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イヴント・オブ・ラヴ  作者: 帯藍窈副
8/17

記録その八

富、地位、名誉。

同じ教育機関で、切磋琢磨している子供達。

けれど彼等は、求めるものはてんで違う。

例えばAクラス。

彼等が求めるものは富だ。

Aクラスに入った時点で、地位も、名誉も保証されているからだ。

シェルター内の最高の富。

大臣を目指して頑張るのだ。

Bクラス。

彼等が求めるものは地位だ。

貧民街出身の彼等が求める最高の地位。

機械士を目指して頑張るのだ。

Cクラス。

彼等が求めるものは名誉だ。

名誉あるAクラスに入る為に、勉強に励むのだ。


そして最後に、Dクラス。

彼等が求めるものは絆だ。

富も、地位も、名誉も。

生きる事すら許されない彼等が求めるものは、しかし、人間として、人間外として最も大切なもの。


家族愛。




***




(何故だ、アメルカ)


豪勢な部屋。一目見て分かる豪華な家具。

フカフカのベッド。

大きく、高級な机。

優雅なソファーに座る彼女は、しかし。

その部屋とは対称的に、不機嫌な顔をしていた。

彼女の名前は〈ルルリカ・エメラルド〉。

エメラルド大臣の、実の娘。

第一地区六年生、現Aクラストップ。しかしその評価は、本人の前では口にしてはならない。

何故ならそれは、アメルカが手を抜いて得た。

偽りの評価に、他ならない。


(この大事な時期に、Dクラス行きだと!?)


彼女にしてみればそれは、あまりにも愚行。

考えられない程に、愚考。

しかしアメルカは、その愚かなる事をしてのけた。

ルルリカはソファーから立ち上がり、ベッドにダイブする。

ベッドのフカフカ加減はいつも通り。

ルルリカの侍女二人が、真面目に仕事をしているという証拠。


(あり得ない。アメルカは、何を考えている)


ルルリカはそう思いながら、思い出す。

幼少期の頃から、彼女が何を考えていたのか、一度でも理解した事は無いと、思い出す。


(しかしそれでも、あり得ない)


例え、その考え方が理解出来なくても。

彼女が起こした事の重大さは、理解出来る。


次期大臣候補筆頭。

貧民街出身にして、あまりにも異端。

成績優秀、文武両道。

ケチャップ大臣の義娘にして。

ダークマン一族に鍛えられた、猛者。

貧民街出身にしてはあり得ない。


三性質保持者。


そして何よりも、ルルリカにとっての――ライバル。

幼少期の頃から何よりも。

幼少期の頃から誰よりも。

競いあった、競いあったつもりでいた。

競争者。しかしそれは、あくまでルルリカにとっての、競争、だった。


(そうだ、アメルカにとって私など……)


眼中に無い。そう、ルルリカは思って、泣きそうになった。

最初は自分が勝っていた。幼少期のアメルカは、ただ本が好きなだけの変人でしか無かった。

ルルリカは知らない。彼女は本が好きな訳ではない事を。

その時からアメルカは、外の世界に思いを馳せていた事を。

大人は否定し、思春期の子供は鼻で笑う事を。

アメルカは本気で、目指していたという事を。


外の世界での、生活を夢見て。


(あり得ない、そんな筈はない!)


その考え方を、例え正解であっても否定する。

何故ならそれは、自殺する為に努力してきた事と同義だ。

まさしくそれは、Dクラスにいる、奇人変人達と同じだ。

第一地区六年生、元Aクラストップ。

アメルカ。

自殺行為と言われ様と、自分が求める希望の為なら、死ぬまで前に進む少女。

それはくしくも、彼女が怖れたヴェントと一緒だった。

悍ましき程の思想。

理解出来ない理想。


だからこれは、貧民街出身と、富裕層出身との。

途方もない、価値観の違い。


周りの価値観が三回変わった、特異な少女、アメルカ。

しかし彼女の価値観は変わらない。貧民街で養ったあの頃から変わらない。


死すら恐れない。

死すら受け入れる。

恐ろしいまでの、自由への――渇望。

アメルカはそれを、希望と呼んだ。


「ルルリカ様、紅茶はいかがですか?」


永遠に答えが出ない疑問に、ルルリカが苦しんでいる時、頼んでもいないのに、侍女が紅茶を容れてくれる。

ベッドの上で悶え苦しむ主を見かねて、侍女である彼女が、心を落ち着かせる為に紅茶を容れたのだ。


「アメルカ様の事で、悩んでいるのですか?」


疑問形の言葉、しかしそれは、断言だった。

ルルリカの心を掻き乱す存在など、一人しかいない。


「……そうだ、アメルカの考えが、私には理解出来ない」

「それはそれは……」


侍女はそう言いながら、ルルリカを机に促す。

机には、これまた高級なポットに、高級なカップ。

紅茶ならではの優しい匂いを嗅いで、ほぅ、と息を吐く。

彼女が容れる紅茶はうまい。故にルルリカは、少しずつ味わって、紅茶を飲む。


「ふぅ、そうだ。ニーチェはどこに行った?」

「彼女は洗濯とお風呂を沸かしております」


もう一人の侍女は、ここにはいない。

富裕層の大部分を、王城の次に独占している、エメラルド大臣の家。

洗濯室に、個人の風呂等。

様々な設備が整っている。

かつての技術。行き過ぎたオーバーテクノロジー。

もはやロボットにしか修理不可能。

人間外には、ロボットの修理しか出来ない。

人間外には、ロボットの製造は出来ない。


ロボットを操作する、知能無き記録媒体。

発電機の地下の地下、王族と大臣と、特別な一族しか存在を知らない、秘匿設備。

かつての人間外に協力した人工知能を持つ機械。

その名も〈バリアフリー〉。

彼が残した、最後の安全装置。

二千年先を考慮したそれは、人間にも人間外にも、仕組みの一部すらも、理解出来ない。


最早魔法と言っても差し支え無い。

素粒子変換製造設備。


彼女が何気無しに使っている風呂ですらも、ロストテクノロジーと言える物だ。


「彼女に何かご用ですか?」


急に出てきた同僚の名に、彼女は疑問に思う。


「ニーチェは、元貧民街出身だからな。」

「ああ、成る程。確かに彼女なら、アメルカ様と通じるところがあるかも知れません。」


本人は否定するが、貧民街から伸し上がってきた彼女もまた、十分に、異端児なのだから。


しかしそんな彼女は今、洗濯物と戦っているのだから。

次期大臣候補と呼ばれた彼女が、次期大臣候補の侍女を希望したのだから。

やはり貧民街出身の人間の考えは、理解出来ない。




***




「アメルカ様」


ここにもまた一人、アメルカの事で頭を悩ませる少女がいた。


彼女の名は、〈チェロ・ダークマン〉。

ダークマン一族に身を連ねる、猛者。

三性質保持者にして、次期当主候補のその一人。

次期当主候補筆頭と呼ばれる少女、〈チェコ・ダークマン〉の実の妹。

彼女もまた、ある意味で特異な少女だった。

産まれは富裕層、しかし、その家族は特殊な存在だった。

ダークマン一族、初代王、〈ジョン・バードマン〉に忠誠を誓う一族。王族の盾。しかしそれでも、シェルターを存続させる為なら、例え王族と言えども手に掛ける。

シェルター内最強の一族にして、王と大臣しかその存在を知らない、特別な一族。

王族の血を何よりも大切にする、血統の一族。

現当主は、五性質保持者。

〈ジョージ・ダークマン〉。


アメルカが起こした前代未聞の事件。

平穏を好み、変化を嫌う一族にとって、例え次期当主候補、チェロを妥当したアメルカだとしても。

貴重な人材だとしても。

排除するには、十分な理由になる。


「アメルカ様、どうか考え直してください……」


彼女がいるのは王城の地下、王族と大臣以外立入禁止区域。ダークマン一族の住みか。


その更に下には、シェルターの地下深くに張り巡らされた、最早誰も知らない空間がある。

用途不明の空間。

人間外の自称芸術家、〈リチャード・バルゲン〉。

彼の弟子、人工知能を持つ機械にして、芸術家見習い、〈グラフィティ〉。

彼等二人の、生涯をかけた芸術作品。

彼等二人にしか分からない遊び心。

このシェルターの中でひっそりと、五十年の年月をかけて造った、無意味な空間。


そんなものの上にある、とある一室。

地下故に窓は無く、しかし貧乏とは程遠い。

Dクラスの寮が殺風景な部屋なら。

ダークマン一族の住みかは、無機質な部屋。

機能性のみに特化した。飾り気の無い部屋。

タンスにベッドに机に椅子に。

ソファーに風呂にトイレにキッチン。

しかし全てに飾り気が無く、全てが黒い。

そんな部屋に、彼女はいた。


敬愛なる彼女の無事を祈って。




***




そんな事は露にも知らず、彼女は教科書を読んでいた。

外界教育。

外の世界に関しての教育。

子供の時誰もが習う教育。

しかしこの教科書には、いらない情報がたくさん載っていた。

地球外についての、詳しい情報。

生きていく上での大切な情報。

大陸の場所、生物、植物。

毒の見分け方、応急措置の仕方。


シェルターで生きていくには、不必要な情報ばかりが、載ってあった。

三百年前から使い回しの、ボロボロで、所々読めない所はあるが、しかし、この情報は新鮮だった。


図書館にすらこんな本は無かった。


外の世界を目指すアメルカにとって、必要な情報がわんさかと載ってあった。

あまりにもボロボロ過ぎて、期待出来ない本が。

良い意味で、期待外れだった。

しかし。


(……もう読み尽くしてしまいましたわ)


そう、アメルカの優秀な頭脳は、この教科書の情報を余すとこ無く記憶してしまった。

一年、二年、三年、四年、五年、六年。

全ての学年の教科書を読み尽くしてしまった。

他の学年の教科書は、しれっと勝手に、読み尽くして。


彼女は読み飽きた教科書を、床にそっと置くと。

マットが無いベッドに、腰がけた。

懸念すべき事があるからだ。

ダークマン一族。

考えうる限り、絶対に邪魔して来るだろう。

殺しに来るだろう。


(……前代未聞、変化を嫌う彼等にとって、これ以上の理由はありませんわ)


ダークマン一族の異常さは知っている。そこで鍛えられたのだ。

彼等の理念も、信念も、執念も。

そして何より。


(彼等の異常なまでの強さ……さすがの私も、彼等の手にかかれば虫けらの如く……)


殺される。断言出来る。彼等に慈悲は無い。

一度敵に回れば、絶対に殺す。


しかしそれでも、いきなり殺しに来る事は無いだろう。

Dクラスの寮。アメルカにとってここは要塞だ。

例えダークマン一族と言えども、この場所には入って来ないだろう。

入って来たとしても下っ腹、丁度あいつみたいな、中途半端な奴しか送って来ない。

というかそもそも、何故奴は最初からいたのだろう?


(私が来る前から、奴はいた)


それともあいつは、ダークマン一族とは関係無い?


(それはありませんわ、何故なら奴は……)


死臭を漂わせていた。死臭というよりか、あれは……。


(腐臭、死体の匂い)


Dクラスの人間は不潔だが、死体の匂いを纏わせているのは、あいつしかいない。


(……リル、と言いましたわね)


彼についても、警戒しなければならない。

そう思いながら、アメルカは眠りについた。


(……うぇ、早く身体を洗いたいですわ!!)


……悪態を尽きながら。


外の世界まで、後二十三日。




***




転校生が来なかったじゃないか。と、君は文句を言いたくなるかもしれない。

だから言おう、ごめんね、と。


さて、今回の記録では、色んな情報が飛び交った。

ロストテクノロジーにバリアフリー。

リチャード・バルゲンにグラフィティ。

今亡き人工知能。彼を踏み台にして、このシェルターは成り立っている。

もちろん彼というのは、バリアフリーだけだ。

グラフィティは、リチャード以外の人間を嫌ってたからね。


彼等の事は、機会があれば、語るとしよう。


では、次の記録で。






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