野生馬!
今回はマッスルカー!
雄二は外回りを終え店に向かっていた。
「ディーラーから板金を2件回してもらえたし、中古車の商談も1件!上々だな!」
上手く事が運んだようで上機嫌だった。
時刻は18時を過ぎ、薄暗くなってきた。
加えて小雨が降っている。
暫く走ると路肩に1台の車が停まっていた。
「おや?どうしたんだろう?」
気になり、その車の前に停めた。
「どうかされましたか?」
「いや、走っていたら突然エンジンが停まってね・・・」
車の傍らには70代くらいの男性が立っていた。
「それからエンジンは掛からないのですか?レスキューなどは呼ばれましたか?」
「ええ、鍵を捻っても何の反応もないのです。それに初めての経験なもので、どうしたものかと困惑していたんですよ。」
「そうでしたか。実は私、この先の車屋に勤めております。よろしければウチで診ましょうか?」
そう言い名刺を出す。
「それは助かります。このままここにいても仕方ありませんから。」
「では店の者を呼びますので少々お待ち下さい。あ、雨に濡れてしまいますので、よろしければ私の車に乗ってお待ち下さい。」
「ありがとう。そうさせて頂きます。」
雄二は店に電話した。
「はい、〝Garage SHI・N・NO・SU・KE〞です。」
電話に出たのは真雪だ。
「あ、もしもし雄二です。レスキューが欲しいんですが、工場に誰かいませんか?」
「お疲れ様です!ちょっと待って下さいね・・・社長がいますので今替わります!」
「おう!どうしたのだ?」
雄二は一通り状況を説明した。
「それで車種は・・・」
「直ぐに行く!待っていろ!!」
車名を伝えると急いで電話を切られた。
自分の車に戻り、
「今、店の者が来ますのでお待ち下さいね。」
笑顔で声を掛けた。
「いや、本当にありがとう。あの車は最近手に入れた物でね、あまり慣れていなかったんですよ。」
「そうだったんですか。古い車ですが、お好きなんですか?」
「車好きとまでは言わないが、アレは憧れの車でね。やっと時間に余裕が出たので購入したのですよ。」
雄二は相づちを打ちながら話を聞いた。
それから程なく1台のトラックが目の前で停まった。
「雄二!待たせたな!」
「社長!お待ちしてました!あ、ご紹介します。この車のオーナーさんです。」
「お世話になります。」
「いやいや、こちらこそ」
互いにお辞儀をして挨拶を済ませる。
さっそく点検をする新之助。
「社長どうです?治ります?」
「うーん、詳しく調べてみないとわからないが、ダイナモが発電していないようだな。だが、直ぐに治せるだろう!」
「そうですか。よかった。宜しくお願いします。」
男性は新之助の言葉を聞き、ほっとした様子で深々と頭を下げた。
「よし!では積んでしまおう!」
車をトラックに積み、店へ向かう。
雄二は男性を横に乗せ、後をついて行く。
車内では
「思ったよりも大したことなさそうでよかったですね。」
「本当によかった。しかしここで止まったのは貴殿方に出会うためなのかもしれませんね。」
穏やかな雰囲気だった。
店に着き、必要な手続きを済ませると男性は代車で帰って行った。
翌日、新之助と西長田が車の前で修理について話していた。
そこへ出社してきた有人とジェミー。
車を見るや、
「うお!?どーしたんスカこの車!?」
「Fantastic!!」
驚きを隠せない。
「おう!これは昨夜ダイナモがイカれて路上で止まっちまったのを雄二が助けたんだ!」
「これ、マスタングッスよね!?映画で観たことあるッス!」
「そうだ!フォード・マスタング!7世代あるが、これは初代のファストバック、GTモデルだ!」
[フォード マスタングGTファストバック]
全長:4619mm
全幅:1732mm
全高:1298mm
ホイールベース:2743mm
エンジン:直6 OHV
排気量:3200cc
最高出力:120ps
最大トルク:41.5kg-m
サスペンション:F/ダブルウィッシュボーン
R/リジットアクスル
トランスミッション:3速オートマ
重量:1383kg
「1964年に雰囲気だけのスポーティークーペとして発売された。しかし、フォード社の広告戦略やエンジンから選べる程のオプションの多さ、このスタイリングに低価格と様々な要素が加わり大ヒットとなった。その翌年、ファストバックが追加されGTモデルが出る。さらにシェルビーアメリカン社によってチューニングされたGT300も発売されたことによりカスタムベースとしても人気を呼んだのだ。ちなみにシェルビーマスタングGT300は310馬力もあった!」
「ふぇ~。俺の車よりパワーあるんスネ!」
「American Muscle Car!」
「さらに付け加えると、マスタングと言う名前は野生馬って意味だ!」
新之助が車の説明をしていると、
「社長~!今日の午後には部品入りまーす!」
事務所から真雪の声がした。
「うむ!わかった!」
簡単に終わる仕事だった。
はずなのだが・・・
簡単な修理ほど上手く終わらないものなのです・・・