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第4ターム:終結

 トラックヤードから出てきた新兵器、それは巨大な…もはや、陸上の船と呼ぶべき代物であった。

 キャノン・ルーク。帝国が早期から計画してきた、「攻城機兵」という区分を持った巨大兵器であった。


(あれが、新兵器…!この魔力音は魔力を収束させているのですか…となれば攻撃の為に若干の『溜め』があるのは必至)


 アラクネはその見た目に感嘆した。

 なにより、その巨大な体躯には、異様なほど巨大な砲が載せられていた。

 


 アラクネは必死に戦局を考査する。自分たちが、そしてこの巨大兵器が生き残る最善のプランを。

 敵方は機兵が3機に歩兵が8人。機動力に難のあるキャノン・ルークにとって厄介なのは歩兵の方だ。

 噂で耳に挟んだ話程度だが、攻城機兵向けに範囲殲滅に特化した魔導砲弾が開発されたという。ここが兵器の試験場ならば、あの新型機兵には……。

(…攻城機兵の機動力では取り付かれる可能性が…この戦力差を覆すためには、絶対に死守し、かつ新兵器に攻撃してもらわねば…ならば!)

 

 すべきことは定まった。アラクネは伝声機へとありったけの声を張り上げる。ここが正念場だ、と胸に刻み込んで。


「ラーエルさん!タカコさん!引き続き騎兵牽制!パスカルさん!フォローを!ケルベスさんは歩兵を動かないで牽制してください!」


 潮目は変わった。アラクネからの通信を受け、ラーエル・タカコ両名は素早く後退する。


「この状況なら……ルークさんに任せるのが得策ですわねっ!」


(奴らも好機、私たちも好機、勝負はここで決まる……!)


 

 2機は互いにカバーしあいながら、キャノン・ルークの射撃を邪魔しないように下がっていく。


 伝令は伝わっただろうか。ルークからの返答はない。魔力の充填に注力しているのか、依然、動かない。

 しかし、もはや動き出さねば勝機はない。伝わっただろうことを信じながら、アラクネはペダルをめいっぱいに踏み込んでいく。

 牽制の仕上げにと、右へ左へと飛び遊びながら、彼女は『光槍』を唱え、自身と歩兵の間にあるコンテナを歩兵の密集地帯へ吹き飛ばす。


「っぐう!」


 だが、無理な姿勢で放たれた魔術は当然、機体のバランサーの許容量を超えている。同時に魔術の反動で機体は派手に横転する。

 我々が思うシートベルトなどというものはない、コクピットの中、アラクネはピンボールゲームのようにあちこちへぶつかっていく。


(こうなる事は織り込み済み!けど全身が痛い……ッ!ですが…!)


 あらん限りの声を張り上げ、「新兵器」へと攻撃を命じる。


「今です!私に構わず撃ってください!」


 一瞬、ためらうかのように動きが固まる。しかし、キャノン・ルークを駆る者もまた軍人だった。

 彼女が成した一瞬の隙を見逃すはずはない。


『曲射榴弾、射ーッ!』


 重い音を立て、空を切って数発の砲弾が翔ぶ。それは空中でいくつもの子弾に分かれ、大地に火の海を作り上げていく。

 共和国軍は文字通り「降って湧いた」火炎にたじろぎ、動きが止まる。

 だが、彼らの目の前には転倒し身動きの取れないアラクネの姿が見て取れる。当然、彼らにとっても好機であることは変わりない。


 彼女の機体へと突撃をかける1機。だが、その勇み足へパスカルのはなったバズーカが直撃する。



「へ、へへ……死ぬにゃまだ早すぎるぜ、大将。ここにいる誰もがな」


 声は震え、どう聞いても強がりだということはわかる。無理もない、彼もまた新兵なのだ。

 それでも軽口で自分とアラクネを鼓舞し、援護を続ける。数発の流れ玉が彼とアラクネの機体に当たるも致命傷ではない。

 そうこうしているうちに、彼らの後方から飛び込んだキャノン・ルークの高速弾が、眼前の土手っ腹を貫いていった。


『援護に感謝する!ふんばれ、あと少しだ!』


 じりじりと、だが確実に戦線は帝国の有利へと傾いていた。


「やっと出てきやがった!ハ、ハハハ!チクショウ!さっさと退けよ!クソが!」


 キャノンルークの出現による戦局の変化───いわば、追い風が吹いてきた状況の中、ケルベスは歩兵に向かって更に牽制を続けていく。


「近づくと踏みつぶすぞ!そんな最期嫌だよなあ!?俺は嫌だよ!!」


 血走った目で、火の海へとさらに銃弾を打ち込んでいく。もはや生者がいるかどうかも定かではないが、そんなことは彼にとっては些事であった。

 …ちょうどケルベスのライフルが、薬室にある最後の一発を打ち終えるのと同時に、キャノン・ルークから通信が入る。


『共和国軍の撤退を確認!皆、よくやってくれた!』


 焼けた大地と、残骸の中。新兵たちは鬨の声を上げるのだった


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