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イヴント・オブ・ラヴ  作者: 帯藍窈副
9/17

記録その九

全性質保持者生産計画。


地球外の性質を、全て保持する人間外を生産する計画。

バリアフリーとジョン・バードマンの、生き延びる為に計画した。

非人権な計画。


念願叶って出来たのが、ダークマン一族。

そして、大臣の子孫。

複数の性質保持者。


しかしアメルカは、天然の三性質保持者。

貧民街でも更に過酷な環境と、グラフィティの手によって産み出された。

この世界の主役として、申し分無い経歴。


それでもこの物語の主役は、ヴェントなのだ。

貧民街出身の人間外。

産まれた時からDクラス確定の人生。

最低の親に、最高の環境。

一性質保持者という、普通の才能。


それでも彼は、この物語の主役なのだ。


彼自身は平凡でも、彼の人生は。


果たして、平凡かどうか。




***




「アメルカ」


と、彼は話かける。

話かける相手はアメルカ。最近になってDクラスになった少女。

新しい家族。彼は本気で、そう思っていた。

例え元Aクラスでも。

例え元富裕層にいたとしても。

それでも彼女は、家族そのもの。


彼の異常なまでの仲間意識は、彼の唯一無二の特異な点でもあった。


「……何かしら、ヴェント」


しかし彼女にとってはそうではない。

恐怖は薄れたが、今度は苦手意識が沸き出した。

久しく感じていない、家族に向けるであろう親愛の視線。

それが何だか無図痒く、しかしそれでも突き放せない。

そのもどかしさが。彼女に苦手意識を抱かせていた。


「一緒に、遊ぼう」


彼は真顔で言う。

彼女はそれに、溜め息で返した。ここ数日、彼はこんな調子で話してくる。

こちらとしては、汗を掻きたく無いし、そもそも、Dクラスの寮から出たくも無い。

地上に上がれば、殺されるのに。――いや、今はまだ大丈夫かも知れない。


(殺すべきかどうかの、審査中……)


そんな事を思いながらも、断ろうとした。

しかし、ふと、疑問が芽生えた。


(あれ? ……こいつ、臭くない?)


服は、実は使い回しではない。一年事に新しく変わるのだ。

つまり学年が上がる事に、服は新調される。

しかし、それを抜きにしても、彼の服はボロボロだ。

所々破けてるし、シミも出来てるし。

しかしそれでも、汗臭くない。


おかしいと、アメルカは彼に抱き付いた。


「わっ!」


と、ヴェントは後ろに倒れる。

彼女はそんな事はお構い無しに、彼の匂いを嗅ぐ。


(臭くない……ありえない。私ですらもこんなに臭いのに……)


実はアメルカ、結構な匂いを放っていた。

この前ベルンに、「臭せぇ」と言われて、一本背負いを食らわした程だ。

自分の匂いを、結構気にしていた。

しかし、元凶であるこの男は、汗臭さを匂わせない。

Dクラスは、シャワー室を一週間に一回しか利用出来ない。

服を洗うのも、一週間に一回。

しかし、この男。


(服はボロボロ、なのに……)


きちんと洗濯している?

彼女の疑問通りに、彼はきっちりと服を洗濯している。

例え遊び疲れたとしても。

例え筋肉痛で泣いたとしても。


洗濯は欠かさず、毎日する男。

それがヴェントという男である。そして同室であるベルンも、彼の洗濯に付き合わされる。


(しかし解せない。いったいどこで? 洗濯を――)


そこまで考えて、はたと思う。

自分の現状を。

服は変えたとはいえ、匂いは変えていない。

彼の匂いを嗅げる距離とはつまり。

自分の匂いが、ダイレクトに相手に伝わる距離だ。


(あ、あああ……)


周りの価値観が三回変わった特異な少女、アメルカ。

しかしそれは、一周回って元通り。


今までに無い状況。

困惑に、羞恥心、乙女心が悲鳴を上げる。

頭が暑くなり、顔は真っ赤。そして彼女は気絶した。

あまりの事に気絶した。



しかしそれは、目の前にいる彼とて同じ事。


雪の様な白髪、純銀の様な純白の肌。

目が肥えた大臣すらも絶賛した、絶世の美少女。


匂いなど気が回らない程に。

その匂いですらも魅力的な程に。

彼女の身体は魅惑的だった。


初めての感情、戸惑い。

家族愛ではない、別の何か。

しかしその正体は分からず。

その感情は分からなかった。


頭は暑くなり、顔は真っ赤。そして彼は――気絶した。


産まれて初めて、気絶した。



――後から気絶したにも関わらず、先に起きたのは彼の方だった。




***




Dクラスしか知らない秘密の空間。

Dクラスのみの利用空間。

Dクラスのみの、特権区域。


それがこの場所、この空間。

地下の地下、地下深く。

無数に張り巡らされた空間。


リチャード・バルゲンとグラフィティの協同作品にして、無名の芸術品。


しかしここは、かつてのDクラス〈ルーク〉が。

生き甲斐を、教えられた場所。


死ぬ為に外に行くDクラスに、リチャードとグラフィティが、使用を許可した空間。


芸術を胸に、ルークが外の世界で冒険する事の、原点となった場所。


この場所をDクラスは、【リチャードの抜け道】と呼ぶ。


例え彼が死んでも、名前だけは残したい。

そう願った。


一人の少年の遺志と共に。




***




光すらない暗闇の中、手を繋いで二人は歩く。

ヴェントは壁に手を当てて、目的地まで、経験で進む。

歩く事数十分。アメルカの、暗闇の恐怖が限界に達しそうな時、光が見えた。


そしてアメルカは驚愕する。

複雑な巨大迷路。

そこはまるで下水道。

しかし水は透き通り。

天井には照明器具まであった。

薄暗くも通路を照らす、照明器具。

どこに流れているのか分からない水を横目に、彼等は奥に歩いて行く。


複雑な通路。階段だったり、坂だったり。

橋だったり、分岐があったり。

最早アメルカには、帰り道すら分からない。しかしヴェントは、迷わず歩く。

歩いて、歩いて、歩いて、止まる。

止まった先にはドアがあった。


ヴェントがドアを開けると、中は洗濯室。

富裕層の、それも大臣クラスの洗濯室が。

そこにあった。


あまりの衝撃に、言葉がでない。


ドアには、【1ーD共用】と彫ってあった。


(つまり、これレベルの洗濯室が、後9つあると言うの!?)


思った以上にとんでもない。

ヴェントが何気無しにいった。


「便利な場所、教えるね」


という言葉とのギャップはとんでもない。


(せいぜい、地底に出来た池にでも、案内されると思ったのに……)


予想以上だった。そして思った。これは秘匿しなければ、と。

富裕層にバレれば、ここはDクラスの場所ではなくなる。

Dクラスが、継承してきたであろう場所じゃあ、なくなる。


――彼等の為に、秘匿しなければ。


(あら私? どうしてこんな事を思ったのかしら?)


彼女にとって、それは初めての感情だった。

この前の出来事、初めての、仲直りという経験。

その時から芽生え始めた感情。

今日やっと、自覚した。新たなる感情が生まれた事を。

自覚した。


しかし、その感情の正体は分からなかった。


その感情の名前は、思いやり。



その正体を知るには、もう少しだけ、彼女には時間が必要だった。



「もっと良いもの、教える」


唖然とする少女アメルカの手を引いて、ヴェントは進む。

洗濯室の奥にある機械。


今は亡きバリアフリーと違い、グラフィティは独自に進化していった。

狂いながら、彼女は進化していった。

ただ一人の男の、亡骸を抱きながら。


これは彼女の残した技術。

バリアフリーが生み出した、素粒子変換製造設備の、小型版。

自らの師匠に、美味しい物を食べさせたかった彼女が、生み出した。

途方もない機械。


その姿は、君の時代の自動販売機と同じ姿。

しかしその中身は、オーバーテクノロジーまみれの、ロストテクノロジー。

彼女は名前をつけなかったが、もし名前をつけるなら……。

【自動製造機】と呼べる代物。


このシェルターを引っくり返す程の代物を。

Dクラスは共用していた。


現時点において、それの本当の価値を知る者はいない。

しかし、それの本当の価値を知れる者は、ここにいた。

世界を変える少女、アメルカ。

くしくも彼女は、気絶する。

ヴェントが普通に使った機械の、本当の価値を知って気絶する。

困惑するヴェントは、取り合えず彼女が起きるのを待つ事にした。


その手に、ココアを握って。


外の世界まで、後二十二日。




***




グラフィティが残した技術、自動製造機。

オーバー過ぎる程の、ロストテクノロジー。

シェルターの中で、最高峰の価値を持つ機械。

例えシェルターの王と言えども、地位を擲ってでも欲しい機械。

そんな機械と彼女は出会う。

ここから物語は、一気に加速する。

複雑に絡み合う、人間関係!

驚愕なる真実!

果たして世界は、どうなってしまうのか!?


何て、言っちゃったりして。


では、次の記録で。


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