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第2話


 俺が五歳の頃……母は死んでしまった。

 幼い頃の記憶なので、定かではないが……父が魔物に殺されてから、母は俺を育てるために必死で働いてくれていたことだけは覚えていた。

 だから、恐らくは過労で死んでしまったんだ。


 ベッドの上で元気のなかった母の手を握っていたのは、今でも覚えている。


『そんな、悲しい顔しないで』


 母のかすれた声が耳に届く。母は俺の手をぎゅっと握り返してくれた。

 子どもの俺よりも弱い力だった。


『母さん! 元気出してよ! 嫌だよ、死なないでよ!』

『……ごめんね』

『嫌だ! 嫌だよ! 母さん約束してくれたじゃん! 俺が最強の勇者になって母さんのこと助けるって! だから、母さん、死んじゃダメだよ!』

『うん……絶対、ブロードが勇者になるまで、母さんは死なないよ』


 微笑んだ母は目を閉じ……そして、二度と開くことはなかった。

 

 ――嫌な夢だ。

 俺は体を起こし、軽く息を吐いた。それから、部屋を出て水道へと向かう。

 蛇口部分についていた魔石に魔力を込めると、新鮮な水が出てきた。それをコップに入れて喉を潤した。


 俺が『勇者』を目指す表向きの理由は、金だった。

 ……でも、それだけじゃない。俺は比較的現実主義者として通っている。


 だから、きっと、こんな幼い頃の母との約束を守るためだなんて言えば、皆に笑われるだろう。

 ……天国できっと今も俺を見てくれている母と父――その二人にまで俺の活躍が届いてくれることを信じて俺は『勇者』になりたかった。


 だから、勇者になるためにも、俺は『勇者』ヒュンのもとで、活動を続けたかった。



 〇



 次の日。

 Aランク迷宮入り口についた俺たちは階段を降りていった。

 そのまま、すぐに俺たちは迷宮攻略を開始する。

 先頭を歩いていたヒュンが振り返り、声を張りあげた。


「おい、無能。いつものように索敵さっさとしろよ!」


 俺はこのパーティーで索敵者を務めている。みんなには、俺が索敵者として適したスキルを持っているとだけ伝えている。

 ……さすがに時間を巻き戻せるようなスキルとは伝えていない。

 

 皆を信用していないわけではない。いや、一人だけ信用していないのはいたが、まあそいつは置いておこう。

 ……『勇者』を除いた三人は信用しているが、それでもこのスキルは特殊すぎるため隠していた。

 だが、追放されないためにも、言うしかない。


「……いや、そのことなんだが」

「あぁ!?」


 ヒュンに声をかけると、彼はいらだったように声を荒らげる。ヒュンはいつも俺に苛立っているが、今日は一層態度が悪かった。


「俺の能力について、今まで嘘をついていたというか……わかりやすい言葉に言い換えていたんだ、すまんな」

「あぁ!? どういうことだよ!」


 ヒュンが怒鳴る。

 ラフィーアがきっと睨み、ユユユはまた始まった、とあきれ顔になる。

 ガルドスはその場でスクワットを始めながら、にこっと暑苦しい笑みを浮かべる。


「どういうことだブロード! 詳しく聞かせてくれぇい!」

「……声そんなでかくしなくても聞こえるからな?」

「わっはっはっ! これは発声による筋トレだ! どうだブロード! おまえも一緒にやろうじゃないか!」

「……いや、いいから」


 ガルドスの相変わらずの調子に俺は苦笑しながら、ヒュンをそして全員を見た。


「俺のスキルは『セーブ&ロード』とは言っただろ?」

「ああ、そうだな。索敵とかができるスキルなんだろ? 前も言っていたじゃねぇかよ」


 不機嫌そうにヒュンが腕を組む。


「いや、正確には違うんだ。……俺は『セーブ』した時間を『ロード』できるんだ」


 この説明だけでは分からないよなそりゃ。


「あぁ? 意味わかんねぇんだよそれが。世界で唯一のユニークスキルなんだから、きちんと説明しやがれよ」

「分かってるって。そうだな、誰でもいいからこの中で隠したい秘密について話してくれる人はいるか?」


 俺の突然の質問に、三人が顔をうつむかせた。

 いまだスクワットを楽し気にやっているガルドスを見る。


「ガルドス、何か墓場まで持っていきたいことってあるか?」

「そうだな!? あの世でも筋肉は欲しいな!」

「……いや、そういう意味じゃなくてな。絶対に誰にも話せないような恥ずかしいことだよ」

「わははっ! ないぞ! 隠しごとなんて疲れるだけだからな!」


 ……ガルドスはこういう奴だからな。

 ちら、とユユユを見る。


「ユユユ、おまえの年齢は?」

「私、永遠の二十歳よ?」

「嘘つくんじゃない」

「何かしら? それ以上聞くというのなら、私もそれなりに抵抗させてもらうわよ?」


 ユユユは口元に手をあて、エルフ耳をぴくぴくと動かしていた。

 こういうときはやはりラフィーアに頼るしかない。


「ラフィーア、何かないか?」

「な、何もない」

「……じゃあ、何歳までおもらし、していたんだ?」

「い、いきなり何を聞くの!」

「頼むラフィーア。俺のスキルを証明するために必要なんだ」

「……答えたらあとでデートしてくれる?」


 ラフィーアが耳まで真っ赤にしながら、こちらを見てくる。


「ああ、わかったよ。ここで全員に伝えておく」

「……何だよ」


 ヒュンがいつもよりも苛立った様子でこちらを睨んできた。


「俺はラフィーアが漏らしていた年齢を聞く前に当てられるんだ。『セーブ&ロード』を使うことでな」

「じゃあ、何歳か言ってみろよ」

「その準備のために、まずはラフィーアに聞く必要があるんだ」

「てめぇ、そんなこと聞いたら誰だってわかるだろうが!」


 彼が再び怒鳴りつけるように声を荒らげた。

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