第5話
先ほどヒュンが叫んだように、彼は国から『勇者』の爵位をもらっている。
国は迷宮攻略のよりよい発展のために、『勇者』という爵位を作った。
『勇者』の爵位は、他の貴族の爵位とは単純な比較はできない。……こと、迷宮に関してでは、他の爵位持ちの誰よりも権限を持つことだってある。
だから、『勇者』にはパーティー決めに関してある程度の強制力を持っている。
それが、まさに今だった。ヒュンが必要だと思う人材に関しては、半強制的に残すことができる。
その逆もそうだ。
ヒュンが俺を追放したいと言えば、追放できる。……まあ、これは別に『勇者』に限った話ではないが。
パーティーの編成なんて、リーダーにかなりの権力があるからな。
とはいえ、『勇者』によるパーティーと一般的なパーティーでの大きな違いは、パーティー維持の強制力だ。
ヒュンがそう宣言した以上、ラフィーアたちは、このパーティーを脱退したいといってもダメだ。
もしも、ヒュンの命令を破り逃げようとすれば、それは国に反抗するのと同じ意味になる。
ヒュンが癇癪を起こし、俺たちは全員黙った。ユユユは顔をしかめていたが、皆が権力の前に黙ったことにいい気になったヒュンがニヤニヤと笑った。
「そうだよ。おまえらは、黙って従っておけばいいんだよ。おまえたちはもちろん、パーティーに残れよ? それで、ブロードは消えろ。……分かったな?」
「……わかったよ」
俺はこの一ヶ月できる限り自分の能力を証明してきたつもりだった。
パーティーの全員からは凄い凄いとほめちぎられていたほどだ。さっきの皆がかばってくれたことからも、俺の一ヶ月の努力は無駄ではないだろう。
だが……それでもなおヒュンは俺を認めてくれなかった。
一体、どうすればヒュンは俺をパーティーに残してくれるんだろうな?
「おら、さっさと全員出ていけよ」
これで、話し合いは終わりのようだ。
ヒュンが俺たちを部屋から追いだすように手を振った。
しかし、俺は最後まで残った。全員が出たところで彼に近づく。
「な、なんだよ……」
ヒュンからすれば俺が不気味に見えたようだ。
また俺は『ロード』するつもりだ。
だから、俺は彼に直接聞くことにした。何を? そんなものは決まっている。俺がこのパーティーに残るための手段についてだ。
「ヒュン……おまえはどうすれば俺を認めてくれるんだ?」
「……あぁ? なんだいきなり」
「どうすれば俺をパーティーに残してくれるのか教えてくれないか?」
「はっ、そうだなぁ……」
どうやら俺が下手に出てきたのが気分が良かったようだ。
ヒュンはにやりとゲスな笑みとともに俺を見てくる。
「じゃあ、ラフィーアに命令しろ。オレ様に尽くせ、ってな」
「……は?」
なにいってんだこいつ? しかし、ヒュンは当然のことのような顔でつづけた。
「なんだその間抜けな返事はよぉ。あいつはいい女だ。勇者であるオレにふさわしい女だ。だから、オレのモノにするんだよ」
まさか……ヒュンが俺を追い出すのはそれが理由だったのか?
それじゃあ、どれだけ能力をアピールしても……こうなるのは決まりきったことなのかもしれない。
そもそも、ラフィーアと俺には異性としての関係はない。
……そして、ラフィーアは俺のことが好きだ。だから、俺が命令をすれば、ヒュンに奉仕してくれるかもしれない。
だが――そんなふざけたことをさせるつもりはない。
「……ふざけるなよ」
「じゃあ、交渉決裂だな。ま、おまえさえいなくなれば、あとは女に興味ない筋肉バカしかいねぇからな。そのうち、オレの魅力にも気づくだろうな。そして、おまえの代わり可愛い女でもパーティーに入れ、最後はガルドスも消して完璧なパーティーの出来上がりってわけだ」
ふざけたことを抜かすヒュンに背中を向ける。
俺が部屋から出たところで、ラフィーアがちらとこちらを見てきた。
……まさか、廊下に残っていたとはな。
俺が彼女の隣を抜けるように歩こうとして、ラフィーアがすっと腕をつかんできた。
「……さっきの話聞こえてた」
「ラフィーア?」
彼女の雰囲気がちょっと変だった。表情は引きつっていたが、何かを覚悟したように見えた。
「……ブロードが残りたいのなら、私頑張るから」
「い、いや……頑張らなくていいから。自分のことを大切にしろ」
「……大切だから。ブロードと一緒にいたい気持ちがあるから……だから」
……こいつは出会った時から変なところに真面目なんだよな。
「気持ちだけじゃなくて、体も大切にしろよ」
「だって、もう会えなくなるの嫌だから……」
俺はぽりぽりと頭をかいてから、小さくため息をついた。
「ラフィーアが俺のことを好きな間は……俺がこのパーティーに残るのは無理だ」
「でも……嫌いにはなれない。なりたく、ないよ」
「……わかったよ。でも、自分のことは大切にしてくれ。いいな? 俺との約束だ」
「……うん。ブロードはこれからどうするの?」
「……俺は――もう一度やり直す」
「『セーブ&ロード』?」
「ああ。追放されるのなら、追放されてから先で生きられるようにするだけだ」
俺はそう言ってから、『ロード』しようとして――。
「悪い、一発ぶんなぐってくる」
「え?」
ラフィーアが驚いたような顔でこちらを見る。俺は閉めた扉を開け直す。
「な、なんだてめぇ!?」
「うるせぇ! こちとら滅茶苦茶苦労しているってのに、ふざけた理由で人を追放すんじゃねぇよ!」
身体能力ではヒュンのほうが上だ。
だが、不意をついたことで、俺は彼に蹴りを叩きこむことに成功した。
そして、反撃される前に、『ロード』で逃げた。
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