ビーチアンドピーチ
今回ほとんど異能力のは触れません。というよりも今作におきましてはほぼ無関係です。理由がある故、申し訳ない。主人公が出会うサイコな仲間たちを愉快に見守ってやってください。
友情とはいったい何でしょうか。気の合う仲間ならば、趣味嗜好の合う仲間ならばそこには必ず友情があるのでしょうか。いや、そもそもここで~~な仲間という時点でそこには友情が芽生えているのかもしれませんね。僕にはいまいちよくわかりませんが第一幕としては物語として王道のテーマである友情がいいでしょう。学校の友情、職場の友情、戦友、親友はたまたネットのお友達。現代にはいろいろなお友達があります。だがその基準はだれにもわかりません。強い友情、はかない友情。友情は種類が豊富で面白いですね。定義も理解していないのに人は他人との友情の輪を作りたがる。僕だってその定義を知る由もないのだが、それを知ることに興味はないですね。おそらく誰もがそうだろうと思います。この物語はそのどうでもいい友情の物語でございます。
「おいあれ、やばくないか」
「何なに事故」
「うわぁ、血まみれじゃん、カメラカメラ」
「ちょ、やめなって。離れようよ。」
「だ、だれか救急車、あと警察とかも」
あぁ。どうやらまたやってしまったようだ。目の前に広がる車と人赤い液体。いや、目の前というか360度広がる地獄絵図。見物人が群がっている様子も相まって本物の地獄めいている。地獄で群がるのは人ではないけれど。その中心に、俺はいる。360度と言ったが実のところ右半分は見えていない。見えていないというとこの地獄絵図のせいで失明なりなんなりしているように聞こえるが、それは違う。ただアスファルトしか見えていないというだけだ。たしかに右半身はほぼ動かないのだが。何度か経験したことがある痛みだ。それもさほど久しくもない。前回は確か雪の冷たさでより辛かったので、今回はまだましなほうだろう。
「けが人がいたぞ、こっちだ」
いやまあ、こうなっている時点でマシもマシじゃないもないのだが。痛みに耐えられるランキングでは世界でも上位を狙えるに違いない。
あぁ、近くの車のエンジンから火が。さすがに生きたまま焼かれるのは嫌だな。早く運んでくれ。
「誰か手伝ってくれ」
「大丈夫ですか、意識はあるか」
「救急です、あなたたちは離れて、あとは任せてください」
「大丈夫、こういう時の対処法はよく知っている。」
「返事がない、だが呼吸はある。急いで運ぶぞ」
黙って目を閉じればいいのだ。
目が覚めたのは病院のベットの上だった。近くにいた純白のナースさんと目が合った。するとすぐに驚いた顔をしてどこかへ行ってしまった。
「いって」
けががまだ治りきっていないのか、体を起こそうとすると鋭い痛みが走った。痛みとぐるぐる巻きの包帯のおかげで体は動かせない。
そこから何日かたって、無事退院することができた。夏休みに入っていたことが幸いして、学校の授業に遅れることもなく、日常生活にフェードインすることができてよかった。俺は勉強があまり得意ではないので、本当に。
アパートに帰るとまずはベッドに倒れこんだ。病院のベッドも嫌いではないのだが、やはり自分のベッドが一番だ。ナースさんがいないということだけが欠点であるが。何か食べようとキッチンに向かおうとしたときに携帯電話にメールが届いた。その差出人の名前を見て俺はハッと気づく。今日、友人のパーティーに呼ばれていたのをすっかり忘れていたのだ。今から行く、と返信し、急ぎ足でパーティーが開かれる謀リゾート地へと向かった。
ついたころにはもう夜。圧倒的遅刻である。まあいい。今までの病院生活を話せばわかってくれるだろう。つか離島ってなんだよ。着くまでに時間かかりすぎるだろ。
パーティ会場となっているホテルは、パーティ主催者の向坂佐紀が保有するホテルで、なんと今回は貸し切りだそうだ。あまり多く人数を集めるわけではないと言っていたがそこのところ彼女の感覚というのはは一般人のそれとは違うところがあるので一体何人来ているのかは想像がつかない。
海岸のすぐそばにあり、潮の香と暗闇に包まれていてなんとも不思議な気分にさせられる。ただ、ホテルの前がここまで暗いというのはどうなのだろう。これでは地面の様子もわからず、海岸から上がって来た蟹がいようものなら問答無用で踏みつけてしまうではないか。生き物愛好家である俺には許せない事態だ。ホテルの入り口の光しか見えない中で俺は好奇心に駆られて蟹を探しに海岸の法衣と向かった。どうせ遅刻なのだからここで遊んでから向かおうという考えである。
暗闇の中で海岸に向かうのはいくらすぐそばにあるといってもなかなか難しいもので、何度かつまずくことがあった。もちろんそんな暗闇の中で蟹を見つけることなどできるはずもなく、早々とあきらめるのだった。
だがしかし夏の海はいいものだ。波のさざめきと独特の潮風の音が心地いい。朝になれば蟹も見つけることができるし、今の時期は海水浴にもってこいだ。あぁ、水着なんて持っていなかったのだった。
月の光が海に反射して怪しい光の波が揺らめいている。昼間ならば透き通る海と水着のお姉さんで溢れているであろうこの景色も、雰囲気がずいぶん変わるのだろうなと、この時思った。
「女心と夏の海ってか。」
「それは夏の海じゃなくて秋の空だろう。」
その一言と同時に姿を現したのはパーティーを主催した向坂佐紀だった。
「この海はいいぞ。うまい魚が豊富だ。明日は釣りにでも行きたいものだ。それにしても遅かったじゃないか。遅れるなんてらしくない。なにかあったのか」
「ああ、これには訳があってだな、話すと長くなるんだが」
「蟹でも探していたのかな?いや、そんな子供じみたことをする歳じゃあないか。べつにいいよ。過ぎたことだ」
ははっ、そうだね。彼女は微笑んではいるが目は笑っていない。だが言い訳する必要もなかったらしい。ただ彼女の読み取れない眼の表情は恐ろしいものだ。
「それよりパーティが終わってもう皆それぞれの部屋に戻っているからな。今日中にあいさつでもしていってくれよ」
なんと。遅刻どころではなく欠席となってしまったようだ。ちょっと前の無邪気に蟹を探していた馬鹿者を海に沈めてやりたい気分だ。(行く考えるとその時にすぐホテルに行ったとしても結果は同じだろうが。)
「オーケイ了解。おれは挨拶のできる高校生さ、任せてくれ」
挨拶だけの間違いじゃないのか、と言いたげな顔を彼女がしていたのは気のせいだろうか。まあ気のせいだろう。俺はスルーもできる高校生なのだ。
「ああ、ひとつ言っておかなかればならないことが」
艶めく黒髪と鮮血の様な赤いドレスを振りながらこちらを向いた。
「京子と雅はこれじゃ済まないだろうな」
…あいつらも来ているのか。
「向坂さんを100とすると」
「2000くらい」
「超過分は次回に繰り越しでお願いします。」
…こいつ笑ってやがる。
「佐紀ちゃん助けて」
泣きそうな顔で向坂さんのほうを見た。海の藻屑となるかもね、とでも言いたげな笑顔で佐紀さんはこちらを見ていた。月明りのような艶めきと彼女独特の冷たさを放つ眼をしながら。
「あの、俺まずはチェックイン済ませてこないと。あいさつはまた明日にします。もう夜も遅いし、みんな疲れているだろうから。」
「そうか、じゃあまた明日だな。」
「向坂は部屋にもどらないのか?」
「私は明日の準備があるから今夜は徹夜だよ。今はその一休みといったところさ。」
「お前ほどのお嬢様ならお手伝いさんにやってもらえばいいのに。」
「真のブルジョワとはしかるべき労働をするのさ。働くことをしないのはつまり人間としての停滞さ。そこに階級は関係ない。それに松田は少し働きすぎだ。あいつはそろそろ人間を超えてしまう。」
松田、とは彼女のお手伝いさんの女性だ。俺が彼女と知り合うはるか前から彼女の元に仕えているらしい。ほかにもお手伝いさんはいるそうなのだが、向坂があまりお手伝いさんを付けるのが好きではないらしく、松田さんひとりしか彼女にはついていない。
「そんなに休ませたいなら休暇でもあげればいいのに。」
「松田は特別なんだよ。」
「ふぅん。」
「それに…」
向坂は珍しく困ったような笑ったような顔をして言った。
「私に付かなくていいというと、その…泣くんだよ。」
簡単に想像がつく。松田さんは向坂を溺愛している。これに関しては超がつくほどの完璧人間の松田さんの唯一の弱点だ。
「おーじょーさまぁぁ。どーこでーすかぁぁ」
噂をすればなんとやら。静かな海岸にまるで遠吠えのような大きな声が響く。せっかくの静かな景色が、これでは台無しである。向坂もそう感じたのか諦めたようにホテルに戻っていった。俺もチェックインをするためにホテルに入った。幸いなことに京子と雅には会わずに部屋に入ることができた。部屋で持参したおにぎりを食べ、シャワーをあびた後すぐにベッドに入った。
次の日の朝、俺は暑さのあまり目が覚めた。最悪の目覚めだ。ナースさんに起こしてもらうのと暑さにより目覚めさせられるのではまったくもって気持ちのよさが違う。どうやら冷房を付けるのを忘れていたらしい。今すぐ冷たい飲み物を飲まなければ干からびてしまうやもしれないなと思い、部屋に設置されている冷蔵庫を開けた。いくつかの飲み物と申し訳程度の氷が置いてあった。いつも思うのだが、飲み物はともかく、いつから作られているかもわからないこの氷。いったい誰が使うのだろうか。そんなことを考えながら俺は新しく氷ほつくるために今のものを捨て水を入れた。そして目についたオレンジジュースを手に取り喉へと流し込む。冷たさと痛さが交わる。後からくる甘さと若干の酸味。胃に液体の入り込む感覚がする。流れ込む冷温に反応して胃が動き出す。朝の飲み物特有の感覚だ。最悪の目覚めがいい目覚め程度には変わったかもしれない。
さあ、今日も一日が始まる。休みの日を外出に使うということ自体が珍しい俺にとっては外泊などなかなかないことで、それなりにワクワクしているのだ。昨日は疲れてすぐに寝てしまったが、今日からは楽しくなりそうだ。いつもの休日なら今頃は夜通しでゲームでもやっているだろう。多分最近買った『超魔界村』をやるのだろうな、ということを考えたが、これ以上ゲームについて考えると家に帰りたくなる可能性があるので、思考を強制的にシャットダウン。着替えなどの身支度を済ませ、2階にある食堂へと向かうのだった。俺の部屋は四階にあるので普段の生活よりもやや多めの階段昇降はいい朝の運動になった。
階段を降りて左に曲がるとこのホテルの部屋の数に対し少しばかり多いだろうという程度のイスとテーブルが置かれているスペースがあった。おそらくここが食堂だあるだろう。おいてある五つのテーブルにはそれぞれA・B・C・D・E・とアルファベットで印がついていてそのうちAとCのテーブルに人の姿があった。一人は昨日も会った向坂佐紀である。「おはよう、早かったじゃないか。昨日とは大違いだな」と朝から人をつつくようなジョークをかまされた。そしてCに座っているもう一人の人物。これが昨日話に出てきた雅こと一色雅である。怒り度2000のうちの一人だ。どうやって対処するべきか。ハンターランク936の腕の見せ所である。
大きくジャンプをし、そこから鞭の如く振り上げた両腕を着とタイミングと同時に床にたたきつける。また、並行して着地と同時に足を正座の状態に変化させ、体を一つの岩のように地面と融合するイメージで。日本古来から伝わる伝統儀式の一つ、土下座だ。しかもジャンピング土下座。現代にて改良され、それをする者のさらなる屈辱と滑稽さを与える形に進化した土下座だ。
「あぁ、いいからもう。みっともないからやめて。」
よし。ゲームクリアだ。相手を引かせるほどの土下座を習得しているようだ、俺は。
俺はひとまず、雅と対面になる位置の椅子に腰かけた。
「そうだ雅。この間の作品展、すごかったぞ。俺は芸術ってもんがいまいちわからないが、それでも楽しめるような作品展ってすごいな。」
「すごい以外に言うことはないわけ」
「だから言ってんだろ。俺には芸術がわからん。ただやっぱりすごいんだなと思ったそれだけだよ。」
雅はやや呆れつつも少しだけ照れ臭そうに眼をそらした。
こんな奴だが、こう見えてこいつは生粋の書道家なのだ。詳しくはよく知らないがけれど。ただ一つ言えることは、こいつは昔からどぎつい性格であるということくらいか。今日俺が許されたことが逆に恐ろしい。
「お待たせいたしました。食事の準備ができましたよ。」
松田さんが朝食を早足で運んできた。忙しそうだが、なんだか楽しそうな表情をしている。
「ああ、ありがとう。手伝おうか?」
「いえ、お嬢様はそこに座っていてえくだされば。」
「お、飯か。」
「もう少し上品な言い方はないのか。」
「別にいいだろう。腹に入ればすべからく同じ養分だ。」
「…もう少し名前にふさわしい態度をとったらどうなんだ。せっかくのいい名前が台無しだよまったく。」
「あいにく名前以外はてんでよくないのでね。特に家柄はな。」
数秒の沈黙。
「ほほほ、二人とも元気がよろしくて。」
にんまりとした顔で、松田さんは言った。どうやらいつも通りのことらしい。この場で震えていたのはどうやら俺だけのようだ。
「ささ、早くお食べにならないと冷めてしまいますよ。」
「冷めてもお前の料理はおいしいよ。」
「ああ、それだけは同意見だ。」
「…デザートもおつくりいてしますねっ。」
いつも以上に楽しそうな顔で、松田さんは厨房の奥の部屋にかけていった。
朝食を食べている最中に階段から降りてくる人の姿が見えた。なんだかけだるそうなっ表情と歩き方をしている。彼も招待客の一人なのだろうか。
「やあ、みんなおはよう。といってもみんなというには人が少ないね。」
「おはよう、今朝の気分はどうだ?」
「最高の気分だよ。宿泊先で首を寝違えるなんてねえ。」
彼はこっちを向いて俺に話しかけてきた。
「君が昨日遅刻したっていう人だね。なんともかわいらしい人だ。僕のことはレオって呼んでくれると嬉しいな。」
「…どうも」
何だこいつ。初対面の相手になれなれしいというか、ぐいぐい来るな。
「僕モデルとかやってるんだけど、雑誌で見たことない?」
「すいません、そういうのはあまりたしなまないもので。」
「そっか、まあ、これからよろしくね。」
すっと左手が差し出される。その指にはまばゆいばかりの指輪の数々。しずらい握手を済ませると、彼は向坂の前の席に着いた。
「ところで今日の予定は?」
レオさんが向坂に尋ねると、自分も気になるといった表彰で雅も顔をあげた。
「実のところ、今日は特にすることがないんだ。」
「え、そうなの。」
「…すまない。」
メタルマンの博士みたいだ。
「だから、まあ、のんびりしていてくれ。夜には花火を上げるから、それまでは。」
「おお、花火か。夏っぽくていいね。じゃあ今日は夏らしい事でもしようか。」
そんな感じでそんな風に暖かい朝は過ぎていった。
このホテルには、俺、向坂、雅、レオさん、松田さん、そのほかに未だ会っていない京子、そのほか3人、松田さんの弟子である生天目さん、という人がいるらしい。今日はできるだけ人数を集めて外で遊ぼう、ということになった。
照り付ける太陽の下、外へ出るだけで溶けてしまいそうであるが、まぶしい笑顔のこの二人は太陽よりも暑苦しい。
「何をしている、お前も手伝え。」
「ほらほらこの荷物もってねー」
向坂とレオさんんははしゃぎながら遊びの準備に励んでいる。もういい歳だろうに。
「手伝えと言っているんだ。ほらこっちへ来い。」
「なんで俺まで。大体みんないい歳してなんだよそのはしゃぎようは。」
「楽しいことに年は関係ないんだよー」
「そうだ。むしろ遊べるうちに遊ばなくちゃあならん。」
そうして手伝わされた。どうやらビーチボールをやるらしく、砂浜にネットとポールを張った。
「おーい、連れてきたぞー。」
どこに行っていたのかと思えば、雅は京子と他三人と松田さん、生天目さん?を連れてやってきた。
「ありがとう雅。」
「おお、何かと思えばビーチボールか。」
「わくわくするだろ、成長するにつれて人は運動をしなくなるからな。たまにはみんなでスポーツも悪くはない。」
「ビーチボール、いいねぇ、楽しそう。」
会話の途中に雅が連れてきたうちの一人が元気な声を上げた。
「若葉は見るからに運動がすきそうだな。」
「うん、肉と同じくらい好きだよ。」
肉?比べるものがおかしくないか。
「お姉ちゃんスポーツマンだもんね。」
若葉さんの隣の、若葉さんとそっくりの容姿の人が少し意地悪そうに言った。
「こらー芽衣―誰が男だぁ。」
どうやら妹さんらしい。若葉さんとは違っておとなしそうな雰囲気をしている。二人の会話を見ていると、芽衣さんと目が合った。
「…どうも」
ニコッとすこし恥ずかしそうにはにかんだ彼女の表情に思わずクラつく。夏の暑さのせいだろう。多分。
「相変わらず元気ですね、皆さん。」
「久しぶりだな恭介、お前も遅れてきたんだったな。」
「はい、夜明けくらいに付きましたよ。」
「そうか、だが、今はそれよりビーチボールを始めよう。皆を待たせるのは申し訳ない。(あー、はやくあそびたいなぁ、スパイク決めたいなぁ)」
向坂はそういうと砂浜近くの倉庫を指さした。
「水着のない者はそこの倉庫にいくつかあるから好きなものを持って行ってくれ。ある者は部屋で着替えて、また個々の集合だ。」
準備は万端だってか。
何だろう、この感じ。夏休みの小学生みたいだ。だけど嫌いじゃない。ただ。
「私は持ってきているので、いったん部屋にもどる。」と向坂さん。
それに続く松田さんと生天目さん。さらに次々と部屋にもどり、そして残ったのは俺と京子だけであった。みんな準備良すぎ。
「ちょっとあんた。」
ああまずい。
「遅れないでねっていたわよね。」
「…ごめんなさい。」
ここでの土下座は、額が焼けるような熱さだった。それはもはや比喩などではなく、決して額を字面に擦り付けていたわけでもなく、純粋に熱された地面の熱によるものだ。こんな砂浜でビーチボール。大丈夫だろうか。
とりあえず水着を着た。倉庫を出ると、京子が立っていた。
「さ、さあ、行くわよ」
夏の暑さのせいか、彼女の顔は少し赤い気がする。まあ、雅と同じ、いや、それ以上に気が強い京子のことだ。これくらいの暑さは耐えられるだろう。
「な、なんか言うことないわけ」
「…飲み物もってこようか?。」
一閃、というよりも一撃。俺に衝撃が走る。主に右頬に。
「早く持ってきなさいよ、もう。」
近くの自販機で、彼女の好きなサイダーを二つ買ってきた。ひとつは俺の分。
戻ると全員そろっていた。まず目につくのは松田さんだ。女性にしては高身長で、スレンダーな体つきをしている。水着はスポーツタイプのものなのだろう。ぴっちりとしていて彼女の体にフィットしている。短いヘアスタイルも相まって、元気なお姉さん、といった印象を受ける。次に目に入ったのが雅だ。スカートタイプのフリルのついたビキニを着ている。おそらく肌を露出を少なくしたいのだろうが、逆にそれはそれで、心に来るものがある。
次は生天目さん。スクール水着着用で胸には「なばため」の文字。幼さが残る顔だちも相まって、マニアには大うけだろう。無論、俺も例外ではない。スクール水着を着ているということは、中学生にしてはやや発育が良すぎるような気もするので、恐らく高校生だろう。同い年だろうか。やや照れ気味なのがまたうぶさを感じる。
そしてこの二人。若葉さんと芽衣さんだ。二人とも特徴のない普通のビキニ姿だ。そっくりな顔のおかげで判断がしずらく思えるが、今ならわかる。右が芽衣さんで左が若葉さんだ。まさかここまで発育の調子が違うとは。
「うーん、右。」
「うーん、右。」
レオさんと台詞が被った。彼も大きいほうが好きらしい。
最後はやはり向坂さんんだろう。すべてが完璧、非の打ちどころのないパーフェクトボディ。芸術の域にまで達しているその美しさを深紅の水着がより引き立てる。程よく汗ばんだ肌に反射する光と暗めの水着とのコントラストが、まるで彼女のためにあるかのようにきらびやかだ。
こんなものだろうか。読者の諸君。楽しんでくれたかな。男たちの水着は、まあ普通の水着だ。
「ねえ、あたしは?」
だって、ちっちゃいんだもん。
なんだかんだでビーチボールを楽しんだ。途中昼食を食べ、スイカ割りやビーチフラッグなど、別の遊びをしたりしているうちに、時刻はもう18時。夏の空が朱色に染まってきていた。今は砂浜に座り込んで一休みといったところだある。
「そうそう、今夜は花火を上げるからな、そのときには皆で集まってみようではないか。下から見る花火というのもなかなか乙なものだぞ。」
「花火って、下から見るとどんな形をしているんだろう。」
「花火はとこから見ても丸い形よ、お姉ちゃん。」
「花火かぁ、ついこの間も撮影で使ったりしたけれど、やっぱ夏らしくていいよね。」
花火を使う?レオさんも案外体を張った仕事をしているんだな。
「あー、花火もいいんだけどよ、私は今日の練習未だしてないから、それには参加できないだろうな。」
「練習って、書道のことか。今日くらいは休んでもいいのではないか。」
「いや、それはできない。これだけさぼっちまうと腕がなまった気になってしょうがないからな。じゃあ、私はいったん失礼するよ。花火が上がるころに呼んで暗ると助かる。」
そういうと雅はホテルへ戻っていった。
「プロって大変なんですね。」
「そりゃあね、命かけてやってるから。好きってだけでもやっていけるをけじゃないし、才能や能力だけがあってできるものでもないよ。」
恭介さんのつぶやきに、同じプロであるレオさんが答えた。
「人生も同じようなものだと僕は思うけれどね。才能や能力、はたまた財力があるからって生きやすいものではないだろうし、その逆もそうなんじゃないかな。」
その台詞は、なぜだか答えるというよりも語り掛けているように聞こえた。
「なんだか急に難しい話になってるけど、要するに人生はその人次第で生きやすくなるってことでいいの?」
「解釈の仕方も人それぞれだけどね、お姉ちゃん。」
「お前はモデルの鍛錬をしなくていいのか?」
「それを言われちゃ、どうしようもないね。」
小さくレオさんは笑った。
「…さあ、花火までもう少し時間もあるから、これからどうしようか。」
なんとなく気難しい雰囲気を向坂が打ち破ってくれた。
「んーもう結構疲れましたし、雅さんと同じように部屋で待機でもいいんじゃないですかね。」
「私もそれでいいと思うわ。」
「僕も少し休みたいかな。なんせ朝から動いているわけだしね。」
「そうか。お前たちはどうだ?」
そう言って俺と京子に聞いてきた。
「あたしもそれでいいかな。」
「じゃあ俺もそれで。」
「わかった。花火の準備ができたら部屋に電話を掛けるからそれまで待っていてくれ。」
そんな感じでみんな結局ホテルへ戻った。
「というか向坂、お前花火なんてあげられるのか?」
「私にできるわけないだろう。」
ああ、松田さんがやるのね。
「私にお任せください。」と松田さん。
「ところでお嬢様、お薬のほうはきちんとおのみになられましたか?」
「ああ飲んだよ。大丈夫。」
「松田さんが準備をするんじゃ、夕食はどうするんだ、。」
「それなら生天目が作ってくれるはずだ。心配はいらない。彼女の料理もなかなかのものだぞ。なんたって松田仕込みの特訓を毎日受けているからな。」
「ほう、それはそれは。」
三階にある部屋にもどるために階段を上る最中、京子に声をかけられた。
「ねえちょっと。」
真剣な表情も相まって、普段きつい印象の彼女がより一層おそろしく感じた。
「ん?」
「その、花火が終わったらね、話したいことがあるんだけど、いい?」
なんとなく察しは付くのだが。
「今じゃダメなのか?」
「こ、こんなところじゃダメに決まってるでしょ、馬鹿じゃないの。」
「わかったよ。じゃあ部屋の電話で話そう。ケータイは圏外みたいだし、さっきの話によればそれぞれの部屋に固定の電話があるみたいだから。」
「…わかった。必ず出なさいよね。」
この時の俺はまだ、彼女の本当の気持ちを理解することはなかった。。まさしく後悔先に立たず、といったように。決して彼女がこの世を去ったとか、もう二度と会えないとかではなく、今でも彼女の本当の気持ちを理解することは、本当は可能なのかもしれない。だけどそれを僕が受け入れることは決してない。そう断言できる。俺が彼女を拒んでいる。彼女と彼女の友である彼女。その彼女らの友であった俺は、今はもうこの世界には存在しないのだから。
部屋に入ってとりあえずシャワーを浴びようとしたとき、ベッドの横にある電話が鳴りだした。誰かと思えば向坂だった。
「一休み中のところすまない。これからトランプでもしようと思っているのだが、人数が集まらなくてな。今のとこら双葉姉妹しかいないんだ。参加してくれないか?」
双葉というのは、芽衣さんと若葉さんのことだろうか。
「はあ、わかりました。昨日遅れた分の借りということで、参加しますよ。」
本当は女子3人に囲まれるのが楽しみなんです。
未だ事件は起きませんが、次辺りで起きると思います。内容的には簡単というか、あまり細かくはないので不満が残る人もいるかもしれませんが、そうなってしまったらすいません。すぐにわかる人もいるかと思います。今回のお話、楽しんでいただけたら嬉しいです。次回から本格的に進んでいくので、内容としては濃いものになるかと思います。




