敵
。∠(*゜∇゜)ノ☆メリークリスマス☆
タートが甲羅から出した木の実を細かく噛み砕いてヒナへと与え、その後、あたし達は仮の寝床での最後の夜を過ごした。数日間とは言え、仮の寝床もこれが最後だと思うと少しだけ寂しい気持ちになって来る。
そんな寂しい気持ちも、朝起きるとすっかり消えていた。
「おはよう、ヒナにタート。北の森に向かうわよ!」
「おはよーママー!」
「北の森から攻めるのじゃな! ……おはよう、ビアンカちゃんにヒナ。この草原とも今日でお別れだと思うと、少し切ない気持ちになるのぅ……。じゃが! 新天地が待ってると思うと、ワクワクした気持ちの方が勝って来るわい! いざ行かん、新天地へ!」
カメは立ち直りが早いのかしら。タートだけ? あ、あたしもだった。
ともあれ、あたし達は再び北の森を目指して出発した。
あ、仮の寝床はウサギの骨と共に埋めたわよ? 『ガイアクリエイト』で地面を操作して、完全に元の何も無かった草原に戻しておいた。
ウサギの骨はそのままでも良かったけど、あたし達と同じ聖獣の資格者だから、供養の意味を込めて埋めたの。ちなみに、供養の意味はタートから教えてもらった。
「『炎の爪!』ガルルルルルッ!!」
「ブキィィィーッ!」
北の森へと入る前、何故か一頭だけでウロウロしていたブタを仕留めた。潰れた鼻で地面を掘っていた所を仕留めたんだけど、何をしていたんだろう?
「さすがビアンカちゃんじゃわい! 今日は新鮮な肉が喰えるのぉ」
「にくー!」
ブタの行動を不思議に思いつつ、今日初めての食事だ。謹んでいただきます。
「うーん。美味しいけど……ちょっと、しつこいわね」
「確かにのぅ……。ワシはもう腹いっぱいじゃ……」
「ごちそーさまー」
ブタは普通の豚だったらしく、聖石は無かった。と言うか、聖獣の資格者なら魔法などで反撃して来るよね。まぁ、心臓は美味しかったからどっちでも良いけど。
豚を食べ終えて少しの食休みをした後、あたし達は北の森へと入った。二度目ともなると、昨日の様な感動は無いわね。木と木の間も広くて歩きやすいし、このまま行ける所まで進もう。
「森はええのぅ。水分に溢れておるのじゃ」
「じーじ、地面に顔が刺さってるよ?」
北の森をしばらく進んだ後、ヒナがお腹が減ったと言うので、休憩がてらその辺に落ちてる木の実を与えてたら、タートが地面に穴を掘って顔を突っ込んでいた。
水分に溢れてるって言ってるくらいだから水分補給をしてるんだろうが、言ってくれれば綺麗な水を出すのに。まったく、タートったら口臭いんだから。……水臭いって言うんだっけ?
「それで、タートは何をやってたの?」
やはり不思議に思ったので、タートに聞いてみた。もしかしたら何かが有るのかもしれないし、もしもそれが食べ物ならば、ヒナも食べられるかもしれない。そう、思ったのだ。
「ん? 腐葉土になりかけの木の葉を喰っておったのじゃよ。カメであるワシは、やはり肉だけでは満足出来んのじゃ。たまには肉以外も食べんと、体が参ってしまうんじゃな。じゃから、発酵して栄養の増した木の葉を喰ったのじゃよ」
「じーじ、土食べたー!」
「まぁ、土と言っても良いかもしれんのぅ」
なるほど。
白虎のあたしは肉だけ食べてれば良いけど、雑食とは言えカメのタートは他の物も食べないとダメみたいね。
ヒナはどうなんだろう? 肉も食べてるけど、木の実も食べてるから問題ないとは思うけど。
「ねぇ、タート。ヒナは今の食べ物で大丈夫かしら?」
「うむ。恐らくじゃが大丈夫じゃろう。何よりヒナはまだ子供じゃ。先ずは栄養たっぷりの物を食べる事が重要じゃの」
「うち、何でも食べるー!」
「ヒナの食べ物はあたしに任せて!」
ヒナを立派に育ててみせると決意を新たに、タートが土を食べた事件は無事に解決した。我ながら名推理だったと思う。誰も被害者が居なかったのだから。
そんな事を密かに考えつつ、休憩した所から日が暮れるまで森を進む。腐葉土とかいう物から栄養を補給したタートも元気ハツラツといった走りだ。今日はもう休憩は必要無さそうね。
「水場があるわね。今日はここまでにしよっか」
「みずばー」
「この様な綺麗な泉があるのじゃから、やはり森は素晴らしいのぅ。何故ワシは、今まで草原にこだわっておったのじゃろうな?」
日が暮れかけた頃、あたし達は森の中の開けた場所に水場を発見した。
そっか。泉って言うんだっけ。そう言われてみれば、こういう綺麗な水場を泉と呼んだ気がする。でも、なんで泉って言うんだろう。
「タート、泉ってなんで泉って言うの?」
「泉は泉じゃ。地下から水が湧き出ておる場所を泉と言うんじゃよ。ちなみにじゃが、水場の面積によって湖と呼ばれる事もあるが、基本的に湖は水がどこからか流れ込んで出来る物であり、泉はその水が湧き出る場所じゃと覚えておけば良かろう」
「いずみー、みずうみー?」
「おっきな水場という事じゃよ、ヒナや」
改めて思うけど、やっぱりタートは凄い。あたしが分からない事はタートに聞けば何でも教えてくれる。
でも、あたしだって知っていた筈なのだ。時おり出て来る言葉がそれを証明していると思う。
前世の記憶が思い出せれば。
そうは思っても、今のあたしの白虎としての脳では、きっと思い出しても覚えておけないだろう。言葉を喋れても、結局は獣だし。
それよりも、今日の寝床を整えないと、よね。
「『ガイアクリエイト!』うん、こんなもんね」
泉から少しだけ離れた場所の土を操作し、祠状の寝床を作った。洞穴までは行かないまでも、寝てる時に万が一雨が降ってもこれなら大丈夫。入口をあたしの体で塞げば、ヒナも濡れない筈だ。ヒナは濡れたら可哀想だしね。
「ヒナやワシは木の実やその辺の草を喰えば大丈夫じゃが、ビアンカちゃんはどうするんじゃ?」
寝床が完成した所で、タートがそう聞いて来た。あたしもそれをどうしようかと思ってたのよね。
「その辺で小動物を探してみるわ。水場の近くなら、きっとネズミとかそういうのが居る筈だから」
「その心配は要らねぇぜ! ウキャキャキャキャ!」
「……変な声で変な笑い方しないでよ、タート」
「ワシは何も言うとらんぞ!? と言うか……敵じゃ!!」
「敵!?」
タートじゃ無いって事は知ってる。出来る事なら違えば良いなって期待を込めてボケてみたの。意味無かったけど。
あたしは声のする方へと体ごと振り返り、敵を探して視線を彷徨わせた。
「ウキーッ! どこ見てやがる! 俺はここだよ、ここっ!」
「そんな所に居ないで降りて来なさい!」
「ビアンカちゃん……不味いぞ? 敵は『サル』じゃ!」
「サル……?」
あたしの頭上の遥か上、そいつは巨木の枝に片手でぶら下がり、ニヤけた顔であたし達を見下ろしていた。
今まで、ニワトリ以外は地上で闘っていたあたしは、そんな所に居る敵にどう対処して良いか分からずに降りて来いと言ったけど、ソイツはあたしを馬鹿にする様に尻尾を使って枝からぶら下がってみたり、片足で枝を掴んでぶら下がったりしている。闘う気があるのだろうか。
どう対処して良いかを考えあぐねるあたしに、タートはサルだと教えてくれた。
「思い出した……! でも、何でサルがあたしに食事の心配が要らないなんて言うの? まさか、自分から獲物になろうって来た訳じゃないよね?」
あたしの前世の記憶の中にあるニホンザルと、目の前に居るサルはほとんど同じに見える。となると、あたしに喰われに来たとしか思えない。現に、サルの体長は70cm程だ。どう考えても、サルはあたしに勝てないだろう。
「ビアンカちゃん、油断するでない! サルは知恵が回るのじゃ! 知識ならばワシも負けるつもりは無いが、咄嗟の機転や闘いに関する知恵はサルの足元にも及ばん。勝算無くして現れたとは思えん! ――ッ!! 『甲羅シールド!』」
あたしに油断するなと言ったタートは、突然甲羅シールドを展開した。
急に甲羅が大きくなったから驚いたけど、その瞬間……タートの甲羅シールドに何十発もの『何か』が激しく激突していた。
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