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騒ぐ鳥

 

 タートとの休憩を終え、『ガイアクリエイト』で作った休憩場所を元の地面に戻した後、更に北西方向を目指してあたし達は進んだ。太陽は爽やかな陽射しを地上へと注ぎ、少し強めの風は草原の草を撫ぜる。

 初夏を思わせる陽気に、あたしの気分も自然と良くなって来る。


 ……タートの文句が無ければ。


「ビアンカちゃんや、水を、水を甲羅に掛けてはくれんかの? こう陽射しが強いと、甲羅が直ぐに乾いて暑くて堪らんわい。じゃから、水を少しで良いんじゃ。掛けてはくれんかのぉ」

「またなの、タート。さっき掛けたばかりじゃない! 水を出すのだって魔力を使うんだから、もしも聖獣を狙ってる奴が現れたらどうするの!? 魔力切れになったら、あたしだけじゃなくてタートだって危ないんだよ?」

「わ、分かっておる! じゃから、後一回だけで良いんじゃ。こんなに頼んでもダメかの……? 老カメは労わるもんじゃぞ?」


 ……水じゃなくて、炎でも浴びせてやろうかしら。そんな気持ちが芽生えて来る。あ、マーキングも有りかも。


「……『ウォーター』」

「ぷわっ!? おぉ……生き返るわい」

「さ、急ぐわよ」

「千里の道も一歩から、じゃぞ? ビアンカちゃんや。何事も焦らずにじっくりと、じゃ。それが成功の秘訣じゃ!」


 最後と言いつつも、タートはその後も水を出してくれとせがんで来た。いい加減にして欲しいと思うが、何だかんだであたしはタートの願いを叶えてやる。生まれて初めて頼られるという事に、あたしは少なからず気分が良かったのだろう。


「草の丈が短くなって来たわね。そろそろ草原の端っこかしら?」

「恐らくそうじゃろうのぅ。ワシはともかく、ビアンカちゃんの姿は丸見えになるのじゃから、ここからは充分に気を付けるのじゃ」


 太陽が中天に差し掛かる頃、あたし達は草原の端へと辿り着いた。この草原の北西方向は意外と面積が少ないみたいだ。昨日のこの時間、北東方向は全然終わりが見えなかったのに。


 そんな事を思いつつ、辺りを見回す。


「こういうのって、サバンナって言うんだっけ?」


 北西方向の草原の先は、土が剥き出しの広大な大地が広がっていた。だけど茶色一色では無く、所々に短い草が生えている為に薄い緑色だ。


「違うぞい、ビアンカちゃん。サバンナとは、どちらかと言えばワシらが居た草原の事じゃな。先に広がる大地は、荒野じゃよ」

「……荒野……って何?」

「やっぱりか。荒野とはのぉ、サバンナとは違って植物が育ちにくい土地の事じゃ。その証拠に見てみい、所々にしか草は生えておらんし、丈も短い。つまり、水が少ない土地という事じゃ。ワシの様なカメには辛い所じゃの」


 これが荒野という物なのか。


 たぶんだけど……前世を含めて、荒野なんて言う物は初めて見たと思う。今見ている視界の中に小動物が居なければ、凄く寂しく感じる景色だ。こんな所で、あたしは暮らしたくない。暮らすならば、やはり密林の中の方が落ち着く。

 密林がそう感じるのも、あたしがこの世界で生まれた場所だからだろうか。

 荒野で生まれていれば、荒野もそんな風に感じられるのかも。いや、無いわね。だって、何だか寒そうに見えるもの。


「とりあえずは戻るのかの、ビアンカちゃんや。明日は草原の残りの北部の探索と、ここからでも見えておるが、その先の森を見てみるんじゃろ?」

「そう……ね。そうしようか。もう少し荒野って物を感じてみたいけど、それはあの森の様子を見てからだね」


 その後あたし達は草原に沿って少し南下し、仮の寝床から見てほぼ真西から戻る事にした。


 見渡しの良かった荒野から草原に入ると、鬱蒼と生い茂った草がうるさく感じる。うん、意外と荒野も捨て難い気がして来た。

 草原から出て、久しぶりに草の感触を体に感じなかった事は意外とスッキリとした気持ちになっていた様だ。

 初めは心地好かった柔らかな草原の草も、どうやらストレスに感じていたみたい。


 密林の中も草が鬱蒼と生えてただろうって?


 密林の中は獣道が出来上がっており、そこを通る分には草をそれ程鬱陶しく感じない。唯一草が鬱陶しいと感じたのは、獲物を狩る為にその中へと踏み入った時だけだ。

 あの時は体も今より全然小さかったし、そういうもんだと思っていたから気にならなかっただけ。

 まぁ、今でも餓死しそうならば、獲物を探して鬱蒼と生い茂った草地に入るけど。


「何やら鳥が騒いでおるのぅ。ビアンカちゃんや、少し寄り道してみんか? 鳥が何を騒いでおるのか少し気になる」

「うーん。そうね、もう戻るだけだし、少し行ってみよっか」


 草の感触を鬱陶しく思っていると、タートからそんな提案があった。

 鳥はいつでも鳴いているけど、確かにタートの言う通り、いつもとは違う鳴き方だ。

 それに、仮の寝床としてる場所からも近いから、ウサギのお肉を狙った何者かが原因かもしれない。


 あたし達は進路を少しだけ南寄りに変え、鳥が騒いでる場所へと向かった。


「何とまぁ……酷い有り様じゃのぉ」


 あたし達がそこに辿り着くと、騒いでいた鳥は既に飛び去っており、そこには幾つもの鳥の巣が食い荒らされた惨状があった。

 どうやら荒らされた巣の主の鳥は群れを作る習性らしく、集団で巣を作っていた所を襲われた様だ。


「こんな所に巣を作るなんて、馬鹿な鳥も居たものね」

「何を言うておる。地面に巣を作る鳥は別段珍しくも無いぞ? 地面に巣を作る代表格として、ヒバリやキジ、それにカモなんかもおる。本来それらの鳥共は群れを作らんのじゃが、もしかしたらこの世界だけの種族かもしれんのぅ、ここに巣を作っていた連中は」

「ふーん。……美味しいのかしら? あっ!」


 タートの説明を何となく聞き流し、もしも美味しいのならば食べてみたいなどと考えていたあたしは、食い荒らされた幾つもの巣の一つに動く何かを見付けた。恐らく、襲った何者かに運良く喰われなかったヒナだろう。……いや、運悪く死ねなかった、が正解かもね。


 あたし達白虎はある程度の大きさになれば乳離れをし、肉などを食べる様になるが、ヒナは巣立ちが近くなるまで口移しで親から餌を貰って生きてる。あのヒナだって、まだまだ親からの餌が無ければ死んでしまうだろう。


 いっその事、あたしが喰ってあげた方が良いかも。


 そう考え、ヒナの鳴き声のする巣の跡へと近付いた。


「やはり、この世界だけの種族の様だのぉ。しかも、新種じゃ。長い事この草原に暮らしておるが、こんな色彩の鳥なんぞ見た事も無かったわい」


 あたしに続いてヒナに近付いたタートが、そのヒナを見てそう呟く。確かにタートの言う通り、あたしもこんな色彩の鳥は見た事が無かった。

 薄れ行く前世の知識を頑張って探ってみても、こんな鳥は見た事が無い。そのヒナは、頭から尻尾に掛けて、鮮やかな赤色のグラデーションをしていたのだ。


「頭が真っ赤で、そこから色が段々と薄くなって、尻尾の先は淡いピンク色ね、このヒナ。このままだったらどうせ生きられないと思って、いっその事食べてあげた方が良いと思ったけど、この色を見たら食べる気が失せたわね」

「じゃが、どうするんじゃ? ビアンカちゃんの言うた通り、このままだと野垂れ死んでしまうぞい」


 タートもあたしと同じ事を心配していたみたい。このままじゃ死んでしまうって。


「あたし、このヒナを育ててみようと思う」

「何じゃと!? 正気か、ビアンカちゃん! そもそも、何を餌に育つか分からんのじゃぞ?」

「大丈夫よ! ……たぶん」


 何となくだけど、このヒナは何でも食べるだろうって思った。鳥って、虫とかも食べるでしょ? だったら、お肉だって食べられる筈よ!


「とにかく! あたしはこのヒナを育てる事に決めたの!」

「……結局死んでしまっても、ワシは知らんからの? その時に悲しい思いをするのはビアンカちゃんなんじゃからな?」


 最後まで渋るタートをよそに、あたしはヒナをそっと優しく口に咥えた。

お読み下さり、真にありがとうございます!

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