チート
「分身魔法は理解したけど、後はイメージ通りに魔法を操るって力よね」
ハヌマンから手に入れた力は、無限の魔力と魔法をイメージ通りに放つ力、それと夢の中で魂と話す事の出来る力の三つだけど、魂と話す力の検証は『トラ』と話せたから省くとして、イメージ通りの魔法を放つ力が良く分からないわよね。
だいたい、今まであたしが使ってた魔法は全てあたしのイメージした通りの魔法だったのに、それと同じ様な力って意味が分からないよ。
まさか、木が燃えろって念じただけで燃える訳無いし。
……念じる? いやいや、まさかまさか。そんな事……無いわよねぇ?
でも、色んな可能性があるかもしれないから検証してる訳だし、試してみる価値はあるよね……!
「燃えろ!」
という訳で、少し離れた所に生えてる細い木に集中し、一言だけ言ってみた。
「ほら、ね? さすがに燃える訳無いよね」
でも、イメージ通りの魔法って言うんだから、魔力を使わなければ魔法になる訳無いよね。
だったら、あたしの見える範囲に魔力を充満させたらどうなる?
その事を踏まえ、あたしは見える範囲に魔力を放出した。イメージとしては、濃霧に包まれてる感じだろうか。魔力をハッキリとは目視出来ないから、充満してるかはいまいち分からないけど。
「何となくだけど、あたしの魔力が見える範囲に広がったみたいね。……コホン。燃えろ……!」
先程の細い木へと意識を集中し、燃えるイメージをしながら言葉を発した。
――ゴウッ!!!
言葉を発した次の瞬間、その細い木は一瞬で全てが青白い豪炎に包まれる。
「あは……あははは……これはヤバい! 消えろ!」
さっきと同じく燃えている木に集中し、消えるイメージをしながらそう言ったら、燃えていたのが嘘の様に一瞬で消火した。
イメージ通りの魔法。そのあまりのチートっぷりに冷や汗が出て来る。ハヌマンの持つ属性が無属性だったからあたしは勝てたけど、属性持ちだったら負けていたのはあたしの方だろう。今更だけど、勝てて良かった。
「イメージ通りの魔法がチートなのは分かった。後は、『パワーアップ』ってハヌマンがゴリラになった事の検証ね」
ハヌマンは、無属性だったからこそ身体能力の強化に無限の魔力を使ったと思う。しかも、ゴリラに変身するという不思議な強化で。
それをあたしが使ってみたらどうなるだろうか。但し、ゴリラになるイメージはしない。あんな姿になるのはさすがにごめんだ。あたしだって女の子、醜い姿は許せない。
「ゴリラにはなりたくないけど、体が変化するって言うなら、やっぱりあの姿よね。『変身!』」
という事で、前世のあたしの夢だった変身をイメージしてみた。魔法少女シリーズは欠かさず観ていたのだ。その姿になれるのなら、なんて素敵な事だろう!
そう思いながら変身と唱える。すると、あたしの体内で魔力が膨張し、体中に広がると同時に体が変化して行くのが分かった。
「あ、あれ? これじゃ魔法少女じゃ――ガルルルアアアア!!」
あたしの体は……白虎の姿へと戻っていた。
だけど、今までの白虎の姿とは違う。サーベルタイガーっぽい姿は変わらないけど、今までの倍の大きさになっていたのだ。
今までは体長2mで体高が1・2mだったものが、体長4mになり、体高も2・5mへとなっている。あたしの大好きだったママと同じ大きさになっていた。
「グル? ガル……アア……アー、あー。あ、喋れた」
白虎の姿へと変わり、以前と同じ様に咆哮を上げちゃったからビックリしたけど、落ち着いて発声したら言葉を話せた。言葉って、大事よね!
「それはともかく……凄いよ、これ! 力が溢れて来る!」
体長が倍になったからなのか、それとも、同時に身体能力も強化されたのか……体中に力が漲っている。爆発しそうな程だ。
「試しに『炎の爪』で木の幹を攻撃してみよっかな。グルルアアアアッ!!」
何日かぶりに両前足の爪に青白い炎を纏わせ、先程燃やした木とは違う巨木へと近付き、おもむろに爪を振るってみる。すると、軽く攻撃しただけなのにあっさりと幹を切り裂き、更に巨木を炎に包みながら10m程吹き飛ばした。
「嘘……でしょ……?」
自分でやっておきながら、あまりの威力に思わず呆然としてしまった。
魔力で作った分身体の力に驚いたあたしだったけど、それ以上の今の力が信じられない。だって、本当に軽く攻撃してみただけだよ? それなのにこの威力。自分の力なのに、驚き過ぎていつの間にか失禁していた。
「あ……漏らしてる……。そう言えばマーキングするの忘れてた。ま、いっか。でも、まさかこれ程の力があるとは思わなかったよ。それに、心做しか体全体に炎を纏ってるみたいだし。体毛があっという間に乾いてくれたから、良かったと言えば良かったけどね」
匂いはともかく、後ろ足を伝った水分が乾いてくれたから、気持ち悪い思いをしなくて済んだ。
「魔法少女にはなれなかったけど、これはこれで『あり』よね。さて、獲物を狩ってタートとヒナの所に戻ろっと。……このままの姿で狩ってみるか」
両前足の炎を消し、白虎の姿のままで獲物を探し、何故か一頭だけ居た豚を仕留めて泉近くの仮の寝床へと戻った。あ、吹き飛ばした巨木の炎は消したわよ? そのままだと森林火災になっちゃうからね。
タート達に近付く前、白虎から獣人の姿に戻る事を忘れずに行う。倍の大きさになったあたしを見たら、間違いなくヒナに恐がられるからね。
「ただいまぁー! 豚を狩って来たわよ!」
「おお、ビアンカちゃんや、おかえりじゃの。豚はしつこいからあまり好かんのじゃが、文句は言えんの。すまんが、いつもの様にワシの前に切り分けて置いてくれんかのぉ」
「うん、分かってるよ。はい、どうぞ! ……そう言えば、ヒナは?」
「んむ? 少し前までその辺に居た筈じゃが……?」
豚の肉を切り分けてからタートの前に置き、ヒナの分を細かく噛み砕こうとした所でヒナの姿が見えない事に気付いた。
「まさか……! あたしの居ない間に狩られたんじゃ……!?」
嫌な胸騒ぎがする。ハヌマンを倒した事で、この辺りに敵は居ないと思い込んでいたけど、このアガルタという世界はそんなに甘い世界じゃない。恐るべき弱肉強食の世界なのだ。僅かな隙が命取りとなってしまうのだから。
「うー、大人しくしんさい! あ、ママー! うち、獲物を捕らえたんよー!」
「良かったぁ……! もう! 勝手にどこかに行ったらダメでしょ! ……って、ヒナ? その嘴で咥えてる青くて細長いのは何なの!?」
ヒナが元気に戻って来た事にホッとしたけど、その嘴で蠢く存在にあたしは度肝を抜かれた。
「ミミズー!」
「ほぅ……! ヒナや、自分で獲物を捕るとは成長したのぉ!」
「は、離せ! オイラは聖獣だぞ!? ……その内だけど。ギャー! 痛い痛い、噛まないで!」
「しゃ、喋った!? ミミズが喋るなんて嘘でしょ!? って言うか、聖獣候補なの!?」
ヒナの嘴に咥えられた青いミミズは、何とか嘴から逃れようともがきながら言葉を話した。
聖獣候補が喋れる事は分かってるけど、その聖獣候補が獣以外に居るとは思わなかった。まさか……ミミズだとは……!
驚いてる場合じゃない。ヒナには悪いけど、ミミズを離してもらわないと!
「ヒナ! そんな物を食べるんじゃありません! お腹を壊すから、ペッてしなさい! ペッて!」
「お腹壊しちゃうの……? ペッ!」
「た、助かった……。お嬢ちゃん助かったぜ、ありがとな!」
ヒナが素直で良かった。ヒナは火食鳥と言っても鳥だからミミズも食べるんだろうけど、あたしが嫌いなミミズを食べてる姿は見たくない。……嫌いなヘビを食べたあたしが言えた義理では無いけど。
「ど、どういたしまして……。で、あんた、聖獣候補なの?」
「オイラは聖獣だぞ! 魔法だって使えるんだからな! 見せてやる! 『ウォータースピア!』」
聖獣候補じゃなくて聖獣だと豪語するミミズは、頭と思われる方の先端から針の様な水の槍を放った。
お読み下さり、真にありがとうございます!




