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とある車屋の日常。  作者: 和泉野 喜一
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都市伝説?

自動車業界の不思議です!

ふと工場の電気が消え真っ暗になった。

「わっ!何だ!?」

皆動揺している。

するとパッと一部だけ明るくなった。

その光の方を見た瞬間・・・

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

辺りに悲鳴が響いた。


と、その瞬間電気が点いた。

「社長!いい加減にして下さい!懐中電灯で自分の顔照らすなんて古典的なことを・・・だいたいお客様相手に何してるんですか!」

それまで事務所にいた真雪が異変に気付き工場へやってきたのだ。

「がっはっは!怪談ではないが、雰囲気を出そうと思ってだな!」

「思ってだな!じゃなーい!」

新之助を一喝し再び事務所へ戻った。


新之助に冷ややかな視線が突き刺さる。

「う、おほん。冗談はさておき、都市伝説だがな・・・」

何事も無かった様に話を続ける。


「実はなジョン・ザッカリー・デロリアンは嵌められた可能性があるのだ。」

「ってことは倒産させられた?」


「うむ。まずはデロリアンが発表され大量の注文が入ったのだが、突然その多くがキャンセルされる。これは不備が見つかったためだ。改修のために巨額の資金が必要となったが、役員が使い込んでいたのを黙認していたということで、補助金を停止された。金が必要だったザッカリーは資金調達のためにある人物と接触する。しかし、この人物が麻薬関係者であったためザッカリーも逮捕された。資金調達のために麻薬を売ろうとしていたとされている。しかし、結局は無罪となるのだが、裁判中にデロリアンのオリジナル金型が紛失し、海深くへ沈められたという。これにより、完全に生産不能となり倒産した。」

「何か陰謀みたいなものを感じるな・・・でも誰がそんなことするんだ?」

西長田はこの手の話が好きなのだろう。

真剣に聞いていた。


「それはジョン・ザッカリー・デロリアンという男が優秀過ぎたためだ!彼は元々パッカード社という自動車メーカーにいた。ここで実績を作った彼は20代の若さで部長となる。そしてGM社にヘッドハンティングされた。ここでも実績を上げ最年少でチーフエンジニアになるなどし、出世街道を突き進み40代で副社長となったのだ!しかし、突然会社を辞め独立した。彼と彼の作った車に脅威を感じた自動車メーカービッグ3であるGM社(ゼネラルモーターズ)、フォード社、クライスラー社が結託し、倒産に追いやったというのが都市伝説たる所以だ!」

一息に語った新之助は息が切れていた。

呼吸を整え、

「まあ、実際にはデロリアンの不備を大袈裟に誇張したと言われているがな。しかし、きっかけを作ったことには違いないのだ!」

「なんかデロリアン社長もデロリアンって車も可哀想ッスネ・・・」

有人はボディを擦りながら呟いた。


「うむ。結局こいつはDMC社唯一の車となってしまったからな。だがザッカリーは諦めなかった。再び会社を興そうと奔走したが、80歳で夢叶わず他界した。」

皆、沈痛な面持ちであった。


「父さんがこの車を持っていた理由が少しわかった気がする。」

「なぜ?」

「病気のせいで大好きな車を最後まで楽しめないとわかっていた父さんは、色々な邪魔で夢叶わなかったデロリアン社長に自分を重ね合わせたんじゃないかな?」

「そうかもしれないわね。変に感傷に浸る人だったからね。」

全員で車を見つめながら、今は亡き父そして夫であり友人であった故人を思い返していた。

「だが、まだ続きがあるのだ。デロリアンを専門に修理していたスティーブ・ウィンという人物がデロリアンを再生産させると発表したのだ。現代版デロリアンとして。つまりザッカリーの夢は受け継がれているのだ!お父上も車を楽しんでくれと手紙に書かれていた。つまりお父上の夢も我々に託されたのですよ!」

最後は明るく締めくくった。


それから車は完全にメンテナンスされた。

しかし、新之助は売る気も無かった。

あの親子のため、そして自分たちのために思い出を残せる様何か良い方法は無いものかと考えていたのである。


ある日ふと雑誌の広告に目が行った。

「これは・・・そうか!その手があったか!」

何か閃いた新之助は受話器を手にした。

「もしもし。私〝Garage SHI・N・NO・SU・KE〞という車屋をやっている新堂と申しますが・・・」

「ええ、完全オリジナルのデロリアンですぞ!」

「そうですか!では是非とも宜しく頼みます!」


それから数日後。

突如デロリアンが工場から消えたのだ。

「社長。デロリアンどうしたんスカ?」

「うん?まあ、今にわかる!」


さらに数ヶ月が経ったある日、新之助は親子と工場の全員をあるところへ連れて行った。

「ここは・・・」

「まあ、中へ入ってみましょうぞ!」


大きな建物に入ると目の前にデロリアンがあった。

「えっ!?あの人の車!?」

「そうだよ!これ父さんのだよ!」

「社長!なんでここにあるんスカ!?」

「なるほど。考えたな!」


皆が口々に驚きを言葉にしていると、

「やあ、新堂社長。ようこそいらっしゃいました。」

「これは館長!お邪魔していますぞ!」


そう。ここは自動車博物館であった。

新之助はここにデロリアンを送ったのだった。


「これほど綺麗なデロリアンは珍しいですからね。特等席を用意させて頂きましたよ。」

「うむ。大満足です!ずっとここに置いて頂きたい!」

新之助と館長が雑談をしていると、

「新堂さん。どういうことでしょう?」

状況が呑み込めていなかった奥さんが質問してきた。

「私自信、この車を他の個人に売ることはしたくなかった!これはあなた方家族の思い出であり、私達にとって友人の思い出なのですよ!そこでこちらにお貸しした!ここに来れば私達は彼を思い出すことができる!そしてこの車に憧れを抱く者に感動を与えることができる!つまり、皆で車を楽しめるということですな!がっはっは!」

その言葉に奥さんは思わず涙した。

「ありがとうございます。」

「父さんもきっと満足してるよね。だって自慢の車を皆に見て貰えるのだから。」


自動車紹介のプレートには所有者の欄に故人の名前が記載されていた。

「あの、これはいったい?」

「うむ。この車は売ったのではなく寄託したのですよ。つまり所有者は故人であり、あなた方家族だ!」

新之助が思い付いたのはこれであった。

寄託、つまり貸し与えているというもの。


こうしてデロリアンはいつまでも綺麗な状態で保管されることとなった。


「あー!タイムマシーンだ!」

小さな子供がデロリアンへ駆け寄ってきた。


「うむ。やはりここに任せて正解だったな!」

その光景を見て満足そうに笑顔で頷いた。


「社長!こっちにも凄い車があるッスヨ!」

「うむ!」

有人の声に導かれ歩み出す。


〝DMC・デロリアンDMCー12〞

ジョン・ザッカリー・デロリアンの理想の車は紆余曲折を経てタイムマシンとして広く知られることとなった。

過去と未来を繋ぐ車。

この名車は未来永劫語り継がれるであろう。

本物のタイムマシーンはこの車なのかもしれませんね!

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