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第170話 抗う戦場

 時は少し遡り、ルナリス陣営がいる主戦場。

 未だに空に見える開いた穴から無限湧きしているかのように排出されている神影隊と戦いながらルナリスは四つの戦場に対して不安を募らせていた。


 それは当然天恵者ザイン、ヴァレス、ガイルの三人と戦いに行った勇士達のことである。

 彼ら彼女らのことは信用しているが、それでも時折周りから聞こえてくる大地を揺らしたりや爆音を轟かすような様子にはどうしても信じているからこその不安が湧き上がってしまう。


 それにその想いが募るのはルナリスがほとんど何も役に立てていないからというものがある。

 ルナリスは現状戦場にポツンとある女神像に宿っている。

 それが一番浄化され清められた遺物だから。


 一応、周囲に自動微回復(リジェネ)効果のある結界を敷いてそれを維持ているが、周りが世界のために必死に戦っているのに何も出来ないのがもどかしいのだ。


 とはいえ、出来ないのもちゃんとした理由がある。それは彼女に適した(にくたい)が無いからだ。


 天界に住まう神は地上界に来るときには適した器を用意しなければ、地上界のルールに従って魔力となって空気中に消えてしまう。


 これまではルナリスが入っても問題ない器であるソラの存在があったからなんとかなった。

 しかし今回、ルナリスが結界を維持する以上ソラの肉体を借りるわけにはいかなかったのだ。


 故に、女神像から魔力で姿を作って見守っていることぐらいしか彼女には出来ない。

 それほどまでに天界に住まう神が地上界に降りた際の制約が厳しいとも言えるが。


「そんな不安そうな顔で周りを見るでないぞ、ルナリス様。妾達の気が滅入るじゃろうが」


 そんなソワソワとした様子で申し訳なさそうにいるルナリス様に対して女神像を守るテュポーンは思わず苦言を吐いた。だいたいの気持ちは察しているが気が散るんじゃ、と。


 テュポーンの言葉にルナリスは思わずしょんぼりとした様子で「ごめんなさい」と謝っていく。

 神だから堂々としていればいいものを存外の低姿勢を見せるルナリスだからこそそばにいるのだとテュポーンも思っているがそれはそれ。


「ルナリス様、この聖戦(たたかい)は確かにルナリス様とフォルティナ様による神々の戦いじゃ。地上界に住まう人間からすれば迷惑千万と思うかもしれないじゃろう。

 じゃが、こうして集まって戦っている以上、彼らにはもはやここがただの神々の戦いでは無くなったことは確かなのじゃ。

 もし、自分のせいで巻き込んだことを悔いておるのなら一人も死なせるでない。あなた様なら容易いことじゃろうて」


 テュポーンの友人のような距離感からかけられる励ましの言葉にルナリスは思わず微笑む。


「そうですね。私はこの世界の全てを統べる者。少し弱い所を見せてしまったようですね」


「気にするな。そういう仲を望んだのは紛れもなくルナリス様じゃ。それに主が不安定なら支えるのが臣下の役目。気にすることは無い」


―――ブウンッ!


「「!」」


 その時、ルナリスとテュポーンの耳にはまるで耳元で鳴らされたかのような何かの起動音のような音が聞こえてきた。

 直後、空気を重たくするような重厚な魔力と大地に突如として現れた大きな影。


―――ドンッ!


 今度は大地が跳ねた。その感覚を味わったのはルナリスとテュポーンだけではない。

 周りにいた戦士達、そして治療班の聖女三姉妹やミスズ、シロムの方にもハッキリとその揺れを感じ取った。


「何あれ?」


 エンリが巨大な影を作り出すその存在を見て思わず愕然とした表情をする。

 それは誰しもが一様に同じ反応を示し、その存在を見たルナリスとテュポーンでさえ驚きのあまりに言葉が出なかった。


 思考が周りはじめようやくルナリスの口から出たのはかつて滅ぼしたはずの敵の種族。


「どうしてここに巨神族(ギガンティア)がいるんですか......?」


 巨神族、それはかつて天界で行われていたルナリスとフォルティナとの戦いにおいてルナリス軍を窮地に追い込んだ元凶ともいえる種族の名だ。


 それは四十メートルほどの巨体で鍛え抜かれたような無駄のない隆起した筋肉から繰り出される一撃はあまねく全てを破壊しつくした。


 そんな巨神族に対し、ルナリスは五大天使と神影隊を使って自陣営が壊滅寸前の所で全ての巨神族を滅ぼすことに成功した。

 その際に受けた被害はルナリス陣営の戦力の九割が削られるほどであった。


 一人いれば戦況が変わると言われる巨神族が二体。この地上に降りてきた。

 ルナリスは知っているはずだった。

 例え創造神の権能を持ってしてもフォルティナには巨神族は作れない、と。


「どうして......?」


 しかし、現実は目の前にある。全ての光を呑み込むような巨体が見上げる先に存在する。

 ルナリスは酷く動揺した。どう考えても今のこちらの戦力じゃどうにもならないからだ。


「......様! ルナリス様!」


「は、はい!」


 呆然として見てるだけのルナリスに隣にいたテュポーンから声がかけられる。

 その声に反応してみればすぐにとある一か所を見るように指示された。

 そこはほぼ上裸のような恰好をした巨神族の左胸にある天使の印。


「あれは!」


 ルナリスはそれを見てすぐに理解した。やはり巨神族はいなかったのだ、と。

 ルナリスの反応を見てテュポーンは「あぁ、そうじゃ」と言って言葉を続けていく。


「あれは神影隊の天使にもある紋じゃ。つまりはあれは本物の巨神族(ギガンティア)ではなく、フォルティナ様が神影隊をベースに作り上げたハリボテの存在と言うべきじゃろうな。

 じゃが、言うてもあの巨体じゃから食らえばひとたまりもない」


「いえ、相手は本物でなければこちらにもやりようがあります。

 テュポーンは今からいう人物を集めてきてください」


 ルナリスはテュポーンに指示を出していくと彼女はコクリと頷きすぐに移動を開始した。

 テュポーンの姿を見送ったルナリスは即座に結界を利用して全体に声をかけていく。


『今からあの巨神に対して私は魔力を集中させなければなりません。

 その間、今ここで張られている結界及びその効果が無くなりますのでどうか死なないでください!』


 ルナリスの心情としてはやはり誰も死なせたくない。

 しかし、あの巨神に対して対処しなければこちらの壊滅は必至。もはや苦肉の選択であった。


 先ほどテュポーンと約束したばかりなのにそれを反故にしてしまう苦しみや悲しみ。

 それらの想いが募ったせいか先の放送は少し声が震えていた。


 そんな彼女の苦しみが入り込んでくるように伝わったのか今も神影隊と戦っている戦士達は自分を鼓舞するように声をあげた。


「任せろ!」「やってやるわ!」「神様にそんな悲しい声されちゃ頑張らねぇわけにはいかねぇな!」「女神様、どうか信じてください!」


 痛くても苦しくても立ち上がる。

 それはこの世界に住む人々や戦う自分達を心配する家族、共に戦っている仲間のために。

 そして、こんな時でも自分達の安否を心配してくれている神様のために。


 不思議と戦士達の魔力が増幅していく。

 もうクタクタなはずなのに体が軽く感じ、魔力が内側から溢れてくる感じ。


 戦士達のルナリスに対する信仰心が所謂「神の使い」の領域にまで至ったのだ。

 結界からのルナリスの魔力による回復効果を受けて彼らは人の姿のまま神の力のほんの一部であるが体に宿すようになった。


 それは時間経過で劣勢になっていた神影隊との戦闘において驚異的な巻き返しを始めていく。

 つまりはルナリスの力に頼らずとも戦場の戦況を維持できるということ。


 ルナリスは戦士達の覚醒を見て信じることを決めると静かに目を閉じて魔力を高め始めた。

 一方で、ドスンドスンと大地を踏み鳴らして近づいて来る二体の巨神は大きな一歩で主戦場へ移動してくる。


 二体の巨神は眼下に広がる戦場を見ると一体は右拳をもう一体は左拳を大きく振りかぶって戦場目掛けて振り下ろした。


 直撃すれば壊滅必至。絶対に防がなければいけないその攻撃にルナリスは高めた魔力で魔法を発動させた。


絶対領域(ゼロフィールド)


 二体の巨神の拳はルナリスの魔力防御壁によって防がれる。

 ガンッと鈍い音は爆音のように周囲に広がる。


 二体の拳はルナリスの魔力防御壁であっても容易に弾けるものではなく、次第に拳が押し込み始め壁が歪いった。


「ルナリス様、集めたぞ」


 その時、背後からテュポーンの声が来た。

 彼女の近くにはウィルガム、コングルゥ、ルフト、ハイギルの四人がいる。どれも強者(ツワモノ)である。


 その五人の姿を確認したルナリスはテュポーンに聞いた。


「あなたも行けますか?」


 その問いにテュポーンは不敵に笑う。


「もちろん!」


 その言葉にルナリスはコクリと頷くと「行きます!」と言って維持していた壁をさらに残りの魔力を追加して一気に拳を押し返す。


 二体の巨神兵が死に体となってよろめいた。そこへ竜化したテュポーンと四人の男達は一斉に攻撃をしかけていく。


 テュポーンの背に乗った四人の男達は途中まで運んでもらうと一斉に飛び降りていく。


「右腕は任せろ!」


「ならば、俺は左腕を預かる!」


 ハイギルとルフトが先行して飛び降りると近づいてきたハエを払うように巨神が右手を振るう。

 それに対し、ハイギルは神の使いの力を活かした膂力で薙ぎ払う。


「帝国剣術―――豪払い」


 右手を弾かれた巨神は後ろに重心が傾いてるのかよろめきながら後退し、右手が弾かれた勢いで体を捻り左拳を振るってくる。それに合わせたのがルフトであった。


水衝の波紋(アクアリンク)


 ルフトは槍を構えると槍に渦巻く水を作り出して突き動作と同時に水を放った。

 それは容易く巨神の左拳を払っていく。


「行くぜ、相棒!」


「任せろ!」


 両手が弾かれたことにより巨神は胴体が無防備になり、さらに体が後ろに傾き始めた。

 そのチャンスを二人は逃すまいとテュポーンから飛び降り、さらに彼女から尻尾で弾き飛ばしてもらって加速しながら降下していく。


 ウィルガムとコングルゥの肉体は変化する。

 方や巨大な人型の虎に、もう片方は三メートルほどある巨体に。


「虎視絶爪!」


「怪力剛断!」


 ウィルガムは爪を立てて、コングルゥは大剣を片手剣のように振り回し、互いでバツ印を作るように袈裟斬りにしていった。


 その四人の男達の雄姿を見て当てられたかのような気持ちになったテュポーンは「やりおる」と称賛の声を呟きながらもう一体の巨神に向かって移動し始めた。


 もう一体はすでに体勢を立て直しておりテュポーンに対して迎撃するように構えている。

 その人物から放たれる攻撃をテュポーンは躱しながら懐にもぐり込んだ。


「ならば、ワシも見せねば神の示しがつかんな」


 テュポーンは笑いながら巨神の胸の中心に張り付く。

 巨神はすぐさまテュポーンを叩き潰そうと手を寄せてきた。


「焦るな、すぐに見せてやる。妾の数百年ぶりの諸刃の一撃を―――空地絶壊アブソリュートバースト


 テュポーンは突如として周囲に光を放ち始めた。

 それは彼女が体内に皮膚すら貫通する高エネルギーの光を宿しているからだ。


 直後、巨神の体は全身を包み込むような爆発に襲われた。テュポーンによる自爆だ。

 それは巨神の体を瞬く間に焼き焦がし塵すら残さず消滅させていく。


 巨大な爆炎は天に昇っていき、その下から尾を引くように現れたのは全身にやけどを負ったテュポーンである。


 彼女は百年に一度出来るようになる脱皮を利用して爆発の威力を極限まで抑えたのだ。

 とはいえ、それでもしばらくまともには戦えないほどにはボロボロだが。


 テュポーンの爆発を見てやってきた男達四人に彼女の体は回収されてせっせとルナリスのもとまで運ばれていった。


「あなたも無茶しますね」


「まともにやり合う訳にはいかなかったからな」


 ルナリスから最初に送られた感情は呆れであったが、テュポーンはそれを笑って受け流していく。

 結果的にはこの戦場においての脅威を早々に排除できたのだ。

 後は祈るのみ。天界にいる二人の夫婦がどのように命運を決めるのかを。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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