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ウマ……?

 

 ミズチを手に乗せたあたしは、今夜の獲物を求めて森を彷徨う。ミズチはご機嫌に鼻歌を歌っているけど、手の平で蠢くミズチの感触が気持ち悪い。思わず投げ捨てようかと思ってしまった。


「姐さん? 今、変な事考えました?」


 ――ギクッ!


「……ううん、気のせいよ?」

「なら、良いんだけど。何やら負の思念を感じたもので」


 体が小さいからなのか、ミズチは意外と鋭い。でも、もしかしたらこの勘の良さもミズチの力の一部なのかもしれない。危機回避能力とでも言えば良いのか、この力は役に立ちそうだ。


「今夜は中々獲物が見付からないわねぇ……。なんだか、(もや)がかって来たし。ミズチは何か感じる? 例えば、美味しそうな匂いとか」


 勘の鋭い……と思われるミズチに、あたしはそう訊いてみる。あたしには感じられないけど、もしかしたらミズチは感じたかもしれないからね。


「うーん……美味しそうな匂いはしないけど、この先に何やら居そうな気がしやす。ただ、この森にはサルの他にも力を持った奴が居るから、姐さんも気を引き締めた方が良いですぜ」

「そう、分かったわ」


 それから30分程かしら。手の平にミズチを乗せたまま進んだ所で、凄く甘い香りがあたしの鼻腔を刺激した。それを感じた瞬間、辺りの靄が急激に濃くなる。まるで靄そのものが匂いを発してるみたいだ。


「何だろう? 凄く良い匂いがする……」

「姐さん? オイラには何も匂わないですぜ?」

「あっちの方……」

「姐さん!?」


 凄く良い匂い。甘くて、蕩ける様で、体が火照って来る様な、そんな匂い。匂いに誘われるまま、あたしはそちらへと向かって進み始めた。ミズチが何かを言ってる様だけど、そんな事はどうでもいい。とにかく匂いの元に行かないと。


「あれ?」


 何だかアソコが濡れてる気がするけど、失禁したのかしら、あたし? そんな事どうでもいい、急がないと。


「姐さん! 姐さん!? どうしちまったんだよ、姐さん!!」


 ミズチがあたしの顔を見ながら喚いているけど、何を言ってるのか聞き取れない。だんだん鬱陶しく感じて来る。いいや、捨ててしまえ。


「姐さん……!!」


 あたしはミズチを地面へと放り投げ、匂いの元へと走り出した。


 靄と言うより、もはや濃霧の中を走っているけど、不思議と巨木にはぶつからない。それよりもだんだんと強くなる匂いに体が悦んでる。後、少しだ。


「綺麗……。アナタは誰……? ああああ……♡」


 前世を含め、生まれて初めて感じる快感に、あたしは立っている事が出来ずにへなへなと力無く座り込んだ。何故力が抜けたのだろうと足を見ると、地面に水溜まりが出来ているのに気付く。また……失禁しちゃったみたい。


「ほう……! これはこれは美しいお嬢さん。私の匂いに誘われ、ようこそ私の元へといらっしゃいました。謹んで貴女の処女を喰らい、私の糧と致しましょう」


 あたしの目の前には、全身が真っ白で巨大なウマが佇んでいた。だけど、普通のウマじゃないみたい。額から一本の立派な角が生えている。

 あ、(たてがみ)も真っ白で綺麗。だけど、獅子の様に猛々しくて素敵。尻尾の毛もなんて立派なんだろう。この綺麗なウマの糧になれるあたしは幸せ者だ。


「立て。自らの足で私の傍へと来い。そして足を開くのだ」

「はい……♡」


 ウマの言葉一つ一つが気持ち良い。体の芯から蕩けてくる。でもどうしよう……おしっこが止まらない。凄く恥ずかしいよぉ……!


「来たな。こちらへと尻を向け、そして足を開くのだ」

「はい♡ ああ、ああああ……♡」


 天にも昇る気分とはこの事だろう。体の芯から快感が押し寄せて来る。ウマの言う通りにしたけど、立ってる事さえやっとだ。早く……早くあたしを糧にして!!


 その時を待ちわびながらウマの方をチラッと見ると、その股間から伸びたシンボルがあたしへと迫っていた。何かを探す様に蠢いている。まるでヘビみたいだ。

 そのヘビであたしを糧にするのだろうか。そう思っていると、ヘビは探し物を見付けたのか、糧になるのを待ちわびるあたしの股間へと近付いて来た。


「では、頂くとしよう」


 その言葉に、その瞬間が来た事を感じ、あたしは快感のあまり気が遠のきかけた。


「危ない、姐さん!! 『ウォーターブレード(水流の刃)!』」

「何っ!? グアアアアアアッ!!!!!!」


 何だろう。あたしの体に温かい液体が降り注いでいる。赤い色の液体……あ、血だ。


「……え? 血?」

「姐さん! どうしちまったんですか!! オイラが間に合わなかったら、姐さんはあのウマに喰われてましたぜ!?」


 何故、あたしが喰われるんだろう。と言うか、あたしは何をしてたんだっけ?

 確か、ミミズ……ううん、ミズチだ。ミズチを手に乗せて歩いてて……何で歩いてたんだっけ? ああ、そうだ。獲物を狩るのに探してたんだっけ。

 それで甘い香りがして……だんだん気持ち良くなって……!?


「ミズチ、ごめん!」

「気付いたんすね、姐さん!」


 意識がハッキリした。どうやらあたしはウマの罠にかかっていたみたい。


「クソッ! 俺様のシンボルをよくも切断してくれたな! だが、時間が経てばまた生えてくる。今回、処女は頂けなかったが、貴様らを糧にする事は変わらねぇ。大人しく俺様に喰われやがれぇ!! ブヒヒヒーーンッ!」


 あ、アレって、また生えてくる物なの? 知らなかったよ……! で、でも、何だかエイリアンみたいだし、生えてくると言えば生えてきそうよね。


 それ所じゃなかった!


「助かったよ、ミズチ! 後はあたしに任せて隠れてて!」

「了解っす、姐さん!」


 驚く事に、ウマのシンボルからの出血は止まってる。……そこから目を離せ、あたし!


 ウマは一度棹立ちになった後、猛然とあたしに向けて走り出した。額の一本角を真っ直ぐあたしに向けてる事から、その角で串刺しにするつもりだろう。

 だけど、そう簡単に殺られるあたしじゃない。ハヌマンから得た力でねじ伏せてやる!


「『変身!』――グルルルアアアアッ! 『炎の爪(ファイアクロー)!』ガルアアアアアアッ!」


 巨大な白虎形態となったあたしは、ウマの角があたしに突き刺さる瞬間を見計らって右前足で炎の爪を振るった。カウンター狙いだ。

 この姿は、やはり身体能力も強化されてるみたいね。視力も上がって、ウマの突撃がスローモーションに見える。ウマの立派な一本角はあたしの一撃により根元から圧し折れた。カルシウム不足かしら? そんな事さえ頭を過ぎる。


「何っ!? ギャアアアアアア! 俺様の角が!? 角がああアアア!!!!」


 角が圧し折れると同時、真っ白なウマの体は青白い炎に包まれる。炎の熱さよりも、ウマは角を折られた激痛に気を取られていた。だけど、炎の熱さに気付くのも時間の問題だろう。


「その前にトドメを刺してあげる。『ファイアスピアー(炎の槍)!』ガルルルアアアアッ!」


 炎に包まれ、角が折れた激痛にのたうち回るウマの頭上から、炎の槍をその頭へと放つ。それと同時、辺りへと魔力を充満させた。炎の槍をイメージの力でより凶悪な威力へと変える為だ。

 青白い炎の槍にイメージの力が集まり、ウマの頭に突き刺さる瞬間に槍は眩い白光と化した。


「角がアアアああァァあアああ……!?……!!」


 どれ程の高温だったんだろう。ウマの頭は瞬時に蒸発した。だけど、それを考える前にイメージの力で槍を解除しよう。地面に刺さったと同時に、もしも爆発なんてしたらミズチが危ない。


「消えろ!」


 その言葉と同時に槍は消滅した。やはりこの力はチートね。無限の魔力もチートだと思うけど。


「あ、霧も晴れた。あれ? 甘い匂いも消えてる……?」

「あ、姐さん……? ですよね?」


 どこに隠れてたのか分からないけど、ミズチはいつの間にかあたしの足元に居て、恐る恐る問い掛けて来た。


「あ、そうか! ハヌマンを倒した事は気配で感じたからミズチも知ってるけど、あたしが白虎ってのは知らなかったのね。大丈夫。あたしはビアンカだよ」

「ホッ。しかし、姐さんは恐ろしい強さだ。オイラ、一生姐さんに付いて行きやす!」


 ヘビに一生付き纏われるなんて嫌だけど、ミズチが聖獣として進化するなら構わないかな。


 ウマの死体を前に、あたしはぼんやりとそんな事を思っていた。

お読み下さり、真にありがとうございます!

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