自体に魔力が帯び始めた。
「これで冒険者カードの登録完了となります。
カードは自身の魔力を通してでしか内容を見ることができないので、防犯対策にもなっております」
「意外と考えられてるんだね~」
カイは物珍しそうにそのカードを表から見たり、ひっくり返して見たり。
そしてそれを一先ずコートの内ポケットにしまっていくとあることを聞いた後に一旦冒険者ギルドを出た。
するとカイは疲れたように息を吐く。
「はぁ、バレるかと思って緊張したぁ」
「パパ、脈拍と呼吸回数ともに正常値です」
「いや、そういうことじゃなくてね?
ほら、やっぱり正義の味方やってた俺としては嘘をつくのは苦手なのよ」
そう言うカイの言葉には理由がある。
実のところ、冒険者カードを作るに置いて一番問題だったのはカイにおいてのステータスの説明であった。
この世界の人々は通常で自分のステータスというのは見れないが、冒険者カードを通してなら自分の成長を確かめることが出来る。
加えて、カードの登録されるのは自身の魔力だ。
それはDNA鑑定の結果が克明にカードに記載されるということなので、そこに嘘はつけないためにカイの異常なステータスがバレる可能性があったのだ。
それを防ぐためにカイは出来るだけ自然を装いながら、シルビアを通して担当していた受付嬢の認識の一部を改ざんしていたのだ。
その結果、無事にカイは自身の身分証明書を手に入れたわけだが......騙して手に入れたカードが偽造身分証明書のような感じがして心に若干の引っ掛かりを感じているのだ。
そんな少し悪いことをしたな、と感じているカイにシルビアは容赦なく告げる。
「別に気にするほどでもないのでは?
人間であれば、誰であり嘘をつきますし、パパの覗いた記憶からしても警察という組織も随分な伏魔殿のような気がしますし」
「しっ、言わないの!」
「図星なんですね」
淡々と言ってのけるシルビアにカイは思わず苦笑い。
もう一人の娘は随分と手厳しいらしい。
とはいえ、これにて冒険者ギルドにおいての身分証明書発行というタスクはこなし終えた。
次にやることはあるのか、という風にエンディはカイに尋ねる。
「この後はどうするの?」
「そうだなぁ、君達二人はシルビアを連れて街を探索してくればいい。
何か意外な出会いが生まれるかもしれないしな」
その言葉を聞いたエンディとキリアはふと一度互いの顔を見るとキリアが聞いた。
「カイさんはどうするんですか?」
「俺は相も変わらず調べものさ。
単に一人の方が動きやすいから君達にはシルビアを連れて行ってもらいたいんだ」
「危険な場所に行くとすれば、私もついていった方が良いと思いますが」
「危険な場所にはいかないよ。俺の目的は戦闘じゃないんだから」
そう言ってカイはコートのポケットに手を突っ込みながら一人でに歩き始めた。
その後ろ姿を三人は遠くなって小さく映るまでぼんやりと眺め続けた。
――――カイサル北部
エンディ、キリア、シルビアと別れたカイは人通りの多い南部とは違い、緩い上り坂の多い民衆区にやって来ていた。
そこを目指したのはただ一つ。
北部にあると言われるファイナ教会と言われる場所だ。
西部にある冒険者ギルドから一番近い場所にあるその教会からまずは行方不明者に関する情報を集めようと思ったのだ。
冒険者ギルドでは身分証明書を発行する際に訳あり貴族なども発行する場合があるので、基本的に人に個人情報を漏らさないとのこと。
加えて、冒険者というのはその街に住み着いてその街の専属冒険者となる人もいるが、大半は“冒険”という名称に恥じぬように旅をする者が多いらしい。
それらの冒険者は数日で街を離れる人もいれば、一か月、数か月経ってからという人もいて、後者ならともかく前者であれば、数多くの冒険者と関わる受付嬢にとって覚えている対象ではないらしい。
念のため、カイも担当してくれた受付嬢に「陸井哲也」と「相川翼」の情報を聞いてみたが、結果は空振り。
それからわかることはすでにこの街を出発したか、まだこの街に来ていないか、冒険者ギルドを訪れていないかのいずれかだ。
そこで次にカイが狙いをつけたのが教会であった。
「ここでいいかな?」
緩い坂を登り切った先に横に伸びる大き目な通りがあり、その正面には思わず見惚れるほどの立派な教会が建っていた。
その教会には信仰深い信者らしき民衆の出入りが見え、同時に冒険者らしき恰好の出入りも見える。
そう冒険者が教会を訪れているのだ。
その理由としては、教会で作られる聖水であったり、回復ポーションであったり、魔力ポーションであったり、怪我の治療であったりと様々。
怪我の治療以外のそれらの道具は冒険者ギルドでも売られているが、数があまり多くないためすぐに売り切れるのに加え、値段も教会に販売されてるのより若干高いという。
その結果、冒険者ギルドから近いファイナ教会はよく冒険者が訪れる教会として周囲から知られているのだ。
カイはその教会の歩みを進めていくと教会の入り口近くでルナリス教の教えを説いている神官を見た。
その周辺には数人の男女が教えを興味深そうに聞いていた。
その神官の男性に近づいていくとふと目が合ったので、カイは軽く会釈していく。
すると男性は聞いていた人達に教会内へ入るように勧めるとカイに近づいていった。
「どうされました?」
「少し聞きたいことがあったのですが......申し訳ありません。お仕事を邪魔してしまって」
「いえいえ、迷える子羊を救うのが私達――――ルナリス信徒の務め。なれば、優先度というのが違いますよ」
その男性はカイを教会へと連れていくとその中の更に別室へとカイを連れて行った。
そこには椅子とテーブルがあり、カイを椅子に座らせると男性は向かい合うように座り、口火を切る。
「それでどのようなことが知りたいのでしょう?」
「実は私は人探しをしておりまして。
訳は話した方が良いと思うのですが......それが少々複雑な事情な故に出来ればそのまま教えてくれればありがたいと思っています」
そう言いながら例の行方不明者リストを男性の前へと差し出していく。
それを取った男性はそのリストに乗った名前を見ていった。
「随分と個性的な名前のように伺えますね......その中ですと私がわかるのはこの――――『椎名誠人』様だけですね」
「様......?」
カイは新たな人物の情報が手に入った嬉しさと同時に混乱した。
それは自分が欲している「陸井哲也」と「相川翼」の情報ではないことと「椎名誠人」がなぜか街の神官に敬称呼びをされていることからだ。
カイは求めてる二人についてすぐに質問したい気持ちをグッと抑えながら、「椎名誠人」に関して説明する。
「その人は私の友人なのですが、どうして『様』付けなんかに?」
「友人......? あぁ、疑いの目を向けるようなことをしてすみません。
もしかして、あなたは旅人でおられますか?」
「そうですね、何かと俗世には疎い生活をしておりました」
「そうですか。なら、知らないのも納得ですね。
マコト様は現在聖王国ルリリアントの勇者として、強攻派の魔王国の一つとの来るべき戦いのために訓練されていると聞き及んでおります」
「マコトが......戦う?」
その言葉にカイは思わず机に置いてあった手で拳を作った。
出来るだけ表情には出ないように努めている様子だが、その手は明らかに怒りの感情が溢れ出ている。
異世界に召喚された高校生が勇者として戦うなんてのは今時古いぐらいに当たり前な設定となっているが、実際にその異世界に来たカイにとってはその価値観は大分異なっていた。
たとえ魔物であっても、ぶつけられる殺意、迫りくる恐怖、相手を斬る感触、吹き出す血の音、滴る血の色やニオイなど様々なものが五感にダイレクトに伝わってくるのだ。
それが人であればなおさら酷いものになるとカイは知っている。
大人として様々なものを諦めきれるもの、捨るもの、我慢できるものを取捨選択してきたカイであっても、シルビアに「壊れている」と言われている精神に伝わるものはあった。
それをこの世界来てまだ一年しかいない高校生にやらせようというのだ。
加えて、その相手がカイにとって友人であるからこそより怒りが込み上がってくる。
カイは理解している。この世界が生に対して厳しい世界だと。
しかし、それでも我慢の許容量はある。
おもむろにカイは立ち上がった。
「ご協力感謝します」
そう言い捨てるとカイは別室を抜け、教会を出て青が広がる空に浮かぶ太陽を手で傘を作りながらぼんやり見つめる。
その目つきはまるで天に対して睨みつけるようでもあった。
カイはゆっくり肩の力を抜くように息を吐くと言い聞かせるように呟く。
「マコトがその道を選んだのは理由がある。それを何も知らずして否定してはいけない。
ただマコトは聖王国にいることがわかったんだ。だったら、俺はまずは二人について調べるだけ」
そしてカイは別の教会に向けて歩き出した。その背中は僅かに小さく映った。
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