表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/43

ユニコーン

 

 首から上が焼滅した真っ白なウマを、タートとヒナが待つ場所へと運ぶ。獣人形態ではとても運べないので、白虎形態のまま口で足を咥えて引き摺りながらだ。

 今のあたしは4mを誇る巨体だ。ウマが幾ら大きいとは言え、体長3mくらいなら口に咥えて運ぶ事は造作も無い。

 ちなみに、ミズチはあたしの頭の上に乗ってる。相変わらず気持ち悪く感じるけど、あたしを救ってくれたのだから無碍には出来ない。


「ふぁふぁいまぁ(ただいまぁ)!」

「おかえりじゃの、ビア……ンカ……ちゃん!? ビアンカちゃん、じゃよな……?」

「おかえり、ママー!」

「ヒナが怯えておらん所を見ると、ビアンカちゃんで間違い無さそうじゃの」


 ウマを口に咥えたままだったから発音がハッキリしなかったけど、しっかりと挨拶をしたあたしを、タートは訝しげな雰囲気で出迎えた。幾ら体が大きくなったとは言え、あたしの匂いや姿を疑うなんて酷いと思う。ウマの肉、あげないわよ?


「ウマ、狩って来たから食べましょ!」

「そうじゃな、鮮度が落ちん内に食べるとするかの」

「ウマー!」

「…………」


 あたしの言葉で、みんなでウマの肉を食べ始める。あたしは聖石を食べる為に、真っ先に腹へと齧り付いた。聖石は心臓の辺りに有るからね。

 ヒナは体が大きくなったからか、あたしが細かく噛み砕かなくても食べられる様になったみたい。赤い毛玉が一生懸命にウマの皮を啄んでる。あ、肉に到達出来たみたいね。肉を引きちぎろうとする一生懸命な姿にほっこりした。

 タートは焼き目の付いた首から食べてるわね。血が出ない焼けた肉なんて美味しいのだろうか?


「そう言えば、ミズチは黙ったまんま食べないけど、ウマの肉は好みじゃないの?」


 心臓付近まで食べ進めた所でその事に気付き、ミズチへと問い掛けた。好みじゃないなら、先に言ってくれれば他の獲物も狩ったのに。


「いや、食べますぜ、姐さん。ただ、このウマも聖獣だったかもしれないって思ったら、オイラの力はまだまだなんだなって感じてたんだ。胴体を切断するつもりだったのに、()()しか切れなかったし。もちろん、オイラは姐さんには敵わねぇ。それは分かってる。だけど、一生姐さんに付いて行くなら、オイラはこのウマなんか足元にも及ばない程に強くならなくちゃなんねぇ。それを考えてたんですぜ」

「……食べないなら、あたしが全部食べちゃうわよ?」


 何やら小難しい事を考えてた様だけど、食べないなら、あたしが最後まで美味しく食べる。だって、ウマの肉はあっさりとしてるのにコクがあって、そこに適度な脂肪がアクセントとなってるから幾らでも食べられそうなんだもん。


「だから、食べますって!」


 白虎形態のまま食べてるものだから、あっという間に心臓まで食べ終えてしまった。ミズチとの話に耳を傾けてないで、もっと心臓を味わえば良かった。勿体ない。

 そんな事を思った時、ウマの心臓の裏辺りから聖石がコロコロンと地面に落ちて来た。


「そう……残念ね。あ、聖石見付けた」

「んむ? 聖石とな? 然らば、このウマはミズチの言う様に聖獣候補で間違い無いという事じゃな」


 聖石という言葉に、耳聡くタートが反応を示した。どうやら、思ったより老化は進んでないみたい。……カメの寿命なんて知らないから本当に老カメなのかは分からないけど、耳が達者なのは確かね。


「あ、そうだ! 聖獣候補で思い出したけど、ねぇ、タート……あの、その……し、シンボルって……切れてもまた生えてくるの?」

「ブハッ!!!? ガハッ――! ゴホッゲホッ!」


 汚いわね、タート。それに、吐き出したら肉が勿体ないじゃない。

 それはともかく、そんなに()せそうになる程変な事を訊いたかしら? あたしは分からないからタート博士に訊いたんだけど。


「何でまたその様な事を!? 聞いておるだけで背筋が凍るが疑問には答えるかの。……って、生えるかぁっ!!!!」

「やっぱり!?」


 そうだよねぇ……。生えるなんて変だとあたしも思ったんだぁ。

 でも、シンボルの事を考えるとお腹が熱くなるのは何故だろう? しかも、何だかまた失禁しそうだし。どうしちゃったのかしら、あたし。


「まぁ何となくじゃが、ビアンカちゃんが疑問に思う気持ちも分からんでもない。ともあれ、先ずはそう思った経緯と、恐らくその原因となったこのウマの事を聞かせてくれんかの?」


 体の変な不調を感じていたあたしに、タートはそう言った。下腹部の疼きはともかく、あたしはタートに経緯を話し始める。……失禁した事は黙っておくけど。


「何じゃと!? それが真ならば、このウマ……いや、ユニコーン(一角馬)にビアンカちゃんが喰われる寸前じゃったのをミズチが救うたという事か! でかしたぞい、ミズチや。やはりお主を連れて行かせて正解じゃったな」

「タートの旦那にそう言ってもらえて、オイラも誇らしいですぜ! 役に立つ事を証明出来ただけでも本当に良かった!」

「うん、あたしもミズチのお陰で助かったよ。小さいのにやるわね、ミズチ!」

「へへへ……♪」

「ミミズー、すごーい!」


 まだ話の途中だけど、ミズチの活躍をみんなで褒める。ヒナがまだ名前を覚えてないけど、このままミズチが活躍すればいずれ覚えてもらえるだろう。良かったね、ミズチ!


 ひとしきりミズチを褒めた所で、あたしは続きを話した。ここまでの話でウマがユニコーンという事は分かったけど、そのユニコーンが何なのかが分からない。説明をお願いします、タート博士!


「うむ。ユニコーンとは……聖獣じゃ。じゃがこのアガルタにおいて、聖獣のままと言うのは変じゃ。この世界は聖獣になる為に創られた世界じゃからな。もしかしたらこのユニコーンも、ビアンカちゃんに力を授けた『トラ』やサルの『ハヌマン』と同じ存在かもしれんのぅ。


 …………。


 じゃが、待てよ? いや、そうとしか考えられん……!


 ここからはワシの推測なのじゃが、このアガルタは聖獣では無く、神獣を生み出す為の世界なのかもしれん。本来であれば、このユニコーンやハヌマンは聖獣として他の世界へと旅立っていてもおかしくない程の力の持ち主の筈じゃ。現に、ビアンカちゃんがユニコーンに喰われそうになっておる事でもそれは確かじゃ。じゃが、こやつらは未だにアガルタにおった。それを踏まえると、やはり神は神獣を求めておるのやもしれんな。となれば、じゃ。アガルタから旅立つ先の世界は、神獣程の力が無いと平和な世界に変える事が出来ぬ世界と考える事も出来る。これからはワシらも、神獣を目指して頑張らねばなるまいのぉ」


 うん、難し過ぎて分からない。でも、何となくユニコーンとやらが聖獣だったって事は分かった。


「しかし……良かったのぅ、ビアンカちゃんや。ミズチが間に合わなければ、ビアンカちゃんの貞操はユニコーンめに犯されておったじゃろう。ビアンカちゃんとて、望まぬ相手とは嫌じゃろう?」

「た、確かに……!」


 シンボルの事を考えると変な気分になるけど、好きでもないのにそういう事をされるのは絶対嫌だ。それにしても、とんでもない変態ね、ユニコーンは。これじゃ聖獣と言うより性獣だよ……!


 ……あ、上手い事言った、あたし♪


「姐さん。話は終わりですかい? それでなんですが、ユニコーンの聖石が四つあるけど、どうするんで?」

「一つずつ食べれば良いんじゃない?」


 そうなのだ。ミズチが言う様に、ユニコーンから出て来た聖石は四つ。大きなのから小さいのまで、ちょうどあたし達の体のサイズに合った物が四つ出て来たのだ。

 今まで、聖獣候補一体につき聖石は一つしか無かった。だけど四つも出て来たって事は、聖獣としての力を得ると、それに伴って聖石の数も増えるのかもしれない。

 そう考えると、あたしの聖石も幾つもあるのかしら?


「こ、これ……オイラもいただいてよろしいんで?」

「ワシ、要らんのじゃがのぅ……不味そうじゃし」

「うち、食べるー!」

「あ、この聖石は柔らかいから、タートもヒナも、それにミズチも食べられるわよ? ……タートが言う様に味は不味いと思うけど」


 あたしが今言ったけど、聖石の味は最低な程不味い。すっごく苦い上に、とんでもなく臭いのだ。まるで、うん……を食べるみたいに。


「あ、ワシ、お腹いっぱいじゃった! じゃから、ビアンカちゃんが――」

「ダメよ! あたしが一番大きなのを食べてあげるんだから、タートも食べて!」

「むうぅ……!」

「みんなで、いっせーのーせっ! て、食べればいけるわよ! ……たぶん」


 という訳で、あたしはみんなの前にそれぞれに適した大きさの聖石を並べた。あたしが一番大きくて、ミズチに一番小さな物を、だ。


 タートとミズチから生唾を呑む音が聞こえたけど、それを合図にあたしは掛け声をかけ、みんなで同時に聖石を口へと入れた。

お読み下さり、真にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ