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イヴント・オブ・ラヴ  作者: 帯藍窈副
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記録その六

アウトヒューマン。人間外。彼等は特殊な存在だ。

アウトアースに対抗する兵士。

地球外に対抗する兵士。

変質型の地球外を倒す為、地球外の遺伝子を取り込んだ人間、人間外。

彼等はそれぞれ、特徴があった。性質があった。

ある人間外は硬化し、その鋼のごとき身体で地球外に対峙した。

ある人間外は軟化し、その泥のような身体で地球外に対峙した。

ある人間外は弾力化し、その弾力の身体で地球外に対峙した。

ある人間外は粘着化し、その粘着の身体で地球外に対峙した。

ある人間外は伸縮化し、その伸縮する身体で地球外に対峙した。

ある人間外は変形し、その変形した身体で地球外に対峙した。

ある人間外は増強し、その増強した身体で地球外に対峙した。


けれど彼等は、地球外に勝つことは出来なかった。

何故なら地球外は大きかったからだ。

圧倒的に強大で。

圧倒的に広大で。

圧倒的に獰猛で。

圧倒的に狂暴で。

圧倒的に、圧倒的だった。故にこれは苦肉の策。

人間外がシェルターを造り、そこに逃げるまでの苦肉の策だった。しかし人間外はやり遂げる。シェルターを造り、人間外を、種族の後継者を産み、およそ二百年の戦争に終止符を打った。

生活を、日常を取り戻した。

例えそれが、陽の光さえ届かない。地下深くだとしても。



そしておよそ三百年。

人間外は今だ、陽の目を知らず生きている。




***




彼等は良くやったと、私は思うよ。何せその当時、戦争は無茶苦茶だった。

人間外の人間勢力からの離脱。

地球外の宇宙勢力からの離脱。

人間と地球外のまさかの同盟。

宇宙人では無い、第三勢力の登場。

始まりから五百年たった今だけれど、文明は二度、終わった。

宇宙人が一度。

第三勢力が一度。

ついでに、第三勢力が終わらせた文明は、宇宙人の文明という意味だ。

惑星が一つ、塵となって消えた。


その激動の三百年を、人間外は知らないのだけれど。


……さて、【王】について語ろうか。シェルターには【王】がいる。指導者だ。

かつての人間外。兵士として位が高かった人間外。

〈ジョン・バードマン〉。人間外を守る為、命懸けで戦い、生き延びた兵士。

人望があった彼は、皆の指導者になった。やがて彼の子孫は【王】として崇められた。

かつての祖国の名前と共に。

ついでに、今の【王】は六代目だよ。名前は、〈アリシア・アメリカ〉。彼女が今は、このシェルターの指導者だ。

彼女も彼女で面白い存在何だけどね。まだ十歳で、シェルターを統治している。親が早くに死んでしまったんだ。


彼女の事はまた機会があれば語ろう。段々とヴェントから離れている気がするからね。

むぅ、困ったな。

でも仕方無い、語り過ぎるのも私の個性だ。




***




「あ~だりぃ、つか、こいつどうすっかな~」


職員室の隅の隅、あまりにも狭い片隅に、彼はいた。

ボサボサの黒髪に、短髪。顔には隈、髭も生やしている。体形は標準だが、猫背気味の男。


彼の名前は〈リーグ〉。Dクラスの担任を勤めている教師だ。


「んでこんな時にDクラス行きになるだよ……」


彼の手元には、アメルカについて書かれた手紙。


「反抗期の娘をどうにかしてくれって……無理言うなよ……」


その手紙の差出人は、アメルカの親からだった。

実はアメルカ、外の世界に行きたいが為に、月に一度あるテストで、全教科0点を出したのだ。

前代未聞の行為。

親は憤慨し、アメルカに詰め寄るも、アメルカは知らぬ存ぜぬの態度。

怒った親は、アメルカと親子の縁を切り、本来ならCクラス行きのところをDクラス行きにしたのだ。

これは価値観の違い。

親にしてみればDクラスなど、汚物の中にいる事と同義だ。しかしアメルカは元貧民街出身。

例え、風呂に入るのが一週間に一回だったとしても。

例え、マットすらない、質素なベッドだとしても。

アメルカの外の世界に出たいという、知的好奇心の妨げにはならない。

アメルカの親は二日三日経つと頭も冷え、今度は狼狽え始めた。

アメルカの親の中では、一日も経たず泣き付いてくる……事は無くとも。

すぐ根は上げると思っていたのだ。

しかしアメルカは戻らない。

朝起きてDクラスの教室に行き授業を受ける。

昼時間にDクラスの食堂で質素なご飯を食べ。

夕方になるとDクラスの食堂でまた質素な晩御飯を食べ。

就寝。

以後繰り返し。Dクラスの校舎からも出ない。

例え、Dクラスの勉強時間が三時間しかなくとも。

例え、大好きな図書館に入れなくなったとしても。

彼女の燃え盛る冒険心を消すことは出来なかった。


故にこれは価値観の違い。

産まれが貧民街のアメルカと。

産まれが富裕層の元保護者の。

決定的までに違う、価値観の違い。


そしてアメルカの元保護者は気付くのだ。アメルカの意思を。

このシェルターに産まれた人間なら誰もが思い、そして沸き上がる欲求を。

しかし、それを馬鹿な事だと割り切って生きていくのが、今の世の中だ。

それは夢にがちな子供が、さながら絵本の世界に憧れる様に。

夢の世界にずっといたいと思う様に。

しかしいつかは、夢から覚める。

外の世界は危険でいっぱいで、そもそも一度出たら二度と戻ってこれなくて。

そこで、ふっ、とアメルカの元保護者は気付く。


――このままでは、もう二度とアメルカに会えないと。


(んなの知らねぇーつーの)


彼は、けっ、と吐き捨てる。


(自業自得だろ、バーカ)


彼は心の中で毒を吐きながらも、しかし丁重に、手紙を服の内ポケットにしまった。

くしゃり、と握り潰さなかったのは。

後で貧民街に寄り、売る為である。


「チッ、はぁーあ。楽な仕事だと思ったのになぁー」


舌打ちしながら、彼は椅子の背凭れにもたれ掛かる。

面倒くさがりな彼は、Dクラスの担任を天職だと思った。他の教師はしたがらない。Dクラスの担任。

押し付けられる様にDクラスの担任になったが、やってみると以外と楽な事に気付いた。

授業時間は三時間。

テスト以外でプリントを作る必要なし。

全教科を担当しなければならないが、授業内容はほぼ自由。

と言うか、これで他の教師と同じ給料を貰ってると思ったら、何だか笑えてくる。

押し付けてきた元Aクラス卒業の教師に感謝したいぐらいだった。


(……いや、あいつに感謝するぐらいなら泥にまみれた方がマシだな)


などと思いながらも、目の前に突如として聳え立つ問題を考え、頭を悩ませる。


(俺が何したって言うんだ……ああ、くそったれ、ケチャップ大臣……マジてしねば良いのに……)


とうとう、アメルカの元保護者に対しても悪態をつき始める。


そんな事を考えていた彼だが、ふっ、と、時計を確認する。時間は午後六時に差し掛かっていた。


「そろそろ、他の教師が帰ってくるな……適当に仕事したふりしよっと。」


Dクラスの担任をした時から、今まではずっと困惑している事が、彼にはあった。

定時までの時間の潰しかたである。

定時、つまり午後八時まで、何をすれば良いのか分からない。

実はDクラスの教師が、どんな授業をしているのか、知っている教師は少ない。

理事長や校長、彼等ぐらいしか知らないのだ。

Dクラスの教師をするのは、教師として恥だ。

故に元Dクラスの担任は、皆口を閉じ、Dクラスに関する事を語らない。もしくは、Dクラスの担任だということを苦に思い、仕事すら辞めるほどだ。


彼の教師としての評価は以外と高い。

何故なら彼は、例え元貧民街育ちのBクラスさえ忌み嫌うDクラスで、真っ当に授業をしているからだ。

例え授業内容はどうであれ、きっちりと三時間、教室に赴き、授業をしている。

一度も教室に入らず、不当に給料を貰うなどせず、しっかりと授業をしている。

彼は知らないが、ここで仕事をするふりをしなくとも、授業が終われば帰って良いのだが、しかし彼は定時まで仕事をするふりをする。

他の教師と給料が一緒なのは、定時まで残っているからだ。それ故に、上からの評価は、Dクラスと言えど、定時まで残り熱心に授業をする教師と思われている。

そんな事は露とも知らず、今日も定時まで残っている。

いつも通りに。


彼は貧民街育ちの元Bクラス卒業者。しかし彼は、Dクラスと言えど差別はしない。


「ほんとケチャップ大臣ゴミな、マジでしね」


……口は悪いが。




***




いつも通りに定時まで残り、帰宅。


彼の家は貧民街にある。貧民街にあるマンションの一室、それが彼の家である。

上から与えられた、一生涯の彼の家。

中には不必要な物は無い。

家具は備えつき。

前の前の前の前の前の、初代からずっと備えつき。

机にタンス、ベッド。

後は天井についてある照明器具のみ。


貧民街では裕福な方だ。何故なら、ドアに鍵がついてあり、ベッドにマットがある。

マンションには、共同だが娯楽室もある。

そこに行けば、トランプにジグソーパズル、チェスに人生ゲーム等。

そのマンションに住んでる人間の共有物だ。


シェルターの人間にも位がある。

シェルターの王。

全ての決定権を持つ存在。


富裕層の大臣。

大臣は地区毎に二人しかいない。

発電機の全てを把握している人物しかなれない。


富裕層の機械士

大臣になれなかった者が機械士になる。

発電機の構造をある程度把握し、大臣の命によって、発電機を修理したり、点検したりする存在だ。


富裕層の貴族。

貴族は地区毎に三人しかいない。

彼等は発電機以外の機械の専門家達だ。


富裕層の技師。

貴族になれなかった者が技師になる。

彼等は、ある程度機械の知識があり、貴族の指示によって機械を修理したり、製造したり、点検したりする存在だ。


富裕層の商人。

彼等は、地区毎に五人しかいない。

彼等は、貧民街の市民を働かせ、そこから税金を王に渡す存在だ。


教育機関の教師。


そして最後に、貧民街の市民。

彼等は商人に職業を与えられ、労働しなければならない。


(教師つっても、貧民街出身だからなぁ……)


富裕層の教師と、貧民街の教師では扱いは違う。

貧民街の教師は、言うならばただの数会わせに過ぎない。


(頑張ってBクラスに入ったとしても、上位の成績じゃなければ、技師なんて夢のまた夢か……)


彼は技師になりたかった、特に時計の技師に。

学校にある巨大な時計、あれを修理したり点検したり……。


(富裕層にある時計何かも修理したかったな……)


シェルター内にある機械は、全部三百年前からの使い続けだ。

修理し続けて、点検し続けて、三百年。


(今それを直すのに、Bクラスの奴はいるのだろうか。Bクラスでトップのあいつが、もしかしたら機械士までいってるかもしれないな)


それはないか、と思いながら帰宅する。しかしそこに、


「すみません」


と、声を掛けられた。

照明器具の光も、後二時間で落ちるというこんな時間に、いったい誰だろうと。彼は振り向く。するとそこには、怪しい男がいた。

全身が黒い。

黒いシルクハット。

黒い仮面。

黒いコートに黒いズボン。

おまけに黒い杖をついていた。


一目で分かる、こいつはケチャップ大臣が寄越した人間だ。


(うおぉぉぉい! ケチャップ大臣!!)


彼は叫んだ、心の中で。目の前の男は危険だと、彼の本能が訴えている。心臓が破裂しそうな程に緊張していた。

男を認識した時から、冷や汗が止まらない。


「初めまして、リーグ先生」

(俺は、初めましてしたくありませんでした)


心の中で、ついふざけた事を言ってしまう。

目の前にいる男の存在自体が、ふざけた存在たがらこそ。ふざけなければ、呑まれそうだ。


「ええっと、すみませんどちら様でしょうか?」


リーグは困惑した態度で聞く。


「はい、私の名前は、〈ジョージ・ダークマン〉と言います。」


男はシルクハットを胸に当てながらお辞儀をする。


「実は先生に、御願いが御座いまして……」



その御願いが、どんな事だろうと、リーグには肯定の言葉しか言えなさそうだった。


外の世界まで、後二十五日。




***




突如として現れた男ジョージ。彼がリーグにする御願いとはいかに!?

今回はここまで、次回はヴェントとアメルカがどうなったか語る事にしよう。


では、次の記録で。











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