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検証

不定期連載と言ったが、あれは嘘だ。スマンな。

 

 猫科ヒョウ属に属する虎は夜行性だ。つまり、虎の仲間である白虎のあたしも、その例に漏れずに夜行性である。例には漏れないけど、たまにオシッコは漏らします。……まだ二歳だもん、今のあたし。


 コホン――。


 今までは昼間にネズミを狩って食べていたけど、実は夜の方が狩りはしやすい事に気付いた。昼間に活動する動物は夜、眠るからだ。

 まぁ、ネズミも夜行性だから、ネズミを狩るなら動きの鈍い昼間を狙うべきだけど。


 それはさておき。


 何故、あたしが夜に狩りを行おうとしてるかと言うと、あたしの体に宿った不思議な力に関係する。この力を使えば、もっと楽に狩りが出来るんじゃないかと思ったのだ。寝ている獲物に衝撃波。楽して狩れる。

 体の小さいあたしが効率良く獲物を狩る為には、なりふり構ってなんていられない。例え卑怯と言われても、生きる為には何でも使うつもりだ。


 話を戻すけど、炎の鶏冠(とさか)が猛々しい、空飛ぶニワトリの時に放った衝撃波もそうだけど、それ以外にも不思議な力が宿った。何と、あたしの尻尾の先に炎が灯っていたのだ。

 初めてそれに気付いた時、すっごく焦ったよ。だって、尻尾が燃えてるって思ったんだもん。巣穴中を転げ回り、何とか消そうとしたけど消えないし、それならば湧き水で消せばいいじゃない! ……って、湧き水に浸しても消えなかった。

 それで、気が付いたの。燃えてるんじゃなくて、あたしの体に宿った力がそう見せてるだけなんだ、って。


 幸い、ニワトリの肉はまだ残ってるし、ネズミを初めて食べてからニワトリまで、連日立て続けに食べたせいかお腹もあまり減らなかったから、この際、不思議な力について検証してみる事にしたの。


 もちろん、巣穴前の広場でね。


「ニャアゴォォ……ニャアッ!」


 最初の検証は衝撃波。狙うは当然木の幹ね。巣穴から一番近い木まで、その距離およそ10m。木の幹の中心に意識を集中して、あたしは見えない衝撃波を放った。

 衝撃波を放つ際の感覚は変な感じ。衝撃波をぶつけたい物に意識を集中すると、全身の力が顔に集まる様な感じがして、その力を抜くと衝撃波が放たれるの。溜めた力を放つ。弓矢みたいな感じかな? あ、大きい方の用を足した後みたいな感じね。そっちの方があたしには分かりやすいかも。でも、気を付けないと、狩りの最中に出ちゃうかもしれない。白虎とは言え、一応は女の子だからそれだけは嫌。だから気を付けないと。


 衝撃波を放った10m先の木の幹は皮が裂け、芯近くまで弾け飛んだ。ネズミが使った衝撃波はもっと弱かったけど、あたしが使うと威力が強い。もしかしたら、体の大きさや力の強さが関係してるのかも。

 それはともかく、衝撃波の威力は充分狩りで使える事が分かった。


 次は、尻尾に宿った炎の検証ね。こっちは衝撃波と違って、イメージだけで色々出来る事が分かった。念じるって言った方が正解かも。

 炎を大きくしようと強く念じれば大きくなるし、その状態から炎を飛ばしたい方向に尻尾を振れば、青白い炎が飛んで行く。炎の大きさはあたしの頭と同じ大きさの、直径30cmくらいね。

 あ、あたしの毛色に合わせてるのかは分からないけど、炎の色は青白いの。どれだけ熱いかも分からないわね。だって、あたしは熱くないもの。


「ニャオーン!」


 飛ばした炎の目標は5m先に置いたニワトリの頭。と言うか、(くちばし)ね。あたしの事を食おうとした嘴は炎に焼かれて灰になるがいいわ!

 放物線を描いて放たれた青白い炎は嘴付近に着弾すると、嘴もろとも半径1mの範囲を勢い良く燃やした。炎の高さは2m程。だいたいイメージ通りだ。

 いつまで燃えるのかと見ていたけど、一向に消える気配が無い。見ているあたしの方が何だか疲れて来たよ。


 もしかして……!


 頭の中で、燃え盛る炎が鎮火するイメージをしたら、あっさりと青白い炎は消えた。焼け跡には、ニワトリの嘴があった痕跡しか残ってなかった。かなりの高温だったらしい。

 その事から、青白い炎はどうやらあたしの念じるままに、威力も燃焼時間も自在に出来るみたい。

 気付けたのは、精神の疲れのお陰ね。何だか、前世で誰かに怒られてる様に精神がゴリゴリ削られてる感じがしたから。


 衝撃波は体力、炎は精神力を消耗する事が立証されたし、威力なども確認出来た。炎の射程距離はあたしの尻尾の力次第だから、要努力って所ね。体が大きくなれば、それだけ射程距離も伸びて、もっと使える様になると思う。


 体の大きさと言えば、これも不思議な事に、ネズミを食べてから変化したみたい。つまり、大きくなったの。

 道理で、トイレとしている湧き水の流れを跨ぎやすくなった筈だわ。

 ちなみに今のあたしの体長は、感覚的にだけど1m。体高は60cmくらいね。今までの倍の大きさに成長したみたい。

 急に大きくなったのは不思議だけど、もしかしたら不思議な力が宿った事と関係あるのかも。


 ともあれ、不思議な力の検証も終わったし、ニワトリの肉もまだ残ってるから今は狩りには出掛けず、巣穴の中でゴロゴロしよう。

 と言っても、夜に狩りに出る為に体を休めておくのだ。

 それに、毛づくろいもしなくちゃ。昨日の朝オシッコを漏らした事で体の毛が汚れたし、傷は治ったけどニワトリに負わされた傷で血も付いてる。女の子として、汚れたままで居るのは嫌なの。……少しくらいなら良いけど。白虎だし。


 巣穴の中へと戻り、用を足してから寝床としている毛皮の上でくつろぎ始める。リラックスした体勢になったら、先ずは両前足の毛づくろいだ。

 右前足の爪を出して舌でペロペロと舐めて汚れを落とし、次いでその付近から甘噛みをしつつ舌で毛並みを整える。右前足が終われば、今度は左前足だ。

 左前足も右前足と同様に、念入りに毛づくろいしていく。綺麗になった。


 次は顔だ。両前足を舐めて唾液で湿らせ、耳の辺りから顔を洗う。髭の汚れは顔を擦ると同時に落ちるから特にする事は無い。

 顔を洗い終わったら、次はゴロンと横になり、後ろ足の毛づくろいを始める。但し、同じ体勢ではやり切れないので、ちょこちょこ体勢を変えながらだ。

 後ろ足が終わったら、満を持しての大事な所だ。そう、お腹から股間に掛けてね。ここは念入りに綺麗にしないと大変な事になっちゃう。……前世でのイメージだけど。

 巧みな甘噛みを駆使しつつ、舌で何度も何度も舐めて綺麗にする。完璧ね。

 ちなみにだけど、変な気持ちにはならないわよ? そういう気持ちは発情期にしかならないの。まだ発情期になった事は無いけど。ならないって事はないよね?


 最後は自慢の尻尾。だって、炎が灯ってるんだもん。

 背中? 背中は洞穴の壁面に擦り付けて終わり。だって、前足も後ろ足も、舌も届かないし。

 尻尾も何度も甘噛みをしつつ、綺麗に毛をほぐす。良い感じになってきたわ。


「ゴロゴロゴロゴロ♪」


 喉を鳴らしながら、毛づくろいをして綺麗になった尻尾で地面をパタパタとリズミカルの叩く様に振る。あたしの気分はご機嫌だ。既に横にもなってるし、このまま夜まで寝てしまおう。……耳だけは立てた状態でね。


 知ってるとは思うけど、あたし達野生の動物にとって耳とは、最大で最高の索敵器官だ。中には、犬などの様に嗅覚がそうだと言う人が居るかもしれないが、その犬でさえ初めに耳で音を確認する。

 例え眠っていようと、耳から入って来る音などの情報は脳に直結してる為、もしも危険な音……つまり、危険な生物の声や呼吸音などが聞こえたら、あたし達動物は瞬時に起きて、戦闘態勢を取ることが出来るのだ。


 つまり、あたしが言いたい事は――


 ――巣穴に敵が侵入した、という事。辺りが暗くなってる事から、夜を待って侵入したみたいだ。

 闇夜に紛れ、極力音が出ない様に移動してるのだろう、そいつは。巣穴としている洞穴の壁際、その辺りから極僅かだけど、ズリ……ズリ……と何かが這いずる様な音があたしの耳に入って来た。それと同時に、シュー……シャー……という得体の知れない音も聞こえる。


 音で判断出来ないならば、次は嗅覚だ。


 あたし達白虎の嗅覚は、犬には劣るがそれでも鋭いと自負している。但し、一度でも嗅いだ事のある匂いじゃないと相手が何なのかは判断出来ない。

 今夜、巣穴へと侵入してきた敵は……今のあたしが見た事も匂いを嗅いだ事も無い敵だという事だ。否が応でも緊張してくる。


 意を決して、あたしは尻尾の炎の輝度を上げた。

お読み下さり、真にありがとうございます!

ストック切れになるか、執筆が間に合わなくなるまでは毎日投稿致します!

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