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狩り

今年最後の更新となります。

 

 ヒナの成長に驚きながらも、あたしは念の為として、タートが回復するまでの仮の寝床としている泉の周りへとマーキングをした。

 ただ、今までの白虎としての体とは違い、マーキングをするのも勝手が違う。四つ足で歩く白虎の時は、軽く後ろ足を曲げて木などの目標物に向けて噴射する様にマーキングすれば良かったのだけど、人間と同じ体の造りである獣人形態では、目標物にマーキングをするのも大変だ。

 あたしがオス……人間で言えば男ならば、竿状の物が付いているので目標物にマーキングをするのも楽だけど、残念な事にあたしはメスだ。上手い具合いにマーキングする事が出来ない。

 散々試行錯誤した挙句、目標物に直接触れてマーキングする方法へと行き着いた。


「獣人になったのは良いけど、マーキングするのが大変……。まぁ、直接触れてすれば問題ないけど、少し……変な気分になっちゃうわね。……これも、前世の変な知識のせいね」


 マーキングをする事に恥ずかしさは無いけど、少しだけ変な気持ちになりつつもそれを終え、タートとあたしのお腹を満たすべく狩りへと出発した。


「さて、と。タートが言ってたけど、あたしって、神獣としての威圧感が増してるのよね。魔力も、トラが言ってたみたいに無限になってあたしの体から溢れてるみたいだし。あたしに恐れをなして、獲物が逃げてなければ良いけど……」


 ヒナが攻撃魔法を身に付けたのは良いけど、まだ幼いヒナに、敵を追い払う力は無い筈。ましてや、タートを守るにも力不足は否めない。

 早く狩りを終えて戻らなければ、とてもじゃないけど安心出来ない。


「良かった……! 獲物の匂いがする! 逃げられる前に仕留めないとね」


 匂いからして、恐らくはタヌキかキツネだろう。ウサギを食い荒らしたイヌと似た匂いがしている。

 どちらでも狩れるならば良いけど、キツネよりもタヌキの方が食べられる量も多いし、味もタヌキの方が上だ。

 前世の記憶でも、キツネを食べるよりもタヌキを食べた方が美味しいと覚えてる。……前世のあたしは食べた事無いけど。


 そんな事を考えつつも姿勢を低くし、匂いを辿って獲物の傍へと向かう。より人間に近い獣人となった為に、獲物に近付くのにも一苦労だけど、ほふく前進で獲物に近付いた。


「見付けた……!」


 見付けたのはタヌキだった。食べ物を探しているのだろう、巨木の根元付近の地面に鼻先を押し付ける様にして掘っている。時おり、前足を使って掘る姿も見られるけど、何も見付からなかったのかその場を後にした。


「風向きは……うん、向こうが風上だ。次に動きを止めた時に狩ろう」


 風向きを確認して、あたしの匂いが風に乗ってタヌキへと行かない様に気を付ける。これは狩りの鉄則だ。

 あたしもそうだけど、獣は嗅覚が鋭い。音で敵を察知するよりも、匂いで察知した方が確実だからだ。

 音だけで察知しようとしても、音を立てない様に近付かれると、逃げるにしても対処する時間の間も無く狩られてしまう。だからこその嗅覚なのだ。

 鋭く発達した嗅覚ならば、風上に敵がいた場合に限るけど、例え数km離れていても察知する事が可能だ。敵が近付いてきても、危険域に入って来られる前に逃げる事が出来る。音だけではこうは行かない。

 という訳で、狩りは風下から行う事が鉄則なのだ。まぁそれでも、ある程度の距離まで近付くと風下に居ようが匂いは伝わってしまうけど。

 そこからは狩りの腕前がものを言うのだ。獣人になってしまったとは言え、あたしは白虎。その腕前を見せる時が来たわね!


「今がチャンス……!」


 次の巨木の根元付近で、タヌキは再び地面に鼻先を突っ込んだ。狩るには絶好のチャンスだ。あたしは風下からなるべく音を起てない様に近付き、両手の爪に炎を纏わせた後タヌキへと襲い掛かった。


「ミューン!? ミューンッ!!」

「あ、くそっ、この……!」


 ……失敗した。あたしの攻撃が当たる直前、見た目に反して鋭く反応したタヌキは、脇目も振らずに一目散に逃げてしまった。


「考えてみれば、あたし……普通の狩りなんてした事無かったよ……」


 そうなのだ。あたしは、狩りらしい狩りは今回が初めてなのだ。

 ネズミの時は向こうから来てくれたから狩れたし、ニワトリの時だってそうだ。ヘビに至っては言うに及ばず、あたしの巣穴へと侵入して来たのを返り討ちにした。

 ウサギだってそうだ。ウサギの張った罠に掛かり、死闘の挙句倒したのだ。その後のイヌやサルも、結果としてはあたしが襲われた事で倒せている。


「狩りって、難しかったのね……」


 タートには直ぐに狩って来るなんて言っちゃったけど、こんなんじゃそれも出来ない。何か作戦を立てないと……!


「ふふーん! あたしに掛かればざっとこんなもんね! さて、泉に戻って食事にしようっと」


 あたしは、驚く程あっさりとタヌキを狩る事が出来た。これは、作戦を立てた事による成果だろう。

 あたしが立てた作戦とは……『驚きものの木分身大作戦!』という物だ!

 簡単に言えば、吸収したハヌマンの力を使ったのだ。

 ハヌマンは自らの体毛を引き抜き、それを魔法で分身体へと変えた。ならば、ハヌマンの聖石を食べて吸収したあたしにだって出来る筈。そう考え、物は試しとやってみたら分身が作れたのだ。自分の体毛を引き抜くのが凄く痛かったけど。……どこの毛を抜いたのかは言わない。


 分身魔法の原理はあたしには分からない。分からないんだけど、イメージしたら成功した。恐らくだけど、トラが言ってた、ハヌマンが神だった頃の力を一部引き継いだってやつだと思う。イメージで魔法を放てるというのは。

 便利よね、神様って。頭で思い描いて、それに魔力を込めれば魔法になるんだもん。……神様ってチートよね。


 神様がチートかどうかはともかく、あたしは作り出した分身体10体でタヌキをじわりと包囲して、あっさりと仕留める事が出来たという訳。

 でも、分身魔法って……無限の魔力が無いと、とてもじゃないけど使えないわね。使ってみた感じだけど、分身体一体につき、ハヌマンと戦った時のあたしの全魔力を使ってやっと出来る上に、分身体を消さない限り、ずっとその魔力量を使用し続けるんだもん。今までのあたしだったら、きっと魔力切れ死してたと思う。

 これも、聖石を食べれば敵の能力を吸収出来るってトラの力のお陰よね、あたしがハヌマンの能力を獲得出来たのも。


 もう話す事は出来ないけど、本当にありがとう、トラ。トラと一つになれて、あたしは幸せだよ。


「戻ったわよ、タート!」

「うむ、苦労を掛ける……のぅ……!?」


 仕留めたタヌキを両腕で抱え、胸を張ってタート達の所へと戻った。だけど、タートの様子が変だ。口をポカンと開けてプルプルしてる。ボケたのだろうか?


「ママがいっぱいー!」

「あ、忘れてた!」


 無限の魔力を得た為に魔力を消費してる感じがしなくて、分身体を消すのを忘れてた。そんな事って、あるよね? え? 無い? 


「タート、これで食べれる?」

「うむ。すまんのぅ、ビアンカちゃんや」

「ううん、気にしないで、お父つぁん」

「……何じゃ、それは?」


 このくだり、一度やってみたかったのよね。前世で、某大物芸人さんがテレビで繰り広げるコントの一幕で、貧乏長屋に住むお爺ちゃんと孫娘ってやつ。

 あのコントでは、お爺ちゃん役の大物芸人が何度も死んだり生き返ったりとを繰り返して孫娘を困らせ、最終的には孫娘にツッコまれて茶の間を爆笑の渦に巻き込んだっけ。

 まぁ、それを知らないタートにボケを期待しても仕方ないし、むしろ本当にボケてしまいそうだからツッコまない。タートは大切な仲間だからね。


 それはともかく、タヌキの肉を食べやすい様に細かく爪で切り取り、それをタートの前に置いた。


「いただきます!」

「それではいただくとするかの」


 炎を食べたヒナにも細かく噛み砕いたタヌキを与え、あたしもタヌキを食べ始める。うん、この姿でも普通に美味しい。味覚が変わってたらどうしようと思ってたけど、変わってなくて良かった。


「多少癖はあるが、タヌキも美味いもんじゃのぅ。ご馳走様じゃ♪」

「お腹いっぱいー!」

「やっぱり、血が滴る心臓が一番美味しいわね♪ ご馳走様でした!」


 色々あったけど、この先も旅は続けられそうな事にホッと安心した。

お読み下さり、真にありがとうございます!


年明けの更新は六日を予定しております。

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