力の検証・ミズチ
オイラは歓喜したっす。やっぱ、姐さんに付いて行くって決めたのは正解だったっすね。こんなにあっさり力を得られたんすから!
事の発端は、ユニコーンの聖石を食べた事だったっす。ちょっとモサモサしてたけど、ありゃ美味いっすね! 癖になりそっすわ!
あぁ、いやいや……そうじゃなくて、その聖石を食べたオイラは一晩寝ただけで進化出来たって事っす。
まぁ、聖石を食べられたのは姐さんのお陰っすし、姐さんがとんでもなく強いっすからユニコーンだってあっさり倒せたんすわ。ちょっとばかし危ない場面もありやしたけど。
そんで、今オイラは何をやってるかって言うと、ズバリ! 能力の確認っす!
ぶっちゃけ、姐さんに能力の確認をしとけって言われたからっすけど、やっといて正解だったっす。まぁ、タートの旦那にアドバイスを貰ったんすけどね。……スネイルの旦那って言った方が良いすか?
まぁ、とにかく聞いてくれっす。
「た、タート……だよね……? それにミズチ? え……ヒナも!?」
「何言ってんすか、姐さん? オイラはオイラっすよ? ……あれ? 姐さん、小さくなりやしたか?」
気付いたのは、姐さんからの挨拶で寝床の外へと出た時っすわ。何か、みょーに視点が高いって言うか、視野が広がったって言うか。
それに、力が漲るって言うんすか? まるで自分の体じゃねぇって感じだったんすわ。
「もしかしてオイラ……進化してるっすか!?」
「進化どころじゃないわよ!! まるでミニチュアドラゴンじゃない! ミミズのまま付き纏われるのは嫌だけど、今の姿ならカッコいいからオッケーよ!」
「うむ。ミズチもしっかりと進化した様じゃの。ところでビアンカちゃんや。ワシの姿はどうなっておるかの? ミズチやヒナが進化しておるのじゃ……ワシも進化しておるのじゃろう? どうじゃ? より賢者らしく進化しておるかの?」
ミミズの姿じゃ無くて、ヘビっす、姐さん!
今となっちゃあどうでもいいっすね、ミミズの姿なんぞは。それよりも、姐さんにカッコいいって言われた事の方が重要っす。何せ、ずっと付いて行くって事を認めてもらえたんすからね! どこまでも御一緒させて頂きやす、姐さん!
そんなオイラの喜びの陰で、タートの旦那は項垂れてやした。何故って……
「タートも進化してるわね。でも……どこかの大魔王みたいな姿よ? キノコの王国を侵略してそう……」
「――ッ!!!? だ、大魔王……じゃと!!!?」
……大魔王って言うのが何だか知らねっすけど、オイラからすればタートの旦那の姿は惚れぼれしやすぜ?
なんて一悶着がありやしたけど、とりあえずは朝食になりやした。昨夜の残りのユニコーンの肉だったんすけど、姐さんがほとんど喰っちまったもんだから、今朝は物足りなかったっす。あ、オイラ達の体がデカくなったからってのもありやすね。美味かったから文句は無いっすけど。
オイラもヒナちゃんみたいに炎でも喰えれば良いんすが、今度試してみやすかね? 炎は無理っすけど、オイラは元々ミミズだったっすから、土なんかは今でも喰える筈っす。肉の味を覚えちまったっすから肉の方が良いんすが。
「今日は移動しないから、それぞれ新たな力の検証をする様にね! 自分の力を知って、それをしっかりと自分の物に出来れば、間違い無く神獣への近道になるからね!」
「……大魔王……じゃと……? 賢者と呼ばれたワシが大魔王……」
朝食後、姐さんから新たな力の検証を行えって言われたっす。確かに姐さんの言う通りっすね。千里の道も一歩からって言うくらいっすから、先ずは自分の力を知る事から始めるのが神獣への一歩っす。出来る事を一つ一つこなしていけば、オイラでもきっと神獣ってやつになれる筈っすからね! ……姐さん頼りっすけど。
こうして、オイラは力の検証を行うべく、姐さんがユニコーンを仕留めた辺りまで移動したっす。ここなら姐さんも来ないだろうし、ヒナちゃんだって来ねえ筈っす。それに、大魔王と言われて落ち込んでたタートの旦那も来ねえだろうし、昨日の今日で敵だって現れねぇ。思う存分力が試せるってもんすわ。
「先ずは、立派になったこの顎からっすね。――グアアアアオオオオオッ!!!!」
近くの巨木の幹へと、鋭い牙が生え揃い凶悪となった口を目一杯開いて噛み付く。今までのオイラと違い、驚く程に開く顎にオイラ自身不思議な気持ちっすわ。ミミズの様な体だった今まではほとんど開かなかった口が、今では180度以上開くんすよ? 何でも噛み砕けそうな気がするっす。
――メキメキメキッ!! バキッメキッグシャッ!!!!
「軽く噛み付いただけっすけど、容易く噛み砕けたっす!!」
幹を半分程抉り取られた巨木はゆっくりと、だが激しく音を起てながら倒れたっす。喰うつもりは無いっすけど、巨木の命を奪った事に軽く罪悪感を覚えやした。植物だって生きてやすからね。
しかし今はそれよりも、オイラ自身の力に興奮するっす。今なら、例え金剛石でも噛み砕けるだろうと確信しやした。
「顎の力は把握したっす。次は……この鉤爪っすね。倒しちまった巨木で試させてもらうっす」
凶悪な顎と、太く強靭になった後ろ足に対して、手に相当する前足は非常に短く、体付きからすれば貧相に感じたっす。だけど、三本指には太く鋭い爪が生えており、何にでも突き刺せそうだし、引き裂けそうっす。
オイラは両手の鉤爪を、徐ろに倒しちまった巨木へと突き刺しやした。
――バキバキバキバキッ!!!!
「こんなにあっさり!?」
巨木は、オイラが突き刺した所からいとも容易く二つに引き裂く事が出来たっす。どう見ても力が無さそうな腕だけど、尋常じゃない膂力に再び驚きやした。
生きた獲物を鉤爪で引き裂き喰らう。オイラが夢にまで見た事が、現実の物として可能になったって事っす。俄然、神獣になる為のヤル気が増すってもんすね。
「次で最後になるっすかね? もちろん最後はこの脚力っす! ……背中の皮膜の羽は無視するっす。飛べなかったっすし。……と、とにかく、こんなちっぽけな腕でさえあんな力があったっす。走ったり跳躍するのが楽しみっすね!」
なんて時だったっす、タートの旦那がオイラの下を訪ねて来たのは。
「ミズチや。お主の新しい力について、自分自身分からぬ事が有るじゃろ? ワシのスネイルがお主の力を見極めてやろう」
旦那は、姐さんに大魔王呼ばわりされてた事から立ち直ったっすかね? なんて事を思ったオイラは、旦那の股間に目が釘付けになったっす。ユニコーンと同じく、旦那の股間には立派なヘビが生えてたんすから。
「だ、旦那……? そ、そのヘビはいったい!?」
「うむ。これはの? ワシの新たな力となったスネイルじゃ! スネイルの能力は分析力や解析力といった物じゃ。正に、賢者としてのワシの力に相応しかろう?」
「シャー、オレはスネイル。よろしくシャー。お前の力は溶かす力。水の力が強化された、シャー」
「よろしくっす……。って、ええっ!? オイラの力って、尋常じゃない力じゃないんすか!?」
旦那のヘビ……スネイルの旦那は、オイラの目をジーッと見つめながら力について語ってくれたっす。
しかし、オイラはカッコ良くなった見た目と尋常じゃない力に満足してたって言うのに、実際は別の新しい力があったって事にビックリしたっす。嘘を吐いてる……って事は無いっすよね?
「何か分からぬ事があれば、またワシを頼るが良い。それじゃワシはビアンカちゃんの所に戻るとするかの。明日は荒野に向けて移動する筈じゃから、ミズチも力の検証を程々に切り上げて戻って来るのじゃぞ?」
タートの旦那はそう言うと、ゆったりと、それこそ賢者の歩みの如く悠然と歩き去っていったっす。
「オイラの力は溶かす力……。それってもしかして!?」
しばらく呆然とその事を考えてたっすけど、結局オイラは本能でそれを理解したっす。自慢じゃ無いっすけど、オイラも頭は悪いっす。
つまりオイラの力は、涎だろうが小便だろうが、オイラが魔力を込めれば何だって溶かす事が出来るって事っす。更に言えば、水蒸気を含む吐息に魔力を込めれば、『腐蝕する吐息』を吐く事だって出来やす。この先、間違い無く姐さん達の役に立つ力をオイラは手に入れたって事っす。頑張りやすぜ?
「『腐蝕する吐息!』グアアアアオオオオオッ!!」
口に魔力を集めた後、吐息に魔力を込めて放ったブレスは、オイラが噛み砕き倒した巨木を跡形も無く溶かしやした。ジュウジュウと溶ける巨木は少しグロテスクだけど、その様子に満足したオイラは、鼻歌交じりに姐さん達の所へと戻ったっす。
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