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イヴント・オブ・ラヴ  作者: 帯藍窈副
3/17

記録その三

シェルター内では、娯楽があまり無い。それ故に、君にはつまらない生活に感じられるかもしれない。いや、逆か。君にとって、シェルター内での生活は新鮮なのかもしれないね。

彼等がする遊びなんて、せいぜい鬼ごっこやおままごと、かくれんぼぐらいかな? 富裕層ならトランプやチェス、人生ゲームなんてあるけれど。

ヴェントみたいな貧乏人には、身体を動かす遊びしかないからね。しかし、だからこそ彼等は、楽しい人生を送っているのかもしれない。複雑な貧民街を無邪気に駆け巡る。私には出来ない事だ。羨ましいね。

さて、前回は彼等の事について語れなかったので、今回は彼等の生活について語っていこう。

後二十九日で捨てられる彼等だが、まだ教育は受けなければならない様だ。

君はどう思う? 私は休みにしても良いと思うがね?




***




殺風景な部屋、等と言う言葉はあるが、しかし、彼等の部屋にこそ、当てはまる言葉かもしれない。

タンスに、二段ベッド。タンスの中には、無地のシャツ、無地のズボン、無地のパンツがそれぞれ六つだけ入っている。これで二人分。一人三つだ。

ベッドは質素で、木で出来たベッドに、かつてはあったであろうマットを抜いて、毛布だけだ! 枕も無い! 机すりゃ無いじゃないか! 床で勉強しろとでも言うのか!?

……彼等のおかれた状況を、コミカルに言ってみたのだけれど、どうだろう。

ま、まあ、彼等の部屋の殺風景さは伝わったかな?


『ゴーン! ゴーン!』


そうそう、朝は鐘が鳴るんだ。鐘を鳴らすのも生徒の仕事でね。当番制さ。……今日の朝は、ミルカが当番の様だ。

黒い髪、そばかすがある顔、髪型はおさげと言うのかな? 小さい女の子だ。彼女も貧民街育ちだね。この、鐘を鳴らすという行事は、貧民街育ちの子供がかわりばんこでする、という決まりがあるんだ。


『ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン!』


一生懸命鳴らしているね。

鐘を鳴らすのも決まりがあるんだ。十回鳴らさないといけない。十回鐘を鳴らしても起きない子供は……悲しい事に、後に起こる悲劇を知らなければならない。


『ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン!』

「……よし!」


ミルカは小さくガッツポーズをする。

十回鳴らし終えたからね。

鐘を鳴らすのは、結構大変何だ。大人二人が余裕で入るであろう大きさの鐘を、重さ十㎏はある筒で鳴らさなければならない。それを十回も鳴らさなければならないのだ。朝五時から。

ミルカみたいな小さい女の子には人溜まりもない。彼女はまだ十歳なんだ。ちょうどリサと同い年だ。まあ、リサと関わりはあまり無いのだけれど。


「教室にいかなくちゃ……」


ミルカはそう言って、自分の教室にいった。本来なら、朝五時ではなく朝六時に鐘を鳴らす決まりなのだが、彼女は心配性でね。鐘を鳴らすのに時間をとられて、自分が遅刻しちゃうんじゃないかと、早めに鐘を鳴らす。

教室には朝七時には入っていなければならない。

ハレスチと呼ばれる男の子は、この前、ギリギリに鐘を鳴らしたせいで非難交合だったようだ。

主に富裕層の子供達からね。

そろそろ、ヴェント達も起きて来たみたいだ。彼等の生活を覗く前に、この教育機関について語っておこう。

この教育機関は、境界線だ。貧富の差の。

シェルターの中心部に発電機、それから外側に向けて、富裕層、教育機関、そして、貧民街。

富裕層と貧民街に挟まれる形になるね。つまり生徒は、富裕層の子供は内側から、貧民街の子供は外側から入る事になるんだよ。

教育機関は、富裕層の子供と、貧民街の子供、両方が学ぶ所なんだ。

昔の人間が掲げた。『公平、共有、博愛』の名残だね。でもまあ、発電機から、空ける必要の無い、間を空けて作ったのだから、その時点で内側と外側に、貧富の差が出ていたのかもしれない。


「……ん」

「…………」


ヴェントは身動ぎをした後、上半身を起こす。顔はまだ寝ぼけており、目もまだ閉じた状態だ。

ベルンにいたってはまだ寝ていた。


「……起きろよ、ベルン」

「……後五分」

「駄目……そのせいで前遅刻したんだ」


ヴェントは上のベッドから降りると、下のベッドで寝ているベルンを揺さぶる。


「んー、良い朝だ」

「いつも通りだよ」


ヴェントはそう言いながら、毛布を畳む。

ベルンも毛布を畳むと、教室に行く準備をする。と言っても、彼等の準備は早い。床に散らばった――ヴェントのはきれいに揃えてある――教科書を持つと、部屋を出て教室に向かって歩いていった。

彼等は裸足だ。地面はコンクリートで、ゴミを捨てる事なんて無いからね。富裕層の子供が捨てたゴミが、貧民街では価値ある物――なんて言うのはよくある話さ。

貧民街を駆け巡る時には、さすがに彼等も靴を履くけどね。ボロボロの靴を。


「あー、だるい。残り一ヶ月で捨てられるのに、何で教室なんて行かなきゃならないんだよ」

「残り二十九日だよ。本当、休みでもいいのにね」


彼等は文句を言いながらも廊下を歩く。

ちゃんと理由はあるんだけどね。教育機関に通い続けるのも。

逃亡防止、人口調整の為にしている事だからね。ここのロボットが計算して、不必要な人間を廃棄する。

殺さないのは処分する手間が面倒だからと、少しばかりの道徳の為。

だからこそ、彼等の事は〈アウトヒューマン〉と呼ばれ、地上に戦いに行く兵士として扱われる。表向きは。

……何でアウトヒューマンかって? 昔の名残さ。

彼等は間違っている。そもそもアウトヒューマンとは職業名ではない。種族名だ。

このシェルター内で、アウトヒューマンじゃない存在はいない。この世界において、純粋なる人間は、二人しかいない。

アダムとイヴ。そう、名付けられた彼、彼女は、今はとある機関によって、厳重に管理されている。

来る日に向けて。


……駄目だ、余計な事を語ってしまった。すまない、忘れてくれ。


とにかく、彼等はアウトヒューマン、兵士としてシェルターの外に出撃させられる。アウトアースと戦う、アウトヒューマンとしてね。

むう、呼び名が長いな。そうだな、これからはアウトアースの事を〈地球外〉。アウトヒューマンの事を〈人間外〉と呼ばせて貰おう。何、文句を言う者はもうこの世にはいないのだから、きっと大丈夫だ。


「あ、おはよう」

「おはようリル」

「おはよーリル」

「……いや、俺は!?」


おっと、彼等は教室に着いた様だ。クラスメイトと挨拶をしている。

〈リル〉、黒髪の少年。体形は高身長にほっそりとしている。髪型はロングヘヤーだ。腰まで届いているよ。女の子の様な顔をしているから、初対面の人には女性に間違われる子だ。

そして、もう一人の子は、〈ロミー〉だね。茶髪の少年。体型は低身長にほっそりとした体形。髪型は、ショートヘヤーかな? クラスの弄られキャラと言うやつだね。


ヴェントのクラスは1ー6ーDクラス。

クラスの表記としては、まず最初にどの地区の教育機関か。

シェルター内は10の地区に別けられるんだ。ケーキみたいに10等分に。つまりヴェント達は、1地区の貧民街育ちと言うの事になるんだ。

次に来るのが、何年生か。君の時代で言うと、小学校みたいな感じかな? 6年間の義務教育

を終えて、子供達は大人の仲間入りをする。

クラスは、A、B、C、Dの四つのクラスに別れるんだ。

Aは、優秀で富裕層の子供。

Bは、優秀な貧民街の子供。

Cは、不良で富裕層の子供。

Dは、不良な貧民街の子供。

ヴェント達は、Dクラス。不必要な子供だと判断されるクラスさ。四つのクラスの中で、最も数が年々でバラつくクラスだ。

今回のDクラスは、二十人ぐらいかな?前に比べたら減った方だ。

他の地区のDクラスを合わせると、だいたい二百人くらいだ、今年捨てられる子供達は。


この言い方は彼等に失礼だね。こう言うべきかな?


地上にすくう地球外を倒す、名誉ある兵士達は、と。

二百人とは心強い、去年の約三百人も安心だ。


……すまない、皮肉が過ぎだ。


「ロミーもおはよう」

「いたのか、ロミー」

「お前、酷いな!」


ロミーはそう言いながら、ベルンに飛び掛かる。後、二十九日で捨てられると言うのに、教室には何時もと変わらない景色が広がっていた。

彼等には関係無いのだろう、例え外の世界だっとしても。

親に売られ、捨てられ、裏切られ、政府からも不必要と判断された子供達。しかし彼等には、最後に残った絆がある。

それがこのDクラス。

同じ境遇。

同じ環境。

同じ結末。

血よりも濃い、絆で繋がった――家族。


――ふっ、と、読んでる教科書から目を離し、ロミーとベルンの喧騒を鬱陶しげに睨む少女がいた。

名前は〈アメルカ〉。今年になってDクラスに落ちた秀才。


彼女はそう――この世界の主役だよ。


今回はここまでにしておこう。今回もやはり、話がそれにそれたね。でもそのかわり、この物語を緻密に想像出来たと思う。

とうとう現れた、この世界の主役アメルカ。

彼女はこの世界を変える事が出来る面白い存在だ。しかし、この物語の主役はヴェント。


世界を変えるアメルカでもなく。

世界を終わらせるアダムとイヴでもなく。

世界を征服するエイリアンでもなく。

世界を観測する私でもなく。

世界の片隅で、生涯を遂げる。

一人の少年の物語。


外の世界まで、後、二十八日。


余計な事を語った気がするけど、まあいいか。

楽しんでくれたかな?

では、次の記録で。



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