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生命探知と神速

 

「タートのシンボルは、ただのヘビ。タートのシンボルは、ただのヘビ。タートのシンボルは――」

「ビアンカちゃんや?」

「タートのシンボルは、ただのヘビ。タートのシンボルは、ただのヘビ――」

「ビアンカちゃん!?」

「――シンボルは、ただのヘビ。タートのシンボルは、ただのヘビ。タート――」

「ビアンカちゃん!!!!」

「――へあッ!!!?」


 あれ? あたし、何してたんだっけ? 何でこんな所で呆然と立ってたのかしら……?


「ようやっと気付いたか、ビアンカちゃんや」

「あ、タート。どうしたの?」


 今日は新たな力の検証に充ててって言った筈だけど、何故タートはあたしの所に来たんだろう? あたしだって暇じゃない。これから検証をしようとしてたのだ。おでこから角、生えたし。きっとこの角が新たな力に関係すると思うのよね、あたし。


「シャー。お前の新しい力は生命探知と神速、シャー」


 新たな力について考えていた所で、聞いた事の無い声が聞こえた。機械的と言うか、冷温的と言うか。あ、無機質な声って感じね。……って、何者!?


 声が聞こえた方へ視線を向けると……タートの股間が視界に入った。そう言えば、シンボルがヘビになったって言ってたっけ。


 いやいや、ちょっと待って!?


 ヘビが喋るって事は、聖獣の候補者って事よね? もしかして……タートはこのヘビに寄生されてるんじゃないかしら!?

 だとしたら大変! 早く助けないとタートが体を乗っ取られて死んじゃうよ!!


 タートに寄生してるヘビの挙動にあたしは集中し、魔力を静かに辺りへと充満させる。……良し。これで何があろうと大丈夫。すぐさま対処出来る準備は整った。


「喋るって事は、敵ね!! 何を考えてタートに寄生したのか知らないけど、タートはあたしの大事な仲間。あんたの好きにはさせないわよ!!!!」

「ま、待つんじゃ、ビアンカちゃん!! さっきも言うたが、このヘビはワシの新たな力じゃ! 分析力と解析力を有しておる。ちなみに、名前はスネイルじゃ!」

「……えっ?」


 タートの新たな力……? それってどういう事?

 カメの大魔王に進化したのが新たな力じゃ無くて、ヘビが新たな力って事なの?

 でも、あたしなんかよりよっぽど知識のあるタートがそう言ってるんだから、きっとそうなんだろう。

 しかし、スネイル? ヘビという意味のスネークとかけてるんだろうか? ……何でもいいけど。


 辺りに充満させた魔力を解除し、あたしは改めてタート達の話に耳を傾けた。


「それで……あたしの新たな力って、生命探知と神速ってそのスネイルが言ってたけど、本当にスネイルは見ただけで分かるものなの?」

「分かる、シャー。相手の目を見て魔力をリンクさせればアナライズ出来る。その代わり、オレは魔法が使えない。シャー」

「そういう事じゃ、ビアンカちゃんや。ワシの頭脳とスネイルのアナライズ。正に賢者として相応しき力じゃ!」


 なるほど。最初はシンボルだからって目のやり場に困ったけど、能力は優秀だし、もう一つ頭が増えたと考えれば恥ずかしくも無い。確か、前世でもそういう突然変異的な生物も居た筈だ。二つの頭脳を持つタート……正に賢者として相応しい姿よね。たぶん、だけど。


「という訳で、ワシももう少しスネイルの能力の研鑽と、自らの力の検証に時間を充てるでな。それじゃの、ビアンカちゃんや」

「あ、うん、そうね。そうしてちょうだい」


 そう言葉を残し、タートはノシノシと歩き去っていった。どこか威厳漂う雰囲気は、これこそが賢者の歩みと示している様にも見える。その姿を見る限り、もしかしたらタートは、既に聖獣への進化を終えているのかもしれない。そう思えば頼もしい限りだね。大魔王の姿だとは言わない様にしよう!


「それじゃあたしも検証を始めますか! ……と言っても、神速ってのは恐らく移動速度、つまりあたしの足の速さの事よね。だったら検証するのは生命探知の方ね!」


 生命探知と言うのだから、遠く離れていてもその生き物を探知出来るという力だろう。しっかりと使いこなせれば獲物を探す時にとても便利だし、敵が姿を消せる奴だったり何かに擬態する様な奴でも、直ぐに見抜く事が出来る筈。さっそく試してみよう。


「たぶん……おでこの角に集中するのよね」


 口に出してその事を確認する。前世の記憶が戻っても、頭の悪さは変わらない。口に出す事でより集中しやすくなるし、覚えやすいのだ。

 本当は文字にして何かに書けば更に良いのだけど、この世界に紙など無いし、当然鉛筆なども無い。だったら指で地面に書けば良いだろうって思ったけど、手が土臭くなるからそれは嫌なのよね。何か、タートの匂いっぽく感じるし。


 ともあれ、あたしは目を閉じておでこの角へと意識を集中した。


「凄い……!」


 目を閉じて暗闇となった視界に、光り輝く世界が映る。漆黒の宇宙に、幾千万もの星達が瞬く様なそんな光景。その一つ一つが命の輝きを思えば、この世界は何と美しいのだろうか。


 だけど……


「くぅっ……!? うえぇぇぇ……ッ!!」


 ……あまりの情報量の多さに、あたしは胃の中の物を吐いてしまった。お酒を飲んだ事は無いけど、まるで悪酔いした感じだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。うぷッ!? か、解除!!」


 一度発動させると解除するまで、目を開けていようが情報が押し寄せて来る。またもや迫り上がる吐き気を耐え、力を何とか解除した。


「はぁ……はぁ……はぁ……。こ、これは慣れが必要ね……!」


 たぶんだけど、意識を集中し過ぎたと思う。全力で集中したからこそ、全ての命を探知してしまったんだろう。そう、植物や微生物に至るまでの全ての命を。


「あ、だったら、魔力を感じるみたいにすれば良いかも!」


 無限の魔力を得てから、あたしは魔力を何となくだけど感じる事が出来る様になっていた。それを、生命探知の力に応用すればどうだろうか。試してみる価値はあると思う。


 吐いた事で空腹感を感じるが、それよりも今はこの力に慣れる事が先決だ。呼吸を整え、あたしは再び目を閉じて角へと意識を集中した。


「ま、まだ情報量が凄い……! もっと大きな力を感じるだけにすれば!」


 更に感度を下げ、より大きな光だけに集中する。次第に大きな光だけが残り、植物や微生物などの小さな光は姿を消して行った。これならば耐える事が出来る。


「すぐ近くの茶色い光は……タートね。昨日ユニコーンと戦った所の光は……水色って事は、ミズチだね、これは。だとすると、ヒナは?」


 大きな光に集中していると、色が付いている事に気付いた。近くに居る筈のタートは土属性って言ってたのを思い出したから、その色が属性を表している事が分かったのだ。

 だから、タートは土色で、ミズチは水属性の水色。それを考えると、ヒナは当然火食鳥の炎で赤色だ。その赤色の光を探したのだけど、生命探知の範囲に見当たらない。何だか嫌な予感がした。


「とにかくタートに聞いてみよう……!」


 生命探知は、探知可能範囲を上空からの俯瞰図で見た様な感じだったけど、目を開ければ自然と立体化されている。同時に、目標とする命までの距離も分かる様になっていた。

 すぐ近くの土色の光……タートまでの距離は、およそ500m。多少離れているけど、あたしが全力で走ればものの数秒だ。タートを目指して、あたしは走り出した。


「えっ!!!?」

「ぬわああああッ!?!? きゅ、急に現れるでない、ビアンカちゃん!! 驚いて、心臓が尻から出る所だったわい……」


 走り出そうと一歩を踏み出したと思った瞬間、あたしは既にタートの傍に居た。不思議な現象に呆然とする。……尻から心臓は出ないけど。


「シャー。それが神速の力だ、ビアンカ。シャー」

「急に現れる程の速度が神速という事かの、スネイルや?」

「そういう事だ、シャー」


 これが、神速。今の距離を一瞬で移動した事を考えると、確かに神の速さと言える。とんでもない速さだ。


「神速よりも、今はヒナの事よ! タート、ヒナがどこに居るか知ってる?」

「んむ? ヒナならば先程会ったが、はて? その辺を飛んでおるのではないか?」

「生命探知の範囲に見当たらないのよ!」

「何じゃと!!!?」


 あたしは事の経緯をタートに話した。


「なるほど……そういう事じゃったか。だとすると、恐らくヒナは泉の傍へと行ったのではないか? 以前、森の中で炎は危ないので、魔法を使うならば直ぐに消火出来る様に水の傍で使えと言うた事がある。今回ヒナは進化によって莫大な魔力に目覚めておった。ヒナは魔力が高まると、火食鳥の性質上体が炎を纏う。体から溢れ出る魔力の制御の訓練の為に泉に向かった可能性が高いのじゃ」

「泉までかなり距離があるじゃない! もう、ヒナったら! あれ程あたしの近くに居なさいって言っといたのに! 分かったわ、タート。あたし、泉まで行ってくる!」

「うむ。気を付けるのじゃぞ、ビアンカちゃんや。昨日の今日でユニコーンの様な敵は現れないとは思うが、油断は禁物じゃ。ともあれ、ヒナを頼んだぞ?」

「うん!!」


 泉までの距離は、あたしの全力でも一日は掛かる距離だ。それでも、ヒナが心配だから半日で着いてみせる!


 そう決意するも、ヒナの事が心配なあたしは、神速の事をすっかり忘れていた。走り出した次の瞬間には、泉だった窪みの所に到着していたのだ。

 だけど、泉を発った時とは違う景色に、あたしは呆然とする。あの時は確かにあった炭と化した巨木が無くなり、辺り一面は、小さな木が生えた緑の絨毯となっていた。

 その中央付近に、ひっそりと存在する赤い毛玉。いや、それこそがヒナだと思う。小さくても、生命探知には眩く輝く赤い光が見えている。タートが、ヒナは莫大な魔力に目覚めたと言っていたから、赤い毛玉はヒナで間違い無いだろう。


 その時、ヒナはモゾモゾと動き、頭を上げた。直ぐにあたしは声を掛ける。


「ヒナ! こんな所に居たのね! さ、タート達の所に戻ろう? って言うか、その体どうしたの!? 小さくなって! それに泉の水が無くなってるし、巨木の代わりに小さな木がたくさん生えてるし……。ヒナ、危ない事したの?」


 幼いヒナにこんな事を聞いても仕方ないと思うけど、危ない事をしたんじゃないかと心配になる。それ程、ここの景色は異常だ。


「うんとね、ウチ、すっごく光ってた! それと、おっきな木も燃えてたよ? それで気持ち良くて、寝ちゃったの。起きたらこうなってた!」


 うん、良く分からない答えが返ってきたよ。でも、とにかくヒナが無事で良かった。ヒナが死んじゃったら、たぶんあたしは生きる気力を無くす。その事にあたしは気付いた。


「もう……! 心配掛けちゃダメって言ったでしょ?」

「ごめんね、ママー!」

「はぁ……。まぁ、いっか、無事だったんだし。それに、また毛玉になって可愛くなったから、あたしは嬉しいしね。さて、タート達の所に帰るわよ!」

「はーい!」


 再び小さな赤い毛玉となったヒナを抱え、神速を使ってあたしはタートの所へと戻った。

お読み下さり、真にありがとうございます!

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