タート
タートを仲間と認め、その後は一緒に草原の北側を探索したが、やはり思った通りに広く、一日で探索をする事を諦めた。
「いくらビアンカちゃんでも、あそこから北側全ての草原を探索するなんぞ到底無理じゃ。せめてあと二日、いや一日は必要じゃな。それ程にこの草原は広いのじゃ」
そう言うタートは、この草原の事を知ってるのかしら。
そもそもの話、1000年生きてるとかいまいち信じられないし、聖獣についての話を詳しく知ってますって顔をしてるけど、その話を誰に聞いたのだろうか。胡散臭いわね、カメだけに。
クサガメって確か、臭いカメだから臭亀って言うとか言わないとか。……タートがクサガメかどうかは知らないけど。
タートがクサガメかどうかはともかく、あたしと同じ白虎だったんなら素直に信じられるけど、小さなカメの小さな表情なんて読み取れないよ。
でも、寂しさからは解放されたのよね。
「分かったわ。一旦、あたしの縄張りに戻ろう。それで、タートの知識を踏まえた上で明日からの探索の計画を立てるわ」
「うむ、それが賢明じゃ」
タートを仲間に加えた日の探索は、こうして終了した。
「今日は北東方向を探索したのじゃから、明日は北西方向を探索し、明後日に北の森を目指して進めば良いとワシは思うが、ビアンカちゃんはどうかの?」
「うーん。本当は明日中に探索は終わらせたいけど、今日のタートとの件もあるし、それで良いと思う」
夕食のウサギのお肉を食べ終え、仮の寝床の上でタートと話し合う。タートは四つ足を甲羅にしまい顔だけを出した姿で、あたしは毛づくろいをしながらだ。
ちなみに、タートもウサギのお肉を食べた。カメも雑食なのね。
タートは体が小さい分食べる量も少ない様で、あたしとしては一安心だ。熟成が進み、芳醇な香りが増して来たので、ウサギのお肉はとっても美味しくなったのだ。その香りだけで、白米を三杯は食べられる。……何を言ってるんだろうか、あたしは。白米? それを三杯? 全く意味が分からない。
とにかく、タートが少食な事にホッとする。ケチと言われようが、空腹で過ごしたあの五日間を思えば仕方ないと思う。結構、地獄だよ?
「さて、明日も探索に忙しいだろうし、ワシらも寝るとするかの」
「そうね……。あ、タートは早起きなの? あたしは日の出と共に目が覚めるけど」
「ワシかて日の出と共に目覚めるわい! ……おやすみじゃの、ビアンカちゃん」
「……おやすみ、タート」
寝る前でも怒られた。少しだけ齧ってやろうという気持ちが芽生えたのは内緒だ。……バレてたかもしれないけど。
あたしは、久しぶりに寂しさを感じずに眠った。
「おーい、ビアンカちゃんや。早く起きろー!」
眠ったと思ったら、もう朝が来た。耳元で騒ぐタートの声が煩わしい。
「早起き出来るのかー、とか言ってたビアンカちゃんが寝坊したら世話ないのう」
「ちゃんと起きてるわよ……ふわぁ〜あ……おはよう、タート」
「うむ、おはようビアンカちゃん」
タートとのうるさい挨拶も、何だか嬉しく感じる。ママが居なくなった事が結構こたえてたんだな、あたし。
少しだけタートとのやり取りにジーンと来ながらもウサギのお肉で朝食を済まし、今朝もしっかりとマーキングの上書きを終えてからタートと探索へ。
寝床付近へのマーキングの際、あまりにもタートが近くに居たので直撃させてしまった。凄く怒られたが、あたしの傍……しかも、下半身の方に居るタートが悪いと思う。水の魔法で洗ってあげたんだから、良しとして欲しい。
「うーむ……まだ、匂っとるわい」
「まだ言ってるの? 洗ってあげたんだから、もう匂わないわよ」
「ビアンカちゃんと、ワシらカメとでは嗅覚の造りが違うのじゃ! ビアンカちゃんはウサギの肉を美味そうに喰っておったが、ワシは少し臭く感じたのじゃ」
「……臭いと思うなら喰わなきゃいいのに」
そんな一悶着があったけど、とにかくあたし達は今日の探索を開始した。
昨日は真っ直ぐ北を目指したつもりだったけど、微妙にズレてたのね。だから今日は気持ち西寄りに進む。北西方向から更に西寄りだ。たぶん、それで丁度良い方向に進めると思う。
「意外と小動物が多いよね、この草原」
「あのウサギが力を付ける前は、この草原はワシら小動物の楽園じゃった。聖獣を育てるという世界のシステム上弱肉強食は変わらんが、それでも平和じゃったのじゃよ」
話をしつつ進んでいるけど、あたし達の目の前を色んな小動物が通り過ぎる。今日を生きる為に、自分よりも小さな獲物を追う姿が微笑ましい。
それにしても、あたしの事が恐ろしくはないのだろうか。この草原で一番力のある捕食者はあたしなんだけど。
「ねぇ、タート。あたしを見ても全然逃げないんだけど、どうしてなの?」
「……ビアンカちゃんは本当に何も知らんのじゃな」
知恵を提供するって言うから仲間にしたし、疑問に思ったから尋ねただけなのに、タートに思いっ切りため息を吐かれた。やはりガブッとやってしまおうかしら。……臭かったら嫌だから、やっぱり止めておこう。
「何故、みんなが逃げないのかじゃが、それはの……ビアンカちゃんが満腹というのを知っておるからじゃ。ワシを含め小動物はみんな、強大な捕食者が満腹かどうかを本能で察知するのじゃよ」
「なるほど……! もしかしたら、密林の中で彷徨ってる時は凄くお腹減ってたから、それを本能で分かってネズミなどの獲物が逃げたのかも。だったら、今密林に戻ればネズミ達も戻って来てるかもね」
「……戻るつもりかの?」
「ううん、戻らないわ。聖獣になるって目標が出来たんだから、あたしの……あたし達家族が暮らしてた巣穴に戻るのは聖獣になってからよ。もしもママが巣穴に戻って来てるんなら、立派になったあたしの姿を見てもらうんだ」
あたしが巣穴に戻る時、その時はあたしが聖獣になってからに決めた。
もしもあたしの種族が変わらずに白虎のままだったら、もしかしたらママと争う事になってしまうかもしれない。聖獣の座を掛けて。
だったら、あたしが聖獣になってしまえばいい。種族も、きっと聖獣の何かに変わると思う。
そうすればママとも争わないで済むし、ママも一緒に聖獣になれるかもしれない。
だから、それまであたしは帰らない!
「なるほどのぉ。考えてない様でいて、しっかりと考えてるんじゃな、ビアンカちゃんは。まぁ、ワシもビアンカちゃんが戻ると言うなら反対はせんし、また誰かを待っておっただけの事じゃ。その心配は無くなったがの。……所で、そろそろ休憩にせんかのぉ? 寝床を出てから既に二時間は歩きっぱなしじゃ。ビアンカちゃんは歩くだけじゃが、ワシは走っておる状態じゃからの、さすがに疲れるわい」
「…………」
「どわぁぁぁ!? な、何をするんじゃ! ビアンカちゃんにのしかかられると、ワシは潰れてしまうぞい!」
タートの言葉にムッと来たから、前足の片方で踏んずけてやった。齧るのは臭そうだからやらないけど、これくらいなら出来る。むしろ、これだけで許してあげてるんだから、感謝して欲しいくらいだ。
「タートは失礼だよね。あたしだって色々考えてるんだよ?」
「む? ワシの失言じゃったか。それはすまん事をした。じゃが、やるならやるで一言あっても良かったと思うのじゃが?」
「……口より先に足が出ちゃったんだからしょうがないじゃない」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ!」
何だかんだ言いつつ、タートとの会話は楽しい。これなら、この先の旅もきっと楽しくやって行けるだろう。
ありがとう、タート。仲間になってくれて。
タートに感謝しつつ、あたしは休憩の為のスペースを『ガイアクリエイト』で作った。
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