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お昼休み 6

 ハレーの作ったお弁当を開き、私はそれにフォークの先をつける。メインディッシュとして入っている豚肉のそれを、フォークとともに用意されていたナイフで切り込みを入れると、中からは肉汁が飛び出し、外のトマトソースと絡み合う。お弁当はとっくに冷えているにも関わらず、肉汁がでてくるなんて……って思いながら、口内の唾液が口から漏れ出さないように、私はギュッと唇を引き締めた。

 豚肉を外から締めている紐を丁寧に取り除いた後、一口サイズに切ったそれを口に運ぶと、豚肉は口の中でとろけるように消えていく。


「……んんっ、おいしっ!」


 本当に美味しい。沢山のスパイスや野菜の入ったトマトソースと絡めながら、私はもう一口食べた。

 ほっぺた落ちるんじゃないかと本気で思えるくらい、美味しい。スコーンと一緒に食べようと思って、それに手を伸ばした時だった。


「梨々香、おいしそうに食べるじゃん」


 向かいの席で自分のお弁当にお箸を伸ばしてる美奈が、羨ましそうな視線を送っている。


「うん、実際美味しいしね……って、美奈は自分で作ったの?」


 美奈のお弁当の中身を覗くと、バランスの取れた内容が広がっている。日本でよく見る内容で、2段に重ねられてるそれの一段目にはふりかけのかかった白ごはん。二段目には玉子焼き、お肉の炒め物、真っ赤なプチトマトと青々しいブロッコリーの隣に、タコさんウインナーが飾られている。


「当たり前でしょ。もう梨々香も知ってるだろうけど、あたしの家はとっくに没落してるんだから、シェフなんているわけないじゃん」


 じゃあやっぱり、このお弁当も美奈が自分で作ったんだ……。すごい、美奈っていつもお昼は菓子パン買って食べてた印象だったんだけど、料理も出来るんだ。


「美奈って、めちゃくちゃ女子力高いんだね」

「それ、この弁当見て言ってるんなら、これはあたしというよりミラのスキルだし。ミラは家庭的で地味な子の設定だから、気が付いた時にはすでにあたしは料理してたってわけ」


 なるほどね、元々キャラが持ってる能力かぁ。家庭的な設定っていいな。私の場合はなんだろう。人を蔑む能力、陥れる能力……これ、能力なの? どちらにしても良いものが思い浮かばないんだけど……。

 ひとり落ち込みながらスコーンを一口かじる。それと同時に、美奈がコーヒーテーブルに乗り出して、お弁当に入っていたデザートのミニケーキを箸でぶっ刺して盗んでいった。


「毎日シェフが作ってくれる料理って、最高じゃん。あたしの分も作ってきてよ」


 まだ自分のお弁当を食べ終えていないのに、美奈は今私から盗み取ったケーキをぱくりと口の中に放り込んだ。ケーキを食べた後の美奈の表情、それだけでハレーの作ったこのケーキの味がどれだけ美味しいのか想像がついて、今からケーキに手をつけるのが楽しみだ。


「それはいいけど……それより美奈はいつ、前世のこと思い出したの?」

「そう言う梨々花こそ、いつよ?」

「私は最近。この間登校する時に、学校の門で猫に飛びかかられて、一瞬生死をさまよったんだけど、その時に前世のことと、どうしてこの世界に転生したのかも思い出したんだ」

「ふーん」


 美奈は玉子焼きを一口で頬張った。ケーキを食べた後に再び食事に戻るあたりが美奈らしい。普段から菓子パンのチョイスもケーキみたいな甘いものとしょっぱいものをミックスして食べてたし、あの傾向が今世でも生きているみたい。


「あたしも最近。梨々花と同じくらいじゃない? この間料理してる時にさ、いつもならしないんだけど、ちょっとヤケドしたんだよね。ヤケドって言っても軽いもので痕にもならなかったようなものなんだけど、それでも普段しないんだよね。だからか、その時に突然前世のあたしの記憶が脳内に流れてきて……って感じ。でもその時は一瞬で忘れたけどね。ちゃんと思い出したのはその後だったから」

「そうなんだ。でもきっかけは、なんだか似たようなものなんだね」


 美奈も私と同じで、今世ではない設定の出来事が起きたり、そういう行動に陥った時、前世の記憶がフラッシュバックするように思い出すのかもしれない。ということは、それって佐々木君にも使えるかもしれない。佐々木君が前世の記憶を覚えてなかったとしても、同じような状況……前世とリンクするような出来事を起こせば、佐々木君も私のことを思い出してくれるかも。

 そんな風に考えると、なんだかちょっと希望が見えてきた。ずっと手探りで、ヒントもない状態で佐々木君を探そうなんて無謀なチャレンジをしてたせいで、自分でも思ってた以上に不安だったのかもしれない。


「それで、佐々木の話だけど、あの人もこの世界に転生してるって本当なわけ?」


 私はオムレツを口に運ぼうとしていた手を止めて、ゆっくりと首を縦に振った。すると美奈はソファーに深く座りなおして、最後の玉子焼きを食べきった。


「まじか。ってかどんだけ世間狭いんだよ。あたしらの前世のスクールメイトの大半がこの世界に転生してたら笑えるな」


 言いながら美奈は笑った。私は笑いはしないけど、確かにそうかも……って考えを巡らせた。確かあの時、神様が言ってたっけ。この世界にはたくさんの魂を送ったからあまり余りが無いみたいな……。もし美奈が言うように本当に知り合いだらけだったら、生まれ変わっても世界観が変わっただけで、要は前世と同じということになるじゃないか。


「でもさ、なんで梨々花は佐々木を探してんの? それになんで佐々木がこの世界に転生してるって知ってんの?」


 美奈は自分のお弁当を食べきり、再びテーブル越しに私のお弁当めがけて箸を伸ばしてきた。ハレーの作ってくれたお弁当は美味しいけど、なんだか食が進まない。それにこのお弁当は私一人には多すぎる量が入っている。だから私はお弁当箱をコーヒーテーブルの上に置いて、美奈とシェアすることにした。美奈はそんな私の行動を理解した様子で、再び私のお弁当に箸を伸ばしている。

 そんな様子を見つめながら、私はあの日、前世で死ぬ間際までの話を話し始めたーー。

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