魔力切れ
衝撃波、炎、それに水の力。魔法をイメージした事で格段の威力を発揮する様になったそれらを、日が暮れるまで巣穴前の広場で訓練した。
日が暮れるまでと言っても、実はまだ明るい内に巣穴へと戻る事になってしまったけど。
「な、何これ……。頭はボーッとするし、体に力が入らない……」
あれから、何パターンかのイメージで魔法を試した。
最後に放ったのは水のレーザーと言える物だったけど、その魔法を放った瞬間にそれは訪れた。あたしが呟いた通りの状態になってしまったのだ。
目が霞んで来て何も考えられない上に、その場から移動しようにも、四つ足全てがプルプルと震えて力が入らない。心做しか呼吸も荒くなってる。
それでも、広場にそのまま寝転がる訳にもいかず、何とか巣穴まで這って移動した。またニワトリに襲われたりしたら大変だからだ。
もしも今襲われたら、あたしは確実に殺されてしまうだろう。それだけは絶対に嫌だ。
薄れそうになる意識を何とか繋ぎ止め、やっとの思いで巣穴へと戻ったけど、巣穴に入った瞬間に力尽きて倒れてしまった。
翌朝、あたしは目覚めた。意外と、と言うか、結構スッキリとした目覚めだ。
昨日、急に体調を崩した影響なのか、やっぱり体がダルい。何だか食欲も湧いてこないし、今日はこのままゴロゴロしていよう。
……毛皮、回収しなきゃ。
まだダルくて重い体を引き摺る様に巣穴から外に出て、衝撃波で吹き飛ばしてしまった毛皮の元へと歩く。やはり体が重く感じるし、思う様に足が動いてくれない。まるで自分の体じゃないみたいだ。
「何でこんな状態になっちゃったんだろう……。考えられるとしたら、嫌いなヘビを食べた事か、魔法の訓練しか思い付かないけど……」
魔法の訓練……?
魔法を使う為には、きっと魔力とかそういう物が必要よね?
魔法と気付かずに衝撃波や炎を使ってた時は、体力や精神力が燃料に当たると思ってた。でもそれって、無理に力を使ってたからそうなるのであって、魔法と認識した今は魔力を使ってる筈。
そして、魔法の源となってるのは恐らく心臓付近の熱源だ。思い返してみれば、力が入らなくなった時、その熱源の熱が感じられなかった。
……魔力切れ?
もしかしたら、その魔力切れかもしれない。
意識して魔法を使う様になって、たぶんだけど、魔力を大量に使ったんだと思う。だからこそのあの威力だ。
今まで使ってた力は魔法と呼ぶには情けない物だった。唯一、炎の力だけが魔法だったかもね。その炎を使った時は、やっぱり凄く疲れてた。
という事は、やっぱり魔力切れで間違いないわね。
「今まで魔力切れなんてしなかった……ううん、魔力をしっかり使えてなかったから魔力切れなんて事にならなかったのね。そして今、不思議な力を魔法と認識して、魔力をしっかり使える様になったから、あたしは魔力切れになった。これからの狩りで魔法を使おうと思ってるけど、魔力切れの事をしっかりと考えないと……」
たぶんだけど、魔法の威力が強いものは魔力をいっぱい使うんだと思う。『炎の爪』くらいならたくさん使えると思うけど、『水の榴弾』や、『衝撃波の竜巻』、それに『水流の槍』はここぞという時以外は使わない方が良いわね。狩りの最中に魔力切れで気絶、なんて事になったら、あたしが逆に狩られちゃう。肝に銘じておこう。
「あたしの心臓の所にある不思議なのが魔力の元だとして、その魔力はどうやって発生するんだろう? きっと燃料みたいのがある筈よね。それが分かれば、魔力切れもすぐに回復するんだろうし、この体のダルさも回復する筈」
疲れた時は食べて寝れば回復するけど、魔力切れの時は自然に回復するのを待つしかないのかな?
だとしたら、やっぱり魔力管理はしっかりしないとダメだよね。……頭の悪いあたしに魔力管理なんて出来るかしら……?
でも、やるしかないわよね。死ぬの、嫌だし。
今日はゴロゴロするって決めたからやらないけど、明日の朝起きてみて、それで魔力が回復してたら、どれだけの回数魔法が使えるかを検証しなくちゃ。
そう考えながら、あたしは毛皮を口に咥え、引き摺りながら巣穴へと戻った。
あ、うんちが無くなってる。衝撃波で毛皮を飛ばした時にどこかに飛んで落ちたみたい。一晩外に放置したからか、オシッコ……コホン。水の力で濡れてたのも乾いてるよ。
巣穴の中でいつもの場所に毛皮を敷き、その事に気付いた。こういうのって、怪我の功名って言うんだっけ? うん、思い出せないや。
「洗いたてのシーツみたい♪ ……シーツって何だっけ? ま、いっか。毛づくろいして、寝よっと。……あれ? この毛皮って、こんなに小さかったっけ?」
怪我の功名もシーツも思い出せなかったけど、それよりも毛皮が小さく感じる事に疑問を感じた。また、体が大きくなったのかもしれない。
不思議な力が魔法だと判明した所で、もう一つの不思議を思い出した。何故、あたしの体は急に大きくなったのだろうって。
ママが居なくなったつい数日前、あたしの体の大きさは体長50cmしか無かった。
それがネズミを食べ、更にニワトリを食べた事で体長1mに急成長した。今回もヘビを食べて、その能力と共にしっかりと吸収した事で成長したのだろう。
でも、何故急成長したのか。
毛皮の上に寝転がった状態で、昨日までのあたしと今のあたしを毛皮を対比に比べてみると、恐らく体長1・5m程に大きくなってるのを実感する。ママやお兄ちゃん達と比べたらまだまだ小さいけど、それでも大きくなったのは嬉しい。
もしかして、魔法を放つ獲物を食べたからだろうか。
巣穴の中で色々考えても仕方ない。とにかく魔法を使えない動物を見付けて、それで食べてみるしか結論は出ないと思う。だって、まだ魔法を使わない動物を食べた事無いし。
そんな事を考えながらも、しっかりと毛づくろいをし、あたしは眠りに就いた。
「体のダルさ、無くなった。頭の中、スッキリしてる。うん、魔力が回復したみたいね!」
翌朝目覚めると、気持ち良いほどスッキリとした目覚めにご機嫌になる。今日も良い日になりそうだ。
湧き水の流れを軽々跨いで華麗に用を足し、次いでニワトリの肉を朝ごはんとして食べる。うん、熟成されて美味しくなってる。腐りかけが美味しいのよね♪
「さて、と。何回強力な魔法を使えるかを試すとしますか! 『ウォーターグレネード!』ガァアアアアアア!!」
お腹いっぱいとなり満足したあたしは、早速巣穴前広場に出て魔法を使った。先ずは水の榴弾からだ。胸の中心がカーッと熱くなり、口の中には乱流渦巻く水の砲弾が出来上がる。それを不格好な木のオブジェへと放つ。
木のオブジェは、折れた10本の木が『衝撃波の竜巻』によって吸い寄せられ、そして屹立して出来た物だ。
水の榴弾は木のオブジェの真ん中に命中すると、炸裂。そして水の礫となって、木のオブジェを細かい木片へと変えた。
「うん、絶好調!」
水の榴弾の威力が上がった気がするけど、それよりも威力の高い魔法の回数だ。この威力の魔法を後何回放てるのか。あたしの検証は続く。
「『ショックトルネード!』――ガァアアアアアアアッ!! ハァ、ハァ……げ、限界……!」
衝撃波の竜巻は一本の木に当たってその幹を粉砕し、次いではるか上空へと吹き飛ばした。最初に試した時とは違って凄い威力だ。
そして、衝撃波の竜巻ショックウェーブトルネード、略してショックトルネードを放った所で魔力切れが訪れる。瞳孔が開いて目が霞み、全身の力が抜けてその場に伏せる。更に激しい吐き気と、呼吸の乱れ。気絶する一歩手前だ。
高威力の魔法を放てた回数は10回。この先あたしの成長と共に回数が増えるのか、それともこれで頭打ちなのかは分からないけど、とにかく10回放つと魔力切れになるから、狩りをする時は9回までと覚えておこう。……忘れるかもしれないけど。頭悪いし、白虎だし。
その事を肝に銘じながら、重い体を引き摺りながら巣穴へと戻り、毛皮の上であたしは気絶した。
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