第6話
そしてまた俺は一ヵ月前――4月1日に戻った。
……何をやっても無駄なことは分かった。
だからここからは、ヒュンに頼るのはやめよう。
別ルートで、俺は『勇者』になってやる。
俺が考えるべきは、追放された後のことだ。
さくっとラフィーアの夜這いをかわし、Aランク迷宮の攻略を終える。
それから数日。休みの日に、俺は奴隷商へと足を運んでいた。
もうすぐ、入荷される予定のある奴隷を探していたからだ。
「いらっしゃい兄ちゃん。今日は何を見に来たんだ?」
「まあ、ちょっとな」
「まあ、別に見に来るのはいいんだけどよ。そろそろ誰か買っていってはくれないかね?」
「あんまり金を持ってないんだよ」
奴隷商と話をして、それから奴隷を見ていく。
俺は強くなる奴隷を安く買うため、ここに足を運んでいた。
これでも、追放される未来は変わらない可能性がある……と考えていた。
ヒュンは頑固で、考えていることを捻じ曲げない。
だから俺は、追放されたその先の未来についての生活を考えていた。
5月下旬――そこで決定的な事件が発生するため、それまでに俺はどうしても戦力を整えておきたかったのだ。
追放の後、俺は想定よりも長く生活をしている。
その時の知識を用いれば、他の人よりも楽に、有利に生活だって送ることができる。
俺はじっと奴隷を観察していき――そして、見つけた。
名前はキリエルだ。その両目のまなざしは奴隷とは思えないほどに鋭く、厳しいものだ。
恐らく美しかっただろう銀色の髪は、今は汚れてしまっている。
かなり女性らしさのある体つきで、それだけでも価値はありそうだった。
「この奴隷は一体いくらなんだ?」
「おいおい、兄ちゃん。冒険者としてのパートナーが欲しいんだよな? この奴隷は……悪いがオススメできないぜ?」
「奴隷商がそう言うのは酷い話じゃないか?」
彼は商売する側の人間だ。どんなに粗悪な品でも良品に見えるようにして売りつける。
その彼がわざわざそういったということは、俺を友人として見てくれているのか、あるいはよっぽどの品なのか。
「いやな……そいつは元剣聖と呼ばれたキリエルだ」
……ああ、知っている。彼女がこの奴隷商に入荷されるのが分かっていたからこそ、今日来たのだからな。
そして、彼のそのあとの説明についてもおおよそ理解できていた。
「貴族の求婚を断ったことで、毒を盛られちまったんだとよ。そんで、片腕が使えなくなって剣聖としての立場を失い……濡れ衣で奴隷の地位に落とされたというわけだ」
「……そうなんだな。でも、片腕でも剣は使えるだろ?」
「といってもな。確かにそこらの冒険者よりは強い程度だ。とてもじゃないが、元剣聖としての力はないな」
「なるほどな。それで、いくらになるんだ?」
「……一応、処女だからな。それなりに値段ははるが、誰も買わないんだよ。こいつにもられた毒はヤると感染しちまうみたいだからな。銀貨十枚でいいよ」
……毒、か。
ちらとキリエルを見ると、彼女の顔と腕には包帯がついている。その部分が毒に侵されてしまっている部分だろう。
「それでも結構とるじゃないか」
「いや、見た目は別嬪だからな。その包帯のされた部分さえ触らなければ色々用途はあるみたいだからな」
「でも、危険だから貰い手がつかないんだろ?」
「ああ、そうだよ。毒は運が良ければ自然回復するみたいだからな。だから、銀貨十枚ってわけだ」
「……」
これ以上の値引き交渉は難しそうだな。
俺はじっとキリエルを見る。彼女の目線は鋭く、俺を睨みつけていた。
「分かった、銀貨十枚で買おう」
「おう。売りつけておいてあれだが、毒で絶対に死ぬなよ? 兄ちゃんには色々と世話になっているからな」
「ああ、もちろんだ」
俺は奴隷商に銀貨十枚を支払い、キリエルとの奴隷契約を結んだ。
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