お客様のタイムマシン
今回はちょっと悲しい始まりです。
でも実際にあることなんです。
工場の一角にカバーを被り、《触るな!》と貼り紙をされた車があった。
遡ること1週間前。
その日もいつもと何ら変わらなかった。
しかし一本の電話により状況が変わる。
「はい。〝Garage SHI・N・NO・SU・KE〞です。」
電話を受けたのは真雪。
「はい。新堂ですか?少々お待ち下さい。社長ー!電話です!」
新之助に替わり、書類仕事を続ける。
「なに!?本当ですか!?」
新之助は突然大声を出した。
「では後程。」
受話器を置いたが動く気配がない。
その様子を見た真雪が声を掛ける。
「どうしたんですか?」
「実はな・・・」
電話の内容は、常連のお客様が亡くなったとのこと。
その人とは自動車のイベントで知り合い意気投合し、その後はよく店に遊びに来ていた。
とても明るく、親戚のおじさんの様に真雪、有人、ジェミーを可愛がってくれた。
思わぬ訃報に絶句する真雪。
「すまんが、雄二とトミ子に連絡をしてくれ。」
「あ、はい。」
新之助の指示により、外出している2人へ連絡する。
新之助は西長田、有人、ジェミーを事務所へ呼び説明をした。
「マジかよ・・・あの人まだ若いいだろ。」
西長田の呟きと同時に、真雪と同じく全員絶句した。
「これから皆で通夜へ行くから準備を頼む。」
店を閉め、1度帰宅し着替えを済ませ、再び店に集合し2台の車に別れて出発した。
どちらも車内の空気は重い。
目的地は男性の自宅であった。
家族に挨拶をし、線香を上げた。
座敷へ案内され、奥さんと話した。
「主人は長く病気だったんです。」
「そんなこと1度も聞いたことありませんでしたぞ!」
「もう、10年くらい前に見つかりましてね。長くはないと言われていたんですが、大事な車を遺しては行けないと頑張っていました。その後、新堂さんのお店へ行くようになって益々元気になったんですよ。帰るといつも楽しそうに話してましたよ。」
「そうでしたか・・・」
「本人もわかっていたのでしょう。体調が悪化する前は色々と整理をしてましたしね。だから私達家族も覚悟はしていたんです。」
暫く話をし、
「では、我々はそろそろ。」
と、帰ろうとした時
「あ、実は主人から新堂さんに渡すよう言われた物がありまして・・・これです。」
そう言い1枚の手紙を出した。
「ん?なんですかな?」
手紙を開くと、
〝新堂様〞
この様な形でご挨拶することを申し訳なく思います。
貴方に出会えたことで、私の車人生は最高のものとなりました。
感謝してもしきれません。
ですが、唯一心残りがあるとすれば我が子とも言える車です。
どうしても生きている間に手放すことができませんでした。
死後の扱いについては家内に任せておりますが、形見だということで荷物にはしたくないのです。
そこで、処分をするということであれば新堂さんに引き取って頂きたいのです。
その後は売却して頂いて結構です。
不躾なお願いで申し訳ありませんが宜しくお願いします。
因みにですが、きっと新堂さんは気に入って頂けると思いますよ。
最後に皆さんに出会えて良かった。
私の分まで車を楽しんで下さい。
と綴ってあった。
「ふふふ。主人らしいですね。私は車に詳しくないので、引き取って頂くのが一番いいと思います。」
「よろしいのですか?」
「ええ。車へ案内しますね。」
ガレージへ案内される。
「立派なガレージですな!」
「今開けますね。」
シャッターが開くと2台の車が鎮座していた。
「なにっ!これは!」
そこにあったのはホンダS2000
この車はいつも店に乗ってきていたため知っている。
問題はもう1台であった。
「デロリアンか!?こんなの持っているなんて聞いていなかったぞ!」
「ああ、それは本当に主人の趣味なんです。乗ることはせず、眺めるためだけに所有していたんですよ。」
やられた!という顔の新之助。
「しかし、この名車を手放すのですか?形見というのは置いとくとしても、とても価値ある車ですぞ?」
「いいんです。私は買い物用のこっちの車さえあれば。」
S2000を指差し言った。
「では暫くはウチでお預かり致しましょう。ご主人の四十九日が終わりましたら改めてご相談ということで如何ですかな?」
新之助の提案にクスッと笑いながら
「新堂さんは聞いていた通りに優しい人ですね。価値ある車なら遠慮せず引き取れば良いものを・・・暫くお預けします。宜しくお願い致します。」
こうしてデロリアンは〝Garage SHI・N・NO・SU・KE〞へ運ばれたのだ。
デロリアン!車に詳しく無くても聞いたことはあるのでは?
あの映画に出てくる名車です!




