魔法
「んしょ、んしょ。この辺りで良いかな?」
巣穴の中から寝床としてる大きな毛皮を咥え、後ろ向きでズリズリと引き摺りながら広場の中央付近に広げた。
何故、毛皮を外に出してるのか。
理由は、巣穴前の広場で新しい力を検証しようと思ったけど、あたしはそこで閃いたからだ。あたしが今回手に入れた力は恐らく水に関する物だ。現に、とんでもない量のオシッコを出してるもの。
……オシッコやうんちの話ばかりね、あたし。前世だったら恥ずかし過ぎて、もうお嫁に行けないと思う。白虎で良かった。
話を戻すけど、もしもあたしが水のブレスを吐けるようになってるなら、次いでに洗ってしまえば良いじゃないっ! って事を閃いて、毛皮を広場に出したの。冴えてるぅ、あたし!
という事で、さっそく。
「水のブレス! ニァ〜ゴォ〜!!」
目標の毛皮を睨み、そう言いながら口を大きく開ける。イメージだと、口から勢い良く水が吐き出されて、その水流によって毛皮が洗い流される感じになる筈。ほら、ご覧の通り。口からは大量の水が吐き出され……ませんでした!
おかしい。何故に出ないのか、水のブレス。あたしのイメージ不足なのか、それとも、衝撃波の様に体力を使うのか。
首を傾げながらも、次は衝撃波を放つ要領で試してみた。
「水のブレス! ニァ〜ゴォ〜!!」
衝撃波を放つ要領で力を溜め、水のブレスを吐き出すのだから、溜めた力を口へと集める様に集中する。……出そう。溢れて来てる……! 出たっ!!
「何で……! 何で、オシッコが出ちゃうの!?」
口に集中してた筈なのに、何故か股間から大量のオシッコが出ちゃった。てへっ♪
衝撃波の時は溜めた力を抜く感じで放てるけど、今回は力を抜いた瞬間に出た。という事は、衝撃波を放つ様な要領でも無いという事だ。
だったら、尻尾に宿った炎を放つ要領なのかな?
尻尾の炎を放つ様に、あたしは口から水を吐き出す事を強く念じた。
「カフッ……カヘッ……!? オエェェェェェ!」
胃からでは無いけど、喉の奥からせり上がってくる水の感覚が気持ち悪くて、あたしは盛大に吐いてしまった。それこそ、マーライオンの様に。
だけど、吐瀉物が混じっていたのは最初だけで、その後は綺麗な水に変わっていた。
「カヘッカヘッ……。何とか出たけど、水のブレスと言うより、水の吐瀉物よね、これじゃ」
そう。これだと、大量の水を吐いただけでブレスには程遠い。水を口から出す感覚は掴めたものの、実際の狩りの場では使えない。それに、慣れが必要だ。毎回気持ち悪い思いをしてると隙が生まれ、逆にあたしが窮地に立たされてしまうだろう。
先ずは、気持ち悪さに慣れる事から始めよう。
そう結論に達し、その後も訓練を続けた。
嘔吐きながらも訓練を続けてる最中、あたしはある事に気付いた。水を吐く度に、心臓の辺りが仄かに熱を持っている事に。
「カヘッ、カヘッ……オェッ。あれ? 何だか胸が熱く感じるけど、これって何かなぁ?」
試しに、青白い炎を放ってみる。すると、やはり心臓の辺りが仄かに熱を帯びているのが分かった。
「もしかして、衝撃波もかな? ニァ〜ゴォ〜!!」
あたしの放った衝撃波は、広場の真ん中にそのまま広げてあった毛皮に見事に当たった。
だけど、そんな事よりも大事な事に気付いたの、あたし。力を溜める事無く衝撃波を放てたのだ。それも、心臓の辺りで熱を持つ何かに意識を集中したら、だ。
「大発見かも……! 試してみる価値はあるよね。『水のブレス!』」
そう言った後、口を大きく開けて胸に意識を集中する。体力と言うか精神力と言うか、何だか分からないけど何かがごっそりと減った感覚と共に、開けた口からは大量の水が吐き出された。でも喉の奥からじゃなくて、口の中で突然水が発生した感じだった。
それよりも、驚くべきはその威力。大蛇が放ったやつよりも高威力の水のブレスだ。広場の真ん中付近は土が抉れてクレーター状になってる。深さも1mはありそうだ。
毛皮に当たんなくて良かった。衝撃波で毛皮が飛んでなかったら、土で凄く汚れたと思う。ううん、もしかしたら穴が空いてたかも。
それよりも、今は胸の不思議な熱の事よね。
もしかしたらごっそり減ったのって、魔力とかマナとか言うやつかな? ゲームとかアニメとかで出てくるアレ。
だとすると、ネズミやニワトリ、それにヘビの心臓の辺りにあった不思議な塊って、魔力を発生させる器官って事なのかも。
だけど、それだけだとあたしが使える様になった炎や衝撃波、それに水の不思議な力について説明が付かない。
でも、ほとんど丸呑みだったから覚えてないけど、何となく……色が付いてた様な……?
ま、今更色について考えても仕方ないし、とりあえずは訓練を続けましょ! 不思議な力が魔力による物……魔法だとしたら、使いこなせれば獲物を狩り放題。俄然、やる気が出てきたよ!
「もしも魔法だとしたら、イメージで色々出来るかも!」
前世での記憶は高校二年生までしか無いけど、その年頃は当然夢見る乙女だ。そのままの感覚で転生してるのだから、やはり魔法には憧れる。
あまり覚えて無いけど、テレビでやってた魔法で変身する少女は好きだった気がする。まぁ、この世界でそんな物には変身出来ないだろうし、するつもりも無いけど、その少女が使ってた魔法はイメージが力になる、というものだった。
あたしは胸に意識を集中し、両前足の爪に炎を纏わせるイメージをした。
「ふぉぉぉぉ!! 何これカッコいい! まさか本当に出来るとは思わなかったよ!」
さしずめ、『炎の爪』と言った所だろうか。あたしの両前足の爪は青白い炎に包まれ、その炎がユラユラと揺れている。試しに近くの木の幹を炎の爪で引っ掻いてみると、力も入れずに容易く幹を抉り、抉った後にはしっかりとした焦げ目が付いていた。
もしももっと強い威力をイメージした炎の爪だったら、そのまま木を燃やしていたかもしれない。密林の中でそんな事になったら密林火災が発生して、それに巻き込まれてあたしも死んじゃうかもしれない。炎の爪や炎の魔法には気を付けねば。
「あ、そうなったら水の魔法で消せば良いじゃない!」
炎の爪の試しを終え、今度は再びの水の能力についての検証だ。
さっきまでは、理解出来ていなかった。だが今は、しっかりと理解して、しかもイメージも出来てる。もう、失敗なんてしない筈だ。……オシッコが出るって前振りじゃないよ?
口を大きく開き、口の中に高圧力の水球をイメージする。あたしが放とうとしてるのは水のブレスじゃ無い。言うなれば、水の砲弾だ。もっと詳しく言えば、水の榴弾。敵に当たった瞬間に炸裂し、細かく散った水の礫でダメージを与えるというもの。
あたしの口の中には、球体に保たれてはいるが幾つもの乱流が渦巻く水球が出来上がっていた。
「ガァアアアアアッ!!」
初めて、白虎としての鳴き声を出せた気がする。他を圧倒する威圧が込められた咆哮だ。今までは幼くて猫みたいな声しか出せなかったから、凄く嬉しい。
咆哮と共に放たれた水球は、あたしが目標とする木の幹目掛けて鋭く着弾した。
「凄い……!」
それしか言えなかった。
木の幹に着弾した水球は、その木の幹を倒壊し、更に礫となった物が周囲の木の幹をも穿いた。目標とした木を合わせ、実に10本もの木が水球の威力で倒れたのだ。あたし自身、凄く驚いてる。
被害を受けた木々はメキメキと音を起て、次々と倒れる。正に圧巻と言える威力だった。
「もしかして、衝撃波も変化出来るかも」
倒れた木々を目標に、あるイメージで衝撃波を放つ。目標地点に到達した衝撃波はその場に留まり、次第に渦を描く様に上昇を始める。小さいながらも、あたしのイメージ通りに竜巻が発生した。
倒木は竜巻に吸い寄せられる様に中心地点へと集まり、互いを互いで支える様に屹立する。見る人が見れば、祭事の際の櫓に見えるかもしれない。酷く不格好な櫓だけど。
「あたし、魔法少女になっちゃった……! 白虎だけど」
そう呟くのも仕方ないよね? あたし自身、凄く驚いてるんだから。
魔法と呼べる力に興奮し、あたしはその後も力を試し続けた。
お読み下さり、真にありがとうございます!




