草原の探索
あの後、あたしは予定していた魔法の使用回数の確認や、ウサギから得た土の力の検証を行った。
結果、使用回数の方はウサギを食べる前と比べて5回増えた、計15回となり、土の力に関してはウサギと同じ物が使える事が分かった。
魔法の回数は15回と言ったが、それは基本的な威力に抑えた状態でだ。あたしの匙加減となるが、一撃に込める魔力を増やせば威力も上がるが、当然それだけ回数は減る。
それと、使える土の魔法はウサギと同じと言っても、土を纏う『ガイアストレングス』に関しては使うつもりは無い。だって、汚れるし。
一応、その魔法を試そうとはした。だけど、せっかく毛づくろいをして綺麗になったのに、それを使ったらまた汚れてしまうという事に気付き、あえなく断念したのだ。
あたしも白虎とは言え、一応は女の子。身だしなみには気を付けてるのよ?
その後は当然の如く魔力切れを起こしたが、魔力を含んだ肉を食べれば回復するという事が分かったので、すぐにウサギの肉を食べ、気絶する事は無かったよ。
あ、それと体の事だけど、大きくなったのは大きくなったんだけど、あたしの体は少し変化した。体長は1・5mから2mへとなり、体高も1・2mになったけど、何故か後ろ足の筋肉が異様に発達したのだ。更に牙の長さが伸び、耳も若干大きくなった。客観的に見れば、サーベルタイガー亜種とでもいう姿だ。
ウサギみたいって言わないでね? あたしもそうなのかなぁって思ったけど、白虎としての矜恃が許さないの。
「何だかカッコ良くはなったけど……これじゃ白虎の枠から外れてるよ。ママに再会しても、これじゃあたしだと分かんないじゃないかなぁ?」
体の事はともかく、結局その日は魔法の検証でお終いにして、一日中ゴロゴロして過ごした。
……仕方ないじゃない。魔力切れにならなくても、精神的に疲れるんだから。
次の日は、草原を探索してみる事に決めた。仮とは言え、一応はこの草原を寝床と決めたのだ。どんな獲物が居るかとか、どれほど広いのか、とかその他諸々を調べておかないと、いざという時に対応出来ない。
この弱肉強食の世界で生きてるんだから、その辺はあたしだって抜かりないわよ?
仮の寝床から起き出し、朝ご飯としてウサギのお肉を食べる。血は完全に抜け切ってしまったけど、その分しっかりとした歯応えがあって、これはこれで美味しい。血の匂いが薄くなったのが少し残念ね。
朝食を済ませ、探索を始める前に縄張りのマーキングの上書きをしておく。定期的にマーキングしないと、この縄張りの主は居ないと思われるかもしれないし、弱いから縄張りを乗っ取ってしまえってなるかもしれない。マーキングは重要なのだ。
「マーキングしてスッキリしたし、それでは草原の探索に出掛けるとしますか! ガルルルルルオオオオォッ!!!」
探索に出掛ける時に、一声吼えておく。ここの縄張りの主はあたしだとの主張だ。
たぶんだけど、そこまで主張しなくても大丈夫だとは思う。マーキングだって必要ないくらいだ。だって、あたしが縄張りとした範囲は、この草原の主っぽいウサギの縄張りだったのだから。
マーキングをして縄張りを主張したのは、念の為って事。何事も万が一って事があるからね。
ともあれ一声吼えた後、あたしは縄張りの外へと踏み出した。
「体が大きくなったからだいぶマシになったけど、やっぱり草の丈が凄い。風で靡いた時しか周りが見えないよ」
探索を始めて、最初の感想がそれだ。
風が吹いて草が靡けば周りが見えるのだけど、風が無い時は全く見えない。辛うじて耳が草の上に出るくらいだ。縄張りを見失わない様に、時々マーキングしないとダメだろう。
その後、たまに吹く風の時に見える景色と草が擦れる以外の音、それと匂いを頼りに草原の探索を続けた。
「初日はこんなものね。そろそろ戻ろ」
一日中草原を探索して分かった事がある。それは、この草原には意外と小動物が多いという事だ。
あの巨大なウサギも、さすがに小動物までは捕食しなかったのだろう。本当に小さいネズミや小さなヘビ、それに小鳥などが巣を作って生活していたのだ。
探索中に小腹が空いた時、あたしはそれらを捕食させていただいた。とは言っても、全部じゃないわよ? 食べ尽くしちゃったら、またどこかに遠征しないといけないから。
ウサギのお肉が無くなったからどこかに移動する。そんなのナンセンスよ!
……という訳で、ウサギのお肉も一週間は持つけど、その後は小動物などを狩って生きるつもりだ。
まぁ、密林の巣穴の近くみたいに獲物が消えてしまったら移動するけど、その時まではのんびり過ごすわ。
「密林を出た辺りからここまでの南側の探索は終わったから、明日は北側の探索ね。密林を抜けた一昨日、草原の先に見えた黒い森みたいなのも気になるから、時間が許す様ならそこも少しだけ見てみよっと」
仮の寝床へと戻って、毛づくろいをしながらあたしはそう呟いた。前にも言ったけど、予定というのは口に出して言った方が良いと思う。それが、頭が悪いあたしなりの忘れない方法ね。
そうそう、体が大きくなったから、仮の寝床も再作成したよ。ウサギの土の力が使える様になったから今回は楽だったわ。
使った魔法は『ガイアクリエイト』と言って、土を粘土の様に変化させて、あたしのイメージ通りの形にするという物。その魔法を使って仮の寝床の下の土を変化させて窪みを大きくし、そして固めたの。楽でしょ?
ちなみに、あたしのオリジナルね。範囲を絞れば使う魔力も少なくて済むし、範囲を大きくすれば魔力は多く使うけど、その分、複数の獲物を捉えるのに最適だと思うわ。
寝る前の毛づくろいが終わったから、あたしはゴロンと横になり、そのまま眠りに就いた。耳を片方だけ立てながら。
耳が大きくなった分、片方だけで充分になったのだ。体の変化には戸惑ったけど、意外と便利ね。……おやすみ。
翌朝、日の出と共に起床し、すぐさまウサギのお肉を食べた。うん、今朝も美味しい♪
今日は仮の寝床から北側の草原の探索だ。南側と比べると、北側の草原は南側の倍の面積は有りそうだから、その分移動も多くなると予想出来るので、早めの行動を心掛けた。
体が大きくなったから移動速度も上がったけど、北側の草原は未知の領域だ。それなりに時間は掛かるだろう。
それに、何が起こるかは分からないので、早めの行動を心掛けながら気持ちの準備もしておく。ウサギが言ってた様に、聖獣になる為の生存競争の相手が突如として現れるかもしれないのだから。
マーキングの上書きを終え、いざ、北側の草原へ。
今朝は無風なのか、少し蒸し暑く感じる。とは言え、密林の中よりはマシだ。密林の中は亜熱帯特有の、ムシムシとした湿った空気に包まれてたのだから。
「あ、こんな所に水場がある。水場って言うより、沼って感じね。水は綺麗なんだろうけど、どうして沼って色が汚いのかしら……?」
寝床を出発して小一時間程歩いただろうか。あたしの目の前に沼が現れた。
沼の縁は葦がたくさん生えていて、どこからが沼でどこまでが地面なのかの判別が付かない感じだ。だからだろう、沼の色が黄土色なのは。土が水に溶け込んだからこそ、沼はその色になっているのだ。汚いと言っては沼に失礼よね。
沼の直径は100m程だけど、水場である沼の付近では、やはりそれなりの生き物が棲息していた。
小さなネズミは勿論の事、やはり小さなヘビや水を飲みに来るタヌキなどの小動物、沼の中には亀の姿も確認出来た。
お魚さんも居そうだけど、透明度は無いに等しいので見えなかった。シャケみたいに美味しいお魚さんが居れば尻尾で釣るのに、どんなお魚さんが居るか分からないから釣りはしない。尻尾、汚れるし。
「シャケも居そうもないし、先に進もっと」
お魚さんも見えないし、沼にも見飽きたので、あたしは更に北を目指して歩を進めた。
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