結果オーライ?
車が完成!!
順調に組上がっていくビートル。
皆の手際も良く、形となって行くのを見ていた真雪はふと疑問に思った。
「そういえば何色にするんですか?」
「あ!そーいえばそーッスネ!」
「ボクハYellowがスキデスネ!」
「ビートルといえばオレンジだろ。」
「え?私は黒のイメージですよ?」
口々に言う。
「安心せい!既に決めてあるのだ!今回はエメラルドグリーンで行く!トミちゃんの旦那が乗っていたのと同じ色だ!」
新之助は初めから決めていた様だ。
「エメラルドグリーンか!いい色だと思います!」
真雪の言葉に同意するように皆頷いた。
塗装も終わり、最後にシートを固定。布は張り替えられ新品だ。
「うむ!完成だ!」
新之助の言葉に拍手が起きた。
「おー!こうやって見ると丸くて可愛い車ですね♪」
真雪は感嘆の声を出す。
「うむ!やはりビートルはいい!」
[フォルクスワーゲンタイプ1〝ビートル〞]
全長:4,070-4,140mm
全幅:1,540-1,585mm
全高:1,500mm
ホイールベース:2,400-2420mm
エンジン:空冷水平対向4気筒OHV
排気量:1000cc~1600cc
サスペンション:トーションバー式、ストラット式
トランスミッション:4速MT/3速セミAT
車両重量:730-930kg
「これって古いんスカ?」
「この車は1941年~2003年まで62年間も造られたんだ!ちなみにコイツは1952年製だ!そもそもこの車を作ったのは誰だと思う?ヒントはこの形だ!」
新之助は全員に向かって質問した。
西長田と雄二は知っている様だが、ニヤニヤしながら3人の答えを待っている。
数分経ち、
「時間切れだ!正解はフェルディナンド・ポルシェ博士だ!」
「えっ!?ポルシェって、あのポルシェッスカ!?」
「あ、その車なら私も知ってる!」
「タシカにポルシェとニテマス。」
意外!と、驚く3人。
「ポルシェは元々デザイン会社だったのだが、博士は大衆車を作ることを夢見て長年に渡り計画していた。その構想を当時のドイツ首相アドルフ・ヒトラーの指示でフォルクスワーゲンが生産することになったのだ。ちなみにポルシェはデザインのみだ。」
「ヒトラーってナチスドイツの?」
「そうだ。この時はまだ戦争をしていなくてな、大衆車を造る予定だったのだ。しかし、直ぐに戦争となり方向転換して生産車の殆んどが軍用車となった。そして戦後、本来の大衆車として改めて造られたのだよ。」
「へぇ~。波乱万丈な車ッスネ。」
「ちなみに1941年から2003年まで基本的にこの形のままで造られた。少し被ってはいるが1998年からはニュービートルとしてこの形を踏襲した現代版が生産されている。」
全員で車を眺めていると、普段は工場内に来ないトミ子がやってきた。
「完成したん?」
「おう!トミちゃん!見ての通り完成だ!どうだ!?」
マジマジと車を見ながら
「古っい車やなあ。こら綺麗にしたとこで誰も欲しがらんわ。」
などと憎まれ口を叩いていたが、その顔は懐かさに溢れていた。
「じゃあトミちゃんが乗るか!?」
その一言に
(社長・・・やっぱり初めからトミ子さんのために・・・)
全員が新之助の粋な計らいに感動していた。
有人に至っては泣いている。
しかし・・・
「はぁ?何でウチがこんなボロに乗らなアカンねん!こんなんいらんわ!!」
新之助の言葉にすかさず返した。。
「強がらんでも良いぞ!トミちゃんにとっては思い出の車なのだから乗りたいであろう?」
「何を言っとんのかようわからんけど、ホンマにいらんわ。」
顔の前で手を振りながら答えるトミ子。
「亡くなった旦那さんとの思い出の車なんですよね?社長の好意に甘えていいんですよ!」
「そッスヨ!コイツも旦那さんもトミ子さんに乗って欲しいに決まってるッス!」
「・・・」
真雪と有人は熱く語り、西長田、ジェミー、雄二はただ頷いた。
「確かにウチの旦那は死んだけど、トヨタ一筋やったで?これに乗ってたのは旦那の双子の兄貴や。こっちももう死んだけどな。せやから懐かしくはあるけど、ウチには特に思い出なんてあらへん。」
衝撃の一言が飛び出した。
「え!?じゃぁ何で鉄屑同然の車を見て怒らなかったんですか!?」
真雪が問いかける。
「あんとき具合悪かってん。せやから怒る気にならへんかっただけやで。」
その瞬間バッと全員で新之助を見た。
「あれ?」
目をパチパチさせながら新之助は言った。
額には汗が滲んでいる。
「いや、まあ、なんと言うか、全員一丸となっていい車ができたのだ!絆を深めることができた!つまり結果オーライである!」
全員の冷ややかな視線が突き刺さる。
「で、社長これどないすんの?経費だけ掛かってまっせ?」
追い討ちをかけるように現実を突き付けるトミ子。
「トミちゃんが乗らんなら売るしかなかろう・・・」
項垂れながら小声で答えた。
「ったく、とんだ骨折り損だぜ。」
「ただの勘違いだったんスネ。」
「ボク、ガンバっタ」
「じゃぁ私は外回り行ってきます。」
それぞれ小言を言いながら仕事に戻って行った。
「錆びにまみれて・・・汗だくになって髪の毛バサバサになりながらも必死に研いだのに・・・」
真雪は怒りに震えていた。
そしてついに爆発する。
「どーーしてくれるんですかっ!?私はトミ子さんのためと思って頑張ったのに!結局社長の勘違いだったってわけ!私の頑張りと時間を返せーー!!」
その様子に圧倒され
「す、すまん!」
と一言残して新之助は逃げた。
真雪は叫び過ぎて肩で息をしている。
「真雪ちゃん、ウチのために頑張ってくれたんやろ?ホンマにありがとうな。」
その一言に少し救われた様な気がした。
それから数日後、雄二が1人の男性を連れてきた。
ブレーキ部品を譲ってくれた人物だ。
「これは細部まで綺麗に造ってありますね。愛情が籠っている。」
購入を決めた様だ。
納車の日、男性は車を取りに来た。
店から走り去るビートルの姿を見ながら
「あの形は唯一無二だな!今回も良い仕事ができた!」
新之助は満足そうに笑顔で頷いた。
「こらー!仕事せんかーい!タイムイズマネーやで!!」
トミ子の声が響き慌てて工場へ走る。
〝フォルクスワーゲンタイプ1 ビートル〞
ポルシェ博士が夢見た大衆車は累計生産台数2152万9464台と、世界一売れた車だ。
世界中で多くの人が手にしたこの車は、間違いなく名車だろう。
今見てもあのデザインは色褪せませんよね!