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第30話 選択した道

「さて、これからの質問に正直に答えてくれ」


 大の字に寝るラクレンの横に座るカイは殺気立つ様子もなく淡々の聞いた。

 その妙な雰囲気の静かさにラクレンは僅かな寒気を感じつつも、動くことはできないのでその言葉を聞き流す。


「それじゃあ、先ほどの質問の続きから。

 君は『神の使い』という存在を知っているよね?

 自分で『神の眷属』と言っていたぐらいだから」


「......ああ、知ってる」


「それじゃあ、エイレイさんとマリネさんの存在は知っていたということになるけどそれでいいか?

 加えて、マリネさんを知ってるということは『天恵者』というワードも知ってることになるけど」


「知ってる」


「正直で助かるよ」


 ラクレンの反応を「見」てカイはニッコリと笑う。

 そのカイの表情からラクレンは「どうして自分が嘘をついてないとわかるのか」と疑問に思うが、それを聞くには口が重く動かない。


「それじゃあ、君の目的を教えてくれ......いや、()()と言うべきか。

 俺の推測だと世界樹を魔物にして攻撃させたのはあくまで前置きみたいなもので、本当の目的は別にあると思うんだ」


「......」


「君達の目的は『天恵者』の回収じゃないかい?」


 その言葉にラクレンは僅かに目を見開く。

  その一瞬ともいえる行動をカイは見逃さなかった。


「俺達の目的を俺に言う必要ない」


「まぁまぁ、そう言わずにさ。

  言ってくれると俺も助かるっていうか――――今後の俺に関わってくんだよ」


 穏やかな口調から一変して一気に空気が凍り付くように重たい雰囲気に変わった。

  まるで重力が自分の所だけ強くかかっているのではとラクレンが思うほどに。


 カイは腰を上げるとラクレンの頭に回り込む。

  そしてその近くでしゃがむとラクレンの表情を視界一杯に収めるように覗き込んだ。


「知ってんだろ? 言ってくれよ」


「知らない」


「嘘は良くないって言わなかったか?」


「言ったな。だが、俺が嘘をついていないとも言い切れないはずだ」


「いいや、言いきれるさ。なぜなら俺は人の顔色を窺って生きてきたような人間だからね」


 そう言うとカイは顔を上げて自分の目に人差し指を向けた。


「俺は生まれつき人の感情がこの目で見えるんだ。

 色覚魔獣ってのと戦った時に得たやつでね。

 見えるんだよ、で怒っていれば赤、悲しんでいれば青みたいにな。

 で、嘘をついたお前には黒の感情が浮かんでいる。

 それは相手に悪意的だったり、バレたくない何かがある時の色だ」


「っ!......嘘も通じないバケモノということか......!」


 ラクレンは驚きに体をこわばらせる。

 この時、恐らくラクレンの視界からはカイが人の姿には見えていないのかもしれない。


 半分とはいえ神に遣える天使の力を持っている自分が異常な力を持った人間に完膚なきまで叩きのめされている、と。

 隠すべき情報さえも見抜かれている、と。


 そんな存在が、神の眷属を超える単なる人族の存在がいるなど認めたくないラクレンの気持ちは当然の反応と言えよう。


 そしてそんな存在に掴まっているラクレンは逃げることも叶わない。

 だとすれば、ラクレンに出来ることはそのバレてはいけない情報を命がけで守ること――――


「そういえば、さっきねこんな力を貰ったんだよ――――聖樹の威光」


 その瞬間、カイの左目に白い光で描かれた魔法陣が浮かび上がる。

 直後、ラクレンはその目に魅入られ、体硬直したように動かなくなった。


「さて、話してごらん」


「お......俺達の目的は、この国にいる、『天恵者』の回収。

 我ら、が主が、求めるが故に、各地にいる『天恵者』を、探している」


 ラクレンは戸惑いの目が泳ぐ。

 ラクレン自身は言うつもりなどまるでなかった。

 しかし、まるで別の意識があるように口が勝手に動いていくのだ。

 それこそかつてラクレンが本物の神という存在にあって嘘をつくこという思考すら憚られるように。


「なんだ......その力、は?」


「君が魔物化した世界樹から譲り受けた力さ。

 これは五大天使である森神エンリュレの権威が込められている。

 これは人に対してしか効かないものらしいけど......半人半天使であるから効いたのかもね」


 その言葉にラクレンは思わず歯噛みする。

 カイの言葉が本当ならそれは本当に世界樹を殺してないということになるからだ。


 世界樹の本体は木にあらず、その中にある赤い核だ。

 しかし、それは分厚すぎる木という外壁に囲まれ、さらに核は自由に動き回るために捕まえることも難しい。


 故に、カイが「殺さなかった」という言葉も自分の実力を上に見せるためのハッタリかと思えば、今この瞬間ラクレンはハッキリした。

 こいつは紛れもなく自分達の最大の敵になる存在だ、と。


「その『天恵者』を使って何をするつもりだ? 何人いて何人集まっている?」


「それ、は、知らない......だが、全部で六人いて、今は二人、ってのは知って、る」


「それじゃあ、お前達の黒幕の名を教えろ」


「それは、言えない。俺の口、からは......とても、とても恐れ、多い」


 カイはそのラクレンの反応に思わずため息を吐いた。

 なぜなら、それは嘘で情報を隠しているわけではなく、恐怖で体自体が発言することを拒絶してるからだ。


 カイの<聖樹の威光>はあくまで相手が正しい情報を持ってるのにもかかわらず、それを出さないという拒絶意識を外すもの。

 つまりは嘘をつけなくさせること。


 しかし、「トラウマ」という言葉があるようにたとえ情報を知っているとしても、体自体が発言自体を拒絶してしまえばその効果は無くなってしまう。


 故に、カイが聞けることはここまでのようだ。

 これ以上は恐怖で自滅していく方が早い。

 なので、カイは次に個人的な質問に移った。


「それじゃあ、このリストに移っている中で名前を教えてくれ」


 カイは自身の影から黒い腕を二本伸ばし、その手に行方不明者リストの紙を持たせてラクレンに見せた。

 その中でラクレンに反応があった人物は三名。


「この中、で......知っている、のは、志渡院佳、陸井哲也、相川翼の三人、だ」


「相川翼だって......!?」


 カイはその言葉に思わずオウム返しに反応してしまった。

 しかし、カイが驚くのも無理はない。

 現時点で初めて他人から知る三人目の友人の名前であるからだ。


 先ほどの落ち着きっぷりはどこへやらというようにカイは慌てた様子でラクレンに「相川翼」について尋ねる。


「どこで? どこでそいつを見た? どこにいる? 何をしている?」


「そいつを、見てないし、どこで何をして、いるかもわからない。

 ただ、召喚された連中で、唯一点々と動いている奴、だったみたいだから、面白がってた、仲間に教えて、もらっただけだ。

 だが、別に俺達、の脅威じゃない、から無視した。だから、知らない」


「(点々と動いているということは相川も仲間を探してる?)」


 ラクレンから聞いた情報にカイはそう思った。

 そしてその考えは近からずとも遠からずかもしれない、とも思った。


 友達と一緒に異世界に転移され、転移した時には近くに友達の姿はない。

 となれば、どうなったのかと思い、仲間を探し始めるのは当然の行動ともいえる。


 当然誰しもがそういうわけにはいかないだろうが、無事であるならば相川翼はそういう人間だとカイは知っている。


 カイは一旦取り乱した心を落ち着けるとラクレンに質問した。


「その仲間はの名前は?」


「知らない。たまたま、暇だったから、声をかけただけ、の存在だ」


「最後に見た場所は?」


「聖王国ルリアント......から二つ、離れた街カイサル」


「そうか」


 カイはラクレンの憔悴している表情からこれ以上は聞き出せないと判断した。

 どうやら<聖樹の威光>は人相手には話すだけで憔悴させるだけの威力があるらしい。


 それは恐らく恐怖による精神的疲労が肉体的疲労に繋がってそうなっているのだろう。

 だが、それではまともな思考が巡ることはなく、曖昧な思考で誤情報を生み出されても困るものだ。


 故に、カイはここで終わることに――――しようと思ったが、最後に一つ思い出したことを質問した。


「竜王国で暴れまわったという神の眷属を探している。誰か知らないか?」


「知.....らない」


「わかった」


 カイは<聖樹の威光>を解除した。

 その瞬間、ラクレンは過呼吸のように胸を細かく上下させながら息を吸っていく。

 その表情は酷く疲れている様子で、顔色が悪く、脂汗が大量に流れている。


 そんなラクレンをカイはリストの紙を回収し、立ち上がってコートのポケットに手を突っ込みながら見下ろした。

 そしてラクレンの影からいくつもの黒い腕を出現させる。


「な、なんだこれは......?」


「俺の魔法『悪魔の腕(デビルハンズ)』。悪いね、君にはここで死んでもらう」


「お前は俺を無力化するんじゃなかったのか!?」


「したさ、さっきまで。それに俺って本当は知ってるんだ――――君達者の目的をね」


 ラクレンの周りに浮かび上がる黒い腕はラクレンの両脇で一つになるように絡み合うと二つの巨大な手へと形を変えた。


「俺がさっき君に聞いたのはエンリュレ様から聞いた情報が同じかどうか『答え合わせ』をしただけ。

 ま、それは上手くいかなかったわけだけど」


 カイは歩き出すとシルビアとキリアのいる方に向かった。

 その一方で、カイの背後では二つの手がラクレンを挟み込むようにして手を合わせている。


「ただ俺の共感覚()からハッキリしたことはエンリュレ様が嘘をついていないということと――――君達の崇める神及びその(しもべ)は全て俺の敵になったというだけのことさ」


「ま、待て! やめろ! うがあああああ!」


 ラクレンは黒い手に握り潰され、その溢れ出た血で周囲の地面を濡らした。

 そしてぐったりと動かなくなったラクレンを証拠隠滅するように二つの手が影へと沈み込んでいく。


 そんなラクレンの断末魔を背後で聞きながら、一目もくれてやることなくカイはシルビアとキリアの元まで歩き、辿り着いた。


「お疲れ様です、パパ。こっちの治療も完了しました」


「はははっ、おかげさまで助かりました......うぷっ」


 カイが見たそこには大量の回復薬のストックを手元に置き、すでにいくつもの空瓶を作り出しているシルビアと飲み過ぎでお腹を膨らませ、顔色を悪くしたキリアがいた。


 その先ほどまでの殺伐とした空気から一変した柔らかい空気にカイは思わず笑ってしまう。


「(この空気をもう奪わせやしない)」


 そう思うとその表情のまま二人に告げる。


「ただいま」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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