第1話
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人魔歴、610年4月30日――宿屋の一室でのことだった。
俺たちは『勇者』ヒュンに集められた。
「それで、何の話なのかしら?」
たゆんと胸を強調するようにユユユが腕を組む。
ユユユはうちの魔法使いだ。全属性が使える優秀な奴で、服装も魔女といった見た目をしている。
「ヒュン、オレはもう眠いが……こんな時間に呼びつけて何の話なんだ?」
ぶつくさと苛立った調子でガルドスが声をあげる。
ガルドスはうちの戦士だ。前衛での戦いを得意として、敵を引きつけ、仲間を守ってくれる。
すると、先ほどまでユユユの胸に見とれていたヒュンは、ガルドスの声で表情を引き締め直した。
「今日おまえたちを呼んだ理由は簡単だ」
にやり、とヒュンが俺のほうを見て、それから指を突きつけてきた。
「ブロード! お前をオレのパーティーから追放する!!」
そう宣言したヒュンに、俺は小さくため息をついた。
驚いたような顔をしていたラフィーアが、じっとヒュンを睨んだ。
ラフィーアも前衛で戦いてくれる優秀な子だ。竜人族であるため、翼と尻尾があった。
「嫌、無理。……ブロードをパーティーから追放なんてしたら、うちのパーティーが崩壊する」
「そんなことねぇよ。こいつは無能なんだから抜けたってたいした変化なんてねぇよ。おら、ブロード。そういうわけだから、おまえは今日限りでうちのパーティーから離れろよ?」
ヒュンの話に俺は適当に相槌を打ちながら、はぁ、とため息をついた。
――やはり、この結末は夢でもなんでもないようだな。
そう思いながら、俺は世界を『ロード:』した。
〇
もぞもぞ、とベッドが揺れた。
俺は小さく息を吐いてから、布団をはぎ取った。
そこに現れたのは、ラフィーアだ。長く薄い青色をした髪を揺らす少女は、えへへ、と微笑んでいた。
俺は慣れた調子でため息をついて、彼女を見た。
「夜這いか?」
「うん、良く分かった」
そういって、服を脱がせにかかってきたラフィーアの手をとめ、布団から追い出した。
ラフィーアはすすっと、こちらに戻ってきて俺の隣に腰掛けた。
「もう、恥ずかしがり屋」
「そういうのじゃねぇよ、まったく」
床にぺたんとついたラフィーアは、竜人族のあかしである尻尾を揺らしていた。
俺は確認がてら、ラフィーアに問いかけた。
「今日は何日だ?」
「え? どうしたの?」
「ちょっと気になってな」
『ロード』できているかどうかの確認のため、彼女に問いかけた。
「今日は人魔歴610年4月1日だよ?」
「ああ、そうだったよな」
……よし、間違いないな。
「正解したから、夜這いさせてくれる?」
「いや帰れ」
俺は彼女に適当に返事をしながら、自分のスキルを再確認していた。
俺の持つスキルは『セーブ&ロード』だ。
このスキルによって、俺はあるモノの『セーブ』を行うことが可能だ。そして、ロードすることで、その『セーブ』した状態に戻すことができる。
だから俺は人魔歴610年4月1日の世界を『ロード』し、今この時間に戻っていた。
とりあえず、これで三度目だ。
一度目は、勇者パーティーをあっさりと追放されてしまった。……どうしてそうなったのかを確かめるため、一度『ロード』した。それが二度目だ。
二度目では、色々と検証しながら数日を過ごしたのだが、やはり同じ日に俺は『勇者』ヒュンからパーティー追放を言い渡されてしまった。
さて、どうするかね。
ぽりぽり、と頭をかいていると、ラフィーアが俺の隣に腰掛けてきた。
「どうしたの?」
「……いや。それよりラフィーア。まだ休まなくて大丈夫なのか? 明日、迷宮の調査に行くだろ?」
「うん、行くけど。大丈夫。それより、今はこうしていたいから……」
そういったラフィーアがぎゅっと俺に抱きついてきた。
……一度彼女のピンチを助けてからこうも懐かれてしまった。
竜人族は人間族にくっつくのが好きな種族である。俺はいいように使われているというわけだ。
「はぁ……わかったよ。とりあえず、明日は迷宮攻略で間違いないよな?」
「うん……やっぱり高難易度の迷宮だから不安……?」
「多少はな」
「……私も、Aランク相当の迷宮なんて久々だから」
一ヶ月後――俺はきっと勇者パーティーを追放されることになるだろう。
だが、俺はどうしてもこの勇者パーティーに残りたかった。
それが、俺の目標の近道にもなると思っていたからだ。
だから、この一ヶ月で俺の有能っぷりを発揮して、嫌でもパーティーから外せないようにしてやろうじゃないか。
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