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第24話 知り得た情報

「さて、残念ながらマリネさんがクロであることが確定した」


 夜の静けさと星の僅かな光が木々の隙間から差し込み、テーブルの中心に置かれたロウソクで幻想的に照らされた空中テラス一角でカイは淡々とそう告げた。


 その言葉を聞いたエンディは思わず困惑した顔色を浮かべる一方で、シルビアは紅茶を飲みながら眉一つ動かさずにカイに告げる。


「パパも酷いことをしますね。せっかく心を開いて話してくれたマリネさんを疑うなんて」


「善人面して悪事を働く奴なんかはザラにいるよ。

 まぁ、マリネさんがそういう“器用”なことが出来るタイプとは思わなかったけど、俺の知り得た情報からすればクロになる」


「カイさんがそう言うってことは何かしら確証があったからなんだろうけど......何をしてそういう結果にいたったの?

 私も少しマリネさんと話した時があったけど、全然そういう印象は受けなかったし」


「そうだな。少し状況を整理して俺がやったことを伝えるよ」


 そう言ってカイが説明した内容を簡単に言えばこんな感じだ。


 カイがマリネと接触した後、カイはマリネと話す一方で自身の<暗黒魔法>による<影操作>で自分の影とマリネの影を接続。


 その後は、カイが先にその場に離れてマリネの行動を影で観察していたのだ。

 すると、マリネはそこからそのままエイレイのいる場所へと直行した。


 そこでエイレイが「神の使い」ということを知り、マリネはそのエイレイの企てた作戦に乗ることを示したのだ。


「で、その作戦ってのがエイレイがエルフの国の情報を流し、世界樹をトレントにして、その世界樹がエルフの国を襲っている間にエイレイとマリネは『神の眷属』と共に逃亡を図るつもりだ」


「マリネさんがそんなことを......マリネさんがどうしてそんな行動を取ったのか不明だけど、それ以前に色々時になるワードも出てきたね。『神の使い』だったり、『神の眷属』だったり」


「それはいわゆる階級のようなものですよ」


 エンディの疑問に対してシルビアはカップに入った紅茶に移った水面の自分を見つめながら答えていく。


「私達が相手にするかもしれない厄神フォルティナには彼女の従える最高戦力である神影隊の他に、その神影隊が使役する『神の眷属』、最下級で捨て駒である『神の使い』とあるのです」


「捨て駒ね......よく知ってるな」


「長い時を過ごした故ですよ。

 されど、その『神の使い』はただの人間ではありません。

 神気こそ使えませんが、神の加護をそれこそ普通の人の倍は受けているので、熟練した武人との相手でなければそれこそ周りは気にすることのない存在になるでしょうね」


「それは厄介だね」


 カイは背もたれに寄り掛かると肩の力を抜いて飲みなれない紅茶を口に含んでいく。

 しかし、こういうよくない話を聞く時はコーヒーのような苦みがあった方がありがたいのだが。


 するとここで、僅かに沈んだ空気を切り替えるように別の話題を出していく。


「そういえば、そもそもどうしてエイレイさんはマリネさんを選んだのかな?

 妹のキリアとの仲の悪さが目立ってるけど、マリネさんを選ぶって何かしらエイレイさんにメリットがあるからじゃない?」


「それについては既に答えが出てる。

 その答えは――――マリネさんが『天恵者』であるからだ」


「天恵者......それって私と同じ......」


 その言葉を聞いた瞬間、エンディが胸を抱え込むようにして自分自身を抱きしめ、身を縮めていく。

 その反応は自分が同じ「天恵者」であるが故に体験した過去を思い出しているからであろう。


 実際に聞いただけの恐怖と見て体験した恐怖は心身に刻まれた傷の深さが違う。

 それは十分なトラウマになる可能性を持っている。


 それを糧に復讐という道である種前向きな行動に出れる人もいるが、エンディの場合はそのまま恐怖にみをすくませてしまうタイプだ。


 カイはそんなエンディを見ながら「自分とは違うな」と呟きながら、そっとエンディの頭を撫でていく。


「大丈夫、君が自立できるその時まで俺がそばにいてやるから。

 だから、その恐怖を無理に受け止めなくていい」


「......カイさん......」


 優しく声をかけてくれたカイにエンディは熱ぼったい視線を送っていく。

 顔はやや紅潮し、恐怖によって高まった胸が好意的な高まりとリンクしてエンディの心臓はドクンと脈打つ。


 そんなエンディの様子を見てシルビアはズバッと聞いた。


「パパ、浮気ですか?」


「え?......あ、違うから! 違うからね!?」


「そこまで否定しなくてもいいのに......」


「パパ、女性を悲しませるのはダメですよ」


「それは.......ぐぬぬぬぬっ」


 否定すればエンディが悲しみ、肯定すれば妻との不義理になってしまう。

 まさに八方ふさがりとはこのことか。


 咄嗟に言い訳しようともそれでシルビアは責めるのはよろしくない。

 故に、カイの選択は我慢。大人として余裕の受け止めを見せる。


 そんなカイを見てクスクスと笑うシルビアを他所に、カイは一回咳払いして空気を変えると話を元に戻していく。


「ともかく! エイレイさんがマリネさんを誘ったのはマリネさんが『天恵者』という理由が一番大きい。

 幸い、エンディが同じ『天恵者』であることは知られていないが、いずれエンディのことを知ってる存在に会うのは時間の問題だ」


「そうだね、たまたま運が良かっただけで私も標的の一人でしかない。

 それにしても、『天恵者』を集めてどうするつもりだろう?」


「『天恵者』とは神の寵愛を受けし者のこと......ぐらいしか知りませんね」


 エンディの疑問にシルビアが答えた。

 その答えを聞いたカイは「嫌な情報だな」とため息交じりに呟いた。

 そんなカイを見ながらシルビアは根本的な質問に戻る。


「それで、パパはこの情報を聞いた上でまだこの国を助けるつもりで動くつもりですか?

 正直、この場所には長居しない方がいいかと思いますが」


「そうかもね。でも、それだと俺の聞きたい情報が聞けなくなってしまう恐れがあるからね。

 それに、俺はこう見えても警察だよ?

 まぁ、この世界においてはこの役職もまるで意味をなさないけど、それでも危うい人の命がすぐ近くにあってそれを見捨てるほどバケモノになれないさ」


「なんとも中途半端なバケモノですね」


「それが人間って奴さ。

 時には合理的に、時には不合理的に物事を判断して動いていく。

 バケモノにでもなるつもりだが、そうそう人道を外れてはやらないよ」


「パパらしい適当さです。とてもいいと思います」


「ありがと」


 カイは立ち上がると空中テラスの南側の柵に寄っていき、そこでタバコを吸い始めた。


 その方向には巨大な木と小さな木が混在して生えていて、その隙間からもうだいぶ接近した世界樹レスティルが見えている。


 その距離の近さをより身近に感じるのが実は先ほどから聞こえていた地鳴りだ。

 世界樹レスティルが巨大な体を根で地面を這えずりさせながら進んでいる。


 それによって音が響き、最近は進行方向にある木がなぎ倒される音すら聞こえていた――――もうすぐ防衛戦が始まる。


 カイがタバコを吸っているとその横にシルビアが柵に座るようにして並び、反対の隣には後ろ手を組んだエンディが並ぶ。


「もう防衛対策はしてあるとはいえ、この感じですとほぼ意味をなさないでしょうね」


「あの大きさだからね」


「ほんとあのデカさ相手に白兵戦を挑むとか頭おかしいと思うよ。でも、やらなきゃ死んじゃうしね」


「本当にパパは一人であの世界樹に挑むつもりですか?」


 シルビアはふと前聞かされた作戦について思い出し、カイの顔を見て質問した。


 その作戦というのが、カイがタイマンで高さ五百メートルほどもある世界樹を相手にするということだ。


 それはカイが提案したことで、そのカイが言うには世界樹は他にも小さな植物をトレントに変えて集団で来ているので、周りの人達にはそのトレント集団を相手にしてもらいたいというもの。


 確かに、現在のエルフの国は全体で百人ほど。

 それに対して、世界樹一体で最低でも数万人規模の集団で相手をしなきゃいけない。


 それでさらに雑魚トレントの集団がいてどちらにも人員を割くなら、数が多い雑魚にもそこそこの人員を出さなければいけない。


 しかし、そうなると世界樹に対しての人員は減少するのでただでさえ勝てる確率は絶望的なのに、その確率を更に下げる結果になる。


 その戦略で全く異次元の方向から作戦を提案したのがカイの作戦だ。

 当然、カイの作戦は様々な意見が飛び交った。

 主に悪い意見の方で。


「挑むつもりさ。そっちの方が生存率が高い......そんな感じがするし。

 うぬぼれにも聞こえるかもしれないけど、なんか行けそうな気がするんだよね」


「その発言が出来る時点でパパはすでにバケモノですよ」


「そうかい? まぁ、一番の理由は――――あれ如きを突破できなければ俺の望む夢は叶えられない......って思いかな」


 そうタバコを吸いながら告げるカイの瞳は野望にも似た暗く、そして強い炎が宿っていた。


 カイの目的は自分の失った友人や家族を見つけ、助けること。

 それは目の前にいる世界樹を倒すことに考えればそっちの方が容易いことなのかもしれない。


 しかし、カイはその世界樹よりも自身の目的の方が難しいと思っているみたいだ。

 それがどうしてその判断をさせているのかはカイにしかわからない。


 だが、その溢れ出る生への活力と身を焦がすほどの野心を持ったカイを見ていると「大丈夫」と思うような気になってくるのがエンディやシルビアには不思議であった。


「カイさんなら大丈夫。

 私も志渡院佳(彼女)もそう言ってる。

 だから、私はカイさんの言葉を信じる」


「パパ、私ははなからパパの言葉を疑ったことはありませんよ?

 今も絶えず胸が熱くなるような野心が伝わってきますから」


「ありがとう、二人とも」


 カイはタバコの火を消していくと吸い殻ケースに入れ、コートのうちポケットの中に入れていく。

 そして、告げる。


「それじゃあ、俺達の運命を決めてやろうか」


 そう決め顔で世界樹を見つめるカイにシルビアは相変わらずの無表情で伝えた。


「......パパ、カッコつけてるとこ申し訳ないですけど、開戦は明後日です」


「......当日の予行練習だから」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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