破天荒なザッカリーさん
タイムマシーン!
預かり物〝デロリアン〞
所有者であったお客様の四十九日も終わり、奥様が来店することとなっていた。
車をどうするか話し合うためである。
新之助は他の者に、この車のことを言っていなかった。
通夜の後、1人で戻り夜の間に運んでいた。
カバーをかけ《触るな!》の貼り紙をし、しつこく聞いてくる有人達を交わしてした。
なぜならデロリアンがあるという話が広がれば、ただ見に来るお客もいるからである。
絶対に傷つけられないと考えた新之助は隠し通すことにしたのだ。
「こんにちは。」
奥様がやって来た。
傍らには1人の若い男性がいる。
「お待ちしておりましたぞ!そちらは?」
「息子です。今は県外で働いております。」
「そうでしたか。新堂と申します。お父様には大変お世話になりました!」
挨拶を済ませ、さっそく車について話す。
「それでお車は如何されますかな?元通りにガレージに置いておくというのは?」
「やはり引き取って頂くのが良いと考えてます。置きっぱなしでは状態が悪くなるのでしょう?でしたら専門の方にお渡しするのが一番と思いますので。」
「息子さんが乗るということもできるのではないですかな?」
「そうしたいのですが、僕の生活基盤ではあの車の維持は難しいです。家族も居ますので・・・保管場所にも困りますし。」
「しかし、お父様が大切にされていた車を私ごときが手にしてもよいものかとも考えておりまして・・・」
「新堂さんだからこそお願いするんです。あの人も車のことに関しては新堂さん以外に信頼できる人はいないと常々言ってましたから。」
「では、私の方で引き取らさせて頂きます。しかし、この車は価値があるため大変高額です。買取りさせて頂くにしてもウチにはそんなお金が無いというのが正直なところです。」
「その辺はどうでも良いです。ただ大事にして頂ければ。」
「わかりました。では・・・」
話し合いの結果、車は引き取ることとなった。
金額については相場を教えた上で最大限の条件を出し合意した。
最後に車を見たいと言う申し出を快く受け車へ案内する。
近くにいた西長田達も遠巻きに見ていた。
カバーを外すと美しい車体が現れた。
その姿に遠くから感嘆の声が上がった。
「デロリアンだったのか!」
「本物ッスカ!?」
「Oh!Delorean!」
「うむ。DMC社製のデロリアンDMCー12だ!」
[DMC・デロリアンDMCー12]
全長:4267mm
全幅:1988mm
全高:1140mm
ホイールベース:2408mm
エンジン:V6
排気量:2849cc
最高出力:130ps
サスペンション:F/不等長ダブルウィッシュボーン
R/ダイアゴナルトレーリングラジアスアーム
トランスミッション:5速マニュアル
重量:1244kg
「映画〝Back To The Future〞のタイムマシンとして有名だな!1957年、GM社の副社長だったジョン・ザッカリー・デロリアンが自分の理想の車を造るため独立し、デロリアン・モーター・カンパニーつまりDMC社を立ち上げた。DMC社はアメリカのメーカーであったが国内ではなく、補助金が出る北アイルランドに工場を建てたんだ!
さらに車体のデザインはイタリア、イタルデザイン社のジョルジェット・ジウジアーロが、車体などのメカについてはイギリスのロータスが、エンジンはフランスのプジョー、ルノー、スウェーデンのボルボが共同開発したV6が搭載された!」
「なんだよ!アメ車の要素0じゃねーか!」
西長田が突っ込む。
「うむ。だが、このデザインはジウジアーロでなければ生まれなかっただろうな。見よ!この美しいガルウィングを!それと何か気付かんか?」
「この車・・・塗装されてないッス!」
有人が驚きの声を上げた。
「そう!デロリアンはメンテナンスフリーを狙って未塗装のステンレスなのだ!つまり錆びないボディだな!」
「手抜きじゃなくてわざとわなんスネ!」
「うむ。しかしこのスタイルに、ステンレスボディという拘りまであってもこの車はスーパーカーたる一番大事な物を持っていない。それはパワーだ!」
「この車は速くないんですか?」
息子さんが問う。
「1973年のオイルショックの影響で、出力よりも経済性を優先したために3リッターV6でありながら普通のエンジンを載せることになったのですよ。」
「時代ですね・・・」
「デロリアンは1981年に発売され翌82年に生産中止。DMCは倒産した。理由はイギリス政府からの補助金が停止されたのだ!なぜならDMC社の役員が横領しているのを社長であるジョン・ザッカリー・デロリアンが黙認したためとされる。そして82年に麻薬で逮捕されたため、さらに資金繰りが悪化したのだ!この1年で約8000台生産された。」
「デロリアン社長メチャクチャじゃねーか!」
「だがこれには都市伝説の様な結末があるのだよ。」
新之助の意味深な言葉に皆固唾を呑んだ。
都市伝説とは?




