ウサギ
タイトルを少々変更しました。
それに伴いあらすじも変更し、一話目も改稿しております。
話の流れの変更は無いので、確認はしなくても大丈夫です。
「隠れたって無駄だよ! 大人しく出て来て、アタイの糧になりなぁっ!!」
ウサギから離れて、草の根元に身を潜めていたけど、あたしはあっさり見付かってしまった。あんな方法、反則だと思う。だって、地面が激しく上下するんだもん。
そのせいで体が持ち上がり、次いで地面が下がった拍子に当然落下。更に落下した所で突き上げられるのだから、為す術なく宙に投げ出され、体を晒してしまった。強制的にトランポリンをやらされたみたい。
トランポリンって何だっけ? 何だか楽しい響きだけど。
「こんな事だって出来るんだよ? 『ガイアサンド!』」
地面の上下も抜群の運動神経で乗り切り、再び身を隠した所でウサギはそう言った。また新しい能力なのかしら? さっきの地面の上下であたしの体は埃まみれ、うんざりして来る。それに、サンドという響き。何だか美味しい響きに感じる。
そう感じてしまったあたしは、やっぱり馬鹿だ。
上下していた土が収まったと思ったら、今度はあたしの左右で土が大きく隆起し、そのまま砂の様にサラサラと崩れたかと思うと、土の砂嵐の様相を呈しながらあたしを挟み込んだ。
まるで土粒の一つ一つが意思を持ってるかの如く目まぐるしくうねり、あたしの体に触れた所から固定されて行く。抵抗する事も出来ないまま、あたしはウサギに捕縛されてしまった。
「グルッ!? ガルルルルルルル……ッ!」
「このまま引き裂いてもいいけど、そんな勿体ない事はしないよ。あんたの体の血の一滴たりとも無駄にはしない。未来永劫アタイの血となり肉となるんだ。アタイの糧となれた喜びを感じながらあの世に行きなぁっ!!」
土の鎧を纏ったままの巨体で身動きの取れないあたしへと近付き、どうなっているのか分からないが、土の鎧の顔をも喜悦に歪めながらウサギはそう言う。
けれど、それを聞いている余裕はあたしには既に無かった。時間を追うごとに、あたしを包んでいる土の砂粒が圧迫を始め、体中が悲鳴を上げていたのだ。
体の内部では、ミチミチと肉の潰れる音やボギンッと骨が折れる音、更には血の気の引くサァーッという音までもが聞こえている。
今のあたしは間違いなく、確実に訪れるであろう死への歩みを始めていた。
死ぬ時はやっぱり嫌な気分よね。あたしの飼っていた猫『トラ』をトラックから救い出した時だってそうだった。トラを救えた瞬間は嬉しかった。だけど、その後に襲って来た激痛は思い出したくも無い。
あぁ、トラは無事だったのかなぁ。無事だといいな。じゃないと、あたしが死んだ意味が無くなるもの。
あれ? あたし、何を考えてるんだろう。あ、走馬灯……って言うんだっけ、こういうの。
トラ、とても可愛い、あたしのトラ。君に逢いたいよ……!
「馬鹿なぁあああっ!!? アタイの無敵の土が――ッ!?」
今、何か懐かしい事が頭を過った気がする。ううん、そんな事は今は問題じゃない。
あたしは土の捕縛から何故か解放され、四つ足が折れたからか伏せた状態で仰け反るウサギを見つめていた。どうやったのかは分からないが、ウサギの土の鎧は全て失われているし、あたしの捕縛も解かれている。ウサギの体は剥き出しの、元の茶色い地毛の状態だった。
「ハァ、ハァ……ゲブゥ……ッ! ウサギが……濡れてる……?」
さっきの土の圧迫でやはり内蔵もダメージを受けたのか、あたしは血を吐いた。だけど、それ以上にウサギの状態が気になる。ウサギの全身は濡れていたのだ。
急に雨でも降ったのだろうか。それにしては空が明るいし、空気も乾いている。スコールが降ったとは考えられない。
だったら何故、ウサギは濡れているのだろうか。
考えられるのは一つしかない。あたしがやったのだ。それも、無意識の内に水の魔法を使って。
「ショックトルネードは効かなかったのに、水は効くの……? でも、今がチャンスよね! 『ウォータースピアー!』――グルルルアアアッ!!」
今がチャンスのこの時、本来ならば炎の爪で攻撃する所だけど、足が折れてまともに動けないから、あたしの最も威力のある魔法を使う事にした。
口を大きく開け、意識を胸に集中する。あたしにとって、最強の威力を誇る魔法だ。魔力も出し惜しみなんてしない。全て、つぎ込む!
口内で発生した水球を魔法の力で圧縮する。訓練では直径5cmまでしか圧縮しなかったけど、今回は限界を超え、1mmまで圧縮。それをウサギ目掛けて解き放つ……!!
圧縮から解放された水球は一筋のレーザーとなり、ウサギの仰け反った胸へと突き刺さった。訓練の時でさえ木を10本以上穿いたのだ。例えウサギが土の鎧を纏った状態でも防げやしないだろう。
水のレーザーは呆気なくウサギの心臓を穿いた。
「ギィヤァアアアアアアッ!! ……あんたの魔法が風属性だと油断したアタイが馬鹿だった……! 相克で、風は土には勝てないからねぇ。……ガフッ……アタイを喰らうんだ、誰にも負ける……じゃ……いよ……ゆ、め……せい、じゅ……ぅ…………」
だからなのか。あたしのショックトルネードが効かなかったのは。ウサギが今際の際に言った言葉、風では土に勝てない。相手の属性も考慮して狩りをするのね、覚えておかなくちゃ。
あ、だからなのね、ヘビにあたしの炎があまり効かなかったのは。水と炎は互いを打ち消し合う、か。
それよりも、ウサギまで何とか近付き、一口だけでも喰わないと。このまま気を失ったら、ダメージで死ぬよりも先に餓死しちゃう。
でも、どうやって近付こう。
あたしの四つ足は全て骨が砕けている。力をちょっとでも込めようものなら、激痛で気を失いそうだ。じっとしてるだけでも痛い。
でも、このままだと餓死する。痛みを堪えてウサギを喰わないと。
そう言えば、ウサギが言ってたわね。風は土に勝てないって。
でも、あたしが使ったのは衝撃波がメインの魔法だ。風とは違うんじゃないかと思う。だけど、改めて考えてみると、衝撃波は空気を圧縮し、それを解放する事で発生する。だとすれば、空気を操る事は風を操るという事ではないだろうか。試してみる価値はありそうね。
あたしは魔法としての衝撃波を先ずイメージした。使いこなせてはいないと思うが、多少使い慣れて来てはいるのでイメージしやすい。それをあたしのお尻から後方に向けて放ってみた。
「ぐぅっ! 気絶……しそう……! だけど、少しだけ前に進んだよ」
少しだけ前に進み、着地と同時に激痛が走る。でも、何となくだけど理解出来た。イメージの方向性としては合っている筈。だけど、まだ何かが足りない。魂の奥底で消えかかっている前世の記憶をあたしは探った。
より推進力を得る為にはどうすれば良いか。進む力……推進力。例え重たい物でも前に進ませる動力源。記憶を探るにあたり、薄らと一つのイメージが頭に浮かんだ。
「ジェット機のエンジンだ! ……言葉は分からないけど、イメージは掴めたよ!」
衝撃波は一瞬で弾けて消えてしまう。だったら、もっと風をイメージして、しかも放出し続ければ、きっと思う様に進める筈……!
お尻の辺りに衝撃波を放つ為の圧縮した空気をイメージし、それを固定する。出来たけど、何だかクッションに包まれてる感じがして、少しだけ心地好い。……クッションの意味は分からないけど。
次に、固定した空気塊の後方を少しだけ解放し、それと同時に、空気を圧縮して固定した空気塊へと供給を続ける。これによって常に放出し続ける事が可能となった。後はイメージ通りに前に進むだけ。
「ぐぅぅぅっ!! 痛みで気絶しそうだけど進んだぁ……! 魔力切れの前に、ウサギを食べる!」
ギリギリだった。本当にギリギリ、あたしは魔力切れの前にウサギへと辿り着き、死力を振り絞ってその体へと齧り付いた。
四つ足が動かせずに不格好だけど、口を大きく開けてウサギの肉を喰らう。体毛が口に入るけど、気にしない。飲み込んでしまっても、後で毛玉を吐き出せば良いだけだ。
咬合力と首の力だけでウサギを噛みちぎり、あたしは五日ぶりとなる獲物を貪った。
お読み下さり、真にありがとうございます!




