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イヴント・オブ・ラヴ  作者: 帯藍窈副
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記録その一

ふむ、奇をてらった始め方をしようと思ったが、何分、こういうのは、まだ慣れてなくてね。

見苦しかったら申し訳無い。

さて、この物語は、理不尽な世界に翻弄されながらも、必死に生き延び、恋し、愛を育み。そして、世界を変える物語――ではない。

この物語は、理不尽な世界に翻弄されながらも、必死に生き延び、恋し、愛を育み。そして、世界を変える者の傍にいた脇役の物語だ。

彼は、この世界にとっては脇役だが、この物語においては主役である。

とは言え、この記録を見ている過去の君には、とてもつまらない、それこそありふれた物語かもしれない。

それでも私は、彼を主役とした物語を記録しよう。

彼の名前は〈ヴェント〉。

貧民街で育ち、親に売られ、そして、外の世界に憧れている少年だ。

――今の時点では。


さあ、物語を見せよう。彼がどの様に生き、そして死ぬのかを。

彼の生涯を語ろう。この、〈アカシックレコード〉が。




***




物語は、とあるシェルターの中から始まる。そのシェルターには、正式名称があるのだが、いかんせん長い。

そもそも、シェルターの名前など重要ではない。

【America―E―13】などと言う名前は、君の頭の片隅にでも置いておくだけで、十分だ。

さて、シェルター。シェルターと言って、君は何を想像するだろう。ドームの様な形をしている?地下深くにある?

このシェルターは、ドーム状かつ地下深くにある。もし、この二つを想像した君は、もしかしたら、私が観測した景色を、精密に想像出来るかも知れない。

話がそれた。元に戻そう。

このシェルターだが、中心部に発電所がある。とても大きな発電所だ。

その発電所を中心にして街が広がっている。

外側の壁に近付く程に、中心部から遠ざかる程に貧しくなる。

そこだ。その貧民街にヴェントは産まれたのだ。産声をあげたのだ。

そこからの彼の人生を語るのは簡単だ。

親に売られ、政府が管理する教育機関で教育を受け、評価がいまいちだった為、シェルターの外に捨てられるのだが。

おっと、危ない危ない。少しばかりいきすぎてしまった。この物語は、彼が外の世界に捨てられる前から語る必要があるのだ。


捨てられる一ヶ月前。つまり、残り期限一ヶ月。その間に、うまくこの世界の事も語れるといいのだが……。ふむ、それはおいおい語るとしよう。

ん? ああ、いたいた。彼だ。ボサボサの茶髪に、ほっそりとした体。一目見ただけで暗い性格だと分かる少年、それが彼だ。

もうすぐ十五歳になる。このシェルターでは、と言うより、このシェルターでも、二十歳で大人として扱われる。ただし、それは富裕層の者のみだ。彼の様な貧乏人は、十五歳で大人扱いである。

政府が管轄の教育機関――そもそも、シェルター内で教育機関はここのみである――も、例外ではない。十五歳で卒業だ。卒業出来なければ、彼の様に、外の世界におさらばである。

酷い話だ。しかしそれは、あくまで私にとって、であって、彼にとっては良い話かも知れない。

彼にとってと言うか、彼等にとってである。


「おーい、ヴェント~!!」


少年が駆け寄りながら叫ぶ。彼の名前は〈ベルン〉。ヴェントと同じ時間に産まれた幼馴染みであり、同じ時間に売られ、そしてこの教育機関で巡り会えた。血よりも濃い、絆で繋がった家族だ。


「どうしたの、ベルン?そんなに慌てて」

「ヴェントからも説得してくれよ!リサの奴がさ!兵士になるって言って聞かないんだ!」



家族とは良いものだ。私にも家族と呼ばれる存在がいる。〈アーカイブ〉と言う名前なのだが、いかんせん、私と言う存在が、厳重に管理されている為、いや、管理されていると言うか、管理されていた為……。


「何だって、リサまだそんな事を言ってるの?」


ああ、すまない。話がそれた。私の悪い癖だ。今まで話相手がいなかったからね。そもそもこれも、過去に向けたメッセージなので、これすらも一人言になるのだが。

話を戻そう。今出てきた〈リサ〉と言う少女は、彼等の妹だ。例によって血は繋がっていない。義妹と言う。もしくは妹分だ。


「そんな事じゃないもん!リサもお外に行くんだもん!」

「駄目だ!リサは女の子何だから、例え評価が低くても市民になれるんだ!」

「そうだよ、リサはシェルターの中にいた方が良い」

「そんな事言って!二人でお外に行くなんてずるい!」

「ずるいって……」

「…………」


リサは彼等に向かって、喚き散らしている。彼女の気持ちがよく分かる。そう、寂しいのだ。

リサの家族は、彼等二人だけだ。彼女も例に漏れず、親に売られたのだ。今までずっと傍にいた兄二人が、残り一ヶ月でいなくなるのだ。

彼女にしたらたまったものではない。

着いて行きたくなるのも当然だ。


ドーム状に展開された照明器具。それゆえ、貧民街に行くほど明るく感じる。しかし、この場所にも夜はある。かつての一日、二十四時間。今そう、九時ぐらいだろうか。十時になれば、上にある照明器具は、全て消灯する。残るのは建物内から漏れでる光のみ。


言い合いをしている三人も、辺りが暗くなった事に気付き。自分達の寮に帰る事にした。


外の世界まで、後三十日。




***




さて、彼等は後三十日で、妹であるリサを説得する事が出来るのか。実に気になるところだが、しかし、今回はここまでにしておこう。楽しんでくれたら幸いだ。

おまけに、ちょっとした事を教えておこう。何、君の想像をより明確にする為だ。

先ほど、ドーム状に展開された照明器具と説明したが、この照明器具が消灯する時、実はちょっとずつ消灯していくんだ。大体五時ぐらいから少しずつ、だからこのシェルター内では夕暮れもあるということを覚えておいてくれ。

ああ、後もう一つ。ヴェントとベルンは現時点では十四歳だが、リサ十歳だ。


伝えるのを忘れていたすまないね。でもこれで、この物語がより正確に、精密に、想像出来たかな?出来たのならよかった。観測者として、これ以上は無い。

さて、ではまた次の記録で。






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