第3話 『記憶喪失?』
(まだ執筆途中です………!完成をお待ちください! by ルイルイseda)
「ごめん、俺、記憶がないんだ」
「………は?」
森林に佇む小さな村―――その名も、〈アカギリの村〉。
太陽の光を十分に吸い込んで育った良木〈アカギリ〉。それらをふんだんに用い、組み立てた、素朴ながらもぬくもりを感じられる村である。
村には見たところ十つの家が建てられており、その中でも一際大きな家に村長が住んでいるらしい。
東側―――村の周囲に設置された柵に沿って並べられた二軒の家は、ガラス窓をすっぽりとくりぬいてあり、そこから見える室内には鉄製の武器や盾が見えた(あくまで簡素なものだが)。
片方が「武具屋」とするならば、もう片方は「道具屋」と言えるだろう。
店内の棚には瓶に詰められた調合薬が所狭しと陳列されていて、赤色だか緑色だかの液体が見受けられた。
そして村の中心を通っている一本の広い道を挟み、西側。ここには村人の居住地がいくらか設けられていた。
そして、今俺たちがいる場所はその西側―――七つ設置された家の一軒だ。
そこで俺と魔法使いの少年は向かい合って座っていた。
木製の椅子に腰を掛けている少年は既にローブや帽子、ホルダー及び長杖を外している。その代わりに、布製でシンプルなデザインの部屋着を身につけていた。
「………実は俺、記憶をなくしてるんだ」
もう一度、俺は恐る恐る声に出した。
「………え、……え? 記憶を失くしてるって……どこまで?」
少年は動揺しながら問いてきた。俺はそれに正直に答える。
「全部。……キミの名前も、俺自身の名前も。てか、俺がどこで生まれたのかすら覚えていない」
「えぇ………?」
―――『セダ』が誰だかわからない。
この魔法使いの知り合いだということは分かるが、なぜ彼が俺のことを『セダ』だと思い込んでいるのかも分からない。顔が似ているのだろうか。それとも髪型?身長?声?
俺には何も分からないけど、彼にとっては『俺=セダ』なのだ。
その等式が俺自らによって否定されたことによるショックは大きいだろう。
動揺するのも、理解が追い付かないのも納得できる。
だから俺はこれ以上まくしたてることはしなかった。
―――すぅ。
小さく息を吸う音が聞こえた。
「………飲み物、持って来るからちょっと待ってて」
「え。………あ、いや、いい!いいよそんな気を遣わなくても……」
立ち上がろうとしたが、彼は右手をひらひらと振ってそれを制した。
ギイ。……バタン。
扉が閉められ、俺は木の香りがする小さな部屋に一人、取り残された。
ついていくべきか迷ったが、敢えてやめておく。
俺は床の上に置いた一振りの剣―――の折れた下半分を眺めた。
この鉄剣のおかげで、俺はあの人食い熊(確か〈モルトウルス〉だった気がする)に殺されずに済んだのだ。
右手を伸ばし、なめし革が巻かれたグリップにそっと人さし指を触れさせる。
中指、薬指と一つ一つ触れさせていき、最後は右手でしっかりと握った。
長年使い古したかのようなしっくりとした心地よさと、金属のひんやりとした冷たさ。
それらを同時に包み込む。
「……ありがとう、助けてくれて」
俺自身でも聞き取りにくかった小さな声が、無意識のうちに漏れた。
本心からの感謝の想い。
―――その時、鉄剣の僅かに残っている刃が輝いた。
「………?」
いや、輝いたというよりは『光を纏っている』という表現の方が適切だろう。
白色の、ごくごく小さな光。しかし、確かな温かみを感じられる。
その光は刃から、鍔、握り、柄頭と順に伝い、
やがて俺の右手を介して全身に流れ込んできた。
―――この優しさ………温かさは………〈剣の記憶〉……?
俺はゆっくりと瞳を閉じ、わが身を委ねた。
徐々に意識が薄れ、頭の奥底で「キィ―――」と甲高い音が響く。
知覚が段々と遠のき。
なおも意識は薄れて。
―――渦に、溶けてゆく。
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『………は、なぜ我を……うとする』
『王都の魔術……に志願され……だ』
『そうか、お前らは…………たのか』
『……、……、……、……。―――行くぞ』
『OK、カイル』
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――――ダ…………セダ!
がばっ!
「うわあッ!」
慌てて飛び起きた俺の額と魔法使い少年の額が互いにクリーンヒットし、ごちーん!という音を響かせた。
激突部を押さえながら痛みの残響にしばし悶えていると、先に痛みから回復した少年が起き上がった。
「痛てて……、どうしたよ。急に眠くなったの?」
「あ……、ああ、そう、眠くなったんだ。疲れが溜まっていたからな……って、うわああッ!」
俺はウッド調の床の上で繰り広げられている惨状に驚愕した。この少年は確か、飲み物を持ってくると言って一度出て行ったのだ。そして今、戻ってきている。その直後に俺と魔法使いの少年は衝突した。床一面には、茶の香りのする液体がーーー。
「ごご、ごめん拭くよ今すぐっ!」
そう言いながらも俺の目は徐々に広がっていく『茶』のような液体に釘付けだった。木の吸水性は素晴らしいもので、ぶちまけられた液体はみるみるうちに浸透し、大きな滲みを作っていく……。
……そこで俺はもう一つ、事態の深刻性に気付いてしまった。
元は優美な装飾が施された陶器のマグカップだったのだろう。今では小洒落た凹凸で覆われた破片と化し、そこらじゅうに散らばっていた。
「あ……ごめ…、一体どうやって弁償すれば……」