新たな力
排泄物の話ばかりで申し訳ない!
ヘビの味は、思ったよりも美味しかった。と言うか、意外にも後を引く味だ。
前世から大っ嫌いなヘビが生き返らない様に、だったら心臓を食べちゃえば良いじゃない! って食べ始めたけど、淡白な味なのに濃厚な風味で、気が付いたら半分以上食べていた。途中、何度か骨が喉に引っかかったのが玉に瑕ね。その度にカヘッ、カヘッて嘔吐いちゃったよ。
あ、ネズミやニワトリと同じく、ヘビの心臓付近にも硬くて変な物があったよ。やっぱり丸呑みしちゃったんだけど、ネズミやニワトリの物よりも大きくて、喉に詰まりそうになって死ぬかと思った。
ヘビとの闘いで何とか生き残れたのに、喉に物を詰まらせて窒息死なんてシャレにもならないよね。
「ご馳走さまでした!」
ニワトリと同じくヘビも残しちゃったけど、また変なのに侵入されるなんて事はないよね?
まぁ侵入されたとしても、大っ嫌いなヘビを倒したあたしがそう簡単に負ける筈がないわね。
ヘビを倒したとは言え、あたし自身、大蛇をどうやって倒したのか分からないのよね。自分が死んだと思ったら生きてて、しかも寝てて、それで起きたらヘビが死んでたんだもん。本当に不思議。
そう言えば、食べてる部位で変な所があったわね。
あたしが食べたヘビの部位は、たぶんだけど、腰から上の部分。つまり、頭までね。
それで変な所の事だけど、脳が妙に膨らんでたのよね。食べてる時は気にしてなかったんだけど、脳を齧った瞬間『プシュッ』て空気が出たの。変でしょ?
でも、もしかしたらそれが原因で大蛇は死んだのかもね。
あれ? 脳から空気?
何だろう。何かが引っかかる。空気、空気。音は空気を震わせる事で伝わる。衝撃波は空気に圧力をかけて、それを解放する事で発生する。空気……衝撃波。
もしかして……!
血が流れてた大蛇の古傷に、あたしの衝撃波で空気が入ったのかも!
大蛇の血管に入った空気が脳に送られ、そして内部から膨張。体は大きくても脳は小さいヘビに、その圧迫は耐えられなかった……って事なの?
でも、そうとしか考えられない。あの時は無我夢中……意識を失い掛けてたから良く覚えてないけど、とにかく起死回生の一撃のつもりで放った衝撃波が生死を分けたのね。
傷口に衝撃波。この先、今回の様な事が起こらないとも言えないし、覚えておいて損はないのだから、忘れずに心に刻もう。生きる事を諦めない教訓として。
「あれ? ヘビを食べたら体の痛みが消えた……? そう言えば大蛇が変な事を言ってたわね。三種族を食べて力を得たとか何とか。もしかしたらこの世界の動物にはそれぞれ不思議な力があって、あたし……ううん、白虎にも生まれながらの力が備わってて、その力こそが食べたら傷が回復するって事なのかもね」
どちらにせよ、体の痛みは治まったものの、大蛇との闘いは酷く疲れた。巣穴の外が明るくなってきてるからそれなりには寝てたと思うけど、とりあえずもう一眠りしよう。……うんちの片付けは起きてからで良いよね? あたししか居ないし。
漏らしたオシッコとうんちで汚れていない寝床の毛皮に横になって、あたしは眠りに就いた。やっぱり疲れてたのね。眠りに落ちるまであっという間だったよ。寝る前に用を足すのを忘れたけど、既に毛皮は汚れてるし、匂いについても、あたしの匂いが染み付いてるだけだから問題無し。
おやすみなさい。
☆☆☆
どれだけ寝たんだろう。分からないけど、体と精神の疲れは癒えたみたいね。凄くスッキリしてる。
巣穴の外からシャーとかジャーとか音がするけど、雨が降ってるのかなぁ。だとしたら、今日の狩りはお休みね。だって、濡れたくないし。
白虎として生まれてから風邪は引いた事ないけど、前世みたいに薬なんか無いんだから引いたら大変。あたし一人なのに熱が出たら面倒だし。
あ、でも、雨が降ってるなら寝床の毛皮を洗うチャンスね。それだけはやっておこう。その前に、起きて用を足さなきゃ。
心地好い微睡みから目を覚まし、あたしは行動を始めようと起き上がった。
しかし様子がおかしい。降っている筈の雨が降っていない。そればかりか、晴れてさえもいる。
じゃあ、今も続いてるシャー、ジャーって音は何だろう? 耳を動かし、音の出処を探った。
「な、何これ!? 嘘でしょ……!」
音の出処を探った結果、有り得ない場所から大量の水が流れていた。……あたしの股間からだった。
道理でオシッコをしたいと思わなかった。だって、大量に流れ出てるんだもん。
あたしの股間から流れ出た水は水下となる巣穴の外へと、ジャージャーと音を立てながら流れていた。
と言うか、有り得ない事が起きてる。明らかに異常な量だ。体中の水分以上の量が既に出ている。
「と、とりあえず、ストーップ!」
緩み切った股間の力を締め、次から次へと溢れる水を止める。意識したからなのか、その途端に水は止まってくれた。自分の体の事なのに止まってくれたと言うのも変だけど、とにかくそんな感じ。止まってくれた事に一安心した。
しかし、何だってこんな事に。寝る前まではそんな兆しは無かったと思う。となれば、これはやっぱりヘビを食べた事に原因があるに違いない。
思い当たるのは、アレね。
「ネズミもニワトリも、ヘビにもあったけど、もしかしたら心臓付近にあった硬くて変な塊が原因かも。そしてヘビが言ってた『三種族を食べた』って言葉。この世界の不思議な力を持った動物には、その変な塊が心臓付近にあって、それを食べて体に取り込む事で新しい力に目覚める……って事かしら?」
思わず独り言を呟かずにはいられなかった。頭の中だけで考えてたら混乱しそうだったから。だって、頭、悪いし、白虎だし。
寝る前にも似た様な事を言った気がするけど、あたしは頭が悪いから仕方ない。うん、諦めてる。
でも、何となく理解した。
この力はきっと、この世界での食物連鎖に由来する筈。そしてあらゆる種族を食べた時、あたしはその頂点に君臨する事が出来る……気がする。いまいちよく分からないけど。
食物連鎖の頂点に立ったらどうなるか分からないけど、まだまだ弱っちいあたしに出来る事は一つだけ。
精一杯に生きる事。
ママも……ううん、お兄ちゃんやお姉ちゃんも、もしかしたらその争いの中に身を投じたのかもしれない。
みんな強いからたぶん今も生きてると思うけど、もしもこの先再開する事があったら、その時はママ達とも争わないといけないのかな?
嫌だな、そんな事。以前と変わらず、仲良く一緒に暮らしたいよ。
でも、それも仕方ないのかもしれない。
だって……この世界は弱肉強食の世界だから。
「頭の悪いあたしが今から考えてても仕方ないね。ママ達と再開したら……その時に考えよう」
何となく気持ちの整理がつき、次の狩りに出掛ける前にやる事がある。……排泄物で汚れた寝床の掃除じゃないわよ? それもやらなくちゃ、だけど。
やる事とは、新しく手に入れた力の検証だ。まさかオシッコが際限なく出るだけなんて事は無いはず。現に、大蛇は口から水のブレスみたいなのを吐いてたし。
大蛇に出来るんだったら、その力を食べて吸収したあたしにだって出来るはず。
それに、自分の力をきちんと把握して使いこなせる様になっておかないと、この先、生き抜く事が出来ないかもしれない。死ぬのは嫌だ。
頑張れ、あたし!
新しい力を検証する為、あたしは巣穴前の広場へと飛び出した。精一杯生きる事を心で誓いながら。
お読み下さり、真にありがとうございます!