初めての仲間
「話は最後まで聞かんかい! ……と、何度も言わすでないっ!」
再びカメに怒られた。解せぬ。
「お主が聖獣を目指すのを止める事はせん。むしろ、ワシは応援しておるのじゃ。そして、話はここからが本題じゃが、聖獣は何も一体しかなれん訳では無いのじゃ。ワシも聖獣を目指しておるのは先程も言ったが、つまりはワシもお主の旅に同行させて貰いたいのじゃ」
え? 聖獣って、生存競争に勝ち残った一体だけがなるんじゃないの……? あたしはてっきりそうだとばかり思ってた。
「じゃあ、ママも一緒に聖獣になれるし、お兄ちゃんもお姉ちゃんも聖獣になれるのね! みんなで仲良く聖獣になろ〜っ!」
だったら、先ずは居なくなったママを探して、それからお兄ちゃんとお姉ちゃんにも知らせなくちゃ。……ママを含め、みんなどこに居るか分からないけど。
でも、俄然やる気が湧いて来たわ。聖獣になるって事に!
「じゃから、話は最後まで聞かんかい! はぁ、はぁ……!」
三度、カメに怒られた。もう、食べてしまっても良いと思う。それで、あたしの血肉となって聖獣になればいいわ。
「……お主の気持ちも分かるが、聖獣になれるのは一種族につき一体しかなれんのじゃ。残念じゃが、お主が聖獣となれば、他の者は諦めるほかない」
「……えっ」
「酷な様じゃが、全ては神が決めた事でな。ワシらにはどうしようもない事なのじゃよ。じゃが万が一、お主の体の変化で分かる通り、もしもお主が別の種族と認められれば……お主以外の家族も聖獣となれる筈じゃ。現時点では難しいかもしれぬが……」
タートの話が本当ならば、もしもあたしが聖獣になったらママ達は聖獣になれない。いや、なれない所では無い。『糧』として、確実に他の者に捕食される事を意味するのだ。
でも、万が一……いや、億が一の可能性があるなら、あたしはそれに賭けたい。あたしの種族が変化している事に……!
「お主の家族はどうしたのじゃ? もしも突然消えてしまったというならば、既に他の者の糧となってるやもしれん」
「不吉な事言わないで! ……お兄ちゃんやお姉ちゃんは独り立ちしていったし、ママは……ママもきっと、あたしが強くなって、それでしっかりと独り立ちして……あたしがママの元に現れるのをどこかで待ってる筈よ!」
タートが何と言おうと、ママ達は生きてる。だって、あんなに綺麗で優しくて、それで大きくて強いママ達なんだから、間違いなく生きてる筈よ。
「すまんのう、ワシの失言じゃった。お主がそれだけ強いのであれば、お主の家族とて強い筈じゃな。……それで、じゃ、お主の家族を探すのも聖獣を目指すのも、お主だけでは心許ないとは思わんか? じゃがワシを連れて行ってくれるのならば、お主に役立つ知恵を提供出来る筈じゃ。ワシはこう見えて、実に1000年近くも生きておるからのぉ」
1000年!? 1000年も生きてるの!?
すっっっごく、長生きなカメね、タートって……!
でも、釣るは1000年、カメは万年って言うし……あれ? 鶴だっけ? どっちでもいいけど、とにかく長生きなのは理解した……理解出来るように頑張る。
「……分かった。ママ達を探す為にも、聖獣を目指す為にも、どっちにしろタートの力が必要って訳ね。でも、タートはどうやって聖獣になろうとしてるの?」
あたしの仲間になりたいってのは分かったけど、タートはどうやって聖獣になるつもりだろう。
タートが狙う獲物を、あたしが代わりに狩れって事かしら。
それは構わないけど、先ず聖獣になる為の条件が分からないから、その条件次第ってとこね。
「旅の同行を認めてくれるか! これからよろしく頼むのじゃ。それで、ワシが聖獣になる為の条件じゃが……ワシは見ての通りのカメじゃ。恐らく、聖獣を目指しておる者達の中では最弱の部類に入るだろうのぅ。そんなワシでも、防御力に関しては自信がある。防御力特化の聖獣を目指しておるのじゃ! それでなんじゃが、お主の狩った獲物をお裾分けして欲しいのじゃ。い、いや、『聖石』を喰わせろとは言わんぞ? そんな物を喰わんでも、資格ある者の肉を食べるだけで事足りるのじゃからな。
とにかく、じゃ! これからは仲間となるのじゃ。そろそろお主の名も教えてはくれまいか?」
心臓付近の魔力器官って、聖石って言うのね。初めて聞いたし、知ったよ。……ママは教えてくれなかったし。
でも、さっそくタートの知識が活用されたわね。まさか、聖獣に至る可能性のある者の肉を食べるだけで良いとは。
あたしはさっきまで、その聖石ってやつを食べて吸収する事が条件だと思ってた。肉だけで良かったなら、あんなの丸呑みなんかしなければ良かった。ウサギの聖石……まんま、うんちだったし。
「まだ、仲間にするって言ってないわよ? でも……確かに聖獣を目指すならタートの力が必要だって事は分かったわ。それに、タートが聖獣になる為の条件も理解した。あたしの頭じゃ絶対理解出来なかったし、その答えに辿り着けなかったもの。
あ、あたしの名前はビアンカ。種族は、こんな見た目になっちゃったけど、一応は白虎よ? これからよろしくね、タート!」
「うむ。改めてよろしく頼むの、ビアンカちゃんや」
こうして、あたしはカメのタートと仲間となり、共に聖獣への道を歩む事になった。
ママが居なくなってから寂しい思いをしてたけど、これからは多少マシになるわね。
改めてよろしくね、タート!
「あ、でも、タートってカメよね?」
「うむ」
「どうやってあたしに付いて来るの?」
あたしは体も大きくなり、それなりの移動速度で歩ける様になった。
だけど、タートは小さなカメだ。とてもあたしの速度に付いて来られる様には見えない。まさか、あたしに口で咥えて連れてけって言うつもりかしら。
「ワシはこう見えて、結構歩みは速いぞ? 何せ、沼の中で暇を持て余していたワシを見付けたビアンカちゃんに気付き、それで追って来たのじゃからな」
「あの沼のカメだったの!? タートって……!」
確かにあたしは、沼でカメの姿を沼の中に見ていた。あの時はカメが居るなぁ程度にしか思って無かったし、よくこんなに汚い沼で生きられるなぁって考えたくらいだ。
まさかそのカメがタートだったとは驚きだ。カメって、速いのね。知らなかったよ。
「それに、先程も言うたが、防御力には自信があるのじゃ。その辺でもワシは役立つ筈じゃぞ? どれ、ワシの力を見せておくとするかの。……『甲羅シールド!』」
「わっ! 凄い、おっきくなった!」
歩く速度を披露しながら、タートは更にその力を見せてくれた。
小さな四つ足でどうやってジャンプしたのか分からないけど、とにかくあたしの目の前に飛び上がると、背中の甲羅をあたしに見える様な姿勢を作る。するとその途端、タートの甲羅が巨大化し、縦横4m四方の大きな盾となった。
「ワシは水辺に棲息しておるが、土の力を身に宿しておる。じゃから、その力でワシの甲羅を盾へと変えておるんじゃよ。大きさも魔力次第で自由自在じゃ。自由自在なのは硬度もじゃな。硬くすれば魔力はかなり消耗するが、恐らく金剛石くらいの硬さまでは出来る筈じゃ」
「金剛石の硬さ!? ……金剛石って何?」
「ぬぅ、通じぬか……。金剛石とはダイヤモンドの事じゃよ。お主の前世にダイヤモンドが存在すれば分かるとは思うがの」
甲羅の盾で屹立しながら器用にクルリと回転してあたしに向いたタートは、力について教えてくれた。と言うか、甲羅だけが巨大化してもタート自身はそのままなのね。何だか気持ち悪い。
しかし、ダイヤモンドかぁ。
金剛石の事が分からなかったので素直にタートに聞いてみたが、まさかダイヤモンドの事だったとは。
前世の記憶はほとんど曖昧となってるけど、ダイヤモンドはしっかりと覚えている。とても綺麗な宝石の事だ。
そのダイヤモンドの硬さがどれ程硬いのかは分からないけど、何にせよタートが自信たっぷりに言うんだから、きっとものすごく硬いんでしょうね。
あたしはタートの話を、右の耳から左の耳へと抜けさせた。
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