聖獣……?
「真に、ビアンカちゃんが二つの属性を合わせる事が可能だとすれば、既に聖獣になっている可能性が高いのじゃ! 伝承によると、聖獣は属性を合わせた強大な魔法を使うとある……!」
「……えっ!?」
二つの属性を合わせた魔法は、聖獣の資格者なら誰でも使えるのかをタートに聞いた所、その様な答えが帰って来た。聖獣になった自覚があたしには無いので、思わずキョトンとしちゃった。
しかし、聖獣のハードルが低過ぎではなかろうか。もっと難しいと思ってたよ。
「ママー、せいじゅー、すごーい! おめでとー!」
「あ、ありがと……ヒナ」
あたしの『ファイアウィンド』ですっかり乾いたヒナが祝ってくれたけど、自覚が無いので小声での返礼となってしまった。素直に喜べないのが辛いわね。
「じゃが、ヒナを乾かした魔法は確かに有り得ん魔法じゃった。火属性と風属性を合わせねば、あれ程の熱い風は発生せんからのぅ」
「ポカポカで気持ち良かったー」
「ヒナが喜んでくれて、あたしも嬉しい。それは置いといて……ねぇ、タート。あたしが聖獣になってるんなら、この後はどうすれば良いの?」
聖獣になる為に旅をしようと考えていたのだ。それが既に聖獣になってしまったと言うなら、この先、あたしは何をすれば良いんだろう? タートとヒナが聖獣を目指してるからまだ巣穴へは帰れないけど、目標は必要だ。
教えて、タート博士!
「うむ。聖獣として、より力を求めるという事も必要になってくるとは思うのじゃが、ビアンカちゃんが本当に聖獣として神に認められておるかは、さすがのワシにも確認のしようも無いのじゃ。よって、このまましばらく旅を続ける事が得策じゃろう」
「そっかぁ……そう、よね。あ、じゃあタートもヒナも聖獣になる為には、二つの属性を合わせる様にならないとダメって事だよね?」
タートは土属性一つだけだし、ヒナに至ってはまだ喋る事しか出来ない。ヒナ達が聖獣になるには、まだまだ道程が長いという事よね。
「うち、まだ一つも出ぇへん……」
「ヒナはまだ生まれたばっかりなんだから仕方ないわよ。ママがちゃんと使える様にしてあげるから、ちゃんと言い付けは守るんだよ?」
「うち、守るー!」
「ワシの言い付けも守るのじゃ! 特に臭いなどと言うのはご法度じゃ……!」
「やーだー!」
「何じゃとぉ……!? い、いずれヒナも分かる筈じゃ! ワシの言う事が正解じゃとな……!」
タートはともかく、ヒナは必ず聖獣にしてあげよう。だって、可愛いもの。
土色の岩みたいでくさ……タートと、赤のグラデーションが綺麗なポヤポヤの毛玉のヒナ。どちらを優先的に聖獣にするかは自ずと知れた事だと思う。だって……可愛いもの。大事な事なので、二回言わせてもらった。
「それよりも、そろそろワシに水をくれんかのぅ? さっきの温風で体が乾燥して辛いのじゃぁ……」
あ、忘れてた。話も聞いた事だし、ちゃんと水を掛けてあげよう。死んだとか冗談で言ったけど、本当に死んじゃったら悲しいもんね。
「じゃあ、掛けるわよ? 『ウォーター!』」
任意の場所から魔法を放てる事が分かったので、今度はヒナを濡らさない様にタートを水球で包み込んだ。これならば水球が弾けてヒナが濡れる事もないし、もしも水球が弾けそうになったらそこからヒナの居ない方に放てば良い。完璧ね。
「おお! さっそく訓練効果が現れておるのぉ! 素晴らしいのじゃ!」
「こんな事も出来るわよ? ガルルルッ!」
「のわぁ〜! な、何をするんじゃ!? 目が回るぞい……!」
「じーじ、楽しそー」
「ヒナにもやってあげる。『エアー!』」
「楽しー♪」
タートを包む水球には内部に回転を与え、ヒナの下には弾力性のある空気の塊を作った。タートは水球の中でクルクルと体が回転し、ヒナはポヨンポヨンとその場で弾む。うん、ヒナもタートも楽しそうだ。
「あ、二つの属性を合わせられる事は分かってたけど、別々の属性ならば二つ同時に魔法を放てた。いや、もしかしたら属性を合わせても二つ以上同時に魔法が放てるのかしら?」
考えてみれば、当たり前の事だった。だって、『炎の爪』を使いながら他の魔法を同時に放っていたのだから。
でも、試すのは明日以降ね。
訓練と今の魔法で、あたしの魔力は既に半分を切ってる。今日は仮の寝床へと帰る予定だけど、もしも万が一、帰ってる最中に『敵』が現れたら、あたしはともかくヒナが殺されてしまうかもしれない。それは嫌だ。タートは、自分の身は自分で守る事が出来るから心配は要らないけど。
出来るだけ魔力は温存しておかなきゃ。
「いつまでも遊んでないで、そろそろ帰るわよ? 明日からは移動なんだから、早く戻って、早く寝ましょ?」
この群れ……群れ? 三体しか居ないけど群れで良いのかな? まぁいっか。
この群れのリーダーはあたしだ。……の筈だ。そのあたしが、初めてリーダーらしい事を言った。自分を褒めてあげたい。成長したわね、あたし……!
「はーい、分かったー!」
「か、帰る前に、この回転と水球を消してくれーい!」
「……あ。はい、向こうに放ったからもう大丈夫でしょ?」
「まったく酷い目に遭ったわい……! オエッ! もっと老カメを労わらんかいっ!」
タートの小言を聞きつつヒナを頭の上に乗せ、あたし達は北の森から仮の寝床へと戻った。
幸いな事に敵が現れる事も無く、無事に戻る事が出来た。タートの小言で精神にダメージを受けたのは無事と言えるか分からないけど。
「ウサギの肉もこれで終わりね。だけど、タート。本当に喰わなくて良いの?」
「さすがにここまでのは喰えんのじゃ」
「ヒナは?」
「うち、今日食べた木の実がいいー!」
限界まで熟成が進んだウサギの肉を前に、タートは喰わないと言うし、ヒナに至っては木の実が欲しいと言う。タートは喰わなくても大丈夫だろうけど、ヒナは食べないと、成長を維持するだけの栄養は摂れないだろう。だけど、ここに木の実は当然無い。
「明日またあげるから、今日は我慢してウサギを食べよう?」
「やーだー! うち、木の実がいいー!」
「困ったわね……」
しかし、木の実かぁ。ウサギを喰った後、北の森に行って拾って来ようかしら。今のあたしならば、恐らく30分程で行って帰って来れるだろう。
あたしのママもこんな気持ちだったのかしら。子供にワガママを言われた時に、イラッとするのと叶えてあげたいって思いが同時に込み上げて来る様な複雑な気持ち。
こんな気持ちを抱えてする子育てって、本当に大変ね。
ママ、今までワガママ言ってゴメンね? ママの気持ちが分かった気がするよ。
……と、今更ママに謝った所で木の実が見付かる訳でもないので、そろそろ木の実を拾いに行かなくちゃ。
「分かったわ、ヒナ! これからママがひとっ走り行って木の実を取ってくるから、ヒナはタートと大人しく待ってるのよ?」
「分かったー! ママ、ありがとー!」
やると決めたからには善は急げ。善の意味は分からないけど、とにかくあたしは急いで北の森へと向か……おうとした所で、タートからストップが掛かった。
「ホッホッホ! 待つんじゃ、ビアンカちゃん!」
「何よ! あたし、ヒナの為に急いでるんだから、要件があるなら早く言って!」
ヒナがお腹を空かしてるのに、何を考えてるのかしらこのジジイは。くだらない要件だったら、温風の刑よ! ……刑って何だろうか?
「『甲羅ボックス!』……木の実ならば、ほれ! この通り、ワシの甲羅の中へとしまっておったのじゃ!」
タートが甲羅を巨大化させると、その一部が扉の様にパカッと開き、そこから複数の木の実が出て来た。しかし、甲羅の中がどんな構造になってるのかとても不思議だ。空洞にでもなってるんだろうか?
「これもワシの力の一部じゃよ。使っておるワシにも理解出来んが、魔法で甲羅を大きくした時にしまえばどんな物でも収納出来るし、甲羅を一度小さくしてもまた大きくすれば、元通りの大きさで物を取り出せるのじゃ。じゃからワシはヒナの為、ビアンカちゃんが魔法の訓練で集中しておる時に木の実を少しだけ集めておいたのじゃ」
得意満面に説明してくれたタートだけど、木の実を口に咥えながら長い首を伸ばし、そして甲羅の中へと収納してる所を想像すると気持ち悪い。気持ち悪いと思った事は、便利だから黙っておくけど。
「早く出しなさいよっ!!」
あたしの言葉が闇夜に響いた。
お読み下さり、真にありがとうございます!




