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秘密の部屋1

 こんなところで何をしているって言われても……。


「そっ、そちらの方こそ、こんなところで何をなさっているのかしら?」


 こんな抱きかかえられるような体制で、しかもわけのわからない部屋で、状況で、私はよく偉ぶった態度でそんな言葉を言えたものだと自分自身に感心していた。

 これが転生するということなのだろうか? 前世の梨々香と今世のスピカの性格が突然入れ替わるような感覚だ。けれどそれはこの口調のせいもあるのかもしれないけど。なるべくこの世界に馴染んだ言葉遣いを心がけているせいか、上品ぶった物言いはどこかスピカの性格が色濃く浮き出てくる気がする。


「ここは俺の場所だ」


 情熱的な赤い瞳をしながら、その鋭い瞳から冷徹な視線を受け、冷たい言葉はバッサリと私を切り捨てた。


「俺の場所って……」


 エルナトに支えられていた私は、その手を振り払うかのように自分の足で立ち、ちらりとあたりを一瞥した。そこは小さな部屋……というか、小さな隠れ家? 教室と教室の間にある小さな隙間空間とでもいうのだろうか。たった四畳ほどのスペース内には、小さな机と椅子、そして部屋の中には本がぎっしり壁の棚に収納されている。


「なぜ、こんな場所がこんなところにあるのかしら?」


 というか、何のために?

 思わず口に出した疑問を聞いて、エルナトはあからさまにため息をつき、私の体を支えていた腕はぐいっと押し返して部屋から外に出るように促してくる。


「お前と話すことはない」


 待て待て待て。そんな横暴に追い出そうとしたくてもよくない? というか私にはあるし。


「あら、そんなことを言うのであれば、この部屋の存在をついつい言いふらしてしまうかもしれないわね? それってあなたにとって不都合なことのように思えるのだけれど……?」


 押し出そうとするエルナトの腕を払いのけて、私は悪役令嬢らしい嫌味ったらしい物言いでそう言った。しかも顔には勝ち誇ったように微笑みを乗せて見たら、エルナトが驚くほどに冷たい表情で私を睨みつけている。

 異性にそこまで敵意むき出しにされたのなんて、今世と前世含めても人生で初めてだ。悪役令嬢であるスピカはいつだって影で文句を言われる存在。地位も名誉もある公爵家の令嬢スピカは表立ってそんな風な態度を取られることはないのだ。


「お前、性格悪いな」

「あら、あなたは目つきが悪いわ」


 女性に面と向かって性格が悪いなんて失礼な。そう思ってこちらも臆さずオブラートになど包まず、本音を言ってやったら、エルナトは驚いたような表情を見せた後、フッと目つきの悪さが和らいだ気がした。

 あれ? 何で?


「お前、本当に周りで噂されているように性格の悪い令嬢なんだな」


 おいおい、失礼な言葉炸裂してますけど。それ本人目の前で言うこと? 少なくともあなたも名誉ある公爵家のご子息でしょうが。


「そっくりそのお言葉、お返しいたしますわ」


 ニッコリと微笑んでみたけれど、エルナトはそんな私に向けて短く吐息を吐き出し、笑った。それは一瞬の出来事だったけど、間違いなくエルナトは笑っていた。


「お前、思っていたよりもいい性格をしている」


 それって、どう取ったらいいのだろうか。嫌味なのはわかるけど。


「この家は俺の叔父が昔所有していた場所だったのだ。それを売り渡し、その跡地に学園ができた。建物自体はほぼそのまま使用しているようだがな」

「えっ、そうだったの? ……ですのね?」


 おっと、思わず昔の言い方が出てしまった。エルナトの態度があまりにも急変したせいで、思わず気を抜いてしまた。


「変な話し方するな。お前は本当に変わっているらしい」

「それは褒め言葉ではないですわね」


 変わっているなどと女性にいうのは失礼だぞ、と釘を刺したつもりだけれど、それをあっさり肯定されてしまった。


「ああ、褒めているわけでもない」


 何だそりゃ。エルナトって冷徹っていうのは聞いてたし、そんな様子は今まで何度か見かけたことはあるけど、こんなに変……というか何を考えているのか読めない人物だとは思っていなかった。


「コホン、それであなたはこの場所をご存知だったのですわね? 明らかにこんなへんぴな部屋、この建物の建設者かその関係者しか知り得ないわ」

「ああ。俺は叔父の家でこの建物の設計図を見つけてな、それで確かめに来たらここにまだ部屋が残っていたのだ」


 秘密基地みたい。でも何でこんな部屋が存在してるんだろう。何のために?

 私が不思議そうに部屋中を見渡していたからかもしれない。エルナトはそんな私にさらにこう説明を付け足した。


「この部屋の隣の部屋は元々来賓用の部屋だったのだ。そしてここはそんな来賓をいつでも給仕できるように使用人が控える部屋だった」

「なるほど」


 エルナトは説明しながら、私が入って来た回転扉の反対側に位置する壁にそっと触れた。するとそこの壁も回転し、向こう側の部屋へと繋がっている仕組みだった。


「普段は勝手に壁が回転しないようロックがかけられるようになっている。さっき俺はお前が入って来た扉を使用したばかりだったから閉め忘れていたのだが……」

「そうなの? それじゃ、意外に抜けているのね」


 さっきから言われっぱなしなので、隙あらば言い返す。そう思って放った言葉に、エルナトは再び小さく笑った。

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