懐かしのマルニ!
マルニです!
イベントの翌日。
「うむ!さすがに先生の車は綺麗だな!全身磨きだけで問題無いだろう!」
「社長!中古車が一件成約したのでお願いします!」
事務所と工場を隔てる扉が開き、書類を持った雄二が現れた。
「うむ。承知した!」
「あれ?アルファロメオ?」
「違ーう!よく見ろバカモノ!これはBMW2002だ!この伝統のキドニーグリルがその証拠だ!」
[BMW2002]
全長:4230mm
全幅:1590mm
全高:1410mm
ホイールベース:2500mm
エンジン:直4
排気量:1990cc
最高出力:100ps
最大トルク:16kg-m
サスペンション:F/マクファーソン・ストラット+コイル
R/セミトレーリングアーム+コイル
トランスミッション:4速マニュアル
重量:1088kg
「ありましたね!2002!」
「うむ!1966年~1977年まで製造されていた!マルニの愛称で呼ばれている!有名なのはターボだな!フロントスポイラーに鏡文字でturboと書いてあってな、これは前走者のドライバーがバックミラーを見たときに正しく読める様にされていた!」
「何故です?」
「威嚇だな。当時はターボの制御技術が今程無かった為に、ターボ搭載の市販車は少なかった。故に速さの象徴だったのだよ!」
「なるほど!確かに自分のより明らかに速い車だったら譲っちゃいますね(笑)」
「ちなみ〝ベンベのマルニ〞に乗っていると言えば高い確率でナンパに成功する時代もあったのだよ!がっはっは!」
「でも、イベントに展示するほど希少車って訳じゃないですよね?」
「昨日言ったろう!これは《先生に見て貰いたい車》だ!」
「どうしてですか?」
「俺が学生時代、先生はコレに乗っていたのだよ!」
「なるほど!」
2人は車を眺めながら話していた。
そこへ
「あら?なんですか、この車?」
買い物袋を下げた真雪が工場の入口に立っていた。
「BMW2002だ!」
勢いよく答える新之助。
「いや、名前じゃなくて、どうしたんですか?って意味です。修理の車じゃないですよね?」
「あ、そういえばそうですね・・・」
「ぐっ!ぬぅ・・・」
明らかに動揺する新之助。
真雪に続いて西長田、有人、ジェミー、トミ子もやって来た。
全員で買い出しなどに行ってきたのだ。
新之助の様子を見て
「どないしたん?」
トミ子が口を開いた。
「いや、べ、別に何もないぞ!がはは・・・」
「何を慌とんねん?ん?なんやこの車は?」
「こ、個人的な預かり物である!」
目線が泳ぐ新之助。
「ホンマは?」
冷たく低い声でトミ子が聞き直した。
「・・・安かったので買ったのだ。」
観念したのか小さい声で答えた。
その言葉に身の危険を感じた他の者は静かに事務所へ避難した。
それから約1時間程、トミ子の怒声が響き渡った。
イベントの日。
ピカピカに磨きあげられたジャガーEタイプ。
先生は満足そうに愛車を眺めている。
と、そこに。
「先生!こちらです!」
会社に大きな声が響いた。
「新堂社長。車をありがとう。美しさに磨きがかかっていますよ。」
「そうでしょうとも!がっはっは!しかし!今日の主役はEタイプではないのですよ!」
「もしかして見せたいと言っていた車ですか?」
「その通りです!さあ!こちらですぞ!」
車の元へ案内した。
「ほお。これは懐かしい車だ。」
「色も良いでしょう!?」
「ええ。昔乗っていたのと同じ色だ。」
形を確かめる様にボディを撫でながら前から後ろへゆっくりと移動する。
「あの頃は毎週末この車に妻と子供達を乗せて出掛けたものだ。」
うっすらと涙を浮かべていた。
「今回は新堂くんにしてやられましたね。最近では希少車にしか目が行ってなかった。貴方は私に原点に戻れと教えてくれたのですね。」
「そんな目論見などありませぬよ!たまたま知り合いが手放す事になったので私が手に入れたのです!がっはっは!」
新之助は一段と大きな声で笑う。
「新堂社長。もし良ければだが、是非私に譲って欲しい。」
「そう言われると思いました!しかし良いのですか?Eタイプが1番では無くなってしまいますぞ?」
「そうかもしれませんね。でも、もう一度乗りたいんですよ。」
「それでは仕方がない!お譲りしましょう!」
新之助は渋々承諾したかの様だったが、実はトミ子に売ることを約束させられていた。
本当は手元に置いておきたかったのだが、トミ子の怒りには勝てなかった。
「先生の元へ行くのならば良しとしよう!結果オーライだ!」
満足そうに頷きながら〝マルニ〞を眺めるのであった。
〝BMW2002〞
コンパクトなこの車はレースでも活躍した。
現代のBMWの礎とも言える車なのだ。
実は実物を一度も見たことが無いのです・・・




